聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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邪神を討ち果たした玉座の間に、朝焼けの光が差し込む。
しかし、それは束の間の安息にすぎなかった――!

白薔薇の神衣、妹を抱きしめる姉の微笑。
アイオロスの胸に灯るのは、愛か、それとも使命か!?

いま、新たなる舞台は開かれる。


だが安堵の光の下に、なお潜む陰謀の影……
女神たちの宿命が、再び牙を剥く!!

次回「仮初めの聖域へ」

「翔子、俺はお前を守る!」
友よ、愛よ、宿命よ――
燃えろ、小宇宙!!


仮初めの聖域へ

(アイオロス視点)

 

 

 玉座の間に飛び込んだ瞬間、息を呑んだ。

 

 そこには、もはや邪神の気配は欠片も残っていなかった。さっきまで神殿全体を覆っていた重苦しい瘴気も、圧迫感も、すべて吹き飛んでいる。代わりに、朝焼けのような光が空間を満たしていた。粒子状の光が舞い、床にも壁にも淡い輝きを残している。その中心に、二人の少女がいた。

 

 ひとりは膝をつきながら、ゆっくりと呼吸を整えている翔子。もうひとりは、そのすぐそばで立ち尽くす響子さん。彼女の体から放たれる小宇宙は、女神そのものの威光だった。

 

「翔子!エリス!無事か!?」

 

 俺は反射的に叫んでいた。

 

 翔子の肩が震え、視線がこちらに向く。まだ焦点は完全に定まっていない。だがその唇が、かすかに動いた。

 

「……アイオロス君……」

 

 その瞬間、胸の奥が熱くなるのを感じた。今まで幾度となく彼女を呼び続け、追いかけ続け、それでも届かなかった名前が、初めて俺に返ってきたのだ。

 

 俺は駆け寄り、膝をついて彼女の顔を覗き込む。まだ表情は弱々しい。だが確かに、正気が戻っている。その証拠に、彼女の目に俺の姿が映っていた。

 

「よかった……翔子。無事で……」

 

 声が震えていた。戦場では何度も死線を越えてきたが、こんなふうに胸を揺さぶられたのは久しぶりだった。

 

「今のは……一体……?」

 フレアが後ろから声を漏らす。

 

「邪神の気配が完全に……消えている……」

 オルフェウスもまた言葉を失っている。

 

 だが俺は二人に答える余裕がなかった。目の前で息をしている翔子を見ているだけで精一杯だった。

 

 響子の存在感も異常だった。彼女を取り巻く小宇宙は、黄金聖闘士である俺でさえ一歩後ずさりしかねないほどの迫力を持っていた。けれど、その瞳には妹を守り抜いた安堵が浮かんでいた。

 

「お姉ちゃん……」

 翔子がか細い声で呼ぶ。響子は軽く微笑み、肩を貸すようにしゃがみ込んだ。

 

「大丈夫、大丈夫。もう蛇なんか残ってないから」

 

 言葉は軽い。だがその背後には、確かに敵を滅ぼした力が宿っていた。

 

 俺は深呼吸し、ようやくフレアとオルフェウスに向き直る。

「どうやら……ここは片付いたようだ」

 

 フレアはまだ信じられないという顔をしていた。

「でも……どうして……。あの蛇は格が違う存在だったはず……」

 

 オルフェウスは竪琴を握りしめ、響子をじっと見つめていた。

「この小宇宙……白銀を超え、黄金さえも霞む……。あなたは……一体……」

 

 響子は視線を逸らすことなく答える。

「さあね。ただの女子高生って言いたいところだけど、今はちょっと違うかも」

 

 その軽口に、場の空気がほんの少し和らぐ。

 

 

「アイオロス君……ごめんなさい。私……ずっと、夢の中にいるみたいで……」

 

「いい。もう何も言うな」

 俺は首を振った。言葉なんて必要ない。ただ彼女がここにいて、俺を認識してくれただけで十分だった。

 

 しかし安堵に浸る暇はない。邪精霊は消えたが、この戦いが終わったわけではない。神々の陰謀、そしてアッシュが語った未来。すべてがまだ続いている。

 

 俺は立ち上がり、仲間たちを見回した。

「ここからが本番だ。翔子を守る。それが俺の役目だ」

 

 自分に言い聞かせるように言葉を吐く。聖衣の翼が微かに震え、力強い光を放った。

 

 翔子はその光を見つめ、小さく頷いた。

「……うん。私も、もう逃げない」

 

 

 俺の胸に再び熱が灯る。たとえどんな闇が待ち受けていようとも、今なら共に進める。

 

 

 

 

 

響子がこちらに歩み寄ってきた時、その背中から立ち上る光はまだ揺らいでいた。さっきまで敵を消し去ったばかりだからだろう。あの圧倒的な力の余韻が空気を満たしていて、俺たち黄金聖闘士ですら息苦しさを覚えるほどだった。けれど彼女自身は飄々とした笑みを浮かべ、まるで大したことではなかったとでも言うように妹を支えていた。

 

「大丈夫よ、翔子。もう終わったから」

 

 彼女の声は穏やかで、同時にどこか強さを帯びていた。翔子はまだふらついていて、自分の足ではうまく立てない。それでもその声を聞いた瞬間、肩の力が抜けたように小さく息をついていた。

 

 俺は思わず一歩前に出る。翔子を支えたい――その一心で。だが響子はそれを見越していたかのように、自然な動作で妹をこちらへ導いた。

 

「さあ、アイオロス君。あなたの愛しい人でしょ」

 

 その一言に心臓が跳ね上がった。

 

 愛しい人――そう呼ばれて俺は言葉を失った。確かに俺は翔子を想っている。彼女を守るためにここまで戦ってきた。その気持ちを否定する理由はない。だがこうしてはっきり言葉にされると、どうしても動揺してしまう。黄金聖闘士として数々の戦場を越えてきた俺が、こんなふうにたじろぐとは。

 

 翔子の体が俺の腕に委ねられた。細く柔らかな肩。かすかに震えているのが伝わってくる。俺は慌てて支え、そのまま抱きとめた。

 

 温もりが胸の奥に広がる。聖衣を通しても分かる確かな熱。これまで幾度となく戦場で血に濡れ、冷えた亡骸を抱きしめてきた。だが今この瞬間、俺の腕の中にいるのは生きている少女だ。必死に呼吸し、恐怖と安堵の間で揺れている。そう思うと、胸が締めつけられるほど愛おしかった。

 

 響子はそんな俺を見て、少し呆れたようにため息をついた。

 

「だから、ちゃんと抱きしめておきなさい、と言ったでしょう?彼女が不安な時に支えるのが、男の役目よ」

 

「は、はい!」

 

 反射的に声が裏返ってしまった。俺は黄金聖闘士だ。聖域を守る盾であり矢だ。なのに今は、完全に主導権を握られている。情けないと思う気持ちもあったが、それ以上に彼女の言葉はまっすぐで、反論する余地がなかった。

 

 俺は翔子を強く抱きしめ直した。彼女の体温がよりはっきりと伝わってくる。呼吸が少しずつ落ち着いていき、張りつめていた表情が柔らかく変わっていくのが分かった。まるで氷が溶けるように、彼女の頬にほんのりと血の気が戻っていた。

 

 その様子を見て、響子は満足そうに頷いた。姉の表情だった。神衣を纏う女神でありながら、今はただ妹の幸せを願う家族の顔をしていた。

 

 俺の胸に、温かさと同時に責任の重さがのしかかってきた。翔子はもう俺の腕の中にいる。託されたのだ。俺はただの守護者ではなく、彼女にとって拠り所にならなければならない。

 

 翔子が小さく囁いた。

「……ありがとう、アイオロス君」

 

 その声は弱々しいけれど、確かに俺を求めている響きだった。あの絶望の中で「誰?」と突き放された時の痛みが、一気に癒やされていく。心臓の奥から熱がこみ上げ、涙が出そうになるのを必死に堪えた。

 

 フレアとオルフェウスは少し距離を置いて見守っていた。フレアは口元に微笑を浮かべていて、オルフェウスは竪琴に指を添えたまま、目を伏せていた。彼らもまた、この光景の意味を理解しているのだろう。

 

 響子がふと俺の肩に手を置いた。

「この子は強いわ。でも、まだ全部を背負えるほどじゃない。だから――あなたが隣にいてあげなさい」

 

 短い言葉だったが、ずしりと胸に響いた。戦場で背中を預け合う仲間の言葉よりも、もっと直接的で、逃げ道のない重さを持っていた。

 

 俺は深く頷いた。

「必ず……」

 

 翔子の頭が俺の胸に預けられる。髪が頬に触れ、かすかな香りが漂う。戦場では決して得られない穏やかな感覚。だがこれは束の間の安らぎではない。この先の戦いに向かうための、確かな力の源だ。

 

 俺は誓う。この温もりを二度と離さない。託されたぬくもりを守り抜く。それが俺に課せられた使命だ。

 

 

 

 

 

 

 

 響子が一歩前に出た瞬間、空気が変わった。

 

 戦いを終えた直後だというのに、彼女の立ち姿には隙がなかった。神衣を纏ったその姿は、ただの少女のものではない。まるで場を支配する指揮官のように、俺たち全員を見渡す視線を投げかける。

 

「さて、皆さん。脅威は去ったようだけれど、問題は山積みよ」

 

 その言葉に、誰もが自然と背筋を伸ばした。フレアもオルフェウスも、普段は飄々としているのに今は真剣な表情だ。俺自身も、翔子を腕に抱えながら緊張感を取り戻す。

 

 響子は振り返り、神殿の方角を指さした。そこには翔子とエリスが共に再建したという、新しい神殿がそびえている。仮初めの拠点としての役割を持ち得る存在だった。

 

「とりあえず翔子をかかえて、神殿へ戻りましょう。あなたたちにも、私たちにも、話をする必要があります」

 

 その口調には逆らえなかった。単なる命令ではない。もっと根源的な、女神としての威光がそこにあった。俺たちは無意識に従わざるを得ない。

 

 俺は腕の中の翔子を支え直した。彼女の呼吸は落ち着きを取り戻しつつあるが、まだ力を入れることはできない。だからこそ、俺がしっかりと抱きかかえなければならない。彼女の体重がずしりと伝わり、その重みが責任の象徴に思えた。

 

 響子が先頭に立つ。白銀を超える輝きを背にまとい、堂々と歩み出す。フレアとオルフェウスがその後ろに続く。二人の表情には戸惑いもあった。だが、誰も言葉を発しなかった。

 

 俺は翔子を抱き上げ、歩みを合わせる。彼女の髪が頬に触れるたびに、胸の奥に熱が広がった。

 

 外の空気は澄んでいた。さっきまで荒れ狂っていた邪精霊の瘴気が嘘のように消え、空は澄み渡っている。だが静けさの中に不気味さもあった。あまりに急激な変化は、かえって不安を呼ぶ。これが本当に終わりなのか、それとも束の間の安堵に過ぎないのか。

 

 翔子が小さく囁いた。

「……アイオロス君……重くない?」

 

 俺は首を振った。

「むしろ軽すぎるくらいだ。もっと食べなきゃな」

 

 冗談を言ったつもりだったが、声が少し震えていた。彼女がこうして自分の腕の中で声をかけてくれること自体が、奇跡のように思えたからだ。

 

 翔子は薄く笑った。その笑顔に、俺はまた心臓を掴まれる。

 

 神殿までの道は、静寂の中で続いた。フレアは前を向いたまま何も言わず、オルフェウスは竪琴に触れながら小さく旋律を奏でていた。音は風に溶け込み、行進の足音を柔らかく包み込む。

 

 響子は一度も振り返らなかった。背中で引っ張るように、俺たちを神殿へ導く。その姿はやはり女神のそれであり、姉のそれでもあった。

 

 やがて神殿が目の前に姿を現した。中心には確かな光が宿っていた。エリスの力がそこに注がれているのだろう。

 

 俺は足を止め、改めてその建物を見上げた。これが俺たちの新しい拠点。仮初めに過ぎないかもしれない。だがここからまた戦いが始まる。

 

 響子が振り返り、静かに言った。

「さあ、入りましょう」

 

 

 俺は腕の中の翔子を抱き直し、深く息を吸った。この温もりを守るためなら、どんな困難でも受けて立つ。そう胸の中で誓いながら、一歩を踏み出した。




響子「ふふん、今日の私はキマってたわね! 蛇をぶった斬って、妹も守って、アイオロス君までデレさせちゃって……完全勝利じゃない?」

ヴィーナス「……あのねぇ、あなた。何をそんなに気持ちよくなってるのよ?」

響子「いやだって、完全にヒロインポジションよ? 白薔薇の神衣、決めゼリフ『掃除完了!』、妹を支える強いお姉ちゃん! うーん、完璧っ!」

ヴィーナス「はいはい。自分で美少女ヒロインを名乗る22歳ってどうなのかしらね?」

響子「ちょ、ちょっと待って! まだ女子大生でも通るでしょ!?」

ヴィーナス「ええ、まあ“美少女ねえさん”くらいなら認めてあげるわ。美少女“お姉さん”ね」

響子「……なんか釈然としない!!」

この物語の着地点は‥‥。

  • 十二宮編までで十分
  • ハーデス編で終わらせて
  • ΩやNDまで続けて欲しい
  • エピソードGの世界線も欲しい
  • 黄金魂とか海皇再起も手を出そう
  • もうつまらない。今すぐ完結
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