聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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「聖域詰め、おめでとう。」

 朝の聖域、まだ石畳にひんやりとした霧が残る中、サガはすっきりとした顔でそう言った。
 彼の蒼い髪が朝日を反射して、神々しいというより、なんだか妙にまぶしい。

 僕――杯座(クラテリス)のアッシュは、その言葉を聞いて思わず顔を引きつらせてしまった。

 「……ありがとうございます(←たぶん今、人生で一番棒読み)。」

 そう、これは「栄誉」でもあり「罰ゲーム」でもある。
 サガは満足そうに頷き、「お前なら絶対にやり遂げられる」と肩まで叩いてくる。

 頼むから、その“純粋な善意”で人の背中を押さないでほしい。
 僕の心は、今まさに“石のベッド”と“トイレ問題”と“カビ臭”と“Wi-Fi難民”という地獄への扉を開きかけているのだ――!

 ……とはいえ、これも聖闘士の道。

 祝福に見せかけて突き落とす(いや、悪意はない)サガと、引きつった笑顔でなんとか気丈に振る舞うアッシュ。
 神話と現代のギャップ、その幕開けである。


快適生活は聖闘士の敵!?アッシュ、神話の聖域で絶叫す

(シオン視点)

 

 

 聖域において、白銀聖闘士・杯座のアッシュほど“異質”な存在は、ここ百年でも珍しいだろう。

 

 その才覚と実力は誰もが認めていた。若くして小宇宙に目覚め、知識にも柔軟さにも富み、礼儀正しい――

 まさに現代が生んだ理想の“闘士”。

 だからこそ、私は迷わず、アッシュに「聖域詰め」を命じた。

 優秀な聖闘士には、常に聖域の中心でその力を発揮してほしい。

 それは教皇としての当然の判断であり、また、ひとりの老いた聖闘士の“願い”でもあった。

 

 だが――

 数日も経たぬうち、アッシュの不満は火山のごとく噴き出した。

 

 私は玉座で報告を聞くたびに、苦笑を隠しきれなかった。

 「教皇様、アッシュ殿が“部屋のカビ臭さ”について苦情を……」

 「洗濯機の導入を求めています」

 「トイレに……“革命”を起こすつもりのようです」

 

 聖域の生活様式は、神話の時代よりほとんど変わっていない。

 石造りの質素な部屋、灯りはランプと蝋燭。洗濯は手洗い、風呂は山水。

 トイレ?いわずもがな。

 通信は伝令と伝書鳩、あるいは小宇宙の気配を伝えるのみ。

 私にとっては、それが“当たり前”だった。

 

 だがアッシュには、すべてが「前時代的カオス」に映ったのだろう。

 朝食の硬いパンと水、電気もコンセントもない日々。

 「小宇宙でパンを温めては?」という提案すら「贅沢は敵」と咎められる。

 時計もなければ、携帯もWi-Fiも“空想上の魔法”でしかない。

 職員たちは「小宇宙があれば困らん」と涼しい顔だ。

 

 “便利さ”を当然とする若者にとって、この聖域はまるで時の流れから取り残された遺跡のようだったのかもしれぬ。

 

 それでも、私は“敢えて”変えるつもりはなかった。

 この地が神話と伝統によって守られ、鍛えられ、時に苛烈な修行を課されながらも、真に“強き者”が育ってきた――

 その歴史が、何よりも尊いと信じている。

 

 ……だが、アッシュは黙ってはいなかった。

 

 ある日、ついに彼は教皇の間へと押しかけてきた。

 大きな瞳に怒りと焦燥を宿し、玉座に座る私の前で訴えた。

 

 「教皇さま! 聖域のインフラ、このままではいけません!まず電気、水道、衛生設備、インターネット、最低限の現代的生活環境を――」

 

 その声には、ただの愚痴ではない“本気”があった。

 アッシュは現代の闘士であり、仲間や後輩のためにも本気で環境改善を望んでいるのだろう。

 私は、その誠実さを評価しつつも、静かに首を横に振った。

 

 「アッシュよ。そなたの有能さ、聖闘士としての品格、よく知っておる。しかし――聖域は神話の伝統と誇りに守られてきた場所。

 便利さのために魂を売ることはできぬ」

 

 アッシュは、拳を強く握りしめていた。

 「ですが、今のままでは効率も健康も、すべてが損なわれます! 神託もいいですが、まずトイレを……」

 

 その一言には思わず微笑みそうになった。

 どんなに優秀な聖闘士でも、“トイレ”の重要性は変わらぬか。

 

 だが、私はあくまで教皇として――

 「神々は、人が不便に耐えてこそ強くなると知っておるのだ」

 「“快適さ”を求めれば、闘士の心は鈍る。古き教えは、そう語っておる」

 

 そう言い聞かせるように、アッシュを見つめた。

 私にも分かる。“快適さ”があれば、心が緩む日もあろう。

 だが、それはこの地では許されぬ。

 

 アッシュは悔しそうに唇を噛み、それでも――最後には、静かに頭を下げた。

 

 「……分かりました。けれど、僕は諦めません。いつか聖域を、皆が誇れる場所に変えてみせます」

 

 私は、その気概を密かに嬉しく思いながらも、老いた教皇としての務めを貫く覚悟を新たにした。

 

 “優秀な者ほど、聖域の中心で、伝統を肌で知り、次代に活かすべきだ”

 

 それが、私なりの“慈愛”であると信じている。

 

 いつかアッシュが――この伝統の意味を、自らのやり方で受け継ぎ、新しい風を吹かせてくれることを。

 私は静かに祈り続けていた。

 

 

 

 

 

(アッシュ視点)

 

 

 

 

 せっかくイタリアに帰れると思ったら、いきなり案内人のおじさんが目の前に現れて言うんだ――

 「アッシュ殿、聖域詰めが命じられましたぞ!」

 ……は? いや、冗談でしょ?

 

 ついさっきまで頭の中はローマのカプチーノとピザとWi-Fiのことしか考えてなかったのに、現実は甘くなかった。

 あれ?もしかして“光栄なご命令”……って、昔アニメや漫画で憧れたあの「聖域詰め」?

 いやいや、実際に味わってみたらそれは拷問以外の何物でもなかった。現代人のメンタルには無理だ。無理すぎる。

 

 でも、ここで逆らったら「聖闘士失格」だけじゃ済まない。

 目の前には黄金聖闘士のサガとアイオロス。あの二人、本気でやると地球を割るレベルのやばさ。僕が「嫌だ!」って言った瞬間、指一本でコスモ(魂)ごと消されそうだ。

 僕は……泣く泣く「は、はい……」と引き受けた。人生って時々、理不尽すぎる。

 

 で、そこから始まった“神話の聖域地獄編”。

 

 まず、部屋。石!全部石!ベッドも固い、空気はカビ臭い。窓を開ければ砂埃、閉めたらジメジメ。どっちにしろOUT。

 灯りはロウソクとオイルランプのみ。夜は目が悪くなりそうだし、部屋の隅で妙な虫が蠢いているのを発見して、眠れなくなる。

 

 洗濯は手洗いオンリー。下着の乾燥に苦労しすぎて、初日に挫折しそうになる。

 お風呂?山水!夏ならともかく、これ冬だったらマジで凍死する。

 トイレ?説明不要のプリミティブ様式。足場が悪い+暗い+冷たい+危険。

 通信は伝令と伝書鳩のみ。しかも鳩は僕を見ても全力で逃げていく。モテない理由はここにもあったか。

 

 パンは固いし、水はぬるいし、Wi-Fiなんて影も形もない。ケータイ?圏外どころか“幻”扱い。

 「これが本当に“神話の聖域”なのか!?」

 僕は夜ごと枕を涙で濡らした。……いや、石なので涙が吸われていった。

 

 朝、小宇宙でパンを温めようとしたら、横から「贅沢は敵!」と怒られる。

 Wi-Fiの話を切り出すと、聖域のオジサンたちが“何それ、武器?”みたいな顔をしてくる。

 職員曰く、「小宇宙があればなんでもできる」……できないから困ってるのに!

 

 我慢、我慢、我慢の連続。

 でも3日目でついに限界を迎えた。

 

 「……やってられるかーっ!!」

 僕はすべてを投げ捨て、ついに教皇の間に乗り込んだ。

 ドアをバァン!と開けて叫ぶ。

 

 「教皇さま!聖域の生活、無理です!時代錯誤もいいところです!いますぐインフラを刷新しましょう。金は全部うち(実家)が出しますから!」

 「まず電気!水道!衛生設備!あとネット!ついでにトイレも温水洗浄式で!ローマ式の風呂も作りましょう!エアコンも……」

 玉座のシオン様は静かに、まるで100年前から続く古時計のように僕を見下ろしている。

 

 「アッシュよ……聖域は神話の伝統と誇りで守られてきた場。

 便利さのために魂を売ることはできぬ」

 

 「でも健康が!効率が!パンも石も!何もかもダメです、神託よりまずトイレを!!」

 「……神々は人が不便に耐えてこそ強くなると知っておるのだ」

 「快適さを求めれば闘士の心は鈍る。古き教えは、そう語っておる」

 

 いや、いやいや、いやいやいや!!

 「魂より現実が大事なんです!」って言いたかったけど、そこは“教皇の間”。

 後ろにはサガとアイオロス。二人が無言でコスモを微妙に高めている気配が……。

 

 僕は渾身の理屈を全部ぶつけたが、最後はシオン様の「ノー!」ひとことで撃沈。

 「老害め!!」

 (心の叫びだけは、そっと胸にしまった)

 

 ……こうして僕の“改革プラン”はわずか3日で終了。

 イタリアの快適ライフは夢と消え、

 今日も僕は石のベッドで、パンをかじりながら、

 「電気もトイレも、すべてこの世は“コスモ”任せ」と呪文のように唱えるのであった。

 

 ……あーもう無理。

 アニメや漫画で見てた“聖域ライフ”、これ現実にやったら確実に死ぬわ。

 




アイオロス「アッシュ、君の気持ちは分かるけど、やっぱり伝統は守らないといけないんだよ。」

アッシュ「えっ……まさか、アイオロスさんまで“時代に流されるな”派ですか?」

アイオロス「聖域には、聖域の誇りと歴史がある。快適さだけが正義じゃない。」

アッシュ「いや、でも! トイレとWi-Fiは人権じゃないんですか!?」

アイオロス「便利すぎると、心も体も弱くなるぞ。まずは精神を鍛えよう。」

アッシュ「……ここにもいた、筋金入りの真面目……! 黄金聖闘士、老害だけじゃなかったのか……」

アイオロス「ん?何か言ったか?」

アッシュ「いえ、なんでもありません。さすが射手座、正論が心に刺さるなぁ……(小声)」

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