聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
立ちはだかるは智と狂気の天使たち!
それでもアッシュとエレナは、地上の門を死守する!
一方その頃、母エリスの祈りが血に染まり、シャカとムウは己の魂に問う。
次回――『聖域の門番たち』!
燃えろ小宇宙! 愛を超えて、戦え理性!!
アッシュとベルゼバブ、エレナとアシタロテ――二つの光が、階層を隔てて激しく交錯する。
凄まじい衝撃波が何度も石段を砕き、瓦礫が宙を舞う。その中で、エレナは静かに息を整えていた。
対するアシタロテは、天から落ちたような姿勢のまま、彼女を見下ろす。
怒りに燃える瞳が、光の尾を引いていた。
「まずはその減らず口を叩けなくしてくれる! ――キラー・ファング・コブラ!」
瞬間、空気が弾ける。
彼の腕が閃光と化し、蛇のような軌跡を描いて襲いかかる。
一撃一撃が魂そのものを裂くような速度と威力を持ち、常人の目ではその動きを捉えることもできない。
だが、エレナは動じなかった。
彼女の瞳が、微かに光を放つ。
そして、その拳を、まるでスローモーションの映像でも見ているかのように、優雅に、無駄のない動きでかわした。
腰をひねり、片足を引き、風のように流れる。
「……遅いですね」
その冷ややかな声に、アシタロテの表情が凍りつく。
「馬鹿な! あのデスマスクやミロですら、一撃で沈んだこの拳を……!」
エレナは指先で髪を払うような仕草を見せ、微笑んだ。
「ええ、聞きました。彼らが懇切丁寧に報告してくれましたので。『魂に直接干渉する、回避困難な拳』だと」
彼女は指先をアシタロテに向けた。
「ですが、一度構造が分かれば、対策は立てられます。聖闘士の常識です」
アシタロテの歯が軋む。
「貴様……!」
「そして、聖闘士に同じ技は二度と通じないのよ」
エレナの瞳が鋭く光る。
「今度は、こちらの番です。――積尸気冥界波!」
蒼い光が炸裂した。
それは魂を冥界へ送るだけの術ではなかった。
アッシュとの訓練で改良された、物理的破壊力を伴う冥界波。
衝撃波が階段全体を覆い、アシタロテの身体を飲み込んだ。
「ぐっ……!」
智天使の鎧が砕け、黒い翼が引き裂かれる。
アシタロテの身体は吹き飛び、数段上の石階に激突した。
瓦礫と光が舞い、衝撃で階段の一部が崩れ落ちる。
「アシタロテ!」
ベルゼバブが援護に向かおうとする。
だが、吹き飛ばされた先で体勢を立て直したアシタロテが、手を上げて制した。
「来るな、ベルゼバブ! こいつは俺の獲物だ!」
息を荒げながらも、その声はまだ傲慢に響いていた。
「貴様はあの男を仕留めろ!」
ベルゼバブが鼻で笑う。
「……フン、よかろう」
アシタロテが再び立ち上がる。
その姿は、智天使という名にふさわしい神々しさを保ちながらも、どこか焦燥と怨念を帯びていた。
「女ごときに後れを取るとは、屈辱だ……!」
アシタロテの声が震え、足元の空間がひび割れる。
再び彼の小宇宙が膨れ上がり、階段の天井を圧するほどの光が放たれた。
◆
日本・エリス神殿。
今や魔界から伸びる無数の茨に包まれつつあった。
轟音と共に、結界の表面に波紋が走る。
ドルバルが張ったオーディーン・シールドが軋みを上げ、淡い光の膜が震えた。
「くっ……!」
ドルバルが歯を食いしばり、両手を天に掲げる。
結界の維持だけで膝が折れそうになるほどの圧力だった。
「ただの茨じゃない!」
前線で矢を放っていたアイオロスが叫ぶ。
「小宇宙そのものが攻撃性を持っている……女神たちに近づけるな!」
背後では、オルフェウスが竪琴を構え、弦を弾いた。
彼の旋律が結界の波長と共鳴し、魔界の茨を一瞬だけ押し返す。
ヤンとフレイがその隙を逃さず、炎と雷の連撃で茨の根を焼き払う。
だが、敵は止まらなかった。
次元の裂け目から、さらに無数の茨が湧き出していく。
その一本一本に、憎悪とも怨嗟ともつかぬ闇の小宇宙が宿っていた。
アイオロスの矢がそれらを次々と撃ち落とす。
「怯むな! 一歩でも近づけたら終わりだ!」
だが、その声をかき消すように、ひときわ大きな振動が起こった。
中心の裂け目から、一本の異質な茨が出現したのだ。
他と違い、それは赤黒い光を放ち、空間そのものを歪ませている。
「これは……まずい!」
ドルバルの額から血が流れ落ちる。
「この一本、結界を……貫通する!」
オーディーン・シールドが悲鳴のような音を立て、光の膜が破裂した。
爆風が走り、護衛たちが吹き飛ばされる。
茨は蛇のようにうねり、一直線に女神たちが立つ方陣の中心へ向かって突き進んだ。
「沙織!」
アイオロスの叫びが届くより早く、闇の矢は方陣を貫いた。
ヴィーナスの防壁がひび割れ、音を立てて崩れ落ちる。
沙織が反射的に顔を上げた。
その小さな身体に、闇の光が迫る。
――間に合わない。
その場の全員が、同じ絶望を感じた瞬間だった。
「ぐっ……!」
エリスが、咄嗟に沙織の前へ飛び出した。
その背に、闇の小宇宙が突き刺さる。
衝撃で彼女の身体が揺れ、鮮血が霧のように舞った。
数滴が、沙織の頬を濡らす。
「ママ!」
沙織の悲鳴が響く。
方陣の輝きが一瞬揺らぎ、エリスの肩が震える。
だが、彼女は崩れなかった。
振り返り、沙織に微笑みかける。
その瞳には、かつての冷酷さはなく、穏やかで温かな光があった。
「心配するな、我が娘……この程度、掠り傷にもならん」
血が滴る腕を押さえながら、彼女は淡々と告げる。
「……それに、母親が子を守るのは、当然のことだろう?」
その言葉に、沙織の瞳が揺れた。
ヴィーナスも思わず手を止める。
「エリスちゃん……あなた、本当に変わったわね」
エリスは微笑みながら答えた。
「違うさ。私は変わってなどいない。ただ……思い出しただけだ。私も一度は母だったことを」
彼女の背中から、淡い金の光が広がる。
闇の茨が焼け、空気が震えた。
ヴィーナスが再び小宇宙を放ち、方陣の再構築を開始する。
「沙織、あなたは中心を維持して。私たちが外周を支えるわ!」
「うん!」
沙織が涙を拭い、力強く頷いた。
小さな手が光を放ち、周囲の空気が澄んでいく。
三柱の女神の力が重なり、再び方陣が輝きを取り戻した。
「来るぞ!」
アイオロスが叫び、次の茨を矢で撃ち落とす。
ドルバルが再びシールドを展開し、ヤンがその外郭を補強する。
オルフェウスの旋律が高まり、周囲の空間が穏やかに振動し始める。
その中で、エリスは小さく息を吐いた。
「まったく……母親になるというのは、骨が折れる」
◆
闇に包まれた空間は異様な重圧を放ち、魂を削るようだった。
天井に浮かぶ魔法陣が赤く輝き、突然、轟音と共に巨大な柱が崩れ落ちた。
「シャカ!」
ムウが叫ぶより早く、シャカは一歩前に出て、両の掌を合わせた。
「――カーン」
無音の衝撃が広がり、崩落する巨柱は見えない障壁に受け止められた。
だが次の瞬間、その柱の内部から光が爆ぜ、炎のような小宇宙が吹き上がる。
「フハハハハ!」
崩れた瓦礫の中から、一人の天使が姿を現した。
「見事な防御だ、処女宮のシャカ! だが、そこまでだ!」
その声は高揚し、狂気を帯びていた。
「我は黄金の蟷螂、力天使(ヴァーテュー)のエリゴル!
ルシファー様への道を、この鎌で切り拓く者なり!」
シャカは眉をわずかに動かした。
「……力天使、か」
その声には、驚きも恐れもなかった。
エリゴルが鎌を掲げる。
「我が名を聞いて平然とは、面白い男だな! だが、今すぐその余裕を後悔させてやる!」
シャカは一歩進み出て、サガとムウを振り返る。
「やれやれ。先に行くといい、サガよ。ムウよ」
サガが振り返る。
「シャカ! お前まで残るというのか!? アッシュ達だけでも手一杯だというのに!」
「怒鳴って事態は解決しない」
シャカは穏やかに言った。
「アッシュ師範の言う通り、我々には時間がない。
ならば、役割分担こそが最も合理的だ。この雑魚は私が片付けてから、すぐに後を追う」
その淡々とした言葉に、エリゴルの額がひくつく。
「雑魚だと……?」
サガは一瞬ためらったが、シャカの目を見て悟った。
彼の瞳には、一点の迷いもない。
「……わかった。だが必ず追いついてこい、シャカ」
彼はムウの肩を掴む。
「ムウ、行くぞ!」
だが、ムウはその場に立ち尽くしていた。
彼の心は激しく揺れていた。
目の前の仲間も、先に行った教皇も――師を手にかけた者たち。
許しと憎しみの狭間で、魂が悲鳴を上げていた。
「シャカ……私は、どうすれば……」
シャカは微かに笑った。
「ムウよ。人は迷い、苦しみ、そしてそれを超えていくものだ。
お前も、お前の答えを見つける時が来る。行け」
その声音は柔らかく、しかし強い。
その言葉に背中を押され、ムウは唇を噛みしめ、サガの後を追った。
彼の足音が階段の上へと遠ざかっていく。
シャカは小さく息を吐き、残された空間に向かって静かに立つ。
「さて……雑音は去った。続きといこうか、エリゴル」
「貴様ぁぁっ!」
エリゴルが怒号と共に跳び上がった。
両腕の鎌が閃光を放ち、空間を切り裂く。
「聖魔蟷螂拳!!」
光速を超える斬撃が、縦横無尽に放たれる。
石段が切り裂かれ、周囲の空間が粉砕されていく。
その光景の中で、シャカだけが微動だにせず立っていた。
「……終わりか?」
エリゴルの動きが止まった。
次の瞬間、背後から閃光が走る。
シャカが、いつの間にか彼の背に立っていた。
「なっ……!?」
「一つ、忠告しておこう」
シャカの声が、氷のように冷たい。
「暴力に酔う者は、暴力に溺れて死ぬ。
力天使よ――お前が力を振るう理由を、私は知らん。
だがその刃が空を裂くなら、私の拳は空そのものだ」
エリゴルが咆哮した。
「戯言をっ!!」
鎌が光を放つ。
だが、それを迎えたシャカの瞳が、ゆっくりと開いた。
「ならば見せてやろう。仏の慈悲と、魔を降す怒りの両方をな」
その瞬間、光が弾けた。
「――天空覇邪魑魅魍魎(てんくうはじゃちみもうりょう)!」
シャカの小宇宙が爆発的に広がり、伏魔殿の闇を切り裂く。
◆
伏魔殿の大階段をさらに駆け上がるサガとムウ。
闇の階層は果てしなく続き、上下の感覚さえ曖昧になるほどだった。
石壁に刻まれた古代文字が光を放ち、無機質な音が空間に反響する。
広間に出たとき、風もなく、ふいに無数の光が舞い降りた。
淡い金と青の光を帯びた蝶が、霧のように空間を漂う。
彼らの足元から、床までを覆い尽くすように、蝶は静かに広がっていく。
「この小宇宙……ただの幻ではない!」
ムウの声が鋭く響く。
蝶の一匹に触れた瞬間、思考の奥底に冷たい痛みが走った。
心の奥、記憶の層を掻き回すような不快感。
「魂に直接干渉してくる……サガ、どうやらもう一匹現れたようです」
ムウは振り返り、サガに手を向けた。
「ここは私に任せて、先に行きなさい!」
「ムウ……!」
サガは一瞬だけ足を止めたが、すぐにその眼を燃やした。
「すまん! 必ず追いついてこいよ!」
そう言い残し、黄金の光をまとって上階へと駆け上がっていった。
残されたムウの周囲で、蝶たちが密集して渦を巻く。
彼は呼吸を整え、精神の揺らぎを抑えた。
(そうだ。今は敵に集中しよう。憎しみも、疑念も、今は忘れるのだ。その方が良い。きっと……気が紛れる)
小宇宙の糸を指先から放ち、瞬時に障壁を展開する。
「――クリスタルネット」
光の糸が張り巡らされ、蝶たちの群れを包み込む。
しかし、その内側で蝶が一斉に光り出した。
低く、静かな声が響く。
「美しい網ですね。だが、そんなものでは、魂は捕まえられない」
蝶の中心が爆ぜ、そこから一人の天使が姿を現した。光の冠を戴く青年。
その肌は青白く、瞳は虚無の光を宿していた。
「我が名は魂の狩人、座天使(スローン)のモア。牡羊座のムウよ。君はこのような児戯で、私の動きを止めたと思っているのですか?」
ムウの眉がわずかに動く。
「なぜ私の名を知っている?」
モアは微笑んだ。
「あなたの魂が語っているからです。魂は嘘をつかない。
あなたはアッシュの影に怯え、サガを信じきれず、そして赦せていない。
――それでも聖域を守るためと自分に言い聞かせている」
ムウの胸の奥で何かが疼いた。
「……戯言を」
声は低く、しかし震えていた。
モアは滑るように前へ進み、指先を伸ばした。
「美しい魂ほど、脆い。私はそれを愛し、狩る。」
ムウは一歩下がり、冷静に息を整えた。
「悪趣味だな。天使を名乗るなら、少しは矜持というものを持て」
「矜持?」
モアは首を傾げ、微笑を深めた。
「矜持とは、罪の言い換えですよ。私は神の命に従い、魂を刈り取るだけ。
あなたのような中途半端な信仰こそ、最も醜い」
その言葉と同時に、蝶たちが再び光を放った。
今度は網を突き破り、無数の光の刃となってムウに襲いかかる。
「来い……!」
モアはゆっくりと手を掲げた。
「では、その制御を壊してみよう」
蝶たちが再び空を覆い、幻影が形を取る。
ムウの前に、シオンの姿が現れた。
師の微笑みが、彼を見つめている。
エリス「……で、あの時の傷、まだ痛むのよ」
ヴィーナス「あなたが庇うからよ、まったくもう。母親らしくなったのはいいけど」
沙織「でも、ママ、かっこよかった!」
エリス「……ふん。母親とはそういうものだ」
ヴィーナス「ねぇ、それより沙織ちゃん、今度の戦い終わったらお祝いしましょう。
アッシュとエレナさんの戦勝ブライダルロードよ♡」
沙織「えぇっ!? そんなのあるの!?」
エリス「馬鹿なことを言うな。……だが、式は夜にしてもらう。静かなほうが好きだ」
ヴィーナス「やだ、ロマンチスト♡」
沙織「(……アッシュおじさん、逃げて)」
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真紅の少年伝説編(日本編)
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最終聖戦の戦士たち編(聖域編)