聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
(サガ視点)
翌朝、アイオロスと一緒にロドリオ村へ向かった。
村に近づくと、ざわざわと人の気配がする。祭りみたいな空気だ。
「聖闘士様がいらっしゃったぞー!」
村人の誰かが声を張り上げた瞬間、僕たちはたちまち人垣に囲まれた。
……なかなか、分かってるじゃないか。これが“黄金聖闘士”の威光というものだ。
表向きは「こんにちは」と微笑み、丁寧に頷いておく。内心では自尊心がじわじわ満たされていく。
「サガ様はまるで神の化身……」
そう口々に囁かれると、さすがに気分が良い。いや、突飛にもほどがあるとは思うが、褒められて悪い気はしない。
横を見ると、アイオロスがなぜかやたら誇らしそうな顔で立っている。
――お前が褒められたわけじゃないからな。
証拠に、村人の一人が「アイオロス様……」とおそるおそる近づいたら、他の村人たちは何故か一歩引いていた。
……そうか、お前は顔が怖いのか。
アイオロス、もうちょっと愛想ってものを覚えたらどうだ。
そういう僕も、さっきまで“神の化身”呼ばわりされていい気分になっていた手前、あまり偉そうには言えないけど。
ひとしきり持ち上げられてから、ようやく本題に移る。
「で、アッシュとかいう白銀聖闘士はどこに?」
村人の一人が「奥の家にお泊まりです」と教えてくれる。
なるほど、小宇宙を感じる。確かにかなり強い。下手な黄金聖闘士より太い“気”を発している。
「アイオロス、行こうぜ」
「うん!」
村の細い路地を抜け、指定された小屋へと足を踏み入れる。
その扉を開けた瞬間――
僕の想像は、豪快に裏切られた。
そこにいたのは、精悍な白銀聖闘士……ではない。
サングラス。
やたらと仕立ての良い服。
聖衣ボックスは過剰に装飾されて、もはや芸術品かと思うほどだ。
しかもその少年は、明らかにイライラしながら、自分の上着についたホコリを几帳面すぎるくらいに落としている。
……ん?
何やってんだこいつ。
よく見ると、小宇宙を微妙に使いながらホコリを弾いている。
器用な。
確かに僕にはできない芸当だが、聖闘士としての資質以前に、性格の問題のような気もする。
アイオロスが困ったように僕を見た。
「サガ……この人、ほんとに白銀聖闘士?」
「さあな。少なくとも、オレの知ってる“白銀”のイメージとは違う」
サングラス少年は僕たちに気づき、驚いたようにこちらを振り向いた。
「あ、黄金聖闘士のお二人ですか? 杯座のアッシュです。お初にお目にかかります」
礼儀正しい……のは確かだが、声のトーンも、なんだか妙に“社交的なサラリーマン”っぽい。
僕はしばし絶句した。
「……えーと、アッシュ、だよな?」
「あ、はい!ご挨拶遅れてすみません。旅のホコリが気になって、つい。ここの空気、ハウスダスト指数が高すぎるんですよね」
すまん、何の話だ。
アイオロスはにこやかに近寄る。
「僕は射手座のアイオロス。こちらは双子座のサガです」
「どうも、どうも。今日はわざわざお越しくださって……」
アッシュは、聖衣ボックスを片手で軽々と持ち上げて、なんとなく“VIPなご接待”モードになっていた。
村人たちの話によれば、この少年、昨日も風呂場を改造しようとしたり、地元の子どもたちに機械の使い方を教えていたりしたらしい。
なんだろう、この場違い感は。
聖衣ボックスにも、なんかパーツが増えてるし――それ、なに?と聞く勇気も出ない。
「サガ様もアイオロス様も、せっかくですから、お茶でもどうぞ。山の上で摘んだハーブティーがあります」
……接待?
まあ、いっか。
座ると、アッシュがやたら手際よくティーセットを用意してくれる。しかもカップは銀製だ。どこから持ってきたんだ、それ。
アイオロスがしみじみ言う。
「すごいね、アッシュ。君、白銀聖闘士なのに……すごく……」
「すごく……?」
僕が言葉を引き取ると、アイオロスは真剣な顔で、
「なんだか、すごく……おしゃれだ」
……そこかい。
僕は改めてアッシュを観察した。
小宇宙は確かに強いが、どうにも“聖闘士”というより“ビジネスマン”にしか見えない。
思わず口を滑らせてしまった。
「お前、ホントに聖闘士なのか?」
アッシュはにっこり笑って答える。
「もちろんです!でも、環境整備も大事だと思ってますんで」
まあ、まあ・・・・・悪い話はしていないな。うん。
こんな変なやつが聖闘士になるなんて。
……これからが、ちょっとだけ面白くなりそうな予感がした。
(アッシュ視点)
その朝、僕はひたすらイライラしていた。
理由は明白だ。まず昨夜、村の風呂場を“ちょっと快適にしよう”と手を入れかけたら村人たちに全力で止められた。どうやら「聖なる水場」を勝手に改造するのはご法度らしい。うーん、古い。
それだけならまだしも、子供たちに自慢しようと持ち込んだノートパソコンは「圏外」。ネットも繋がらなければ動画も再生できない。Wi-Fiどころか電波がこの村を回避している。ここは絶対に人里から隔離された“サンクチュアリ”……いや、まさに“聖域”の名に恥じない未開っぷりである。
極めつけは、起きてみたら上着が信じられないレベルでホコリまみれになっていたことだ。ただ椅子にかけておいただけだぞ? なんでこうなる? ケースを持ってくるべきだった。いや、持ってきたら持ってきたで、きっと「そんな高級なものは神聖な聖域に失礼」とか怒られたに違いない。
仕方ないので、小宇宙を“静電気モード”にして、ホコリを空中にパチパチと弾き飛ばして掃除。これだけは最近、妙にうまくなったと師匠に褒められた。だが、褒められても全然嬉しくない。
「現代っ子の悩み、誰もわかってくれない……」
と心の中でため息をつく。
そのとき、ふいに後ろから人の声が聞こえた。
「サガ、なんかここ、すごく静かだね」
「お前、用心しろよ。白銀聖闘士がどんなやつか分からないからな」
振り返ると、二人の少年――聖衣を纏ったまま堂々と現れる。いや……センスが微妙だ。まあ、僕が言える立場でもないが。
一人は、アニメや漫画でおなじみの「これぞ少年漫画の正統派ヒーロー」感満載の金髪少年。もう一人は、どこか鋭い目つきで、それでも見た目はまだまだ幼い。髪色は鮮やかな青色。
(……ああ、そうか。サガとアイオロス、実物初対面か)
サガ――善サガは青髪で、悪サガは黒髪、という“読者あるある”を一瞬思い出す。
今のサガは青髪。善のサガってことだ。となると、今は比較的平和な時期なのだろう。
僕はとりあえず心の中で「悪サガフラグが立たないこと」を祈る。
さりげなくサングラスをかけ直し、仕立てのいいジャケットを気にしつつ、礼儀正しく二人に向き直る。
「おはようございます。杯座のアッシュです。昨日は旅の疲れで……」
言い訳がましくホコリを払いながら頭を下げる。
二人は少し戸惑った顔を見せた。
「えっ、君がアッシュ?」とアイオロス。
「想像と違ったな……」とサガ。
たぶん、もっと筋骨隆々の武闘派を想像してたんだろう。悪いね、こう見えても白銀だ。
アイオロスが素直に自己紹介してくる。
「僕は射手座のアイオロス。こっちは双子座のサガだ」
「どうも、初めまして」
「……ふーん、まあ一応礼儀はあるようだな」
(……出た、この偉そうな感じ)
アイオロスは相変わらず誇らしげ。彼は原作でも“正義漢”そのものだから、こういうとき絶対に敵を作らないタイプだ。
サガはどうにも「俺が上だぞ」オーラ全開。
(もしかして“悪サガ”寄り……?いや、髪の色は青だし、きっとこういう性格なんだろう)
でもちょっとニヤリとした顔に既視感があって思わず緊張する。
どんなに強くても、原作知識ではこいつ、将来ラスボス級だから油断できない。
「お前、白銀聖闘士って本当に強いのか?」
開口一番、サガがぶっきらぼうに聞いてくる。
(うわー、やっぱり上から目線……)
でも、ここで下手に出るのも性に合わないので、
「まあ、そこそこは。小宇宙で掃除もできるくらいには鍛えてます」
軽く笑って、ホコリをパチッと飛ばしてみせる。
師匠直伝の小技だが、実用性とネタ枠の間で微妙な評価を受けそうだ。
アイオロスが目を輝かせる。
「すごいな、それ!サガ、僕たちも練習してみようよ」
「お前はすぐ人の真似をする……」
サガのツッコミに、こっそり笑いそうになった。
そのあとも二人はやたら僕を観察してくる。服のことや、サングラス、果ては聖衣ボックスの装飾についてまで質問攻めだ。
「そのサングラス、どこで手に入れた?」
「そのスーツ、村では見ないな」
「聖衣ボックスの……それは何用だ?」
質問の嵐。
「全部“現代文明の叡智”です」
と一言返すと、二人揃って「へぇ……」と微妙なリアクション。
「ま、何はともあれ、これからよろしく頼むよ」
表面上はにこやかに言いながら、心の中では
(これ、絶対そのうち“黄金聖闘士組”の子分扱いされるパターンだろうな……)
と、さっそく未来の自分の苦労が目に浮かんだ。
でも――
サガもアイオロスも、原作で活躍する“本物”なのだ。
このギャップと距離感が面白い。
いずれ、本当に“仲間”と呼べる日が来るのかもしれない。
とりあえず、今はホコリと戦いながら、この二人の観察から始めるとしよう。
どんな出会いも、始まりはこんなもんだ。
サガ「……おい、アッシュ。お前、なんでそんなに他人行儀なんだ?」
アッシュ「え? 白銀と黄金じゃ立場が違うと思いまして。一応、礼儀は大事かなって」
サガ「そんなもん気にすんな。年も近いし、いちいち敬語なんかやめろ」
アッシュ「じゃあ、サガ、これからはタメ口でいくよ」
サガ「……えっ、いや、もうちょっと遠慮とか……」
アッシュ「サガって、案外細かいとこ気にするタイプなんだね」
サガ「ちょ、急に馴れ馴れしすぎだろ!」
アッシュ「いやいや、タメ口って言ったのそっちでしょ? じゃ、よろしくサガ!」
サガ「……まあ、いいけど。お前、ほんと変なやつだな」
アッシュ「サガも十分ぶっ飛んでると思うけど?」
サガ「黙れ!」
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