聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
善サガ「おかしいとは失礼だな。僕はごく真面目に村の発展に協力しているつもりなんだけど」
アッシュ「いやいや、サガ、最近の君、聖闘士っていうより村の図書館司書か、婦人会の顧問みたいな顔してるぞ?」
善サガ「……アッシュこそ“インフラ王”なんて呼ばれているが、それでいいのか?」
アッシュ「むしろ誇りだよ!水道も電気もネットも、パンもピザも冷たいアイスも全部僕が用意した!」
善サガ「うむ、そこは確かに助かっている。ただ――村人たちにまで漫才の相方にされるとは思わなかったぞ」
アッシュ「だって“裏人格”ネタがあれば三人でトリオ組めるじゃん!僕、ボケ担当やるから!」
善サガ「……やれやれ。だが、こうして君と騒げる日々も、悪くないな」
アッシュ「でしょ?じゃあ、読者のみんなも一緒に笑ってくれると嬉しいな!」
善サガ「うむ――それでは、どうぞごゆっくり」
アッシュ「パンとピザとアイスと友情、そして“ちょっと影のある”日常を、お楽しみください!」
(サガ視点)
この数ヶ月、僕の人生は奇妙な穏やかさに包まれていた。
ロドリオ村。かつては聖域の外れにある、ただの小さな集落にすぎなかったこの地が、今では僕にとって「帰る場所」となりつつある。
それは、アッシュという存在があってこその変化だった。
アッシュは村に根を下ろし、快適化プロジェクトの名のもと、聖域にはなかったインフラと活気を持ち込んだ。
僕は彼に請われ、「顧問」としてプロジェクトの中枢を担うことになった。双児宮に伝わる古文書や、神殿の書庫に眠る書物――本来ならば誰にも解読できなかった知識を、アッシュとともに現代の技術で蘇らせていく。
手にした成果は、日々、村と聖域を変えていった。
人々が喜ぶ姿は素直に嬉しかった。
そして何より、アッシュと共に過ごす日々が、僕の心を穏やかにした。
拳を交え、汗を流し、語り合う。
……こんなにも「素顔」でいられる時間があるのかと、不思議なほどだった。
だが、その平穏の中で、僕はひとつだけ隠していることがあった。
――僕の中に、もう一人の「自分」がいること。
もともと物心ついた頃から「影」の存在は感じていた。
けれど、鍛錬と努力で抑え込めるものだと信じてきた。
しかし、聖闘士としての責務や、改革に伴う周囲からのプレッシャーが大きくなるほど、「影」は強く、明確に意識の中に現れるようになった。
それは、時に自分とは思えぬ冷酷な論理をささやく。
「力こそが正義だ」
「弱者を救うには、効率のために犠牲を選ばねばならない」
「ためらうな。理想を貫け」
――どれも正しいようで、どこか「人」としての温度がない。
誰にも言えなかった。
教皇にも、アイオロスにも、家族にも。
正しさの中に潜む“無慈悲な自己”を、誰が受け入れてくれるのかと、諦めていた。
ある夜、鍛錬を終えた後、村外れの静かな丘でアッシュと二人並んで腰を下ろしていた。
月明かりが村の新しい街灯よりも明るく照らし、どこか異世界のような静寂が広がっていた。
僕はふと、口を開いた。
「なあ、アッシュ。……もし、君の隣に、とても冷たい“もう一人の自分”が現れたら、どうする?」
アッシュは僕をじっと見て、サングラス越しに小さく笑った。
「そいつは『スーパー合理主義モード』の君だよ。意見が過激なだけで、ちゃんとサガの一部なんだろ?」
「いや、違うんだ。あいつは……僕の中の“悪”だ。
目的のために手段を選ばず、情も捨てろと囁く。
その声を聞くと、僕自身が怖くなる。
時々、本当に自分が自分でなくなる気がして……」
自分でも、ここまで素直に口にできたことに驚いた。
アッシュは肩をすくめ、まるで科学者が現象を観察するように言った。
「それは、ストレスが極限に達したときに生じる“もう一つの人格”、いわゆる思考パターンの切り替えだよ。
病気じゃない。悪霊でもない。むしろ、責任感が強い人間ほど起こりやすい。
それに、たとえ合理的すぎる君でも、最終的に自分で選べばいい。
だから、大丈夫だよ」
――驚いた。
あっけらかんと、何でもないことのように。
けれど、どんな理屈を並べるより、その言葉は僕の心に深く沁みこんだ。
「君は、僕を怖いと思わないのか?」
アッシュは笑って首を横に振った。
「怖い?いや、むしろ信頼できるよ。だってサガは、自分の“影”にちゃんと向き合ってる。
それがどんなに冷たい声でも、全部含めて“サガ”だからさ。
――それが嫌なら、僕が隣でバカなことを言い続けてやるよ」
そう言って、いつもの調子で小石を投げてみせた。
僕は、初めて「救われた」と思った。
ずっと誰にも言えず、誰にも理解されず、ただ恐れていたもの――
それを「一部だ」と、あっさり認めてくれる者がいる。
それだけで、どれほど心が軽くなったことか。
その夜、村に戻る帰り道。
僕は心の奥底から、アッシュに対して絶対的な信頼を覚えた。
たとえいつか、僕の中の「影」が暴れそうになっても――
彼となら、きっと大丈夫だ。
その確信が、今は何より僕の支えだった。
(アッシュ視点)
僕はいま、ロドリオ村の“インフラ王”と呼ばれている――誰が呼び始めたのかは知らないけど、多分、婦人会のおばちゃんたちだ。
朝起きて顔を洗いに行けば、「アッシュさんのおかげで、水道が出るって最高ねえ!」と奥さんたちが蛇口に群がっているし、昼前にはクロワッサンの焼ける匂いが村中に漂って、パン屋のおばちゃんが「アッシュくん、これ試作品ね!」と得意げにトレイを持ってくる。午後になると、なぜか僕の部屋の前にピザの差し入れが置いてあったりして、「食べ過ぎ注意」なんて貼り紙までされてる始末だ。
「アッシュさんのおかげで冷蔵庫が使えるようになったのよ!」
「電子レンジで温めて、今日もお尻が天国よ!」
婦人会の話題はパンとトイレとお尻ばかり。
しかも最近、明らかにズボンがきつくなってきた。近代化の副作用、恐るべし……。
ネットだって、どう考えても時代錯誤な超高速回線。村の子どもたちがパソコンでゲームをしている隣で、おじいちゃんが「このYouTubeというのは落語も見れるのか」と興味津々。
「時代をガン無視してるのは、僕じゃなくてこの世界の仕様だよな?」
最近は誰も突っ込んでくれないから、自分で独り言を言うクセがついてきた。
さて、そんなロドリオ村に、僕の“顧問”として君臨しているのが、黄金聖闘士・サガ。普段は双児宮の知識の殿堂に引きこもってるイメージだけど、最近はすっかり村の図書館司書モードだ。
ある日なんか、僕の前にでっかい古文書をドンと持ってきて、「アッシュ、これ“3Dプリンター”って書いてあるが、何だ?」と目を輝かせている。
「サガ、それ説明すると一晩かかるから、また今度!」
「また今度」が二十回は繰り返されてるけど、サガは全く気にしない。
むしろ僕の部屋で“技術カタログ”を見ながら、「これはいずれ聖域にも導入すべきだ」なんて、完全に未来人の顔つきで唸ってる。
日々の鍛錬も、最初は「聖闘士らしく厳しく!」をモットーにやっていたんだけど、なぜか途中から村の子どもたちが水鉄砲を持って乱入してくるようになった。
「サガ兄ちゃんもやるー?」
「いいだろう、聖闘士として全力で相手をしてやる」
……いや、その返事、本気すぎるから。サガ、ちょっとは手加減しなさい!
僕も負けじと、小宇宙で特製アイスを作って自動販売機(令和式!)にセット。「勝者にはアッシュ印のアイスクリームだぞ!」と宣言すると、村の子どもも大人も大はしゃぎだ。
……なんだろう、ここ、ホントに聖域の近くなのか?と毎日疑問がよぎる。
そんなある晩。鍛錬のあと、村外れの静かな丘でサガとふたり、腰かけて星空を眺めていた。
村の新しい街灯よりも月明かりのほうがずっと明るい。風が心地よくて、思わず深呼吸したくなる夜。
サガが急に真顔になった。
「なあ、アッシュ……もし、君の隣に、とても冷たい“もう一人の自分”が現れたら、どうする?」
おおっと来たなカミングアウト!と内心で叫びながらも、僕は全力でギャグに走る。
「え、二人いるの?じゃあもし三人目が出てきたら、いっそバンドでも組まない?サガ&ザ・シャドウズ!」
横で吹き出しそうになるサガ。でもすぐ真剣な顔に戻って、「違うんだ」と呟く。
「目的のためなら、情も捨てろって声が、時々頭の中で……。その声を聞くと、自分が自分でなくなる気がして――怖いんだ」
僕は肩をすくめて言う。
「それは“スーパー合理主義モード”のサガだね!AIだったらすぐバグ認定だけど、人間ならそれも“味”だよ。大体さ、ストレス溜まると人格が分裂しかけるのは昭和の社畜にも多いから心配いらんて」
「そんなものなのか……?」
「病気でも悪霊でもない。たまに出る“裏モード”だと思えばいいんだよ。
怖い? 僕からすればネタが増えてむしろ楽しいくらいだけど?」
サガが呆れたように、でもだんだんと笑顔になる。
「お前、変わってるな……本気で、僕のこと怖くないのか?」
「サガはサガだろ?冷たい声が出ても、結局自分に向き合ってる。
それに――お前にもし裏人格が増えたら、漫才大会の新ネタに使うだけだよ!」
「漫才大会……ふっ、いいな。それなら、俺も“裏人格”でボケてやろうか」
「名案!じゃあ、村人の前で“悪役サガ”と“ボケ担当アッシュ”の新コンビ結成だな!」
次の日、サガは約束通り、村人の前で悪ノリ全開のボケを連発した。
「これぞ、裏人格の真骨頂!」とか言いながら婦人会のトイレ自慢にツッコミを入れ、子どもたちとアイス早食い競争まで始める始末。
僕も負けじと「やっぱり影も含めてお前はお前だな!」と、盛大なハイタッチを交わした。
その晩、サガがしみじみと呟く。
「……アッシュ、ホントお前だけは信用できる」
「当たり前だろ。僕は世界のインフラ王、友だちも全力サポートだ!次は村で漫才大会、サガの新作ネタ、期待してるからな!」
村の夜は今日も平和で、お尻もパンもアイスも絶好調。
サガと僕の友情(とネタ帳)は、まだまだ進化中なのだった。
アッシュ「ねえサガ、本当に“悪サガ”モードになると髪、黒くなるの?染めてるだけじゃないの?」
悪サガ「……ふん、馬鹿な。これは小宇宙の闇が色を変えるだけだ。薬品など必要ない!」
アッシュ「でも、村の婦人会のおばちゃんが“あの子、ヘアカラーしてるのかしら”って言ってたよ?」
悪サガ「くだらん噂を広めるな!貴様、ふざけていると本気で“ギャラクシアン・エクスプロージョン”を――」
アッシュ「やめてやめて!村のWi-Fi壊れるから!いや、でも大丈夫。どんな色になっても僕はサガを友だちだと思ってるよ」
悪サガ「……っ、バカめ。貴様のそういうところが、一番厄介なんだ……」
アッシュ「ははっ、友情に色は関係ないからね!これからもよろしく、サガ!」
悪サガ「……まあ、せいぜい“色褪せない”友情とやらを証明してみせろよ」
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