聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
黄金の守護者たちが沈黙し、聖域は炎と崩壊に包まれる!
天より降りしは、熾天使、力天使、智天使、そして座天使――
彼らの翼が、かつての神々の復讐を告げる!
そして今、アテナの神像が崩れ落ちる……!
「アッシュ! これは……神の裁きだ!」
次回――
『堕天の序曲(プレリュード・オブ・ルシファー)』
神々の秩序が、再び地を焦がす――!
聖域上空の警戒網が、突如として赤く点滅した。
防衛中枢AI《アテナ・シールド》が警告を発したのは、その直後だった。
「──警告。未知のエネルギー反応、四方向より急速接近。識別不能。回避不能」
警告が終わるより早く、夜空が裂けた。
四つの光が、流星のように一直線に聖域を目指す。
轟音とともに、黄金の大地が震えた。
アッシュが構築したはずの多層防衛フィールドは、まるで飴細工のように貫かれた。
彼が施した自動防御衛星群も一斉に沈黙。
防衛システムの反応速度が、敵の侵入速度に追いつけなかった。
最初の衝撃は、天蝎宮に落ちた。
ミロは異変を察知すると同時に、小宇宙を燃やし始めていた。
「何だ、この禍々しい気配は……!」
空間が揺れる。目に見えぬ羽が、光の刃となって彼の前を走った。
その姿は、天から舞い降りた熾天使。
六枚の翼を持ち、黄金にも似た光を放つ存在。
だがその光には、清らかさではなく、腐蝕のような毒が混ざっていた。
「我は熾天使(セラフ)・ベルゼバブ。かつて天に在りし光の副王なり」
声が響くと同時に、空気がねじれる。
ミロは即座にスカーレットニードルを構えるが、相手の速度が違った。
「ガルーダ・ヘルウィング──」
一瞬。
視界が裏返り、ミロの体が吹き飛ぶ。
小宇宙を燃やす暇もなく、全身の神経を麻痺させる衝撃が走った。
黄金の血が、床を赤く染める。
「……ぐっ……!? 速すぎる……」
熾天使は静かに翼をたたみ、倒れた黄金聖闘士を一瞥した。
「堕天の地へ墜ちよ──神の秩序を崩す者よ」
その頃、巨蟹宮では異形の光が舞っていた。
デスマスクが放った冥界波を、見えない壁がかき消す。
「何だ、こりゃあ……!」
目の前に立つのは、鋼のような白い鎧をまとう力天使(ヴァーチュ)・エリゴル。
腕から伸びた二本の光刃が、巨大な蟷螂の腕のように煌めく。
「聖魔蟷螂拳──」
音すら追いつけない一撃。
空間ごと切断されたかのように、デスマスクの黄金聖衣が軋む。
防御も反撃も許されず、光の刃が一閃。
「がはっ……!」
巨蟹宮が真っ二つに裂けた。
聖域の地層にまで達する深い傷跡が刻まれる。
磨羯宮。
鍛錬を終えたばかりのシュラが、迫る影に気づく。
「何奴!」
答えはない。
代わりに蛇のような影が足元から絡みつく。
智天使(ケルビム)・アシタロテの「キラー・ファング・コブラ」。
無数の光蛇が大地を這い、あらゆる方向からシュラの身体を打ち据えた。
「……っ、この……!」
聖剣が煌めき、数匹の蛇を断ち切る。
だが、切ったはずの光蛇が再び絡みつく。
「再生する……?!」
アシタロテは淡々と言った。
「戦士とは罪。罪は繰り返される」
その声が冷たく響いた瞬間、シュラの視界が白く弾けた。
宝瓶宮。
氷の宮を守るカミュは、周囲の温度異常に気づいた。
「……温度が上がっている?」
次の瞬間、空間に浮かぶ無数の鏡が現れた。
その中に、座天使(スローン)・モアの姿が映る。
「デモン・ファンタジア」
鏡が砕け、無数の幻影がカミュを囲んだ。
幻覚と現実の境界が曖昧になり、敵の動きが読めない。
冷気を放つたびに、相手の像が増えていく。
「……これは幻ではない……精神干渉か」
それを理解した時には、すでに遅かった。
モアの掌が触れた瞬間、カミュの小宇宙が暴走し、全身が凍り付く。
「……氷の中で眠れ、聖闘士」
凍り付いた黄金の氷結像が、静かに地面に倒れた。
アフロディーテはその全てを感知していた。
「これは……神の系統の小宇宙……!」
薔薇の香りが吹き荒れる。
四方から迫る天使たちに対し、彼は迷わず戦闘態勢に入った。
「ピラニアンローズ、そしてブラッディローズ──!」
無数の花弁が舞い、空間を切り裂く。
ベールゼブブが羽で弾き、アシタロテがそれを熱で焼き、エリゴルが光刃で切り払う。
「四対一とは……随分と礼儀を欠いた真似を」
彼は微笑んで見せた。
だが次の瞬間、背後から放たれた閃光が背を貫いた。
「……ッ、う……」
金色の薔薇が一枚、床に落ちた。
熾天使ベルゼバブが低く言った。
「これはただの前触れ。我らは主ルシファーの先兵にすぎぬ」
光が収束し、彼らの姿は消えた。
聖域には、沈黙だけが残る。
◆
聖域中央病院。
ガラス越しに並ぶ生命維持装置の灯が、一定のリズムで点滅している。
その中には、ミロ、デスマスク、シュラ、カミュ、アフロディーテ。
黄金聖闘士たちの姿があった。
サガは沈黙を破った。
「……馬鹿な。この五人が、こうも一方的にやられるとは」
隣でアッシュが拳を握る。
モニターに映る波形が安定しているのを見て、ほんの少しだけ安堵した。
「命に別状はない。それがせめてもの救いだ。
だが、再起までには時間がかかる」
アッシュの顔には怒りと後悔が浮かんでいた。
「……俺の構築した防衛システムが、こうも簡単に破られるとはな。
反応時間、迎撃機構、全てが一瞬で突破された。
敵は、聖域の構造を完全に把握していた……」
サガが眉をひそめる。
「内通者の可能性か?」
「……いや、それよりも」
アッシュは視線をガラス越しの先に向けた。
彼らの体に残る焼け跡──それは単なる攻撃痕ではなかった。
神聖力と魔力が混ざり合った、奇妙な残滓。
「この波動……人間ではない」
低い声で言う。
「むしろ、神に近い。あるいは──」
言葉を区切る。
脳裏に、かつての記録が蘇った。
封印の碑文、異界のデータ、そして一枚の写本。
──『暁の堕天、明星の再臨』。
アッシュの心臓が嫌な鼓動を刻む。
「……まさか」
サガが顔を向けた。
「何を知っている、アッシュ」
アッシュは答えない。
代わりに、静かにモニターを見つめた。
五人の黄金聖闘士の生命反応は安定している。
だが、彼らの傷は普通の手段では治せない。
神性に触れた痕跡──そうとしか説明できなかった。
「……俺たちは、もう人の領域だけでは戦えないかもしれない」
サガの表情が険しくなる。
「ならば、我々はどうすればいい?」
「敵の正体を突き止める。それが最優先だ」
アッシュの声には、いつもの冷静さが戻っていた。
アッシュの瞳が細く光る。
(可能性はある。だが確証はない。ただ──この戦いは、状況が何もかも違う)
静寂が訪れる。
医療機器の音だけが響く。
アッシュは拳を緩め、深く息を吐いた。
「……聖域は守る。たとえ相手が天でも地獄でも」
その言葉に、サガは小さく頷いた。
そして二人は、眠る仲間たちに目を向けた。
聖域の戦士たちは倒れたが、まだ終わりではない。
誰かがこの空を再び穢した。
そしてそれを止められるのは、自分たちしかいない。
アッシュの瞳に、静かな決意の光が宿った。
◆
聖域の夜は静かだった。
防衛システムの監視画面に、赤い点ひとつ見当たらない。
一時的に訪れたこの穏やかさを、アッシュもサガもほんの数分前まで小康状態と錯覚していた。
だが、その静けさを切り裂くように、低く唸る警報音が執務室に響いた。
耳を劈くほどの音ではない。
だが、アッシュの肌が一瞬で粟立った。
通信機が自動的に接続され、エレナの焦った声が飛び込んでくる。
「参謀長!アテナ神殿に高エネルギー反応!結界が内部から破られました!」
アッシュは立ち上がり、机の上のデバイスを掴んだ。
「内部からだと?馬鹿な、誰がそんなことを……」
サガも即座に反応する。
「教皇区画からの侵入はあり得ん。外部からも検知なしだ。……まさか、転移か?」
アッシュは返事をせず、モニター操作を行う。
全域監視システムの映像が切り替わり、アテナ神殿の内部が映し出された。
その瞬間、二人の呼吸が止まった。
女神の象徴──アテナ神像。
その巨大な石像の首が、まるで糸が切れた人形のように、静かに傾き、床に転がり落ちていく。
音はなかった。
しかし、見ている者の心臓を締め付けるような衝撃があった。
砂煙がゆっくりと舞い上がる。
アッシュの手が止まる。
「……バカな……教皇の間にいる俺やサガに気取られずにアテナ神殿へ!?
アテナの聖衣が……!」
隣のサガがすぐに反応する。
「アテナの聖衣? アッシュ、それはどういうことだ?」
アッシュは一瞬、視線を泳がせた。
そして、呼吸を整えながら言葉を選んだ。
「……いや、何でもない。ただの偶像とはいえ、聖域の象徴が破壊されたことに動揺しただけだ」
その口調はいつもと同じ冷静さを装っていた。
だが、サガの眼には見抜けないほどの僅かな動揺が、アッシュの表情に宿っていた。
エレナの通信が続く。
「参謀長、警備部隊を派遣しますか?」
アッシュは数秒の沈黙の後に答えた。
「待て。まだ敵の姿は確認されていない。無闇に動けば、聖域全体が混乱する」
「ですが──」
「いいから待機だ。サガ、行くぞ」
短い命令。
その声には、焦燥と怒り、そして恐怖が混ざっていた。
二人はすぐに執務室を飛び出した。
階段を駆け上がる。
月明かりの下、神殿へ続く石段が不気味に光っていた。
「アッシュ、説明しろ。お前は何かを知っているな」
サガの問いに、アッシュは答えなかった。
その沈黙こそが、最悪の答えであることを、サガは悟った。
アテナ神殿に到着した二人を迎えたのは、異様な静けさだった。
破壊音も爆発痕もない。
ただ、巨大な首のない神像が、床に影を落としている。
風が吹き抜け、髪が揺れる。
サガが息を飲む。
「……これは……神の力か?」
アッシュは膝をつき、神像の断面を指でなぞった。
触れた瞬間、わずかな電流のような反応が走る。
「……熱を感じない。だが、切断面は分子単位で滑らかだ。
物理的な破壊じゃない……次元干渉による除去か」
「除去……だと?」
アッシュは立ち上がり、天井を見上げた。
神殿の天蓋には、うっすらと残光が漂っていた。
青白い、神性を帯びた光。
「──やられた」
その一言に、サガが眉をひそめる。
「何をだ?」
(……アテナの聖衣が、狙われた)
沈黙。
神殿の瓦礫がカラン、と音を立てて転がった。
アッシュは拳を握る。
「……誰がこんな真似を」
だが、答えは分かっていた。
あのエネルギー反応、あの光の質、そして切断痕の構造。
──これは、天使のものだ。
アッシュはモニター越しに見た四つの襲撃を思い出していた。
あのとき、彼らはただの先兵ではなかった。
(まさか……聖衣を狙っていたのか)
アッシュは視線を上げ、転がる首のない神像を見つめた。
それは、ただの石ではない。
内部には、アテナの魂の欠片──神格のコードが眠っていた。
それが今、完全に消えている。
「奴は復権のために動いている。
そして、アテナの神格を取り込むつもりだ」
サガが歯を食いしばった。
「ならば、もう悠長に構えている場合ではない!」
「分かっている。だが焦るな。敵の狙いが見えた以上、こちらも動き方を誤れば詰む」
アッシュは冷静に見えたが、その手は微かに震えていた。
それを見逃さなかったのはサガだけだった。
「……アッシュ。お前は怖れているな」
アッシュは返さない。
その沈黙の奥にあるのは、自分への怒りだった。
聖域の防衛網、機密通信、神格封印装置──そのすべてを設計したのは自分だ。
それを、誰にも悟られず突破された。
「……ルシファー。やはり動いたか」
アッシュの呟きが、石の壁に吸い込まれた。
そして、再び風が吹く。
首を失った女神像の影が、壁に長く伸びていく。
誰も気づかなかった。
その影の中に、一瞬だけ赤い光が瞬いたことに。
それは、まだ完全には終わっていない覚醒の予兆だった。
エレナ「……五人の黄金が一瞬で倒れた。こんなこと、あり得ません」
アッシュ「あり得るさ。俺たちが神の領域を模倣したからだ」
サガ「ならば、貴様は神を恐れているのか?」
アッシュ「恐れてるさ。だが、同時に興味もある」
エレナ「……アッシュ様、それは」
アッシュ「人間が神を超える瞬間は、恐怖と背中合わせだ」
サガ「超える? 人が、神を?」
アッシュ「超えねば滅ぶ。神に赦される道はもう無い」
サガ「……お前の目は、まるでルシファーのようだ」
アッシュ「なら、堕ちる覚悟くらいはあるさ」
エレナ「……堕ちるなら、私も一緒に」
アッシュ「バカ言うな。お前は天に残れ」
エレナ「天なんて、もう地上より穢れています」
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