聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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サガ「……アッシュ。お前、確かに周りの評判はすごいが――本当に強いのか?」

アッシュ「さあ? 自分じゃよく分かりませんけど……少なくとも、パンとトイレにだけは勝てませんね。」

サガ「は? 何を言ってるんだお前は……。」

アッシュ「いや、マジで。伝統より現代の快適さに弱いんで。」

サガ「……やっぱり変なやつだな。」

アッシュ「お褒めに預かり光栄です!」


ロドリオ村・聖闘士インフラ維新 神話の村に文明の嵐を!

(サガ視点)

 

 

その夜、僕は寝付けなかった。

 

 教皇の間でのアッシュの直訴――いや、“熱弁”と言ったほうが近い。あの姿が脳裏に焼き付いている。

 聖域の伝統に真正面から反旗を翻す、しかもあのタイミングで、教皇様相手に――。正直、あんな大胆なやつがいるとは思っていなかった。

 

 だが、どこかで羨ましさも感じていた。僕自身、「このパンは石か?」と思いながらも、口に出すことなどなかったし、トイレや風呂の不便さにも文句ひとつ言えなかったからだ。

 でもアッシュは、堂々と“不便すぎる現実”を突き付けていた。

 あの瞬間、ちょっとだけ“スカッ”としたのを、認めざるを得ない。

 

 時計がないから正確な時刻は分からない。

 寝台の上で天井を見つめ、もやもやしていると、隣のベッドで寝返りを打ったアイオロスがぽつりと言った。

 「……サガ、やっぱりアッシュの言い分は変じゃないか?」

 「何が?」

 「便利なものばかり求めて、伝統を壊そうとするのは良くないよ。教皇様がああ言ったのには理由があるんだ」

 

 アイオロスはどこまでも“正統派”だ。

 規律もルールも、幼いころからの“聖闘士の矜持”を大事にしている。そこは尊敬する。でも僕は、何でもかんでも“伝統”で片付けるのは好きじゃない。

 

 ふと、僕は立ち上がった。

 「アッシュの部屋に行く」

 「えっ、今から?やめておいたほうが……」

 「問題ない。伝令に伝えておけ。これは双子座のサガの“交流”だ」

 

 やや偉そうな口ぶりになってしまうが、こういうときは押し切った者勝ちだ。

 扉をノックし、アッシュの部屋に入ると、案の定、彼は天井を睨みつけていた。

 

 「アッシュ、今日のこと……すごかったな」

 そう言うと、彼は起き上がり、軽く笑った。

 「いや、発狂寸前だよ。サガ、あの生活で本当に平気だったの?」

 「正直、石のパンとトイレには辟易している。僕の小宇宙より先に胃腸が壊れそうだ」

 つい本音が漏れる。

 アイオロスも後ろから顔を覗かせて、背筋を伸ばして口を挟んだ。

 「でも聖域のやり方には意味があるんだ。神話の時代から続く伝統を、僕たちが軽々しく変えるべきじゃない」

 ――相変わらず模範解答だな。

 

 アッシュが苦笑する。

 「パンが硬いのも伝統、トイレが古いのも伝統、ってのはさすがにどうかと思うけどね」

 

 「僕もそう思う」

 つい同調してしまった。

 「便利なものは取り入れるべきだ。実は、最近聖衣の手入れに新しいオイルを使ってみたんだ。旧来の蜜蝋よりも汚れが落ちやすい。効率的なものは、やっぱり優れている」

 アイオロスが小声で「教皇様にバレたら怒られるぞ」と焦っている。

 

 「サガ、話が分かるな!」

 アッシュが満面の笑みを浮かべる。その顔が妙に頼もしい。

 「今度、一緒に“聖域快適化プロジェクト”やらない?」

 

 僕はちょっと悪戯っぽく、目を細めて答えた。

 「いいね。実は僕、図書館で現代の設計図を密かに集めてるんだ。伝統を守るのも大切だが、聖闘士たちが倒れたら元も子もない。夜に相談しよう」

 「じゃあ、今夜決行だな!」

 固い握手を交わす。

 

 アイオロスはため息まじりに呟く。

 「……せめて教皇様に見つからないようにしてくれ。僕は“伝統”の大切さも守りたいからさ」

 「分かってるよ、アイオロス。誰にも迷惑はかけない」

 ちょっとだけ、“兄貴分”の顔をしてみせる。

 

 そのあとは、三人で小さな円卓を囲んだ。

 アッシュが持ち込んだノートとペン、僕のスケッチブック、アイオロスが持ってきた地図。

 「まずは水道だな」

 「パンはベーカリー直送にしよう」

 「トイレだけは絶対改善する」

 話し合ううちに、聖域という“石の牢獄”も、少しだけ希望の灯がともった気がした。

 

 僕は思う。

 伝統を変えるのは難しい。だが、時には誰かが風穴をあけなければ、何も動かない。

 アッシュの“無謀さ”が、少しだけ羨ましい。そして、こういう友ができたことが、なぜか誇らしくもあった。

 

 「サガ、明日も相談に乗ってくれる?」

 「もちろんだ。僕は“快適聖域化作戦”の共同責任者だからな」

 ちょっとだけ、偉そうに胸を張る。

 この夜の誓いが、後に聖域を揺るがす大事件に発展しようとは、僕たちはまだ知る由もなかった。

 

 

 

 

(アッシュ視点)

 

 

 

 聖域でのストイック拷問ライフに三日で白旗をあげた僕だが、運と機転が味方した(かもしれない)!

 「民との交流を深めるため」とかいう立派な言い訳をかまして、近くのロドリオ村に“常駐”することになったのだ。

 シオン様も「現地の声を聞くのは大切じゃ」と珍しく納得顔で承認。

 アイオロスは「お前また逃げるのか」と呆れてたけど、いやいや、これは逃避じゃない。現代人のサバイバル術だ。村の子どもたちも「アッシュ兄ちゃん」と親しげに呼んでくれる。

 ……うん、理由はなんでもいい。とにかく、ここは聖域の外=“僕の王国”だ!

 

 村に拠点を構えるや否や、僕の“近代化”魂が爆発した。

 まず手始めは水道工事。

 村の井戸水は美味いが、毎回バケツで汲むなんて耐えられない。僕は地元の便利屋のおじさんと意気投合し、朝からスコップ片手に穴を掘る。

 「アッシュさん、その服で本当に大丈夫ですか?」

 「問題ない、小宇宙(コスモ)防御モードでいける」

 泥一つ付けずに堀りまくる僕を見て、村人は「これが聖闘士の力……」とドン引きだ。

 正直、体力より文明の利器の方が偉大だけどね!

 

 続いて、電気だ。

 聖域では“電気?それはパンを焼くための魔法か?”とか言われたけど、村では話が早い。

 僕は知り合いのイタリア系商社マンに電話。

 「発電機セットとソーラーパネル一式、あと家電も一通り!」

 

 ……この時点で時代は1990年代のはずなんだけど、届く発電機はやたらコンパクト&ハイパワー。

 ソーラーパネルは、え?これ令和の新商品では?という超高効率モデル。

 村のじいちゃんが「これ、NASAの秘密兵器じゃろ?」とマジ顔で聞いてくる。

 僕も「いやー技術革新ってやつですよ」とごまかすけど、正直自分でもツッコミたい。

 

 発電機が村に到着したその日、僕は記念すべき“ロドリオ村初点灯式”を挙行した。

 村の子どもたちが「すごい、夜が昼みたい!」と歓声をあげ、年寄りは「目が悪くなりそう」と戸惑う。

 どちらも正しい。だが僕は一歩も譲らない。

 

 インターネット? もちろんだ。

 時代は90年代、ダイヤルアップ接続の「ピーヒョロロロ」というあの名曲が村に響き渡る――はずが、なぜか光ファイバーまで混じってる。

 「アッシュさん、回線がやたら速いですね」

 「……うん、村長。これは世界の七不思議だと思っておこう」

 

 村の公民館にWindows98搭載PCを設置。子どもたちは“インターネット”の意味すら知らないが、とりあえずペイントで落書きして楽しそうだ。

 「これで村も世界に繋がったぞ!」

 ……まあ、回線速度はなぜか異様に速いし、夜中にはYouTubeが普通に観られる。

 時代が……時代がバグってる!

 

 トイレ?もちろん“水洗”だ。

 僕は世界の衛生革命を村にもたらすべく、地元の工務店と契約し、一気に複数台導入。

 これには村の婦人会も大感激。

 「アッシュさん、これで冬もお尻が冷えませんね!」

 涙を流して感謝されるが、僕は内心「やっとまともな生活ができる」と号泣していた。

 ついでに自動洗浄&除菌&温風乾燥までついている。……完全に令和仕様だ。

 婦人会のおばさん曰く「これこそ神の技!」

 いや、多分技術の暴走です。

 

 生活家電?おまかせあれ。

 洗濯機、冷蔵庫、電子レンジ……どれも90年代では見ない最新デザイン。

 テレビも8K対応。なぜ?僕の意志じゃない。これは世界がそうなっているだけ。

 

 村の噂はあっという間に聖域の内部にも伝わった。

 ある日、視察に来たアイオロスが公民館でテレビを見ている僕を発見し、

 「アッシュ……ここは村だよな?都会じゃないよな?」

 と混乱顔で確認してきた。

 「都会なんだ、ここは……」と遠い目をして帰っていった。

 

 一方、サガはこっそりやってきて、

 「……この“電子辞書”ってやつ、面白いな」

 と夜な夜な貸してほしいと頼みに来る。

 そりゃ面白いよ。収録語彙数が令和レベルだもん。

 

 地元の子どもたちもどんどん増え、僕は気がつけば“ロドリオ村のヒーロー”に。

 パン屋のおばさんは僕のために柔らかいクロワッサンを焼いてくれるし、毎日ピザの差し入れも。

 おかげで僕の体重は若干右肩上がりだ。

 これも近代化の副作用?

 

 僕は今日もロドリオ村の発展のため、パソコン片手に村人たちと走り回る。

 これぞ90年代“聖域外”革命!

 ――と見せかけて、なぜか技術水準は令和基準。

 時空の歪みか?神の悪戯か?まあ、細かいことは気にしない。

 だって便利だから。

 

 

 

 

 

(シオン視点)

 

 

 教皇たるもの、時に民の声を直接この耳で聞く必要がある――

 そんな大義名分を自らに言い聞かせ、私は白銀聖闘士・杯座のアッシュが“快適化”を推し進めているというロドリオ村へ、内偵に向かった。

 

 正直、気が重い。

 報告書には「水道・電気・謎の音響機器」「アッシュが発明王化している」「村が文明開化」など、不可解な言葉が踊る。

 いったいどんな有様か、教皇として“伝統の権化”である私は胸中穏やかではなかった。

 

 だが、村に足を踏み入れた途端――

 

 「教皇様だ!」

 「アテナ様のご加護が来たぞ!」

 村人たちがどっと押し寄せてきた。

 しかも、皆、見事な土下座。頭が地面にめり込みそうな勢いだ。

 

 「ありがとうございます!アッシュ様のおかげで、うちの水道は蛇口をひねればジャバジャバです!」

 「夜も明るくなりまして、もう幽霊も出ません!」

 「電気洗濯機で夫のパンツも真っ白です!」

 「インターネット?なんだか分からないけど村長がハマってます!」

 「トイレが水洗式で、お尻が天国です!」

 

 それぞれが、アッシュ賛歌を叫ぶ。

 「これもアテナ様と、教皇様のお導き!」

 「ありがとうございます、教皇様ぁぁぁ!」

 

 私は――何も言えなかった。

 いや、言いたかった。

 本当は、「お前ら、ちょっと待て!聖域の伝統はどうした!?昔ながらの暮らしに、誇りはないのか!」と喝を入れるつもりだった。

 

 だが、全員の顔があまりにも幸せそうなので、逆にこちらが罪悪感で死にそうだ。

 

 村の隅では、村長が最新のWindows98を前に「ソリティア」の勝ち方を教えてもらっている。

 小学生はペイントで絵を描き、婦人会は電子レンジの前で感動の輪を作る。

 道端では「アッシュ兄ちゃん」のおかげでピザパーティが始まり、年寄りはカラオケで熱唱――って、えっ!?

 教皇である私は、“民の魂の平穏”が保たれているかだけを見ればよいのだろうが、

 ここまで来ると混乱してしまう。

 

 しかも、村人たちの感謝は止まらない。

 

 「教皇様、トイレの設計図を聖域にもお分けしましょうか?」

 「配線工事、次はどの村でやりましょう?」

 「これが“文明”というやつですね!」

 「アッシュ様こそ、真の聖闘士にございます!」

 ――もう、土下座というより“アッシュ神”の祭壇前。

 私はただ「いや……私は、その……」と弱弱しく笑うしかなかった。

 

 アッシュはその横で「どうも、どうも」と営業スマイルを振りまき、村のアイドル状態。

 「教皇様、これが“民との交流”です。僕、毎日が充実してます!」

 いや、充実しすぎだろう、お前。

 

 しまいには子どもたちが寄ってきて、

 「教皇様!新しいテレビのリモコンの使い方を教えてください!」

 ……分からぬ。教皇、リモコンなど知らぬ。

 

 婦人会からは「お尻が極楽です!」と、

 ピザ屋の青年からは「冷蔵庫万歳!」と握手を求められる。

 

 私は、数千年守ってきた“伝統”を、今ここで粉々にされた気分だ。

 伝令鳩まで電線の上で休憩している始末。鳩よ、お前も文明に屈したのか。

 

 思わずアッシュに耳打ちする。

 「……アッシュよ、そなた、やりすぎではないか?」

 「時代は進んでますから!」と即答。

 ぐぬぬぬ……現代っ子め。

 

 帰り道、村人たちが手を振って見送る。

 「また来てください!今度はインターネット教室です!」

 「教皇様の歌、今度カラオケで披露してくださいね!」

 私にそんな芸達者な一面はないぞ――!

 

 こうして私は、

 “伝統”とは何か、“幸福”とは何か、

 帰りの道すがら一人、哲学に耽ることになった。

 

 ……アッシュよ、お前が将来、聖域をどう変えてしまうのか、

 老骨には、もう想像もつかぬ。

 




シオン「サガよ、最近少し浮ついているように見えるが……アッシュの影響を受けすぎてはならんぞ。伝統は守らねばならぬ。」

サガ「ははっ、教皇様。伝統もいいですけど、たまには新しい風も悪くないですよ。」

シオン「お前までそう言い出すとはな……まったく、現代っ子の波に飲まれるとは情けない。」

サガ「だって、面白いじゃないですか。教皇様も一度ピザを食べてみてくださいよ。あと、電子レンジ、便利ですよ?」

シオン「……わしはパンとチーズで十分だ。」

サガ「もったいないなあ、教皇様。」

シオン「お前は昔から聞き分けがなかったが……最近ますます手に負えん。」

サガ「お褒めいただき光栄です。」

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