聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
美と誇りを胸に挑む白銀三銃士!
だが立ちはだかるは、愛の炎・フレア!冷徹なる解析者・エレナ!
参謀長を護る親衛隊の力は、黄金すら凌ぐ次元にあった!
「美しい野心よ、燃え尽きるがいい!」
文官サイドの真の恐怖を刮目せよ!
(ミスティ視点)
私は聖域でもっとも美しく、そしてもっとも優雅な聖闘士だと自負している。いや、誰かにそう言われなくても、鏡を見れば分かることだ。鏡は決して嘘をつかない。
今日、私がここに立っている理由は一つ。参謀長アッシュ様の側近、首席秘書官エレナ殿と、神闘士フレア殿の力量を見極めるためだ。そう、あの二人は今や「参謀府の守護者」と呼ばれている。しかし我ら白銀聖闘士からすれば、彼女たちが実力でその地位を得たのか、それとも美貌と人脈でのし上がったのか、真実は確かめなければならない。
「参謀府の番犬に過ぎぬ」と陰口を叩く白銀も多い。だが、私は違う。私は正々堂々と、その真偽を自らの目で見極める。それが白銀聖闘士の誇りというものだ。もっとも、陰口を叩いていた連中は今ごろ酒場でカードゲームに興じているだろうが。
アルゴルとトレミーを従え、私は参謀長の執務室へ続く長い回廊に立った。白大理石が敷き詰められた荘厳な廊下。静寂に包まれた空気は、今から起こる一戦を予感しているようだった。
やがて、扉が開き、二人の女性が姿を現した。エレナ殿と、フレア殿。
私は優雅に一歩前へ出て、髪をかき上げながら深々と一礼する。
「お待ちしておりました、エレナ殿、フレア殿」
そして、挑戦的な笑みを浮かべながら続けた。
「失礼ながら、あなた方が参謀長をお守りするに足る実力をお持ちか、我々が見極めさせていただきたい。参謀長は我ら白銀の星。その側近が、我々以下の実力であっては示しがつかないでしょう?」
横でアルゴルが「いいぞ、言ってやれ」と小声で囁き、トレミーは「早く戦おうぜ」と落ち着きがない。黙れ、お前ら。私は今、歴史に残る美しい宣言をしているのだ。
フレア殿がふわりと微笑んだ。その微笑みだけで、背後の候補生たちが「はぁぁぁ♡」と昇天しかけている。くそ、あの天然のフェロモン、反則だろ。
「あら、面白いことをおっしゃるのね。アッシュ様を護る力は、小宇宙の強さだけでは測れませんわ。……愛の深さで決まりますのよ。あなた方にはまだ早いですわ」
……愛? 戦闘力の話をしているのに、唐突に恋愛指南を始めるとは。しかも「あなた方にはまだ早いですわ」ときた。つまり「童貞扱い」だ。トレミーが一瞬で真っ赤になったのを私は見逃さなかった。おいトレミー、悔しさで震えているのか、それとも図星で震えているのか、どっちだ。
続いてエレナ殿が前に出た。彼女の瞳は氷のように冷たく、私を射抜いた。
「……戯言はそこまでに。……よろしいでしょう。その言葉、後悔させて差し上げます」
背筋がゾクリとする。正直に言おう。彼女の冷たい視線を受けた瞬間、私は一瞬だけ「お母さんに怒られた少年」のような気分になった。だが私はミスティ。すぐに笑みを整え、余裕を取り戻す。
「ふふ、後悔するのはどちらか……見ものですわね」
私の優雅な挑発に、アルゴルは「かっけぇ!」と小声で盛り上がり、トレミーは「でもやばくない?」と早くも弱気。まったく、頼りにならん。
だが、ここで退くわけにはいかない。我々白銀の未来がかかっているのだ。黄金聖闘士たちが古臭い権威を振りかざしている間に、我々が新たな秩序を築く。そのためには、まず参謀府の側近に勝たねばならない。
フレア殿が小宇宙を解き放つ。燃え上がる炎が回廊を紅に染めた。エレナ殿は無言のまま、小宇宙を一点に収束させる。空気が凍りついたように冷たくなる。
私は一歩前へ出た。髪を翻し、鏡のように光を反射させながら。
「参謀府の乙女たちよ……蜥蜴座のミスティ、挑ませていただきます」
◆
聖域の参謀府回廊に響いたのは、仲間トレミーの雄叫びだった。
「ならば、その実力、見せてもらおうか!ファントムアロー!」
はい出ました。いつものやつ。彼の幻影矢、確かに初見殺しとしては強力だ。だが、相手はフレア殿。よりによって炎の女神代理みたいな人に矢の雨を撃ち込むとか、無謀にもほどがある。
案の定、フレア殿は動じない。涼しい顔のまま手をかざし、そこから立ち上った灼熱のオーラが矢を呑み込んでいった。パチン、と小気味よい音が響いた瞬間、トレミーの誇り高き矢の幻影は、ただの炭化した妄想に変わった。
「愛無き矢など、私の炎の前では塵芥にも等しいですわ」
さらりと決め台詞を言い放つフレア殿。炎が残した残滓がキラキラと舞い上がり、後ろの候補生女子たちから黄色い悲鳴があがる。おい、ここは模擬戦の場だぞ。拍手喝采のコンサート会場じゃない。
トレミーは顔を真っ赤にして「そ、そんな馬鹿な!」と叫んでいる。馬鹿なのはお前だ。いや、友だからこそ言うが、これは完全に戦術ミスだ。少なくとも相手が火炎系なら、氷か水で対抗しろ。……もっとも、矢座にそんな便利スキルは存在しないのだが。
続いて動いたのはアルゴルだった。あの真面目男は黙っていれば賢者に見えるが、口を開くと哲学を語りすぎるのが欠点だ。
「ならば、この盾の魔眼からは逃れられまい!」
出た、メドゥーサの盾。本人はドヤ顔だが、私から見れば「視線を合わせなければ効かない」という超アナログな武器だ。確かに強力ではある。候補生たちは一瞬ざわめいた。だが、エレナ殿は微動だにせず、視線すら動かさなかった。
彼女が見ていたのは、なんと床の反射だ。聖域の掃除係が磨き上げた大理石の床に映る盾の角度とアルゴルの重心移動。それを計算に入れ、一瞬で間合いに飛び込んだ。
「メドゥーサの盾…弱点は、視線が固定されること。そして、その重さ故の機動力の低下。データ通りですね」
冷徹な声とともに、エレナ殿の掌底が盾の関節部分に突き刺さった。金属音が甲高く響き、アルゴルは盾を取り落とした。観客の候補生たちは「ひぃ」と声を漏らし、私ですら一瞬、息を飲んだ。
……いや、息を飲んだというより、笑いを堪えた。だって、アルゴルの顔が見事に「えっ、俺の盾、攻略されちゃったの?」という絶望顔だったからだ。
冷静に考えれば、エレナ殿は常に冷徹で、まるでデータベースから検索したかのように相手の弱点を突く。その姿はもはや格闘家というより「人型解析装置」。下手に挑んだら、次の瞬間に「ミスティ、ナルシスト特有の隙多し」と診断されそうで恐ろしい。
トレミーは膝をつき、アルゴルは盾を落とし、場の空気は完全にエレナとフレア殿のものになった。私は冷静を装いながらも、内心では「やべえぞこれ」と叫んでいた。
だが、ここで引き下がれば白銀の名折れだ。私は美しさと気品を保ちながら、スッと前に出た。
「ふむ、なかなか興味深い。だが、私の小宇宙は、あなた方の想像を超えるでしょう」
優雅に髪をかき上げ、全身から小宇宙を立ち上らせる。見ろ、この完璧な演出。後光のような輝きと、蜥蜴星座の冷気を帯びた刃。観客たちが「キャー!」と声を上げたのを聞き逃さない。……え、いや、私への歓声で間違いないはずだ。
フレア殿は微笑み、エレナ殿は氷の視線を向けてくる。
背筋に冷や汗が流れたのは気のせいだ。気のせいに違いない。
トレミーは後ろで「ミスティ、頼んだ!」と叫んでいる。お前はすでに負け犬だ。黙っていろ。
アルゴルは「ミスティ…あとは頼む」と言いながら膝を押さえていた。盾の次は膝に来たらしい。年寄りか。
私は深呼吸し、覚悟を決めた。ここで一矢報いねば、白銀聖闘士の未来はない。
◆
私が焦ることなど、本来あり得ない。何しろ私は蜥蜴星座のミスティ、白銀の中の白銀。美しさと実力を兼ね備えた存在。だが――目の前で仲間二人が赤子のようにあしらわれる姿を見て、さすがに顔が引きつった。
「馬鹿な…我々の動きが、全て読まれているというのか…!?」
声に出してしまった瞬間、観客席の候補生たちがざわめいた。いや、違う。焦ってなんかいない。ただ、冷静に戦況を分析した結果、ちょっと想定外の事態が発生しただけだ。決して取り乱したわけではない。
私は自分を鼓舞するように小宇宙を燃やし上げた。眩い光が私の周囲を包み、鏡のようにきらめく防御壁を形作る。
「美しい…ならば、私のマーブルトリパーで、その美貌ごと砕いてしんぜよう!」
完璧な決め台詞。今この瞬間、私こそが舞台の主役――そう思った矢先だった。
「もう飽きましたわ」
フレア殿の声が静かに、しかし恐ろしく冷たく響いた。
「アッシュ様をお待たせするわけにはいきませんもの。…これで、おしまいです!」
彼女の拳から迸った灼熱の炎が、私の誇る防御壁を紙切れのように焼き破った。いや、紙切れどころか、スーパーのビニール袋をライターで炙った時のように、あっけなく穴が空いた。
「なっ――!」
驚く間もなく、炎は私だけでなく、後ろのアルゴルとトレミーもまとめて飲み込んだ。三人で仲良く空を舞い、私は一瞬「これ、アクロバットの練習だったか?」と錯覚したほどだ。
しかし現実は非情だ。私たちは無防備のまま宙に浮かされ、そこに音もなくエレナ殿が現れた。いや、現れたというより「すでにそこにいた」と表現するべきか。まるで自分の座標を瞬間移動させたかのような速さだった。
「積尸気…」
冷たい声。彼女の瞳は凍った湖のように感情を映さない。
「……説明不要」
次の瞬間、私は理解した。これは「必殺技」という名の演出すら不要な、ただの事務処理だ。冷徹に、的確に、寸分の狂いもなく、急所へ打ち込まれる連撃。
ドゴッ!バキッ!ズガンッ!
聖衣の関節が悲鳴を上げる。私の肋骨も悲鳴を上げる。ついでに心も悲鳴を上げる。いや、もはや悲鳴ではなく絶叫だ。
「ぐはっ…!」
床に叩きつけられた衝撃で、私の美しい髪が乱れる。鏡を見なくても分かる。今の私はきっと、とても見苦しい顔をしている。だが、そんな羞恥心よりも先に、全身を駆け巡る痛みと敗北感が押し寄せた。
横を見ると、アルゴルが膝をついて呟いていた。
「馬鹿な…これが、同じ白銀聖闘士だと…!?」
その通りだ。私も同感だ。というかアルゴル、お前さっきから「馬鹿な」しか言ってないな。語彙力の死を確認。
さらに後ろからは、トレミーの情けない呻き声。
「うぅ…俺の矢が…」
知るか。矢なんて最初から燃やされる運命だったんだ。
私は呻きながら、かろうじて顔を上げた。視線の先には、涼しい顔で立つフレア殿と、冷徹に佇むエレナ殿。二人は一切乱れていない。髪も乱れていなければ、息すら乱れていない。化粧品のCMか。
「強さの…次元が、違う…」
私は自嘲気味に呟いた。いや、本当に次元が違う。私たちは白銀。確かに黄金に肩を並べる実力を夢見た。だが、今の一戦で痛感した。参謀府の二人は、すでに黄金の次元に片足を突っ込んでいる。いや、むしろ両足どころか、上半身まで黄金を超えている。
床に這いつくばる私。美しき蜥蜴の誇りは、炎と解析の二重奏によって、見事に焼却処分された。
候補生たちがざわめく声が遠く聞こえる。「やっぱり参謀府の二人は別格だ…」「白銀があんなにやられるなんて…」――うるさい、聞こえているぞ。
私は最後の気力を振り絞り、仲間に目をやった。アルゴルは膝を押さえ、トレミーは矢を数えて落ち込んでいる。お前ら、立て。私ひとりでは情けなさすぎる。
だが現実は非情だ。三人揃って床に転がるこの姿、どう見ても「参謀府に逆らった不届き者が返り討ちにされました」という見せしめ以外の何物でもない。
私のプライドは、聖衣と一緒にあちこちひび割れ、粉々に砕け散った。
それでも私は、美しく倒れたはずだ。そう信じたい。そうでなければ、この痛みと屈辱が報われない。
◆
床に転がる私たち三人。汗と土埃にまみれた姿は、いつもの優雅なミスティ像からはほど遠い。いや、むしろ「昨日飲みすぎて路上で寝てしまったおじさん三人組」に近い。そんな私たちを、エレナ殿とフレア殿が涼しい顔で見下ろしていた。
「手応えがありませんでしたわね。これでは、アッシュ様への愛が足りないと言われても仕方ありませんわ」
フレア殿がため息交じりにそう告げた瞬間、私は悟った。ああ、これは戦いではなく公開処刑だ、と。観客の候補生たちが息を呑んでいるのも、驚きではなく同情だ。
エレナ殿は制服を乱すこともなく、一分の隙もない所作で言葉を続けた。
「実力差を理解していただけましたか?あなた方の野心は認めますが、向けるべき相手を間違えてはいけません」
冷たい声が、私の心臓を凍らせた。いや、心臓どころか魂まで氷漬けにされた気分だ。
「我々は『文官サイド』。あなた方の戦場とは、そもそもルールが違うのです」
文官サイド。ああ、なんと恐ろしい言葉だろう。文官と聞くと、普通は机にかじりついて書類を捌く人たちを想像する。だが、目の前の二人はどう見ても書類の束で人を殴り殺せるレベルの武官である。
いや、違うな。これは参謀長アッシュの親衛隊。彼に逆らう者を、情報と戦略と拳で同時に葬り去る、最強の文武両道コンビ。私たちは今、禁断の領域に触れてしまったのだ。
エレナ殿とフレア殿が踵を返し、執務室へと歩き去っていく。その背中が眩しすぎて、もはや女神に見えた。いや、女神ですらない。もっと冷徹で、もっと現実的で、もっと怖い存在――経営陣の秘書みたいなオーラだ。
私は呻きながら、仲間に視線をやった。アルゴルは膝を抱えて「俺の哲学が…」と呟いている。いや、哲学以前に盾を拾え。トレミーは「矢が…矢が…」とブツブツ言っていた。お前は落ちた矢を数えるのが仕事か。
そして私は、自分の中で結論に達した。
「(文官…サイド…?違う…あれは、参謀長の私兵…いや、親衛隊。我々は、手を出してはならない領域に、触れてしまったのだ…)」
敗北の痛みよりも、心の奥に突き刺さる恐怖と羞恥。参謀府という組織の本当の怖さを、私は今さら知った。これからはアッシュ殿に忠誠を誓う。それしか生き残る道はない。
候補生たちがざわつく声が遠くで響く。「やっぱり参謀府は別格だ…」「白銀が束になっても敵わないなんて…」――うるさい、分かってる!誰よりも痛感してるのは私だ!
私は最後の力を振り絞り、立ち上がろうとしたが、聖衣のひび割れがギシギシと鳴って座り込んでしまった。その情けない音が、まるで私のプライドが砕け散る音のように聞こえた。
この日、私は誓った。二度と参謀府に楯突かない。文官サイドには近づかない。むしろ近づいたら靴を舐めるくらいの勢いで頭を下げよう。そう固く、固く胸に刻んだ。
――ああ、私の美しい野心よ。安らかに眠れ。
ミスティ「ぐっ……美しい私が……床に転がるなんて……!」
アルゴル「盾を落とした時点で、俺の哲学も落ちた気がする……」
トレミー「矢が……俺の矢が……!」
フレア「愛がなければ、あなた方に勝ち目はありませんわ」
エレナ「……反省文はA4で二枚、明朝体12ptで提出を」
ミスティ「ぐぬぬっ! 戦闘で負けただけじゃなく、書類でも負けるのかぁぁぁ!」
この物語の着地点は‥‥。
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十二宮編までで十分
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ハーデス編で終わらせて
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ΩやNDまで続けて欲しい
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エピソードGの世界線も欲しい
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黄金魂とか海皇再起も手を出そう
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もうつまらない。今すぐ完結