聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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兄を追う瞳、交差点にて

(アッシュ視点)

 

 教皇の間はいつ見ても圧がすごい。あの黄金の玉座にどっかりと腰かけるサガ、その横に立つ俺。外から見れば「参謀長アッシュ、教皇の腹心」とかいうかっこいい構図に見えるんだろうが、実態は胃薬が手放せないただの中間管理職である。

 

 今日の議題はアイオリアの人事。俺はディスプレイでまとめた資料を開きながら、淡々と説明を始めた。

「アイオリアを日本へ派遣します」

 

 サガの眉がピクリと動く。やっぱり来たな。

「アイオリアを日本へ? まだ若すぎるのではないか、アッシュ」

 

 出た、この「若すぎる」論法。アイオリアの年齢を考えればもっともなんだが、こっちにはちゃんと理由がある。俺はすかさず答える。

「いえ、彼の真っ直ぐさこそ、日本の若き候補生たちを導くのに必要です。それに、指導者として魔鈴とシャイナも同行させます。ご安心を」

 

 さらりと名前を出したけど、これも作戦の一環。アイオリア単独じゃ危ういから、姐さん二人を添えておく。保護者的存在でもあり、ツッコミ役としても優秀。俺の腹の中は「頼むから面倒見てやってくれ」の一心だ。

 

 サガは顎に手を当ててしばし沈黙。あの目で見下ろされると心臓に悪い。俺は内心「早く頷け」「早くOK出せ」と念じていた。やがてサガが小さくうなずく。

「……わかった。任せよう」

 

 よし! 教皇のお墨付きゲット。表向きの理由はこれで通った。

 

 だが、本当の狙いは別にある。

 

 数日後、俺はアイオリアを個別に呼び出した。部屋には俺と彼だけ。メロンソーダ片手に、いかにも「内密の話だぞ」という雰囲気を演出する。

 

「アイオリア。表向きは候補生の指導官ということになっているが、本当の目的は別にある」

 

 真剣な顔で俺を見るアイオリア。あの真っ直ぐな瞳に刺されると、こっちがごまかせなくなる。いや、俺は参謀長。ごまかすどころか、うまく話を膨らませるのが仕事だ。

 

「……日本には、お前の兄の『痕跡』が残っている可能性がある」

 

「なっ……兄さんの!?」

 

 案の定、食いついてきた。わかりやすいなアイオリア。

 

「ああ。俺も確証はない。だが、もし生きているなら必ず日本にいるはずだ」

 

 もちろん、これは半分は推測、半分は俺のオタク知識による未来改変プラン。原作で死んだ兄貴を簡単に死なせるわけにはいかん。俺の中では「アイオロス生存ルート」を絶賛構築中だ。

 

「……それを探れ。ただし、これは極秘任務だ。誰にも知られるな。サガにも、だ」

 

 最後にわざと声を低めて言ったら、アイオリアの肩がビクリと震えた。よし、緊張感MAX。これで彼は間違いなく真剣に動くだろう。

 

 彼はしばし黙ったあと、深くうなずいて言った。

「……御意」

 

 くぅ~! この「御意」って響き、痺れるな。俺も一度は言ってみたい。だが参謀長が「御意」とか言い出したら逆に怪しまれるから我慢。

 

 こうして密命を伝え終えたわけだが、心の中ではもうひとつ別の声が鳴っている。

(いやほんと頼むぞアイオリア。お前が頑張ってくれれば俺の未来修正RTAが一気に進むんだから。失敗したら俺が全部被る羽目になる。胃が破裂する)

 

 表では涼しい顔、内心は土下座。これが参謀長アッシュの日常である。

 

 アイオリアは瞳をギラつかせて部屋を出て行った。あの目は完全に「兄のためなら地獄でも行く」モード。うん、やっぱり使いやす……いや、頼もしい。

 

 残された俺はソーダを一口すすり、思わずつぶやいた。

「さあ、動いてくれ、若き獅子よ。俺の胃袋の平穏のために」

 

 

 

(魔鈴視点)

 

 私は今、日本パライストラの訓練場にいる。聖域から派遣されてきて、もうしばらく経つけど、正直ここのガキんちょどもはタフすぎて胃に悪い。

 

 その筆頭が天馬星座候補の星矢。今日もまた派手に吹っ飛ばされて砂煙の中から立ち上がってきた。さっきシャイナと二人がかりで絞め技かけたのに、鼻血出しながら笑って突っ込んでくる。なんなんだこいつ。

 

 隣のシャイナが腕を組んでニヤッとする。

「魔鈴、見たか。あの小僧……小宇宙の燃やし方が規格外だ。何度倒しても必ず立ち上がる。まるで本物の天馬みたいだな」

 

 ほんとそう。私もう一度ぐらい気絶させたいんだけど。けど妙に憎めない。

 

「ええ。でもまだ荒削りよ。……私と同じ日本人だからかしら。どこか懐かしい気配がするの」

 

 自分で言いながらちょっとしんみりしてしまう。幼い頃に生き別れた弟の姿が頭をよぎる。いや、重ねちゃいけないってわかってるけど。

 

 そこへ当の本人が息を切らせて駆け寄ってきた。

「魔鈴さん、シャイナさん! 今日の修行、もう一回付き合ってくれよ! 俺、絶対に聖闘士になって、姉さんに楽させてやるんだ!」

 

 その目がまた純粋なんだよ。きらっきらに輝いてて、こっちが眩しいくらい。そりゃシャイナが惚れそうになるのも無理ないかもしれない。

 

 ……いや、待て。シャイナ、あんた惚れてるよね? 完全にそういう目してるよね?

 

 この前、仮面の掟が廃止されて素顔で過ごせるようになったとき、シャイナが私に真顔で相談してきたんだ。

「魔鈴、愛する理由がなくなったらどうしよう?」

 

 こっちはコーヒー吹きかけた。いやいや、そんなシリアスに語るなよ。年齢差考えてみろって! 私たち十三歳、星矢は十一歳。数字だけ見ればギリギリ「犯罪じゃない……か?」ってなるけど、アウト寄りだろ!

 

 そのときのシャイナの必死な顔は今も忘れられない。仮面の掟のせいで歪んだ恋愛観を持ってしまった結果がこれか。聖域、責任取れ。

 

 でもまあ、わからなくもない。星矢ってどこまでも折れない心を持ってるからな。打ちのめしても「もう一回お願いします!」ってキラキラした顔で言ってくる。あれに免疫ない女は確かにやられる。

 

 ……ただ、私は違う。私はあくまで指導官。あいつを弟に重ねてるだけ。そうだ、そうに決まってる。いや、そうであってくれ頼む。

 

 ところが今日もシャイナは横で頬を赤く染めながら星矢を見つめてる。いやいやいや、危ない危ない。

「シャイナ、顔緩んでる」

「なっ!? べ、別に私は……!」

「はいはい。わかりやすいなぁもう」

 

 星矢は二人のやり取りをよそに、「どっちでもいいからスパーリングお願いします!」と無邪気に叫ぶ。ほんと罪深い。

 

 そうこうしてるうちに訓練は再開。私はつい全力を出してしまい、星矢をまた砂煙に沈めた。だが数秒後、やっぱり立ち上がってきた。血だらけで、ボロボロで、それでも拳を握って走ってくる。

 

 ……あー、これが希望の光ってやつか。

 

「こいつ、やっぱりすげぇな……」と横でシャイナがぼそっと呟いたのを聞いて、私は内心「やべぇ、こっちまで惚れそう」と思ってしまったのは秘密だ。

 

 十三歳、女子二人。十一歳の男子一人。仮面も外れた。倫理観ぐらぐら。なんなんだこのカオスな三角関係予備軍。未来の聖域は大丈夫なのか。

 

 いや、私がしっかりしなきゃダメなんだ。私は冷静な姉ポジションでいなきゃ。星矢は弟、弟、弟……そう唱えながら、私はまた星矢の突進を受け止めた。

 

(……でもあいつ、大人になったらマジでヤバいイケメンになるんじゃ……?)

 

 私は頭を振って雑念を追い払った。参謀長アッシュに知られたら「教育現場の倫理崩壊」とか言って即会議案件になるに決まってる。絶対にバレちゃいけない。

 

 そう自分に言い聞かせながら、私は星矢を投げ飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本に来て数週間。任務の合間を縫って、俺は東京の街を歩き回っていた。アッシュ師範の言葉が耳に残っている。

「お前の兄の痕跡が、日本に残っているかもしれん」

 

 その一言だけで、俺はこの街を彷徨い続けていた。任務を忘れているわけじゃない。候補生の訓練も、現地の指導官の補佐もちゃんとやっている。だが、俺の心の奥底には常に「兄の影」を追う自分がいる。

 

(兄さん……本当に生きているのか? あの日、教皇や仲間たちが語ったように、あの場所で命を落としたんじゃないのか? それでも、もし……もし一縷の望みがあるなら、俺はこの目で確かめたい)

 

 気づけば俺は新宿の交差点に立っていた。巨大なスクランブル交差点、人、人、人。耳に届くのは雑踏と車のクラクション。高層ビル群の谷間を吹き抜ける風すら、ここでは騒音に飲み込まれてしまう。

 

 足を止め、空を見上げたときだった。ビルの壁一面に設置された巨大な街頭ビジョンに、鮮やかな映像が流れ始めた。グラード財団の最新CM。世界中で影響力を持つ大企業、その広告塔のように映し出された若きエース社員の姿。

 

 俺は息を呑んだ。

(……まさか……)

 

 画面の中で笑顔を浮かべるその横顔。年を重ね、大人びた雰囲気を纏ってはいる。だが俺の記憶に焼き付いた、あの背中、あの眼差し。それは間違いなく兄のものに見えた。

 

 鼓動が一気に速くなる。視線が釘付けになり、呼吸が浅くなる。脳裏に甦るのは幼い頃の記憶。常に俺を導き、守ってくれた兄。英雄として散ったはずの人。その姿が、巨大な画面の中で確かに息づいていた。

 

 「……兄さん……」

 

 思わず声が漏れる。人混みに紛れて誰も気づかないはずなのに、口から出たその響きは俺自身の胸を深く揺さぶった。

 

 そして次の瞬間。交差点の向こう側。雑踏の中から一人の人物が現れた。

 

 ――時間が止まった。

 

 そこに立っていたのは、スクリーンに映し出されたのと同じ人物。カジュアルな服装で、隣には笑顔の女性。その肩に自然に手を回し、何気ない日常を過ごしている。

 

 俺の世界が一気に静まり返る。耳に届く喧噪が遠のき、視界の中心にはただ一人。死んだはずの兄、アイオロス。

 

 彼は人波に紛れて歩いていた。だが俺の目は決して見失わない。10年という時を経て少し変わった輪郭、落ち着いた雰囲気、それでも間違えようがない。あれは俺の兄だ。

 

「……に……さん……?」

 

 唇が震えた。声にならない声。言葉は霞のように掻き消える。

 

 信号が青に変わり、横断歩道を渡る人々が一斉に動き出す。その群れの中に兄の姿もあった。自然な仕草で歩みを進めながら、ふと何かを感じ取ったように顔を上げる。

 

 その瞬間、視線が交錯した。

 

 ――兄さん。

 

 俺の胸が焼け付くように熱くなる。数年ぶりに交わった獅子の瞳。時を超えた再会の一瞬。大都会の喧騒の真ん中で、俺と兄の間だけ、世界が止まったように感じられた。

 

(本当に……生きていたのか。兄さん……!)

 

 涙が込み上げてくるのを必死でこらえた。ここで泣くわけにはいかない。まだ声を掛けることすらできない。だが確かに俺は見た。信じていいのだ。この運命が、俺を再び兄へと導いてくれたのだと。

 

 胸の奥で渦巻いていた焦燥が、形を変えていく。絶望ではなく、希望へ。影ではなく、光へ。俺はまだ立ち止まれない。兄の真実を追いかけなければならない。

 

 横断歩道の中央で立ち尽くす俺と、こちらを見返す兄。その間に流れる沈黙は、言葉以上の重さを持っていた。




アッシュ「……胃が痛い。俺のシナリオ改変RTA、いよいよ核心に迫ってきたぞ」

魔鈴「こっちも胃が痛いわよ。弟に似たガキと、惚れたシャイナと……倫理観崩壊寸前よ」

アイオリア「だが俺は確かに見た! 兄さんが、この目の前に……!」

アッシュ「おお、熱血すぎるセリフ! ……で、兄さん本当に生きてるかは、感想欄で盛り上がってほしいな」

魔鈴「結局それかい。読者はとっくに知ってるわよ」

アイオリア「皆、感想を頼む! 俺の兄の存在を信じるかどうか、その声が俺の力になる!」

この物語の着地点は‥‥。

  • 十二宮編までで十分
  • ハーデス編で終わらせて
  • ΩやNDまで続けて欲しい
  • エピソードGの世界線も欲しい
  • 黄金魂とか海皇再起も手を出そう
  • もうつまらない。今すぐ完結
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