聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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紅茶か?ハーブティーか?
参謀長アッシュ、決断迫られるお茶の三竦み!
さらに訪れるのは湯けむりの戦場!
裸の秘書官、裸の戦乙女、そして全裸教皇!?
星々も凍りつく修羅場を前に、参謀長の選択は――!?


参謀長、恋とソーダと全裸サガ

(アッシュ視点)

 

 

今日も電子署名で指が吊りそうになっている。サガ教皇から降りてくる決裁、ドルバル総大主教の妙に饒舌な祝辞案、光政翁からの「日本パライストラ視察計画書」どれも大事だが、どれも俺の目の下のクマを確実に濃くしていく。

 

だが、そんな俺を救う存在がいる。秘書官のエレナだ。

 

「参謀長、こちらをどうぞ」

 

絶妙なタイミングで差し出されたのは香り高いアールグレイ。砂時計で計ったようにきっちり3分抽出。茶葉の分量、湯温、すべて完璧。まさに仕事のデバフを一瞬で解除する紅茶だった。

 

「ありがとう、エレナ。君がいると本当に助かる」

 

俺がそう言うと、彼女は表情ひとつ崩さずに答えた。

 

「参謀長のお役に立てることが、私の喜びですので」

 

この落ち着き、冷静さ。俺は何度も救われてきた。だが、その静謐な空気をぶち壊すのがもう一人の問題児だ。

 

バンッ!

 

扉が開いた瞬間、北欧の吹雪でもなだれ込んだのかと思った。神闘士フレア。髪を揺らし、両手に湯気の立つハーブティーを持って俺のデスクに突撃してきた。

 

「アッシュ様!お疲れでしょう?アスガルド特製のハーブティーを淹れて参りました!この愛と炎の一杯、ぜひ!」

 

……やめろ、書類に湯気がかかる。

 

エレナがすっと立ち上がり、二人の間に割って入った。

 

「参謀長は英国式のマナーを尊ばれます。野趣あふれるお茶ではお口に合わないのでは?」

 

フレアがすぐさま反撃する。

 

「愛のこもっていないお茶では、本当の癒しにはなりませんわ!参謀長、私の愛を受け取ってくださいまし♡」

 

なぜお茶で愛の告白が始まるのか。俺はただ水分を取りたいだけなのに。

 

エレナは一歩も引かない。

 

「業務効率を最大化するのは、完璧に計算された一杯です。情熱だけで組織は動きません」

 

二人の視線が俺に突き刺さる。いや、刺さるっていうか、完全に「どっちを選ぶの?」モード。紅茶かハーブティーか。いやいや、そんな究極の選択を迫られても困る。俺は参謀長であって「世界お茶選手権の審査員」じゃない。

 

俺は観念して、デスクの引き出しを開け、常備してあるメロンソーダのペットボトルを取り出した。

 

「ええと……二人とも、ありがとう。俺は喉が渇く暇がなさそうだ」

 

ゴクリ。炭酸の刺激が喉を駆け抜ける。甘い。落ち着く。俺の正義は、やっぱり緑色に輝く清涼飲料水だ。

 

しかし、二人は納得しない。

 

「メロンソーダ……?!」(フレア)

「カフェインゼロ、栄養ゼロ……業務効率に反します」(エレナ)

 

何だこのコンビネーションアタック。まるで二人とも別の角度から俺の趣味を全否定してくる。いや、待て、俺の唯一の癒しを奪うんじゃない。

 

「アッシュ様、ハーブティーにはビタミンCがたっぷりです!美肌効果も!」

 

「紅茶にはテアニンがあります。集中力アップです」

 

「メロンソーダには……炭酸がある」

 

俺の主張、弱っ!

 

その時、電子書類のアラートがピコピコ鳴った。新しい稟議書。「白銀聖闘士住宅ローン優遇制度案」……どこから突っ込めばいいんだ。

 

二人はぴたりと動きを止め、俺のモニターを覗き込む。

 

「参謀長。これも私が整理しておきます」

「いえ!アスガルドにも不動産事情はあります!私が担当を!」

 

……頼むから、書類で喧嘩するな。俺はただ仕事を片付けたいだけなんだ。

 

その後も二人は、デスク上で静かな紅茶戦争を繰り広げた。カップの置き方、ティースプーンの角度、香りの比べ合い。正直どっちでもいい。俺はただ書類を減らしたい。

 

最終的に俺は深いため息をつき、こう結論づけた。

 

「……二人とも、君たちの献身は十分に伝わっているよ。だけど、俺にとっては、このメロンソーダこそが平和の象徴なんだ」

 

エレナとフレアは顔を見合わせ、なぜか同時にため息をついた。

 

「参謀長は本当に……」

「仕方のないお方ですわ……」

 

……いや、悪いのは俺じゃなくて君たちだろ。

 

結局、俺の午後は、紅茶とハーブティーとメロンソーダの三重奏で終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この夜は珍しくバルコニーに出て、星を見上げていた。ギリシャの夜空は驚くほど澄んでいて、星が無数に瞬いている。普通ならロマンチックな場面になるはずなのに、俺の頭の中にあるのは「婚姻届を電子化したらワークフローはどうなるか」という不毛なテーマだ。

 

「……そろそろ、俺も身を固めるべきか」

 

気づけばそんな言葉が口から漏れていた。聖域の改革は順調だ。白銀聖闘士は住宅ローンのシミュレーションをして喜び、サガはゲーミングチェアで決裁ボタンを押す毎日。みんな俺の設計した未来の上で、うまく回り始めている。だが俺自身の未来は、からっきし解けない数式みたいに複雑だ。

 

まず、エレナ。彼女は完璧すぎる。紅茶の蒸らし時間を誤差ゼロで管理し、俺がため息をつく前に資料を差し出す。まさに「人型Excel」

以前、真顔で「参謀長、今日の会議の欠席者は棒グラフにしておきました」と言われた時は、愛しさより先に恐怖を覚えた。けど、彼女の存在なしに俺はここまで来られなかった。

 

回想がよみがえる。

 

「エレナ、君はいつも俺を支えてくれる。君のいない聖域は考えられない」

「参謀長。私は、あなたがお決めになることに従うだけです。でも、私を選んでくれると信じています」

 

……いや、プレッシャー!パワポ資料より重いぞ、その信頼!

 

そしてフレア。アスガルド最強の戦乙女。彼女の愛は熱すぎて、飲みかけのメロンソーダすら一瞬でホットドリンクになりそうな勢いだ。アスガルド視察の時も、いきなり抱きつかれて肋骨が2本くらいきしんだ。「アッシュ様、私の愛を受け止めて!」と叫ばれた瞬間、俺は本気で防御姿勢を取った。いや、受け止めたいけど、物理的に痛いんだ。

 

これも回想が浮かぶ。

 

「フレア、君といると俺が忘れていた情熱を思い出す。だが、君の真っ直ぐな好意に、俺が応えられる資格があるのか…」

「資格など、愛に必要ありませんわ!私があなたを資格ある男にしてみせます!」

 

……愛の資格講習会って何?受講時間は何時間?修了証はあるの?合理主義者の俺の頭では、どうしても試験科目を考えてしまう。

 

俺はバルコニーの手すりに肘をついて、ため息をついた。

 

「エレナの合理性か、フレアの情熱か……」

 

いや、そもそも選ばなきゃいけないのか?プロジェクトマネジメント的には「AND条件」より「OR条件」の方が楽だ。でも恋愛でマルチタスクは炎上案件だ。いや、恋愛を炎上って表現する時点で俺は参謀長として失格だろう。

 

さらに悪いことに、サガが最近やたらニヤニヤして俺を見てくる。「アッシュ、お前もそろそろ“決裁”の時ではないか?」って、婚姻を稟議扱いするな!配偶者選択稟議とか誰が承認するんだ!

 

そこに突然、通信機が震えた。差出人はドルバル総大主教。嫌な予感しかしない。

 

「アッシュ殿、聞きましたぞ?フレア殿とエレナ殿、どちらをお選びになるか迷っておられるとか」

 

なぜもう漏れてる!?俺の恋愛事情が機密情報から機材更新申請より先に流出してるぞ!?

 

「いや、ドルバル殿、それは……」

「ははは、安心なされ。どちらを選ばれても、私は祝辞を用意しております。両対応可能です!」

 

万能すぎる聖人やめろ!

 

俺は頭を抱えた。星空を見上げるはずが、気づけば結婚式の段取りを脳内シミュレーションしている。参謀長の頭脳をこんなことに使っていいのか。

 

「……合理主義者の俺が、こんなに非合理で悩む日が来るとはな」

 

思わず笑ってしまった。計算もシミュレーションも効かないのが、恋愛という名の戦場らしい。だが同時に、俺の胸には奇妙な高揚感もあった。書類と数字の世界では決して得られない、不確実で、制御不能な感情。

 

俺はメロンソーダを一口飲み干した。炭酸が強すぎて思わずむせた。

 

「……俺の未来、もう少しだけ答えを保留しておいてもいいだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そろそろ胃に穴が開いてもおかしくない。そんな俺が唯一楽しみにしていたのが、この大浴場だ。

 

「ふぅ……ようやく一人になれた」

 

誰もいない湯船に身を沈める。湯気が立ちのぼり、肩まで温泉につかる。設計段階では「温熱効果による血行促進」「業務効率化に資する疲労回復」などと真顔で稟議書に書いたが、結局のところ俺自身が入りたかっただけだ。参謀長の特権である。

 

だが、その静寂は三十秒と続かなかった。湯気の向こうから、すっと人影が差してきた。

 

「アッシュ様。お背中、流しましょうか」

 

「――エ、エレナ!?」

 

首席秘書官エレナが立っていた。いや、正確に言うと、何も着ていなかった。完全装備ゼロ。全裸。俺の理性ゲージが一瞬で振り切れる。

 

「な、なぜここに……!」

 

「参謀長がお一人で疲れていると聞きましたので。秘書官の務めとして当然です」

 

堂々と言い切るな!秘書官の業務範囲どこまで広げる気だ!俺の背中を人事評価に入れないでくれ!

 

俺が動揺していると、逆方向から声が響いた。

 

「あら、エレナ殿。抜け駆けは感心しませんわね」

 

フレアだ。しかも、彼女もまた全裸で登場。アスガルド仕込みの寒冷地仕様ボディを惜しげもなく晒している。

 

「アッシュ様、今夜は私の炎であなたを温めます♡」

 

待て、炎と温泉の相性は最悪だ!追い焚きする気か!?

 

エレナがすかさず割って入る。

 

「お黙りなさい、アスガルドの女狐。参謀長が求めているのは熱ではなく、最適化されたサポートです」

 

フレアの目が燃える。

 

「その氷のような身体で何が温められるというのですか!」

 

「私の身体は、参謀長を受け止めるためにチューニングされています。貴女の無駄に大きな胸とは違って」

 

「なんですってぇぇ!」

 

俺を挟んで、両側から仁王立ちの美女が火花を散らす。浴場の温度が一気に3度は上がった。ここは温泉じゃない、戦場だ。俺は心の中で必死に叫んだ。

 

(お願いだから、どっちも落ち着け!俺はただ、静かに湯に浸かりたいだけなんだ!)

 

だが俺の祈りは、あっさり打ち砕かれた。

 

がらり、と浴場の扉が開き、場違いな明るい声が響く。

 

「おーい、アッシュ!いい湯だな!一緒に入ろう!」

 

サガ教皇。全裸。タオルすら持っていない。俺の理性の堤防が決壊する。

 

「な、なぜここに!?」

 

サガは豪快に湯船へ飛び込み、湯しぶきを俺の顔にぶちまけた。

 

「いやー、いい湯だ!参謀長も肩の力を抜け!」

 

抜けないわ!むしろ全身が緊張して石像みたいになってるわ!

 

だが、この瞬間、エレナとフレアの敵意が完全に方向転換した。二人の美女が無言で視線を交わし、同時にサガを指差す。

 

「邪魔です」

「邪魔ですわ」

 

二重唱。怖すぎる。

 

「積尸気冥界波!」

「ムスペルス・エルズル!」

 

蒼い燐気と紅蓮の炎が渦を巻き、一直線にサガへ直撃。

 

「な、なぜ俺がぁぁぁ〜〜!」

 

教皇の絶叫が夜空に響き渡る。次の瞬間、浴場の壁に人型の穴が開き、サガの肉体が星の彼方へと消えていった。教皇が流れ星になる瞬間を、この目で見てしまった。

 

湯船に残されたのは、仁王立ちで息を合わせる二人の美女。そして壁に開いた穴。俺は肩まで湯に浸かったまま呆然とつぶやくしかなかった。

 

「……俺、やっぱりシャワー派に戻ろうかな」




アッシュ「……俺はただ静かに湯に浸かりたかっただけなんだ」

エレナ「参謀長、シャワー派に戻るなら防水書類ケースをご用意します」

フレア「いいえ!温泉こそ愛を燃やす場ですわ!」

サガ「なぜ俺だけ飛ばされたあぁぁぁーー!」(夜空に消えながら)

アッシュ「……やっぱりメロンソーダで頭冷やそう」

十二宮編の最後は誰と誰の対決に?

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