聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
教育改革の旗を掲げ、アッシュ参謀長、アンドロメダ島へ――!
だが、優しさと戦いの間で揺れる少年・瞬の鎖は、心を縛るか、それとも解き放つか。
そして灼熱の地獄島では、もう一人の少年が“怒り”と“愛”の狭間で燃え上がる。
参謀長、合理と情熱のはざまで思わぬ悪だくみを!?
次回、「聖域改造計画・南洋篇」
――兄弟の絆、それもまた教育指導の一環である。
(アッシュ視点)
正直に言おう。
今の俺の気分は、完全に「予算を好き勝手に使える大人の夏休み」である。
青い海、まぶしい太陽、そして最新鋭の聖域海軍艇「ペガサス級一号艦」
甲板の上で潮風を浴びながら、サングラス越しに水平線を眺めていた。
「(ふう……いいな。会議の音も、書類の束もない。聞こえるのはエンジン音とカモメの声だけ。)」
……言葉の響きは真面目そうだが、実態は完全にレジャーである。
数年前、俺は聖域の年間予算会議でこう提案した。
「聖闘士養成の国際展開のため、アフリカ・インド洋エリアに訓練拠点を設けたい」
周囲の幹部は目を丸くした。
「ソマリアに!?治安が!」「海賊が!」とか大騒ぎ。
だが淡々とプレゼンを進めた。
「海賊が出るなら、実戦訓練に最適だろう?むしろコスパがいい」
結果、サガも「まあ…理には適ってる」と判を押した。
実際の動機は、ただ「アンドロメダ島に行ってみたかった」だけなんだけどな。
部下が敬礼しながら報告に来る。
「参謀長、アンドロメダ島、間もなく到着します!ケフェウス座のダイダロス師より、候補生・瞬の訓練は順調とのことです!」
俺はうなずきながら、にやりと笑った。
「ふむ。未来のアンドロメダはどんな顔してるか、見てみるか」
心の中では完全にファンモードだ。
俺は原作ファンとして、アンドロメダ瞬がどんな少年時代を過ごしていたか、興味津々だった。
我ながら、参謀長のくせに職務意識が薄すぎる。
上陸したアンドロメダ島は、予想以上に整備されていた。
白い砂浜の向こうには、最新式の訓練塔。ドローンカメラが候補生の動きを解析し、AIが筋肉データをリアルタイムで計測している。
「……いや、近代化しすぎだろ。ここ、シリコンバレーか?」
だが一番の驚きは、中央広場に設置された「ネビュラ記念像」だった。
まだ現役ですらない瞬の名前が刻まれている。
「……あいつ、どんだけ人気あるんだ」
汗を拭いながら、真新しい訓練施設へ向かった。
迎えに出てきたのは、白銀聖闘士・ケフェウス座のダイダロス。
その隣に、まだ幼さの残る少年――瞬が立っていた。
「アッシュ参謀長、ようこそお越しくださいました。瞬、ご挨拶を」
「お会いできて光栄です、アッシュ師範!兄が、一輝がいつもお世話になっております!」
兄の名前を出した途端、俺は条件反射で少し背筋を伸ばした。
「(いや、あの兄貴怖いんだよな。)」
瞬はというと、にこにこ笑っていて、どう見ても聖闘士候補生には見えんな。
呆れていると、突然アラームが鳴り響いた。
「訓練区域E-3、候補生が小宇宙を暴発!」
慌てて現場に駆けつけると、そこには――鎖をぶん回しながら暴走している少年がいた。
「うわあああっ!やめろ!鎖が勝手に動くんだぁぁぁ!」
「落ち着け、心を静めるのだ!」
鎖はビュンビュンと飛び回り、岩を砕き、機材を破壊し、俺の髪の毛すらかすめた。
「おいコラ!予算で買った新型センサーに当たるな!あれ高かったんだぞ!」
暴走する鎖を見ながら、悟った。
「……ああ、これがネビュラ鎖か。生で見ると怖ぇな」
結局、気絶するまで暴れ続け、訓練場は半壊した。
◆
「うん、よろしく頼む。今日はそのネビュラチェーン、少し見せてもらおうか」
訓練場に移動して、俺は防御フィールドを展開。
この辺は近代化の恩恵だ。以前のように血まみれにならずに済む。
「じゃあ、いつでもいいぞ」
瞬はおずおずと構え、両手の鎖を静かに持ち上げた。
次の瞬間、ピンクの光が閃き、鎖が生き物のように空を舞った。
「おおっ……」
正直、ちょっと感動した。
あの“ネビュラチェーン”を生で見る日が来るとは。
俺のファン魂が震えている。
が、三分経っても、服の裾すらかすらない。
全部ギリギリで止まる。
「……瞬。君、今、手加減してるよな?」
「す、すみません!でも、人を傷つけるのはどうしても苦手で……」
うん、予想通りだ。
優しすぎる。いい子すぎる。
多分、蚊に刺されても謝るタイプだ。
軽く笑って言った。
「気にするな。俺を傷つけるくらいの攻撃なら歓迎だ。
大丈夫、当たっても痛くない――物理的にも立場的にも」
瞬はぽかんとしていたが、やがて頷き、深呼吸した。
空気が変わった。
次の瞬間、彼の鎖が鋭く走った。
ビュンッ!
視界をピンクの閃光が切り裂く。
俺は紙一重で避けた。
頬をかすめた風圧だけで髪が逆立つ。
「おおっ、いいじゃないか!今のは本気だな!」
瞬は必死に攻撃を続ける。
鎖が意思を持つように、俺の動きを読み、追い詰めてくる。
予想以上の精度だった。
「(これ……迂闊に避けたらなかなか効きそうだな)」
軽く冷や汗が流れる。
とはいえ参謀長のプライドがある。
ここで“痛い痛い降参”なんてできるか。
「ふんっ!」
俺は小宇宙を爆発させ、鎖の進路を風圧で逸らした。
瞬は驚いたように目を見開く。
「これが……黄金聖闘士の……」
「いや、俺、黄金じゃないけどな。書類黄金級って言われてるけど」
そんなやり取りをしている間に、手合わせは終了。
瞬は深く息をつき、額の汗を拭った。
その後、控室でダイダロスが感心したように言った。
「参謀長、さすがです。瞬があそこまで本気を出したのは初めてでしょう」
「いやいや、俺なんかより、あなたの指導が素晴らしいですよ。
ただ、彼は優しすぎる。あの優しさを、守るための強さに変えるんです。
“敵を倒すための力”じゃなく、“守り抜くための力”に」
我ながら、良いことを言ったと思う。
でもダイダロスは「深いお言葉ですな」と言いながら、少し困った顔をしていた。
「参謀長、しかし守るための力とおっしゃいましたが、
瞬が守りたいものは、どうもイルカや蟹やクラゲなどの海洋生物のようでして……」
「……あー、まあ、それはそれで平和でいいんじゃないか?」
俺は船に戻りながら、タブレットにメモを残した。
【アンドロメダ瞬・候補生評価メモ】
・戦闘センス:天才的
・対人攻撃:拒絶反応あり
・倫理観:仏陀級
・兄への愛情:もはや宗教
・チェーン:予算破壊兵器認定
俺はため息をつきながら、次の目的地――デスクィーン島への航路を指示した。
波が月光を反射し、海面がキラキラと光る。
◆
エーゲ海の青を突き破るように、赤黒い火山島が見えてきた。
あれがデスクィーン島。かつて“地獄の訓練場”と呼ばれた聖域最悪の修行島だ。
「(灼熱地獄+理不尽な暴力指導+仮面の変態師匠=一輝誕生……だったな)」
原作知識のある俺としては、この場所はちょっとしたトラウマ再現スポットだ。
しかし俺の改革方針は明確。聖域はもはや“根性で殴る教育”をやめた。
どんなに強い戦士でも、PTSDで辞表を出されたら元も子もない。
島に上陸すると、まず鼻を突くのは硫黄の匂い。
その奥で、ギルティが叫んでいた。
「どうした小僧!もっと地獄を見ろ!魂を燃やせ!己の弱さを呪え!」
……が、どこかトーンが弱い。
俺の送りつけた通達が効いているようだ。
『候補生への過度な暴力行為が確認された場合、即刻粛清の対象とする。
ただし“指導熱量”は維持せよ。』
つまり、「怒鳴ってもいいけど殴るな」というやつだ。
ギルティはそのギリギリのラインで頑張っている。
おかげで一輝の頬は無傷。原作じゃありえん健康的な顔をしていた。
少し離れた岩場から観察する。
ギルティが拳を振り上げるたびに、「殴るのか?いや、こぶしを握るだけか?いや、まさかハグ?」とハラハラする。
結局、拳は毎回一輝の鼻先でピタリと止まる。
一輝は律儀に頭を下げた。
「ご指導、ありがとうございます!」
ギルティの肩がピクッと震えた。
あの仮面の下、相当ストレスが溜まっている顔をしているのが分かる。
「(すまんなギルティ、労災はちゃんと出す)」
それでも一輝は真剣だ。
汗を滝のように流しながらも、眼光は迷いがない。
その視線が俺の方に気づいた瞬間、彼は直立して叫んだ。
「アッシュ師範!ご視察、ありがとうございます!」
俺は手を挙げて応えた。
「うむ、続けたまえ。……あ、いや、やっぱり少し休もうか。熱中症対策、大事だから」
しばし休憩時間を取る。
一輝は真面目に水を飲みながらも、ギルティの方を気遣っていた。
「師匠、顔色が優れません。もしかしてお疲れでは……」
「な、何でもない!貴様こそ気を抜くな!」
(心の声が聞こえる。「くそっ、優しい気配りが一番つらいんだよ!」って言ってる)
吹き出しそうになるのをこらえた。
この二人の構図、「世話焼き生徒とツンデレ教師」だ。
ギルティファンの腐女子(いるのか?)が見たら薄い本が一瞬で量産される。
訓練再開。
俺も少し離れて指導の補助に入る。
「一輝、拳の勢いは申し分ない。だが、心の奥で制御しているな?」
「……はい。俺は、怒りを完全に燃やしきるのが怖いんです。
炎が暴走して、誰かを傷つけるかもしれない……」
うん、そう来ると思った。
鳳凰の宿命、破壊と再生の二面性。
この少年は“燃やす”ことを恐れている。
俺は少しだけ笑いながら言った。
「炎は、燃えることを恐れたら意味がない。
大事なのは“何を燃やすか”だ。憎しみじゃなく、守りたいものを燃料にしろ。
その火は、決して他人を焼かない」
一輝はじっと俺を見ていた。
やがて、低く息を吐き、拳を握り直す。
「……分かりました。師範。俺の炎は、守るための炎にします」
「それでいい。君の炎は、いつか世界を照らす」
その瞬間、空気が震えた。
一輝の背後に、薄く燃え上がる幻の鳳凰が見えた。
(演出装置でも何でもない、純粋な小宇宙の顕現だ)
俺はその光を見ながら、心の中でメモを取る。
【パライストラ・デスクィーン島/候補生・一輝評価】
・精神力:岩石級
・情熱:火山噴火レベル
・師匠への敬語:100点
・だが炎上リスク:高
・兄弟愛:もはや神話
訓練が終わり、俺はギルティに声をかけた。
「ご苦労。あなたの指導、素晴らしい。生徒も順調に成長している」
「……参謀長。俺は昔のように殴れんのが、どうにも落ち着かん」
「大丈夫。あなたの“怒鳴り声”だけで生徒の心拍数は上がってる。十分効果的だ」
「……褒められてるのか脅されてるのか分からん」
俺は笑って肩を叩いた。
「俺はただ、教育現場の健全化を推進してるだけさ。
暴力よりも恐怖、恐怖よりも尊敬だ。順番を間違えなければ、誰も傷つかない」
ギルティはため息をつきながらも、小さく頷いた。
その背中には、ほんの少しだが穏やかさが宿っていた。
帰り際、一輝が俺を呼び止めた。
「アッシュ師範!」
「うん?」
「俺は、まだ強くなりたい。
でも、それは誰かを越えるためじゃなく、誰かを守るために、です」
「……それでいい。君は“籠の中”にいながらも、すでに空を見ている。
いつか、自分でその檻を焼き払え。フェニックスは、檻に飼われる鳥じゃない」
一輝は深く頭を下げた。
火山の熱風が彼の髪を揺らす。
◆
訓練終了後、デスクィーン島の視察報告をまとめようとしていた。
だが、一輝の姿が見当たらない。通常なら訓練後の反省会に顔を出すはずだが、今日は妙に静かだ。
「(サボりか? いや、あいつがそんなタイプじゃない。……となると、どこか別の地獄を開拓してる可能性があるな)」
気になった俺は、ついでに監視用のドローン映像を開く。
画面には、訓練場の端から坂道を上っていく一輝の後ろ姿。
向かっているのは、火山基地の中にある管理事務所。
「(事務所……まさか労災申請じゃないだろうな)」
心配と好奇心が入り混じった結果、俺は現場へ足を運ぶことにした。
参謀長の権限は便利だ。こういう時、いちいち理由を説明しなくても誰も止めない。
事務所の裏口からこっそり覗くと、窓越しに見えたのは意外な光景だった。
受付カウンターで、一輝が事務員の女性と穏やかに話している。
相手は、金髪のポニーテールに柔らかな笑みを浮かべた事務員――エスメラルダ。
「(……おやおや、これは珍しい)」
普段は炎のように殺気立った一輝が、今は完全に“普通の少年”の顔をしていた。
なんなら、少し頬を赤くしている。
耳を澄ますと、彼の声が微かに聞こえてきた。
「……いつも食堂でいただくコーヒー、ありがとうございます。あの味があると、頑張れるんです」
「ふふ、そんな大げさな。でも、嬉しいわ」
「い、いえ、その……本当に美味しいですから!」
……こいつ、照れてやがる。
鳳凰座の候補生が、恋の業火に焼かれているとは。
俺は笑いをこらえながら、窓の外で腕を組んだ。
「(なるほどな。ギルティの地獄教育の中でも、こいつは人間らしさを失ってない。
この島で唯一、柔らかい色を持ってるのがあの子か。あの笑顔が、彼の炎のバランスを取ってるんだ)」
俺は静かに頷いた。
戦士に必要なのは、狂気じゃない。光と影の両方を抱えてこそ、本物の強さが生まれる。
だが、同時に俺の中の“悪い参謀長”も囁き始めた。
「(しかし……エスメラルダ。髪を染めて、少し表情を変えたら……瞬そっくりだな)」
「(うーん……教育目的という建前で、兄弟絆強化プログラムを実施するのも悪くない。
一輝が弟の幻覚とどう向き合うか、心理的成長が測定できる。
……そう、これは純粋に学術的検証だ。決して悪ふざけじゃない)」
自分に言い訳しながら、脳内で計画書のフォーマットを組み立て始める俺。
タイトル案は「鳳凰と幻影の心理交錯実験」うん、聞こえは完璧だ。
ただ、エレナに知られたら確実に怒鳴られる。
「人の恋路を実験に使うな」と。
まあ、その時は「倫理委員会の承認済み」で押し通そう。
港へ戻る道すがら、夕焼けに染まる海を見つめた。
赤い光の中で、火山の噴煙がゆらゆらと揺れる。
その先に、一輝とエスメラルダの小さな影が並んでいるのが見えた。
「(……いいな。ああいう時間)」
俺自身、いつから普通の時間を失っただろうか。
机の上で書類を裁くより、こうやって生徒たちが笑ってる姿を見ている方が、よっぽど報われる気がする。
「(ま、俺の仕事は笑わせるより働かせるだからな)」
苦笑いしながら、俺は艦に乗り込む。
デッキに立つと、夜の潮風が頬を撫でた。
副官が報告を持ってきた。
「参謀長、次の目的地はブルーグラードです」
「了解。ところで、今日の夕飯は?」
「いつも通り、保存レーションAです」
「……またカチカチのやつか。もう少し文明的な食事を導入してくれ」
「現地予算が尽きました」
「(俺が承認したんだった)」
◆
「(さあ、フェニックスとアンドロメダ。
お前たちが羽ばたく時、聖域もまた新しい夜明けを迎える)」
夜、甲板に出て海風を受けながら、最後の悪だくみをメモ帳に書き込んだ。
【新規企画案】
「兄弟絆強化プログラム」:一輝の前に瞬そっくりの人物(エスメラルダを一時的に変装)を配置。
目的:兄弟愛の深化と精神的耐性の向上。
備考:本人がブチ切れたら中止。
……よし、完璧。
あとはダイダロス師に「心理学的指導法の試験です」と伝えておけば通る。
ペンを置いて、遠くの海に沈む夕陽を眺めた。
「(さあ次は、氷の少年か。火の後は冷気。
この温度差で風邪引かないといいんだが)」
艦の舳先で、俺は小さく笑った。
サガ「報告書を読んだ。……兄弟絆強化プログラム? なんだこれは。」
アッシュ「心理的適応テストです。倫理委員会も承認済み。」
サガ「倫理委員会って……お前とエレナの二人だけじゃないか。」
アッシュ「民主主義です。過半数で可決しました。」
サガ「……はぁ。だが、よくやった。少年たちの小宇宙が変わってきている。」
アッシュ「改革とは、岩をも動かす流れ。炎と鎖のように、時に絡まり、時に支え合うものです。」
サガ「お前、また名言っぽいこと言って逃げる気だろう。」
アッシュ「いえ、今夜は反省会という名の夕陽鑑賞会です。メロンソーダ持参でどうぞ。」
サガ「……まったく、参謀長というより詩人だな。」
十二宮編の最後は誰と誰の対決に?
-
アッシュと星矢
-
サガとアイオロス
-
アッシュとアイオロス
-
サガと星矢