聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
だが合理の男アッシュ、工事車両を従え鉄の論理で迫る!
果たして滝は聖域の学び舎となるのか、それとも伝説の霊域か!?
次回「五老峰パライストラ建設戦記」
不動の師と策士の参謀、その勝敗は未来をも揺るがす!
(アッシュ視点)
中国の山奥、五老峰。観光パンフレットには「荘厳なる霊峰」とか「伝説の大瀑布」とか立派な言葉が並んでいるが、実際に来てみると湿気でスーツがベタつくし、滝の音で会話はろくに聞こえないし、スマホの電波は圏外。俺の合理主義センサーが「ここにパライストラ建設は非効率」と赤ランプを点滅させていた。
だが相手は天秤座の黄金聖闘士、童虎老師。二百年以上生きてるじいさんだ。小柄な体にシワシワの顔、でもその目つきはレーザー砲。おまけに胡座をかいたまま全く動かない。滝の水飛沫を浴びながらピクリともしないその姿は、仙人というより岩石標本だ。
「アッシュとやら…」
やっと口を開いたと思ったら、声がいちいち滝の轟音に負けてこっちに届かない。慌ててICレコーダーを取り出して録音ボタンを押した。合理主義者は証拠を残す。
「聖域の急進的な改革、この五老峰にまでパライストラを建てるなど…。到底、シオンの考えとは思えん」
「老師、マイクもう少し近くにお願いします」
「……」
無視された。
この時点で悟った。童虎老師と交渉するということは、イオンモールのフードコートでラーメンの汁をすすってる隣の客に政治討論を持ちかけるようなものだ。絶対にかみ合わない。
それでも参謀長として俺は言う。
「老師、二百年も山に籠もって平和を見続けていれば、そりゃ感覚も止まりますよ。ですが世界は変わる。冥界の封印が緩んでいるかもしれない、アスガルドも動き出している。今のままの聖域じゃ、次の聖戦は勝てません」
真顔でそう言った。が、老師は一ミリも動じない。
「言葉だけでは信じられん」
……うん、知ってた。
彼はさらに続ける。
「わしはここから動かぬ。シオンが自ら来て真意を語らぬ限りな」
内心で「この人、オンライン会議って概念を知らないんだな」と苦笑した。今どきZoomで十分だろ。だが老師は岩と同じ。動かないことが仕事みたいな顔をしている。
仕方がないから俺は、説得作戦をいくつか試した。
まず「合理的説得」
「パライストラを建設すれば、地域経済の活性化、雇用創出、インフラ整備が同時に進みます。滝の観光資源としても相乗効果が…」
→老師、目を閉じて無言。寝てるのか?
次に「情に訴える作戦」
「老師、次の世代を育てることこそ、あなたの生きた証になるのです!」
→老師、鼻毛を一本抜いて風に飛ばした。完全スルー。
最後に「物理的アピール」
スーツの内ポケットから最新型ホログラム投影機を取り出し、五老峰の未来都市化計画をバーチャル映像で見せてやった。道路、住宅、スーパー、そして真ん中にドンと立つパライストラ。
→老師、滝の水飛沫でホログラムがグチャグチャになって「妖怪ぬらりひょん」に見えた瞬間、俺のプレゼンは終了した。
「……」
老師は沈黙したまま。俺は額の汗をぬぐいながら「このじいさん、本当に人間か?」と疑った。動かなすぎて、むしろ蝋人形。いや、下手したら滝の湿気で発芽したキノコが擬態してるんじゃないか。
「アッシュよ」
やっと声が返ってきた。
「おぬしの理屈はわからんでもない。だがわしは動かぬ」
はい出ました。動かざること岩の如し。俺の合理主義的には、全くもって非効率な返答だ。
「……老師、せめてスタンプくらい押してくれませんか」
「わしは、紙に墨で印を押す主義じゃ」
やっぱりアナログ派。デジタル庁が泣くぞ。
結局、この日老師を説得できずに五老峰を後にした。だが俺の心には別の計画が芽生えていた。
「(よし、あの岩のじいさんを動かすには、本人じゃなく周囲から固めるしかないな。弟子や候補生を巻き込んで、いつの間にか既成事実を積み上げていけば…)」
参謀長アッシュ、決して諦めない。山道を下りながら、心の中で勝利の笑みを浮かべた。
背後では、滝の音に紛れて老師のぼそりとした声が聞こえた気がした。
「……あの男、なんか怪しいのぅ」
気づかれたか。まあいい。聖域の未来のためなら、少々の怪しさくらい我慢してもらおう。
◆
数週間後、俺は五老峰の空撮映像を眺めながらコーヒーを啜っていた。画面には青い空と白い雲、そして瀑布の両脇に林立するクレーンとショベルカー。
「……ああ、美しい」
思わず漏れた言葉に、周囲の秘書官たちは首をかしげた。いや、美しいのは滝じゃない。近代化の鉄の巨人たちが、伝説の地に堂々と入り込み、轟音を響かせている光景だ。合理主義者にとって、あの騒音こそ未来の讃歌であり、ショベルカーのアームの一振りこそ進歩の舞踏だ。
しかも、指揮を執っているのは聖闘士じゃない。普通の建設業者。腕まくりした現場監督が「さあて今日もやるぞ!」と叫び、作業員たちが「おう!」と応える。見ていて涙が出そうになった。
——なぜって?
一般人を盾にしたからだ。
奴は「正義」を名乗るからこそ一般人には絶対に拳を振るえない。そこに工事業者を投入すれば?当然、動けなくなる。
これが合理主義。
実際の現場では、悲喜劇が繰り広げられていた。
「老師様、ご迷惑をおかけします!ですが聖域からの正式依頼ですんで!」
現場監督がヘルメットを脱いで頭を下げる。滝の前で胡座をかいたまま動かない老人に、一般人がペコペコ謝っている。
……最高だ。
童虎の顔が微妙に引きつっていた。
「(くっ…!一般人か……奴め!この儂が手を出せぬと知って仕組んだな!)」
それからの数日間、俺は童虎の「精神的拷問」が進んでいくのを実況中継のように眺めた。
朝6時。滝の音と一緒に「おはようございまーす!」と作業員の元気な声。
昼12時。瀑布の隣に設置されたキッチンカーから、焼きそばとタピオカの匂い。
夕方5時。クレーンが「ご安全に〜」と合図をしながら仕事を終える。
童虎はピクリとも動かないが、その耳には滝の轟音ではなく「昼休みパンダ焼き半額セール!」というアナウンスしか届いていない。
「(居心地が悪い……悪すぎる!)」
その様子を見てデスクで膝を叩いた。
「よし、成功だ」
俺の作戦はシンプルだった。
童虎の周囲を工事で埋める
滝を学園のモニュメント化
気づけば動かざる老師は、キャンパスの置物
最初は誰も賛同してくれなかった。
「参謀長、あの方は伝説の黄金聖闘士ですよ!」
「岩のように動かないからこそ象徴なのです!」
だが俺は合理主義者。象徴?そんなもの、石像で十分だ。人間が動かないなら、それは石像と同じ。石像なら管理コストがかからない。動かない老師よりは、むしろ観光資源になる。
だから俺は行政手続きを整え、予算を引き出し、聖域建設局の印鑑を二十個ほど勝手に押して、「パライストラ中国校建設計画」をゴリ押しした。結果?あっという間に五老峰は工事現場に早変わり。
最初に完成したのは校舎の食堂。ガラス張りでモダンな建築。その真ん中に、廬山の大瀑布がドーンと突き抜けている。
業者たち曰く「滝を見ながらランチとか、最高っすね!」
俺は「インスタ映え確定だ」とニヤリとした。
童虎はといえば、滝の前から動かず、完全にオブジェ扱いされていた。
新入生たちが「ねえねえ、あれって?」「動かない老師だってさ」と囁き合う。
……動かない老師。
ブランド名みたいになってきたな。俺は思わずメモ帳に書いた。「動かない老師」将来的にはグッズ化も視野に入れよう。
もちろん、童虎は最後まで抗った。
「わしはここから動かん!立ち退けば奴の思う壺!」
……いや、老師。もうあなたの周り全部、俺の壺なんですけど。
結局、滝は学園の中庭に「自然モニュメント」として組み込まれ、童虎はそのど真ん中で座禅を続ける羽目になった。
遠隔映像を見ながら深呼吸した。
「完璧だ」
廬山の大瀑布は学園のシンボルとなり、童虎は勝手に「動かざる守護神」扱い。
誰も彼をどけようとせず、逆に「ありがたい存在」として崇め始めた。
彼自身の意思?そんなもの関係ない。秩序とはシステムによって維持されるのだ。
その夜、メロンソーダを片手に、静かに笑った。
「結局、動かないことが美徳なら、そのまま動かさなければいい。動かざる老師は、動かぬまま俺の盤面に組み込まれる」
画面の向こう、滝の前で胡座をかいた老人は、今日もびしょ濡れのまま微動だにしていない。
その姿を見ながら思った。
「……やっぱり、キノコに見える」
◆
五老峰にパライストラを建てたとき、「これで童虎は嫌でも囲まれて居心地最悪だろう」とニヤリとした。
だが現実は予想を超えていた。
最初はただ滝の前で座り込む、動かない老人。だが、ある日ドラゴン座候補の紫龍がツカツカと歩み寄り、深々と礼をした。
「老師!滝を逆流させられません!教えてください!」
モニター越しに吹き出した。いやいや、そんな無茶振りをするな。逆流って排水工事か何かか?
だが童虎は渋い顔で一言。
「おぬしの拳には力みがある。滝の流れは静と動の理。見極めよ」
……いや、短っ!説明、短っ!
なのに紫龍は「ありがとうございます!」と感涙し、走り去った。感銘受けすぎだろう。感動ポルノか。
それを見ていた他の候補生たちが次々と集まった。
「老師、俺の蹴りはどうでしょう!」「老師、宿題忘れたんですがどうすれば!」
おい、それもう完全に学級会だ。
気づけば童虎は数十人の生徒に囲まれ、即席講師になっていた。滝の前で胡座かいてるだけで「ありがたいお言葉」になるとかチートすぎる。
俺はデスクで頭を抱えた。
「……しまった。動かない老師、教育資源として有能すぎる」
当初は置物扱いするつもりだったのに、いつの間にか人材育成の象徴になってやがる。俺が作ったパライストラのブランディングに、老人がタダ乗りしてきた形だ。
数ヶ月後、俺は再び五老峰を視察した。そこには、候補生に囲まれて指導する童虎の姿。俺を見つけると露骨に渋い顔をしてきた。
「フン…わしはただ小僧に一言くれてやっただけだ。お前の計画に乗った覚えはないぞ」
強がってるが、すでに講師ポジションが板についてるじゃねえか。
にっこり笑って「ご指導感謝します」と言いつつ、さっさと二人きりになれる場所に誘った。
そして耳元で囁いた。
「老師。教皇猊下からの言伝を預かっております。二百数十年前、あなたが天暴星ベヌウの輝火と戦ったときのことを——」
その瞬間、童虎の顔が固まった。
「なっ……!?」
よし、食いついたな。
この情報、実際は俺の「原作知識」+「適当な脚色」だ。だがあの老人にとっては心臓を撃ち抜かれるような言葉だったらしい。
「『あの黒き炎の男もまた守るべきもののために戦っていた。その魂を忘れるな』と、教皇猊下は仰せでした」
嘘八百。でも「シオン」と「童虎」しか知らない情報に触れられたと錯覚した彼は、完全に信じてしまった。
童虎はしばらく空を仰ぎ、ため息を吐いた。
「……仕方ないか。シオンがそこまで言うのであれば……この小僧たち、わしが預かろう」
よし、陥落。
こうして黄金聖闘士・童虎は俺の改革の歯車に組み込まれた。本人は「不本意だ」と言いながらも、生徒に囲まれてニコニコ講義してるあたり、意外と楽しんでやがる。
俺は滝の横で一礼しながら、内心ではガッツポーズ。
「よし、老人ゲットだぜ」
廬山の大瀑布が流れる音の中、心の中でメロンソーダで乾杯した。
アッシュ「……ふぅ、やっとあの岩のじいさんを盤面に組み込めたか。正直、鼻毛飛ばされたときは心折れかけたがね」
(メロンソーダを一口)
アッシュ「だが結局、象徴なんてシステムに組み込めばいい。動かない老師?上等だ。動かないからこそ、俺のコマとして最適だ」
(にやりと笑いながらメモに書く)
『動かない老師』――次はキャラクターグッズ展開だな。
十二宮編の最後は誰と誰の対決に?
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