聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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――聖域の朝は、鐘の音とともに始まった。
だが鳴り響いたのは祝福の鐘ではない。婚姻布告の鐘である。

教皇の勅令が告げるは、アッシュ=エレナ=フレア三者婚!
祝福か、災厄か――。

「結婚とは国防である!」
「アッシュ様、今すぐ初夜を!」
「抜け駆けは許しませんわ♡」

革命と外交と恋愛が交錯する、運命のウェディング・カーニバル!
次回――
『聖域婚姻戦線:花嫁会議と革命乙女タックル』
理性は沈黙し、愛が爆発する。


聖域婚姻戦線:花嫁会議と革命乙女タックル

(アッシュ視点)

 

 

聖域教皇庁の奥、重厚な扉の向こうで──

俺は今、人生で一番不毛な会議に出席していた。

 

議題:

『聖域総参謀長アッシュの結婚について』

 

(……なんだこれ)

 

心の中で呟く横で、サガが深刻な顔で会議を仕切っていた。

机の上には地図と資料が広げられ、黄金聖闘士たちは神妙な表情で座っている。

戦略会議のような空気だ。

 

 

サガが咳払いをして開会を宣言する。

 

「では議題を改める。アッシュ参謀長の花嫁選考について。各員、意見を述べよ」

 

一瞬、沈黙。

そしてシュラが立ち上がった。

 

「まずはフレア殿の件です」

 

「お前、いきなりフレア推しか」

 

「はい。彼女を娶ればアスガルドとの関係はより強固になります。

 近年、北方との外交摩擦も増えていますし、彼女が聖域の正妻になれば軍事・経済の連携は盤石です」

 

「お前、戦略と結婚を混同するなよ」

 

「それにフレア殿は気品があり、政務にも理解がある。何より参謀長への忠誠心が揺るぎません」

 

「……確かに忠誠心はあるな。度が過ぎてるが」

 

サガがうんうん頷いてメモを取る。

「外交的メリット、大。……ふむ、悪くないな」

 

そこへシュラが畳みかけるように言った。

「それに、もしもの場合、彼女の兄フレイが婿入りしてくる可能性もあります」

 

「婿入り!?」

 

デスマスクが思わず叫んだ。

「何の話してんだお前ら!誰が誰を婿入りさせんだ!」

 

「兄妹婚じゃない、外交同盟だ」

「余計ややこしいわ!」

 

その空気を破るように、シュラの対面から声が上がった。

 

「いえ、私はエレナ殿を推します」

 

発言者はシュラではなく、乙女座のシャカ──ではなく、なぜかシュラがもう一人立っていた。

 

「おい、同じ奴が二人喋ってないか?」

 

「失礼、今のは私だ」

堂々と発言したのは本物のシュラの隣に座る乙女座のシャカだった。

どうやら瞑想の途中で意識だけ会議に参加してきたらしい。

 

「アスガルドとの外交も重要ですが、内政の安定こそ最優先です。

 エレナ殿は既に聖域の行政を掌握している。彼女が参謀長の伴侶となれば、事務処理の効率は飛躍的に向上するでしょう」

 

(いや、すでに俺より処理速度速いんだけどな)

 

「しかも、彼女の忠誠は組織の基盤そのもの。公私にわたって支え合えば、聖域はより強固になる。

 つまり――」

 

シャカが目を閉じ、深く頷いた。

 

「愛は最大の組織防衛システムなのです」

 

「お前が言うと宗教じみてくるな!!」

 

サガが額を押さえた。

 

その時、誰よりも軽い口調で声を上げた男がいた。

 

「何を悩む必要があるんだ?」

 

アフロディーテだった。

薔薇の花を片手に、優雅に足を組む。

 

「二人とも娶ればいいだろう」

 

「……は?」

 

「美しい花は、一輪よりも二輪あった方が見応えがあるものだ。

 アッシュ師範、あなたほどの男なら、二人を同時に愛する資格がある」

 

「いやいやいやいや!制度的にも倫理的にもアウトだろそれ!」

 

「愛に制度など不要だ」

 

「言うと思ったよお前は!!」

 

デスマスクが机をバンッと叩く。

 

「お前ら真面目に話せ!なんで一人の男の恋愛事情で、聖域最高幹部が外交戦略レベルで会議してんだよ!」

 

「黙れ、今重要な局面だ」

「どこがだよ!」

 

ミロがニヤリと笑って口を挟んだ。

「まあでも、アッシュ師範に惚れてる女はこの二人だけじゃねぇだろ。

 アスガルドの女子寮の教師とか、あと前にお前にサインもらって泣いてた聖衣整備員の子もいたし」

 

「ちょっ、やめろ!ややこしくなるだろ!」

 

「……なるほど、これは複数候補者調整問題だな」

「AIを使えば最適解が出せますよ」

「愛にAIは不要だ」

「お前まだ言うか!」

 

混乱の中、俺は机を軽く叩いた。

 

「いいか、みんな落ち着け。そもそも俺は結婚する気なんて――」

 

「参謀長!」

全員が立ち上がった。

 

「それはまずい!」

「士気に関わります!」

「女神が二人泣くぞ!」

「そして俺が泣く」

 

「なんでお前が泣くんだ!!」

 

サガが真剣な顔で身を乗り出す。

「アッシュ、今の聖域は君のカリスマで成り立っている。

 君が結婚すれば、安定。

 独身のままなら、不安定。

 だからこれは個人の問題ではなく、国家の問題だ!」

 

「なんだその理屈!?」

 

「つまり、結婚とは国防である!」

 

「出た!精神論!!」

 

サガは拳を握って続けた。

「我々は女神アテナを守るために戦う!

 だが参謀長が孤独では、その指揮も曇る!

 ゆえに我々は、君の愛の安定を保証する義務がある!」

 

(……この人、真面目に言ってるから怖い)

 

デスマスクが呆れ声でつぶやく。

「なぁ、これさ……最終的に誰が得するんだ?」

 

「……誰も得しない」

「だよな」

 

会議はその後も泥沼化した。

・フレア推進派(サガ・シュラ)

・エレナ推進派(シャカ・ムウ)

・両方娶れ派(アフロディーテ・ミロ)

・もうやめよう派(デスマスク・カミュ)

 

そして、俺はその中央でただ一人、静かに頭を抱えていた。

 

「……俺の人生、いつから外交案件になったんだ」

 

「その瞬間からだ」

サガが胸を張る。

「お前がモテ始めた瞬間からだ!」

 

「そんな国防ないだろ!」

 

 

 

 

 

 

そして今、会議の中心でサガが立ち上がる。

机をバンッ!と叩き、俺に指を突きつけた。

 

「よし、アッシュ!お前の意見を聞こう!どっちだ!決めろ!」

 

……いや、なんで俺に決めさせる?

もはやこの議題、俺の意思とは別のところで勝手に国策扱いされてるだろ。

 

「ええとだな……」

 

額の汗を拭いながら、両手を広げて苦笑いした。

 

「まず、エレナを選んだら――」

 

全員が息をのむ。

 

「フレアに『ソールブリョウトゥル』で消し炭にされそうだし」

 

その瞬間、部屋の隅で腕を組んでいたフレアが、にっこりと笑って言った。

 

「(しないですわ♡)」

 

……と言いながら、目は笑っていない。

 

「ほら、怖いだろ?絶対しないって顔じゃないもん」

 

ミロ「確かにあれは溶かす顔だ」

デスマスク「即死だな」

サガ「……続けろ」

 

「で、フレアを選んだら――」

 

全員がゴクリと息を呑む。

 

「エレナに『積尸気冥界波』で、一緒に沈みましょう、アッシュ様♡って、黄泉路への道連れにされそうだ…」

 

今度は別の方向から、ひゅう、と冷たい風が吹いた。

 

「ほらああああ!!怖いって言っただろ!!!」

 

サガ「……確かにどっちも死ぬ未来しか見えんな」

ムウ「因果律的に回避不能ですね」

カミュ「零度と冥界の両極……選択肢が地獄しかない」

 

俺は机に突っ伏して叫んだ。

 

「頼む、もうやめてくれ!俺はただ平和に働きたいだけなんだ!」

 

サガは腕を組み、神妙な顔でうなずいた。

「……よし、分かった」

 

「ほんとか!?」

 

「埒が明かん!ならば――」

 

バンッ!!

 

サガは机を再び叩き、教皇の杖を高々と掲げた。

 

「二人とも娶れ!!!」

 

「はあああああああああ!?」

 

「決定だ!」

 

教皇の間に雷鳴のような声が響く。

「アッシュとエレナ、そしてフレアの婚姻を、教皇の名において、今この場で発表する!!!」

 

「俺の恐怖は完全に無視か!?」

 

デスマスクが机に突っ伏し、爆笑していた。

「ははっ、バカか!教皇、独裁すぎんだろ!」

 

「黙れ!」

サガは杖を振り下ろす。

「教皇の決定は絶対だ!神の声が聞こえたのだ!」

 

「それ、たぶん胃の悲鳴だろ!」

 

「神の声だ!!!」

 

「いや、絶対胃の音!!!」

 

ムウが冷静に補足した。

「しかし教皇猊下、重婚は聖域の規律に抵触します」

 

「そんなもの、教皇勅令で上書きだ!!!」

 

「ルールの意味とは!?」

 

ミロが興奮して叫ぶ。

「おいおいマジかよ!歴史的瞬間だぞ!聖域初の三者婚!」

 

アフロディーテはうっとりとため息をつく。

「愛はいつだって形式を越えるものさ……美しい」

 

「黙れ花屋!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

教皇サガの独裁的婚姻布告からわずか十五分。

その決定は、聖域全土に敷かれた通信回線を通じて、瞬時に拡散された。

 

【速報】

《参謀長アッシュ=エレナ=フレア 三者婚 教皇認可》

 

……いや、書き方。完全に芸能ニュースだ。

 

「これ、誰が通信管理してるんだ……」

頭を抱えている間にも、聖域中の雑兵たちがわあっと歓声を上げ、鐘を鳴らし始めた。

中には勝手に花びらを撒きながら「おめでとうございます!」と泣いてる奴までいた。

 

おい、まだ式すらしてないぞ。

 

だが、その混乱の中心――革命デモ隊の前線で、メガホンを構えていたエレナが、その報せを聞いた瞬間、静止した。

 

彼女の顔が、みるみるうちに真っ赤に染まり、次いで真っ白になり、最終的に金色に輝いたらしい(現場報告より)

 

「……アッシュ様が……私と……結婚……」

 

手にしていた革命の旗が、風に吹かれて地面に落ちる音が響く。

 

「アッシュ様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

その叫びとともに、エレナは光速で走り出した。

誰が止めようとしても無駄だった。

積尸気冥界波の速度を超えるタックル。

革命乙女の全力ダッシュ。

 

そして次の瞬間。

 

ドガァァァァァァァン!!!

 

教皇の間の扉が吹き飛んだ。

 

「ア、アッシュ様ぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ぎゃあっ!?な、なんだ!?」

 

振り向く間もなく、巨大な衝撃波と共に、何か柔らかくて温かいものが俺の上に降ってきた。

それがタックルだと気づいたのは、床に叩きつけられてから三秒後だった。

 

「エレナ!?お前どうやって扉を――」

 

「どうでもいいです!やっと、やっと私の気持ちが報われました!」

 

彼女は俺の上に馬乗りになり、恍惚の表情で叫ぶ。

「アッシュ様!今すぐ初夜を!さあ!!」

 

「ま、待て!落ち着けエレナ!ここ教皇の間だぞ!」

 

「関係ありませんっ!!!」

 

教皇席の後ろで、サガが「神よ……」と呟いて目を覆った。

ムウは冷静に記録を取っているし、デスマスクは爆笑していた。

 

「おい、記録取るな!動画残すな!!」

 

だが、エレナの勢いは止まらなかった。

「アッシュ様の奥深くに、革命を刻ませてくださいませ!!」

 

「怖い怖い怖い怖い!!!言葉のチョイスが怖い!!!」

 

俺が半泣きで手を伸ばしたその時、突如、別の声が響いた。

 

「お待ちなさい、エレナ殿」

 

氷のように冷たい気配が背後から近づく。

誰も見なくても分かる。

フレアだ。

 

白銀の髪をなびかせ、完璧な微笑を浮かべたフレアが、静かに歩み寄る。

その笑顔の裏に、凍てつく炎を感じた。

 

「抜け駆けは許しませんわ。それに、式もまだでしょう?」

 

「そ、そんなこと関係ありません!」

「いいえ。大いに関係ありますの。礼節こそ、愛の証ですわ」

 

フレアは、エレナの腕をそっと掴む。

それは一見、優しい仕草だった。

だが、その手から立ちのぼる冷気で、床の大理石がバキバキと凍っていく。

 

「おっと、やめろ!氷結禁止だ!国家規模の被害が出る!」

 

二人の間に挟まれた俺は、ほぼ身動きが取れなかった。

というか、完全に戦闘態勢に入ってるこの二人。

 

「アスガルドの狐女、邪魔をしないで!」

「革命乙女さん、声がうるさいですわ」

 

「うるさい!?私の愛をうるさいと!?」

「ええ、非常に。情熱的すぎて空気が燃えてますもの」

 

「あんたのせいで床が凍ってるでしょうが!!」

「温度差の問題ですわね」

 

「論点が違う!!!」

 

完全に修羅場だった。

いや、もはや聖戦。

女神のいない戦いに、女神級の殺気が渦巻く。

 

「やめろお前ら!ここは交渉と冷静な対話で――」

「では、身体で語り合いましょう!」

「それは名案ですわね♡」

 

「いやそういう意味じゃない!!!」

 

だが、止める暇もなく――

二人の美しい拳と脚が、俺の周囲数センチをかすめて飛び交った。

超高速の愛憎ミックス格闘戦。

 

ドカッ! バキィッ! ズガァァァァン!!

 

「キャーッ!服が破れましたわ!」

「上等ですね!裸で戦えば平等です!」

「ちょっと待てぇぇぇ!!!戦闘力も露出度も上げるなぁぁぁ!!!」

 

俺は床を転がって距離を取ろうとしたが、すぐに両側から引っ張られた。

 

「アッシュ様は、私のものです!!」

「いいえ、私のですわ♡」

 

両手を掴まれ、引っ張り合い。

物理的な三角関係。

なんだこれ、恋愛バトルRPGか?

 

「……これ、もう俺帰っていいか?」

「ダメだ、証人だ」

「俺、実況していい?」

「やめろ。余計ややこしくなる」

 

その時、俺の中で何かが吹っ切れた。

 

(……ああ、もうどうでもいい)

 

「わかった、もう分かった!分かったから落ち着け!!!」

「アッシュ様!どちらを選ぶんですの!?」

「アッシュ様!!私ですわよね!!」

 

叫んだ。

 

「どっちもだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

……静寂。

 

一瞬、空気が止まった。

 

次の瞬間、エレナは涙を流して俺に抱きつき、フレアは優雅に頷いた。

 

「……やっぱり、アッシュ様は優しい……」

「さすがアッシュ様。分かってらっしゃる♡」

 

(いや違う。命乞いしただけだ)

 

こうして、聖域史上初の愛の二重契約は、革命乙女のタックルから正式に始まった。

外では再び花火が上がり、雑兵たちが「バンザイ!」と叫んでいる。

 

二人に挟まれながら、遠い目をして呟いた。

 

「……平和って、こんなにうるさいものだったっけ……」

 

そして、天井の割れた教皇の間に、俺の小さな悲鳴が木霊した。




サガ「……アッシュ。私の胃が、もう限界だ」

アッシュ「すまん。俺も精神が限界だ」

デスマスク「俺、もう笑いすぎて腹筋が限界だ」

エレナ(幸せそう)「アッシュ様、今夜はどちらの閨で?」

フレア(にこやかに)「ええ、交互にいたしますわ♡」

アッシュ「いや、それ分単位で交代制とかじゃないよな!?」

サガ「……胃が、破裂した」

ムウ「医務室、胃薬と鎮静剤を用意しておきます」

デスマスク「これもう結婚じゃなくて聖域統合案件だろ」

フレア「愛は、聖域の構造改革ですわ」

エレナ「愛は、永遠の革命です!」

サガ「違う!愛は休戦だぁぁぁ!!!」

アッシュ(遠い目)「……俺、出家しようかな」


――翌朝。
聖域新聞の一面には、こう書かれていた。

【速報】聖域三者婚、初夜より激戦。
 関係者「参謀長、奇跡的に生存」

サガ「……俺、本気で退職考える」

デスマスク「俺、次は結婚式実況やっていい?」

アッシュ「……俺、次の出張、月面にしたい」

この次の映画編はどちらがいいですか?

  • 真紅の少年伝説編(日本編)
  • 最終聖戦の戦士たち編(聖域編)
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