聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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神々の威光が轟き渡る――!
オリンポスの機工を乱す存在は、討滅あるのみと告げる冷酷なる宣告!
翔子とエリスの未来は、果たして神々の裁きの下に散るのか!?

だが次の瞬間、黄金聖闘士は号泣し、女神は結婚式をプロデュース!?
奏でられる竪琴、響く余興の拍手……
愛と美と笑いが渦巻く神殿に、誰も予想できぬ新たな騒乱が訪れる!

次回、セインティア翔編 ~明けの明星~
「愛と美と余興の神殿 ~機工を乱す者、そして婚約者?~」

「翔子ぉぉぉ!」
涙と愛と婚約と――燃えろ、小宇宙(コスモ)!!


愛と美と余興の神殿~機工を乱す者、そして婚約者?~

(翔子視点)

 

 さっきまでのお姉ちゃんは、ちょっと照れくさそうに笑ったり、軽口を叩いたりしていた。けれど今の表情は違う。目の奥が真剣で、私に逃げ場を与えないような強さを帯びていた。

 

「翔子、エリス。聞いて。異なる魂との融合は、自己の境界を壊す危険なものよ。自分を強く持ちなさい。また小宇宙を燃やせば、簡単にあちら側へ飛んでいくわよ」

 

 その声は、姉としての優しさもあったけど、同時に厳しい警告でもあった。私は息を詰める。確かに、あの時は自分でも制御できなかった。気がついたら、どこか遠い場所に連れていかれそうになっていて……境界線が曖昧になった瞬間の恐怖を思い出すと、背筋がぞわりと震えた。

 

 エリスの気配が胸の奥で揺れる。彼女も黙ってはいなかった。だけど、言葉に出すことはしなかった。お姉ちゃんの真剣さに押されているのだろう。

 

 さらに、ヴィーナスが口を開いた。さっきまで悪戯っぽく笑っていた彼女とは別人のように、瞳の奥に冷たい光が宿っていた。

 

「私が治せたのはギリギリだったわ。それに、あの時の小宇宙……。私達オリンポスの神をも凌駕するような、強大さと危うさを感じた……。もしも暴走するなら、私はあなた達を殺さないといけない……。これは決定事項よ」

 

 その言葉は、胸の奥に冷たい刃を突き立てられたように感じた。お姉ちゃんでもなく、神として絶対的な力を持つ存在からの宣告。私の命が、彼女の一言で左右される。そんな現実が重くのしかかってくる。

 

 さらに空気が変わった。まるで部屋の温度が一気に下がったみたいに、息をするのも苦しい。ヴィーナスの表情が完全に消え、声が響いた。

 

『我らオリンポスの機工(メカニズム)を乱すならば、消すのみ』

 

 その声は人間のものじゃなかった。感情がなく、冷たい金属のように無機質で、ただ決定を告げるだけの機械みたいだった。

 

「……っ!」

 

 隣でアイオロス君が息を呑むのが分かった。黄金聖闘士である彼ですら背筋を凍らせるほどの威圧感。オルフェウスさんやフレアさんも顔を強張らせていた。私も同じ。胸の奥がぎゅっと締めつけられて、動けなくなる。エリスも押し黙っていた。あの彼女が、言葉を失っている。

 

 ほんの一瞬だったのに、永遠に感じられる沈黙。

 

 やがて、ヴィーナスはふっと息を吐き、咳払いを一つした。

 

「……なーんて! とりあえず、今回の危機は去ったということで! ね!」

 

 さっきの冷たさが嘘みたいに、いつもの調子に戻って笑った。けれど、誰もすぐには声を出せなかった。あまりに落差が大きくて、笑顔を信じていいのかどうか分からなかったから。

 

 私は胸に手を当てて深呼吸した。助かったのは確かにヴィーナスのおかげ。でも、同時に彼女の一言で命を奪われてもおかしくなかった。それが神と人間の距離なんだろうか。

 

 エリスが小さく囁いた。

「……あれが神よ。気紛れで、絶対で、冷酷な存在」

 

 その声には悔しさと恐怖が入り混じっていた。私も同じ気持ちだった。助けられた恩と、いつ消されてもおかしくない不安。その両方を抱えたまま、ただ黙って立ち尽くすしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 重苦しい沈黙が玉座の間を覆っていた。先ほどのヴィーナスの冷たい宣告の余韻が、まだ誰の胸にも残っていたからだ。空気が固まったまま誰も動けずにいる中、最初に口を開いたのは意外な人物だった。

 

「素晴らしいですな!」

 

 ドルバルである。

 

 彼は両手を打ち合わせ、まるで芝居でも観ているかのように大きな拍手をした。その声は天井に反響し、嫌でも全員の耳に届く。

 

「これで日本に女神が三柱も揃うとは……! これはまさしく、新たな神話の幕開けです!」

 

 感嘆の言葉を並べながら、しかし瞳の奥には別の色があった。誰もが緊張で固まっている中、彼だけは「(この状況、聖域とのパワーバランスを優位にする絶好の機会……!)」と腹の中でにやりと笑っていた。策士は策士らしく、どんな状況でも利益を見出す。場の空気が重かろうが、関係ないのだ。

 

 一方その横では、オルフェウスとヤンが揃って俯いていた。二人の顔には、悔しさと情けなさがにじんでいる。

 

「我らは……翔子様をお守りすることもできず……」

 オルフェウスが苦い声を漏らす。

 

「修行が足りませんでした。一から出直します」

 ヤンは拳を握りしめ、まるで自分を叱責するかのように頭を下げた。

 

 誰も彼らを責めはしなかった。だが本人たちの中では、失態が許せなかったのだろう。その忠誠心は立派すぎて、逆に周囲を気まずくさせるほどだった。

 

 翔子は慌てて励まそうと口を開きかけた。けれど、彼女よりも先に沈黙を破ったのは別の人物だった。

 

「翔子ぉぉぉぉ!」

 

 叫び声とともに、アイオロスが全力疾走で翔子に駆け寄ってきた。黄金聖闘士の矜持? そんなものはどこかへ吹き飛んでいた。彼の目には涙があふれ、顔はくしゃくしゃ。

 

「心配したんだぞぉぉぉ!」

 

 そのまま翔子をがっしりと抱きしめる。黄金聖闘士が号泣しながら少女を抱きしめる図は、誰がどう見てもギャグでしかなかった。

 

 フレアが呆れたようにため息をつき、ヤンは「え、これいいんですか?」と小声でオルフェウスに耳打ちする。オルフェウスは「……まあ、愛ゆえに仕方ないのでは」と真顔で答えた。だが耳まで真っ赤になっているあたり、内心は相当気恥ずかしかったに違いない。

 

 翔子は完全に困惑していた。

「ちょ、ちょっとアイオロス君!? 落ち着いて! 皆見てるから!」

 

 必死に抵抗するも、アイオロスの抱擁は鉄壁だった。黄金聖闘士の怪力が、こんなところで遺憾なく発揮されるとは。彼女の顔はますます真っ赤になり、観客である仲間たちの顔も赤面したり呆れたり忙しい。

 

 そんな中、ドルバルはまたもや拍手をした。

「いやぁ! これぞ愛と信頼の絆! 新たな時代の幕開けにふさわしい!」

 

 ……本音は「(いやぁ実に面白い。この空気なら多少の無茶も押し通せる)」だったのだが、もちろんそれを口にするわけはない。彼の笑顔はあくまで無邪気な賛美に見える。

 

 場の空気はすっかり和らいでしまった。ヴィーナスの冷たい宣告で凍りついていた空間が、黄金聖闘士の抱擁劇によって一気にコミカルな方向へと転換したのだ。

 

 響子は頭を押さえ、ぼそりと呟いた。

「……ほんと、うちの妹を取り巻く人たちって、まともなのがいないわね」

 

 その言葉に、玉座の間にいた全員が「それを言っちゃおしまいだ」と心の中で同意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ええと。状況を整理しよう。

 

 アイオロス君が私を号泣しながら抱きしめて、それを見た全員がなんとなく空気を和らげた。ここまでは良かった。いや、良かったのか? まあ、とりあえず危機的状況は去ったんだから良しとしよう。

 

 でも問題は、その後だ。

 

「ちょ、アイオロス君、みんな見てるって!」

 

 必死で小声で言ったのに、彼は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、さらに抱きしめてくる。周りの視線が痛い。

 

 そんな時、胸の奥から声が響いた。エリスだ。

「(フン……我が夫(仮)も、なかなか情熱的ではないか)」

 

 夫(仮)て。いやいやいや! 勝手に契約結婚みたいな扱いにしないで! この子(神?)ほんと自由すぎる。

 

 そしてトドメはお姉ちゃんだ。腕を組み、呆れたように、それでいて楽しそうに笑って言い放った。

 

「もう、あんたたち見てられないわね! さっさと結婚しなさいよ!」

 

 ……え?

 

 あまりに唐突すぎて、私もアイオロス君も硬直した。

 

「だ、だめです! 俺はまだ16なので!」

 

 アイオロス君が真っ赤になって叫ぶ。いや真面目か! 場面考えようよ! 結婚適齢期とかそういう問題じゃないの!

 

 すると待ってましたとばかりにヴィーナスが胸をどんと叩く。

「わかりました! ここは愛と美の女神、ヴィーナス様に任せなさい! 二年後には、この私がプロデュースする、神話史上最高に盛大な結婚式を挙げてみせるわ!」

 

 ……え? 二年後? 結婚式? 最高に盛大?

 

 情報量が多すぎて脳みそが処理落ちしそうだ。

 

 さらに追い打ち。

「それは良い! わしも翔子君を娘に欲しいと思っていたところじゃ!」

 

 どこから湧いて出たのか、城戸光政さんまで参戦。ちょっと待って、本気で一気に話まとまりそうになってるじゃん!

 

 私は顔が熱くなって、アイオロス君を見る。彼も同じように真っ赤で、目が泳いでいる。ふたりで揃って「あわわ」しか言えない。完全に押し切られてる。

 

 その間にも話は勝手に進む。ヴィーナスは「式場はパルテノン神殿がいいかしら?」とか「いや、今なら日本武道館を貸し切るのもアリね」とか言ってるし、お姉ちゃんは「招待状は私がデザインしてあげるわ」と張り切っている。フレアさんは「司会は私が」とか真顔で言ってるし、オルフェウスさんは「では余興に一曲」と竪琴を鳴らし始めた。

 

 え、余興? まだ本決まりでもないのに?

 

 ヤンさんに至っては「修行して、式の日には誰よりも強い護衛になります」とか宣言してる。真面目すぎて逆に止めづらい。

 

 あの、ちょっといいですか。主役である私とアイオロス君、完全に置いてけぼりなんですけど。

 

 エリスが心の中でくすくす笑う。

「(ほら見ろ、既成事実というやつだ。逃げられんぞ)」

 

 くぅ……! ほんとこの神、性格悪い!

 

 結局、私とアイオロス君は顔を真っ赤にしたまま何も言えず、流れに呑まれていった。みんなのテンションに押される形で「二年後の結婚式」という話がなぜか成立してしまったのだ。

 

 こうして、偽りの神は討たれ、真の女神が降臨したエリス神殿は、日本における聖域、そして三柱の女神が座す新たな神殿として、奇妙で賑やかな日常を始めることになった。

 

 ……え、ちょっと待って。ほんとに結婚式する流れなの?




響子「さっきの……“オリンポスの機工を乱すなら消すのみ”。あれ、冗談じゃないわよね?」

ヴィーナス「……当然。あれは神々の理(ことわり)。宇宙の秩序を保つために組まれた歯車(ギア)のようなもの。人と神の境界を越えれば、必ず歪みが生じる。その歪みは、いずれ全てを崩壊させる……」

響子「……そんなの、人間にどうしろっていうのよ。あの子はただ巻き込まれただけなのに」

ヴィーナス「分かっています。だからこそ、私は見ているのです。翔子も、エリスも……そしてあなたも。革新など、私には信じられません。変革は常に不安定で、危険で、人間の心を焼き尽くす。もしもそれが“機工”を乱す要素となるなら――」

(ヴィーナスの声が低く沈む)

ヴィーナス「私は、迷わず切り捨てます。神としての義務に従って」

響子「……!」

(響子は息を呑み、拳を握りしめる)

響子「それでも私は……妹を守る。たとえ相手が、あなたみたいな神でも」

(沈黙の後、ヴィーナスはふっと口元をゆるめる)

ヴィーナス「……だから、あなたは面白いのよ。恐れ知らずの人間って、時に神よりも怖いわね」

この物語の着地点は‥‥。

  • 十二宮編までで十分
  • ハーデス編で終わらせて
  • ΩやNDまで続けて欲しい
  • エピソードGの世界線も欲しい
  • 黄金魂とか海皇再起も手を出そう
  • もうつまらない。今すぐ完結
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