聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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――星が交わり、物語が溶け合う。
聖域の参謀長アッシュ、遂に「神話の外側」へ。

ぬ〜べ〜が担任?
冴羽獠が渋谷に立ち、湘北高校が全国を狙う!?

聖闘士星矢の世界に忍び寄る週刊少年ジャンプ多元宇宙。
笑いと混乱と、ほんの少しの哲学を添えて――

次回、『週刊ジャンプ宇宙の法則』

参謀長、推しを超えて「編集長」になる!?


週刊ジャンプ宇宙の法則

(アッシュ視点)

 

医務室で肋骨に包帯を巻かれた俺は、まだ痛む身体を引きずりながらも、心は軽かった。

星矢の拳を受けた代償として、俺は「聖闘士として死にかけた一般人ランキング」堂々の一位に輝いたわけだが、それでも最高に幸せだった。

 

……しかし。

幸福は続かない。いや、続かせないのが俺だ。

 

「ドルバル、次の予定は?」

「休養日です」

「よし、城戸邸へ行く」

「は?医者から外出禁止が――」

「俺は推しの幼少期バージョンに会いに行くのだ!」

「またそれですか……」

 

ドルバルの呆れ顔を背に、俺は包帯姿のまま城戸邸へと向かった。

 

城戸邸。

相変わらず立派な洋館だ。

白い壁、金の縁、アテナのオーラが漂うような上品さ。

その中央のサロンで、10歳の少女――沙織が待っていた。

 

ピンクのワンピースに、落ち着いた雰囲気。

それでも瞳の奥には、確かに女神の光が宿っていた。

 

「アッシュおじちゃん!」

 

「おじちゃんではない。参謀長だ」

 

「でも、ママはあの面倒な人って言ってたよ?」

 

「翔子め……!」

 

奥のソファでは、翔子とアイオロスが紅茶を飲んでいる。

二人とも、既にあきらめの顔をしていた。

 

「さあ沙織ちゃん。今日もアテナ演技レッスンだ!」

 

「はいっ!」

 

彼女は元気よく立ち上がる。

まっすぐな背筋、瞳の中に好奇心の火。

……そう、俺の推しの後継者は、今日も完璧だ。

 

俺は手に持ったタブレットを操作し、シーンリストを開いた。

タイトルは――「原作屈指の名場面台詞・完全再現プログラム」

 

翔子がすかさず言う。

「ちょっと、それ教育じゃなくて洗脳じゃない?」

「何を言う。文化教育だ。クラシックを学ぶのと同じだ。」

「そのクラシック、ジャンルが限定でしょ」

「最高の宗教教材だ」

「宗教扱い!?」

 

アイオロスが頭を抱える。

「……止めたほうがいいと思うんだが」

「黙れ裏切り兄貴。お前の娘だぞ」

「そうだけど!」

 

俺は立ち上がり、沙織の前で姿勢を正した。

 

「いいかい、沙織ちゃん。今日は名場面レッスンの第四回、女神降臨モードだ」

 

「こくりん?」

 

「違う!降臨!つまり、神が現れる瞬間のセリフ練習だ!」

 

沙織は頷いた。

 

「じゃあ、いつものいくよ。悲しみを背負った運命の女神としてだ。感情は抑えめに、でも芯は強く。いくぞ――

 『刻(とき)が、見える……』」

 

俺は軽くお手本を言ってみせた。

背後で翔子が吹き出す。

 

「なにその声!ナレーション気取り!」

「失礼な。俺はアテナの心情を再現しているんだ」

「あなた絶対、家で練習してるでしょ」

「……バレたか」

 

「さあ、沙織ちゃん、やってみよう!」

 

少女は深呼吸をした。

そして――

 

「刻が、見える……」

 

完璧。

イントネーションも、間の取り方も、表情も。

それはまさにララア本人の再来だった。

 

「うおおおおおお!!!」

 

俺は感動で床を転げまわった。

ソファの前でゴロゴロと転がりながら、拍手し続ける。

 

「完璧だ!天才だ!君こそ真のアテナだぁぁぁぁ!!」

 

アイオロスが紅茶を噴き出した。

翔子はクッションを投げてくる。

 

「うるさい!!床が揺れる!!」

「感動の地震だ!!」

「違う!!」

 

沙織が首をかしげる。

「アッシュおじちゃ……じゃなくて参謀長、そんなにすごかった?」

 

「すごいどころじゃない!あれはもう、アテナ覚醒予告PVレベルだ!」

 

「ぴーぶい?」

 

「プロモーションビデオ!将来流れるやつだ!」

 

「へえ!」

 

翔子がため息をつく。

「やめて、うちの娘をメディアに売り出さないで」

 

「安心しろ。教育目的だ」

「いや、洗脳目的でしょ」

 

アイオロスが腕を組む。

「アッシュ、まさかこのためにうちに来たのか?」

「もちろんだ」

「いや、もっと他にあるだろう!報告とか視察とか!」

「それは星矢の方でやった」

 

「完全に趣味でしょ」

「正解!」

 

 

 

 

 

 

「ねえ、アッシュおじちゃん」

 

沙織が無邪気に言った。

「今日ね、学校でね、広くんがまた妖怪に憑りつかれて、鵺野先生が鬼の手で助けてくれたんだよ!」

 

……俺は、箸を落とした。

 

「……ん?」

 

翔子が笑う。

「あーまた広くんね。あの子、しょっちゅう憑かれるのよ。うちの学校の鵺野先生、すっかり除霊担当だもん」

 

アイオロスが苦笑して頷く。

「まったく、日本の教育は変わってるな」

 

「いやいやいやいやいや、待て待て待て待て」

 

俺は立ち上がった。

食卓の椅子がガタッと音を立てる。

 

「今、鵺野って言ったか!?鵺野先生って、ぬ〜べ〜の!?鬼の手って、あの、左手が鬼の手の!?」

 

翔子は平然と答えた。

「そうそう、鵺野先生。鬼の手でポンッてやったら、妖怪がシュバッて消えたのよ。すごいわよね」

 

「うわあああああ!!出たあああああ!!!」

 

頭を抱えて絶叫した。

まさにその瞬間、俺の中の現実という概念が完全に崩壊した。

 

翔子が呆れ顔で言う。

「ちょっと、どうしたのよ」

「どうしたのじゃない!鵺野先生だぞ!?ジャンプ黄金期を支えたオカルト教師だぞ!?

 『地獄先生ぬ〜べ〜』の鵺野鳴介!鬼の手で悪霊を祓う、あの伝説の教師だぞ!!!」

 

アイオロスが冷静に紅茶をすする。

「つまり……沙織の担任は、そのぬ〜べ〜なのか?」

「そうだ!そして広くんは完全に原作の広だ!」

「……原作?」

「いや、気にしないでくれ……」

 

沙織はきょとんとしたまま、唐揚げをつまんでいる。

「ねえアッシュおじちゃん、ぬ〜べ〜ってそんなにすごいの?」

「すごいどころじゃない。人間界の防衛戦線の最前線に立つ男だ。あの人がいなかったら、日本中が妖怪で埋まってた!」

「へぇ〜」

 

アイオロスが苦笑する。

「なんだ、聖域の参謀長が妖怪研究者に転職したのかと思ったぞ」

「転職じゃない、現実把握だ!この世界、確定したぞ……!」

 

食後、俺はひとり庭に出て、紅茶をすすりながら思考を整理した。

 

 

 

 

 

 

 

視察任務、最終日。

日本校、ブルーグラード校、アンドロメダ島、そしてデスクィーン島……。

何度も飛び回った視察の旅を終え、俺はようやく帰国の途についていた。

 

送迎の黒塗り車の後部座席。

スーツの上着を脱いでネクタイをゆるめる。

窓の外では、東京の高層ビル群が夕陽を反射し、黄金色に輝いている。

 

(あー……文明ってすげぇ。聖域にWi-Fiが入った時も感動したけど、日本の電波の安定感は異常だな)

 

横でドルバルがタブレットを開き、淡々と報告をまとめている。

「参謀長、全視察の記録をまとめました。ご確認を」

「うむ……あとでいい。今はこの景色を味わっておきたい」

「珍しいですね。アッシュ参謀長が景色など……」

「俺だって人間だ」

 

本当は景色なんか見てない。

窓の外に映る日本という舞台が、俺の頭の中でフィクションと現実を高速で混ざり合わせていた。

 

(星矢がいる。アイオロスが子育てしてる。なのに、ぬ〜べ〜の話題が出る。

 しかも、コンビニにはハンターハンターの新刊が並んでた。

 ……これ、どう考えてもおかしいよな)

 

信号で車が止まった。

赤い光が差し込む。

ふと視線を横にやると、そこにいた。

 

赤いミニクーパーの横に、背の高い男が立っていた。

黒髪、鋭い目つき、ジャケットの胸ポケットに拳銃。

その佇まい――。

 

(……おいおいおいおい。あの構え、あの腰の落とし方……。

 冴羽獠(さえばりょう)じゃねぇか!?)

 

いや、冷静に考えろ。

似てるだけだ。似てるだけ。

そう何度も自分に言い聞かせる。

 

(でも、あの髪型、あの雰囲気……。

 「もっこり」って言いそうだぞ!?)

 

視線を逸らそうとした瞬間、男がふっと口角を上げた。

その笑みが、あの笑みにしか見えなかった。

 

(うわ、完全に冴羽獠だった!実在してた!)

 

慌てて背筋を伸ばした。

横でドルバルが怪訝そうに見る。

「どうしました?」

「……都市伝説を見た」

「またですか」

 

車が再び走り出す。

信号が青に変わり、車線を抜けると、すぐに次の現実崩壊ポイントが訪れた。

 

高速道路の横を通り過ぎる巨大な体育館。

その壁に、でかでかと貼られた横断幕が目に入る。

 

『インターハイ出場おめでとう!頑張れ!湘北高校バスケ部!』

 

一瞬、呼吸が止まった。

 

(湘北……?湘北高校!?)

 

脳内で、スラムダンクのBGMが自動再生される。

脳裏に浮かぶ坊主頭の自称天才、桜木花道。

不良なのに根は真っ直ぐなあの男。

そして、流川楓、三井寿、赤木剛憲――。

 

(嘘だろ!?じゃあ、海南も陵南も翔陽も実在すんの!?

 てことは、あの体育館の中で今も「左手は添えるだけ」とか言ってんのか!?)

 

隣のドルバルが淡々とメモを取っている。

「参謀長、どうされました?」

「今、俺は神を見た」

「またですか」

 

目の前をバイクが通り過ぎた。

後ろには赤い長髪の少年。

背中のジャケットには「不良高校・男塾」と書かれている。

 

(おいおいおいおい、どんだけだよこの街……!)

 

 

額に手を当て、軽く震えながら笑い始めた。

 

「ふ、ふふふ……」

「参謀長?」

「はは、ははははは!なるほどな!!!」

 

ドルバルが完全にドン引きしている。

「笑う理由を教えていただけます?」

「わかったんだよ、ドルバル。この世界の法則が」

 

「法則?」

「ああ。ここは聖闘士星矢の世界じゃない。

 週刊少年ジャンプ・多元宇宙版だ!」

 

「……?」

 

「つまりだ、星矢もぬ〜べ〜も花道も獠ちゃんも、

 同じ時空で息してるんだ!」

 

ドルバルが一拍置いて答える。

「……参謀長、頭を打ちました?」

「違う!むしろ目が覚めた!」

 

(そうか……全部繋がってたんだな)

 

思い返せば、兆候はあった。

 

(俺は気づくのが遅すぎた。

 この世界は、聖闘士星矢単体じゃなく、ジャンプ作品総合宇宙(ジャンプ・ユニバース)だったんだ!)

 

それを思うと、笑いが止まらなかった。

高速道路の照明が流れる中、俺は天井を仰いで爆笑した。

 

「ははははは!なるほどなぁ!そりゃ聖域の隣にカラオケも建つわけだ!」

 

「参謀長、笑い方が完全に壊れてます」

 

「だってドルバル、考えてみろ!

 もしかしたらだぞ、今どこかで冴羽獠と桜木花道が同じラーメン屋で並んでるかもしれないんだ!

 ぬ〜べ〜がうちの教育カリキュラム監修してるかもしれないんだぞ!」

 

「カオスですね」

「最高だろ!!」

 

空港が見えてきた。

滑走路のライトが夜空に続いている。

その光景を見つめながら、俺は静かに息を吐いた。

 

(そうか……この世界は秩序じゃない。

 物語でできてるんだ)

 

星矢が叫び、獠ちゃんが撃ち、花道が跳び、ぬ〜べ〜が救う。

それぞれの物語が交錯し、影響しあい、世界を動かしている。

なら俺の仕事は――。

 

「……この混沌を、設計し直すことだ」

 

ドルバルが首をかしげた。

「今、悪い顔してませんでした?」

「してたかもな」

 

飛行機に乗り込む。

 

機体が浮かぶ。

聖域に戻ったら、報告書の一番上にこう書こう。

 

この世界は、神話と漫画と常識が同居する地球。

よって、統治は不可能。

だが、最高にエンタメ的である。

 

俺は笑った。

「はは……俺の転生先、神すぎる」




ドルバル「……つまり参謀長、あなたは『聖域を週刊少年ジャンプの世界と統合する』と」

アッシュ「そうだ。聖域特別号を出す。表紙は星矢、巻頭カラーはアイオリア特集、センターは翔子の『文明的夜』再録」

ドルバル「どこの雑誌ですかそれ」

アッシュ「そして次号予告は――『聖闘士星矢×ぬ〜べ〜×スラムダンク』奇跡の三大クロス!俺が編集長だ!」

翔子「待って、あなた、編集長になったの!?聖域どこいったの!?」

アッシュ「聖域はジャンプ編集部に移転した!」

翔子「もはや宗教じゃなくて出版社よそれ!」

ドルバル「……参謀長、肋骨が治るより頭が悪化してます」

アッシュ「いいかドルバル、神話は連載形式だ」

翔子「いやもう、それっぽく言わないでぇぇぇ!!!」

十二宮編の最後は誰と誰の対決に?

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