聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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燃えろ!小学生の小宇宙!
普通を夢見る少女に、運命のボールが飛ぶ!
黄金の力か、ただの友情か!?
そして現れるは希望の星――天馬星座・星矢!
次回―― 「沙織、普通になる宣言!」
君は、普通と非凡の狭間で揺れる心を見届けられるか!?


沙織、普通になる宣言!

(沙織視点)

 

 

小学校に入ってからの毎日は、新しいことだらけで楽しかった。ランドセルに教科書を詰めて歩くだけで冒険気分だし、給食は毎日知らない味が出てくるし、先生は優しい。クラスのみんなも元気いっぱいで、私はすぐに友達ができた。だから私は信じていた。私の家族も、みんなと同じ「普通の家族」だって。

 

でも、その信念は入学から数週間で揺らぎ始めた。

 

その日の休み時間、友達が私に話しかけてきた。

 

「沙織ちゃんのお母さん、美人だよね。でも昨日と雰囲気違ったね?」

 

私は笑顔で答えた。

「うん!昨日はエリスの方だったからね!今日は翔子だよ!ママは二交代制なの!」

 

教室がしん、とした。友達が首をかしげて口を開く。

「え?二交代制って…なに?」

 

私は自信満々に説明した。

「ママは二人いるんだよ!夜は交代するの!だから昨日のママと今日のママは違うの!」

 

すると、友達の目が丸くなる。

「えっ…えっ……」

 

誰も頷かない。私は慌てて話題を変えた。

「あとね、パパはお家に敵が来たら『アトミックサンダーボルト』でやっつけるんだよ!すっごく強いんだ!」

 

今度はクラス中が静まり返った。みんなの目が「どう反応すればいいんだ」って訴えているのが伝わってきた。私は「みんなのお父さんもやるでしょ?」と純粋に聞いた。でも返ってきたのは沈黙だけだった。

 

その瞬間、私は心の中で小さな疑問を抱いた。

(あれ……?うちって、もしかして普通じゃないのかな……?)

 

授業が終わって家に帰ると、庭でパパが修理をしていた。昨日の親子稽古で壊れたフェンスを直しているのだ。パパは腕まくりをして、ハンマーを軽々と振り下ろしている。力強くて格好いい。でも、よく考えたら、普通のお父さんってフェンスを毎週直すのかな。

 

「ただいまー!」

 

私が元気よく言うと、パパは振り返って笑顔を見せた。

「おかえり!今日は学校どうだった?」

 

「うん!楽しかったよ!…でもね、みんながママ二人いるの変だって」

 

パパは困ったように頭をかいた。

「ははは、まあ…普通はそうだな」

 

やっぱり普通じゃないんだ、と確信する。

 

家に入ると、キッチンでは翔子ママがエプロン姿で夕飯を作っていた。今日の献立は和食だ。だけど横にはもう一人、腕を組んで鼻歌を歌うエリスママがいる。彼女は堂々と宣言した。

「今日は私がスブラキを作る!ショーコ、そっちの味噌汁は下げなさい!」

 

「やめて!今からお味噌汁にスブラキ入れようとしないで!」

 

いつもの光景だ。私は慣れている。けれど今日の私は違った。ふと立ち止まって思う。

(…こんなの、普通の家にはないんじゃ?)

 

次の日の給食の時間。友達がまた質問してきた。

 

「沙織ちゃんちって、どんなご飯出るの?」

 

私は胸を張って答えた。

「昨日はね、和食とギリシャ料理の戦いだったよ!」

 

「……戦い?」

 

「そう!ママ同士がどっちのご飯が美味しいかで喧嘩するんだ!でも最後はパパが全部食べちゃうの!」

 

また教室が静かになった。みんなの顔がだんだん怖くなってきた。私の話が冗談だと思って笑ってくれる子もいない。私は笑顔を保ったまま心の中で泣いた。

(うち…やっぱり普通じゃないんだ……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日のことは、今でも鮮明に覚えている。体育の時間、グラウンドでのクラス対抗ドッジボール大会。二年生にとっては、もう運命を左右するくらいの大事な行事だった。勝てば給食のデザートを一番に取れる、負ければ掃除当番を倍増される。そんな死活問題の戦いが繰り広げられていたのだ。

 

私は最初から気合い十分で、ポジションは後衛。守りの要を任されていた。親友の美樹ちゃんは前衛で頑張っていた。あの子は運動神経がいいわけじゃないけど、誰よりも必死で走るから私は全力で守るつもりだった。

 

その時だった。相手チームの男子――クラスで「ドッジボールの帝王」と呼ばれてるガキ大将が、美樹ちゃんめがけて全力で投げた。ものすごいスピードのボールが彼女の顔に直撃して、美樹ちゃんはその場で泣き出してしまった。

 

私の中で何かがプツンと切れた。

(カチン…私の親友を泣かせたわね……)

 

気づけば視界が黄金色に染まっていた。身体の奥から力が湧き上がって、小宇宙が燃え盛る。そう、私はその時、女神アテナとしての本能に引きずり出されかけていた。

 

「愚かなる人間たちよ……その罪、万死に値します……!神罰の鉄槌を……いえ、神罰のドッジボールを受けなさい!」

 

そう叫んで投げたボールは手を離れた瞬間、炎をまとって光り輝き、彗星のように空を裂いた。しかも途中で分裂して、敵チーム全員を狙って飛んでいったのだ。

 

結果?男子チームは全員まとめて撃墜。グラウンドに悲鳴が響き、数人は保健室行き、念のため病院送りになった子もいた。

 

審判の先生は口をぱくぱくさせて何も言えなかった。女子チームの子たちは「沙織すごーい!」と拍手喝采だったけど、男子チームは阿鼻叫喚。後で知ったけど、この出来事は「童守小ドッジボール大虐殺事件」として語り継がれることになったらしい。

 

事件の直後、私は普通に反省文を書かされることになった。担任の先生は「力をセーブしましょうね」と優しく言ってくれたけど、セーブの仕方なんて知らない。そもそも神罰のドッジボールに強弱なんてあるの?って話だ。

 

家に帰ってママたちに報告すると、翔子ママは青ざめた顔で私の肩をがっしり掴んできた。

「沙織!小宇宙を解放したの!?学校で!?何やってんのよぉぉぉ!」

 

エリスママは逆に目を輝かせて拍手していた。

「よくやった!友を守るために力を使う、それが神だ!さすがは私の娘!」

 

パパは苦笑いしながら頭をかいた。

「沙織…お前、ちょっと力の出し方を覚えないと大変だぞ。明日からトレーニングメニューを見直そうな」

 

いやいや、そういう問題じゃない。私は必死に弁解した。

「だって…美樹ちゃんが泣いたんだもん!」

 

翔子ママは「気持ちは分かるけど!」と頭を抱え、エリスママは「泣いた者を守るのが正義!」と拳を振り上げ、パパは「まあまあ」と仲裁。結局その夜の食卓は、ドッジボール談義で盛り上がってしまった。

 

次の日、学校に行くと全校集会が開かれていた。校長先生が壇上に立ち、深刻そうな顔で話を始めた。

「昨日のドッジボール大会で大変な事故がありました。安全第一で楽しむことが大切です。力を使うときは、相手を思いやりましょう」

 

私は教室の後ろで小さくなっていた。クラスの男子たちがこっちを振り返ってヒソヒソしている。

「あいつ…ほんとに人間か?」

「いや、絶対隠れ超人だろ」

「ボールが分裂したんだぞ…」

 

私は机に突っ伏して「ごめんなさーい」と心の中で叫んだ。でも美樹ちゃんは「沙織ちゃんのおかげで勝てたんだよ!」と笑顔で言ってくれた。その一言で私は少し救われた。

 

 

 

 

 

 

 

事件から数日たった。童守小学校では「沙織=ドッジボールの破壊神」という不名誉なあだ名が完全に定着していた。校庭を歩くだけで男子が「ひっ」と避けるし、女子からは「沙織ちゃん守って!」とお願いされる。いや、守るのは好きだけど、これ絶対に「普通の小学生」じゃない。

 

私は机に座り、真剣に自分の状況を分析した。

「うちのママは二人いるし、しかもやたらイチャつく。パパは家の前を通るセールスマンにまで小宇宙を爆発させそうになるし、私はドッジボールで人を病院送りにする……これが普通なわけない!」

 

そうだ。これまで私は、うちの家族がちょっと変わってるだけだと思ってた。でも違う。圧倒的に異常だ。だからこそ私は決意した。

「今日から、反面教師としてパパとママを利用する!私は完璧な普通の小学生になる!」

 

翌朝、私は制服をきっちり着て登校した。いつもならランドセルに変な結界が張ってあったり、ママが勝手にお守りを仕込んでたりするのに、今日は自分で全部取り外した。

「沙織は今日から普通!おかしな魔除けは必要なし!」

 

学校に着くと、さっそく友達に宣言する。

「今日から普通の小学生になるから!」

美樹ちゃんはキョトンとした顔で「う、うん?」と返してきたけど、他のクラスメイトは「普通って何?」と首をかしげていた。しまった、スタートから概念の説明が必要だったか。

 

昼休み。私は「普通の小学生ランチ」を目指した。

本当はママが作ったギリシャ風弁当(羊肉のケバブ入り)と和食弁当(梅干しぎっしり)だったけど、それを机の下に隠し、購買で買ったパンにかじりついた。

「これよ!普通の小学生はこういうパンを食べるの!」

しかし次の瞬間、パンの中から黄金のオーラが立ち上った。開発したのはどうせエリスママだ。「ギリシャ十二神の祝福入りパン」とか余計なものを混ぜるなああ!

 

周りの子がざわめく。

「パンが光ってる…」

「やっぱり沙織って普通じゃない…」

 

私は心の中で泣いた。努力が秒で無駄になるってこういうことだ。

 

家に帰ると、机の上に置かれたパンフレットが目に入った。聖闘士養成施設「パライストラ」の案内だ。表紙には、天馬星座の聖衣を指さした少年が爽やかな笑みを浮かべている。名前は星矢。

 

「……かっこいい」

 

気づいたらつぶやいていた。しかも顔が赤い。いやいや、落ち着け私。あの人はすでに「普通」から遠い存在だ。小宇宙を燃やし、世界を救うヒーロー。絶対に「普通」じゃない。

「ダメだ!沙織は普通になるの!普通はヒーローに憧れたりしないの!」

 

でもページをめくると、星矢先輩のトレーニング姿が写っていた。汗まみれで走る横顔、仲間たちと笑い合う瞬間。胸がドキドキして止まらない。

「うぅ……やっぱりちょっとかっこいい……」

 

頭の中で天使と悪魔がケンカを始める。

「普通になるの!」

「でも星矢先輩素敵!」

「いや普通!」

「いや素敵!」

 

気づいたら机に突っ伏して「うわぁぁぁ!」と叫んでいた。

 

次の日の学校。クラスの子が星矢先輩の話をしていた。

「パライストラの星矢先輩、この前の模擬戦で青銅聖闘士にも勝ったんだって!」

「え、すごーい!」

 

その会話を聞いた瞬間、胸がぎゅっと締めつけられた。普通を目指す私は「ふーん、そうなんだぁ」と冷めたふりをした。でも心の中では「かっこいいいいい!」と絶叫していた。

 

美樹ちゃんがこっそり耳打ちしてきた。

「ねえ沙織ちゃん、顔真っ赤だよ」

「ち、違うの!普通の反応なの!」

 

全然普通じゃない。

 

放課後、私はランドセルを置いて公園へ行った。ブランコに揺られながら、今日一日の「普通チャレンジ」を振り返る。

・普通のパン → 光った

・普通の反応 → 顔真っ赤

・普通の会話 → できてない

 

「全敗じゃないの……」

 

その時、後ろから声をかけられた。

「沙織ちゃん?どうしたんだ、落ち込んで」

 

振り向くと、そこに立っていたのはなんと星矢先輩本人だった。トレーニング帰りらしくジャージ姿で、汗を拭きながら笑っていた。

 

「ほ、星矢先輩っ!?!?」

 

私は頭が真っ白になった。だって、パンフレットで見て憧れてた本人が、目の前に現れたんだよ!?

 

星矢先輩は私の隣に座って、何気ない調子で言った。

「俺さ、パライストラに入る前は、弱くて泣き虫だったんだ。でも、強くなりたくてここまできた。だから『普通』って悪いことじゃないと思うぞ」

 

私は呆然とした。普通になろうとしても失敗ばかりで、もう嫌になってたのに。星矢先輩は普通を肯定してくれた。

 

「……星矢先輩……」

 

胸が熱くなった。でも次の瞬間、心の声が叫んだ。

(やばい、恋してる!これ普通どころじゃない!全然普通じゃない!!)

 

家に帰ると、ママたちが待ち構えていた。翔子ママは優しく「今日はどうだった?」と聞いてきた。エリスママは「新たな神罰は下したか?」とニヤリ。パパは「おかえり」と笑ってくれた。

 

私は机にランドセルを置いて、深呼吸した。

「……今日も普通は無理だった。でも、ちょっとだけ、頑張ってみる」

 

そして心の中で小さくつぶやいた。

(星矢先輩、私もあなたみたいに強くて優しい人になりたい。普通も、悪くないって思えるように)

 

 

 

 

 

 

 

 

小学五年生になった私は、もう大人の階段を登り始めているのだ。ランドセルも板についてきたし、ノートだって字がちゃんと真っすぐ書けるようになった。だから今日の夕食で、新しいクラスと先生の話をするのは、私にとって一大イベントだった。

 

「今日から五年三組なんだ!美樹ちゃんと同じクラスで、広くんって転校生も来てね!しかも担任の鵺野先生って霊能力者なんだよ!左手が鬼の手なんだって!」

 

興奮して話す私に、ママ――翔子が「へえ、面白そうな先生ね。でも鵺野先生ってちょっとスケベだから気をつけなよ~」と軽く返した。その瞬間だった。

 

ガタン!

 

パパが勢いよく立ち上がった。目がギラギラ光ってる。

 

「何!?スケベだと!?沙織に変なことをするとは何事だ!許さん!小学校教師の風上にも置けん奴だ!原子レベルで粉砕してくれる!」

 

バチバチッと黄金の小宇宙がダイニングに走った。お皿が震えて味噌汁が波打ってる。

 

「パパ!落ち着いて!まだ何もされてないよ!」

 

暴走モードのパパを止めたのは、ママ……エリスママだった。

 

エリスママが突然、翔子の身体の主導権を奪ったかと思うと、ずかずかとパパに歩み寄って、ネクタイをがっと引っ張ったのだ。

 

「はいはい、落ち着いて、私の英雄様♡ その原子分解、今夜のベッドで私にだけ使ってちょうだい?」

 

私は見た。父の黄金の小宇宙が、真っ赤な顔と一緒に一瞬でしぼむ瞬間を。あのギラギラしたオーラが、一瞬でポフッと消えて、代わりに恥ずかしそうに固まるパパ。

 

「え、エリス!?しかしだな…!」

 

「問答無用♡」

 

そう言って、エリスママがパパに強引にキスをした。長くて濃いやつ。しかも食卓のど真ん中で。

 

……ご飯中にやることじゃない。

 

私は思った。「あ、砂糖吐く」本当に吐きそうになった。甘すぎる。目の前で両親がいちゃつくのはもう慣れてるけど、今日は度を越していた。味噌汁の豆腐も引いてた。

 

私は心の中で呟いた。

「(この人たち、本当に私の反面教師だな…絶対に真似しない…)」

 

でも困ったことに、そんな風に誓った矢先に、学校の友達から「沙織ちゃんのお父さんかっこいいね」とか「お母さん美人だね」って言われるのだ。私としては「違う、あれはただの恋愛脳の怪物たちだ」って叫びたいんだけど、口が裂けても言えない。

 

その後のパパはもう、完全に鎮静化。さっきまで原子レベルで先生を粉砕するとか言ってた男が、真っ赤になって黙り込み、ご飯をポソポソ食べ始めた。

 

「えへへ…豆腐って柔らかいな…」

 

いや、どんな感想だよ。

 

翔子ママが戻ってきて「ちょっと!なんで勝手に身体使ってるのよ!」とエリスママに怒ってたけど、私は思った。「まあまあ、あれで被害が最小限になったんだからいいじゃん」と。そうじゃなかったら、明日から父の名前がニュース速報に載るところだった。

 

普通ってなんだろう。

 

普通の父親は、娘の担任がスケベだって聞いても、原子分解しようとしない。普通の母親は、二人いて交代制じゃないし、夫を鎮めるために情熱的なキスを炸裂させない。普通の家庭の食卓は、戦場にならない。

 

「(やっぱり、うちは普通じゃない…!)」

 

私は枕を抱きしめて、またひとつ決意を固めた。大人になったら、私は絶対に「普通の家庭」を築くんだ。夫婦喧嘩はしても原子分解はしない。ご飯は静かに食べる。キスは…せめて食卓じゃなくて寝室にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。私は部屋で「普通」の小学生ライフを謳歌していた。いや、少なくとも自分ではそう思っている。だって今日は宿題も済ませたし、ちゃんと歯も磨いたし、ベッドにダイブしてゲームをしてる。これ以上普通のどこがあるっていうの?

 

ただ一つ、世間的にアウトかもしれないポイントがある。私は裸族だ。いや、これは仕方ないんだ。だってエリスママが真顔でこう言ったんだもの。

 

「女神たるもの、自らの裸の美しさに絶対の自信を持つものよ!」

 

その言葉を真に受けた私は、家族の目が届かない自室では服を脱ぐ。うん、こうやって書き出すと変態っぽいけど、本人は大真面目なのだ。小宇宙でふわっと浮遊しながらゲームする姿なんて、完全に女神だし。

 

「うひひ…きたきた、このクール系先輩の好感度MAXイベント…!ゲヘゲヘ…これは普通に照れる…!」

 

私は乙女ゲームをやりながらニヤニヤしていた。ヘッドセット越しに流れる甘いボイス、選択肢のタイミング、脳内に響くエリスママの念話。

 

「(フン、貴様はあんな青二才にときめいているのか。私の英雄アイオロスの百億分の一の器量もないのに)」

 

「(ちょっとエリスママ、今はいいとこだから黙ってて!このスチルを邪魔したら許さないからね!)」

 

壁にはアイドルのポスターが貼ってある。某ジャニーズに似た笑顔が見下ろしているけど、本命はゲームの中のキャラたちだ。棚にはびっしりと並んだギャルゲーと乙女ゲー。家族にバレたら「小学生が早すぎる!」って大騒ぎされるだろうけど、知っている。エリスママが夜な夜なパパに言ってるセリフのほうがよっぽどR18だ。

 

私はヘッドセットを外して、ふぅと一息つく。部屋を見渡す。

 

「(うん、私の部屋も、私の趣味も、至って普通。今日もちゃんと『普通』に過ごせたな。…普通、だよね?)」

 

本棚に並んでるのは国語辞典と数学のワークの隣に積まれたBLアンソロジー。机の上にはカラフルなペンケースと一緒に「恋愛シミュレーション入門」という謎の攻略本。真顔で考える。

 

「(小学生女子の部屋って、こういう感じじゃないのかな…?美樹ちゃんの部屋はもっとぬいぐるみ多かったけど…。でも、私は女神だし…これはこれで普通…だよね?)」

 

誰も答えてくれない。いや、答えなくていい。私は自分を信じるしかない。

 

すると、不意にノックの音。

 

「沙織、寝たか?」

 

パパの声だ。私は慌てて毛布を手繰り寄せる。

 

「(やばっ!裸族バレたら説教どころじゃすまない!)」

 

「い、今寝るとこー!」

 

「そうか。無理するなよ。おやすみ」

 

その声と足音が遠ざかるのを確認して、私は大きく息を吐いた。危なかった。黄金聖闘士の洞察力を甘く見ちゃいけない。裸族でゲーム漬けなんて、年頃の娘としてどうなんだって絶対説教される。

 

「(大丈夫、大丈夫。普通、普通…!)」

 

電気を消してベッドに潜り込む。エリスママがまた囁いてくる。

 

「(アテナよ、女神の務めはこの世を導くことだ。貴様が乙女ゲームに導かれてどうする。だが…まあ、貴様が楽しそうなら良い。私が退屈しないからな)」

 

「(ありがとう…って、全然慰めになってないから!)」

 

私は布団に潜ってゴロゴロしながら、心の中で笑ってしまった。確かに「普通」なんて遠いかもしれない。でも、こうして自分で「普通だ」って思い込んでる今の生活も、悪くない。

 

明日もまた、裸族の女神(見習い)として、私は「普通」を目指して頑張るのだ。




沙織「はぁぁ…今日も“普通チャレンジ”大失敗だったよ。光るパンって何なのさぁ…」

エリス「フッ、神が普通を求めるなど滑稽。だが、貴様が悩む顔は嫌いではないぞ」

沙織「え、それフォローになってない!」

エリス「それに――裸でゲームするのも“普通”ではないが……美しい儀式だ。誇れ、女神よ!」

沙織「もうっ!誰にも言わないでよぉぉぉ!!」

十二宮編の最後は誰と誰の対決に?

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