聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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伏魔殿に響くは、師弟の誓いと理の鐘――!
ムウは魂の鎖を断ち、師を超えずして共に在る覚悟を示す!
一方その頃、乙女座シャカは理の極みに到り、天使をも呑み込む天舞宝輪を展開!
星屑が祈りを包み、光が闇を浄めるとき――
次回、『輪廻の鎖、星屑の祈り』!
人の魂は、神よりも強く輝けるか!?


輪廻の鎖、星屑の祈り

同時刻。

伏魔殿の別の回廊では、黄金の光と漆黒の閃光が交錯していた。

シャカが放った魑魅魍魎の群れを、エリゴルは聖魔蟷螂拳の鋭い斬撃で次々に切り裂いていく。

切り裂かれた亡者の影は霧散し、再び闇の中に溶けていった。

 

「ほう、我が呼び出した魑魅魍魎が恐ろしくはないと見える。

ただの力任せの男ではないようだな」

 

シャカの声音は平坦だった。

挑発でも嘲笑でもなく、事実を述べるだけの口調。

それが、かえってエリゴルの神経を逆撫でした。

 

「恐ろしいものか!」

エリゴルは叫び、鎌を振り上げた。

「亡者の戯れなど、我が拳の前では児戯に等しいわ!」

 

一撃。

鎌が風を切り、闇が裂ける。

残光が回廊の石壁をえぐり、柱が粉砕された。

衝撃波の中で、シャカは微動だにしない。

 

「その拳筋……天闘士崩れかと思っていたが、それだけでもないようだ」

 

「なに……!? 天闘士を……なぜ貴様が知っている!」

 

エリゴルの表情が一瞬揺らいだ。

鎌の刃先がわずかにぶれる。

その隙を見逃さず、シャカの小宇宙が膨張した。

 

「このシャカ、幼い頃より神仏との対話を欠かしてはおらんのでな。

天界の噂話の一つや二つ、耳に入ってくることもある。

ちょうど良い。その天界の理を外れた汚れた魂ごと、このシャカが浄化してやるとしよう」

 

「できるものならばな!!」

 

エリゴルの両腕が光に包まれ、双鎌が形を変える。

それは刃ではなく、流体のような光の帯となり、空間そのものを切断する武器に変わっていた。

 

「聖魔蟷螂拳!!」

 

二条の光が回廊を貫く。

空間がねじれ、空気が悲鳴を上げる。

刃が触れた瞬間、そこにあった全てが分解され、塵へと変わっていく。

 

だが――その中心で、シャカは穏やかに目を閉じたままだった。

衣の裾が揺れるだけで、一歩も退かない。

 

「……これが力か」

その呟きは、感嘆にも侮蔑にも聞こえた。

「だが、力だけを信じる者は、いずれ自らの拳で滅ぶ」

 

黄金の光が、静かに漏れ始めた。

「――理なき拳は、暴風のように荒れ狂うが、結局は空に溶ける。

我が掌に宿るのは空そのものだ」

 

次の瞬間、シャカの瞳が開いた。

瞳孔が黄金に輝き、無数の曼荼羅がその奥に浮かび上がる。

世界が静止したかのように、光と音が消える。

 

エリゴルは一瞬で悟った。

「……これは、精神の隔絶……!?」

 

周囲の空間が変質していた。

回廊の壁が消え、代わりに無限に広がる虚空が現れる。

そこには無数の仏陀と天使の残影が漂い、沈黙のまま両者を見下ろしていた。

 

「ここは……どこだ……!」

 

「貴様が斬り裂いたものは、空間ではなく己の魂だ」

シャカの声がどこからともなく響く。

「我が小宇宙は、現実と心を同一にする。

――天界も地獄も、我が掌の中にある」

 

エリゴルは叫んだ。

「戯言を! この拳は、神の力の一端を宿している!」

鎌が再び閃光を放ち、仏陀の像を貫いた。

だが、像は崩れない。

代わりに、エリゴルの右腕が裂けた。

 

「なっ……!?」

 

「因果を切ったつもりで、自らの因果を斬ったのだ」

シャカの声が淡々と響く。

「お前の拳が裁いたものは、常に己である」

 

エリゴルは怒号を上げ、再び突進した。

その速度は光を越え、翼が炎を撒き散らす。

「黙れ! 貴様ごとき人間が、天界の理を説くか!」

 

シャカがゆっくりと掌を合わせた。

「人間だからこそ、理を知ろうとする。神にはできぬことだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ムウの放ったスターライト・エクスティンクションが、凄まじい光の渦となってモアを飲み込もうとしていた。

伏魔殿の空間が歪み、光の奔流が轟音を立てる。

だが、その中心でモアは不敵に笑っていた。

 

「所詮、無駄なことですよ」

声は静かで、しかし冷たい確信に満ちていた。

「なぜ私が魂の狩人と呼ばれるか……その身で味わうといい。――デモン・ファンタジア」

 

その瞬間、光が一転して闇に変わった。

耳をつんざく振動が止み、代わりに優しい風の音が聞こえる。

ムウは息を呑んだ。

 

目の前に広がっていたのは、緑豊かな山と青い空。

ジャミール――彼が生まれ育ち、師と共に過ごした聖域以前の地だった。

そして、滝のほとりに、一人の男が立っている。

黄金の髪、穏やかな微笑。

「……シオン様!」

 

ムウの声が震えた。

足が勝手に前へ出る。

幻だと理解していても、理性では止められなかった。

「こ、ここは……ジャミール!? あそこにいるのは……我が大恩ある師、シオン様!」

 

シオンの幻影は静かに振り返る。

その目には、かすかな悲しみの色が宿っていた。

「ムウよ。お前はなぜ、サガと共に戦う? あの男は、この私を殺めた裏切り者。

……まさか、お前も私を殺すのか?」

 

その問いは、胸の奥に突き刺さった。

ムウは慌てて首を振る。

「いえ! 決してそのようなことは! 私は、師をお慕いしております!」

声は震え、言葉が喉の奥で詰まる。

信じたい。だが、幻影はそれを拒むかのように、冷たい視線を向けてきた。

 

「ならばなぜ、裏切り者と肩を並べる? お前の拳は、誰のために振るわれている?」

 

ムウの心が揺らぐ。

「私は……」

答えが出ない。

その瞬間――

 

現実の伏魔殿では、モアが冷酷に微笑んでいた。

「心の隙を突くことこそ、魂を狩る極意」

 

光の蝶が再びムウを取り囲む。

モアの腕が滑るように動き、光速の一撃が放たれた。

「――終わりです、牡羊座のムウ」

 

次の瞬間、ムウの胸を貫いたのは、幻ではなく現実の拳だった。

「ぐああああああああ!」

 

轟音と共に、ジャミールの風景が砕け散る。

幻影の滝が崩れ、光の粒となって消えた。

ムウの身体は伏魔殿の冷たい床に叩きつけられ、鮮血が飛び散る。

 

「……あ、あぁ……」

息をするだけで激痛が走る。

胸を貫かれた感覚は、肉体よりも魂を焼くようだった。

 

 

シャカが、両の瞳を見開いていた。

「エリゴルよ。貴様の魂は、輪廻の輪から外れ、魔に堕ちた。

 ならば、私が送るべき場所は六道ではない。……ただ、無に還すのみ!」

 

彼の掌が組まれ、天地が震えるほどの光が放たれる。

「――天魔降伏!!」

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ……はあっ……!」

吐き出された血が、黄金聖衣の胸部を赤く汚す。

呼吸のたびに、胸の奥で焼けるような痛みが走った。

 

「おのれ……悪魔め……我が師の幻で、この私を騙そうとは……!」

ムウの声は怒りよりも、悔しさに震えていた。

 

対するモアは、微動だにせず微笑を浮かべていた。

「ムウ。これは単なる幻影ではないのです。

君の心が作り出した、一番大切で、一番弱い場所」

その声は柔らかく、まるで慈悲深い導師のようだった。

 

「幻影であろうとも、敬愛する師に拳を向けることなど、君にはできない。

それは君が、君自身の手で自分の一番大切な心を打ち砕くことになるからです」

 

ムウは歯を食いしばった。

「戯言を……!私はもう惑わされはしない!」

 

モアは首をかしげ、静かに続けた。

「では問おう。君はシオンを超えたと言えるのですか?

あの師を越え、彼を討ち、彼の理を否定する覚悟があるのですか?」

 

ムウの表情が固まる。

それは、誰よりも避けてきた問いだった。

 

「答えられないのですね。ならば、私がその鎖を断ち切ってあげましょう」

 

モアの瞳が不気味に光った瞬間、世界が音もなく裏返る。

伏魔殿の壁も階段も、闇に溶けるように消え失せた。

次にムウの目に映ったのは、懐かしい故郷――ジャミール。

吹き抜ける風が心地よく、鳥の声さえも聞こえる。

その光景は、あまりに穏やかで、あまりに残酷だった。

 

「……またか」

ムウは唇を噛んだ。

「この幻で私を縛るつもりか」

 

そのとき、滝のほとりに、見慣れた背中が見えた。

銀白の髪を揺らし、優しい声が風に混じる。

「ムウよ」

 

ムウの全身が強張った。

「……シオン様!」

 

声は震え、理性が遠のく。

分かっている。これは幻だ。だが、心が反応してしまう。

 

シオンの幻は、ゆっくりと振り向いた。

その瞳は深い悲しみに濡れている。

「ムウ……お前は、なぜサガと共に戦う?

あの男は、私を殺した裏切り者。お前まで、私を殺すのか?」

 

ムウは即座に否定した。

「いえ!決してそのようなことは!私は、師をお慕いしております!」

 

シオンは微笑んだ。

だが、それは慈愛ではなく、絶望を孕んだ笑みだった。

「では、私を守ってみせよ。あの男を討て。

お前が本当に私の弟子ならば――迷う理由などあるまい」

 

ムウの心臓が強く跳ねた。

サガを討て。

その言葉が脳裏で反響する。

指先が震え、膝がわずかに揺れた。

 

「……違う……私は……!」

叫びかけた瞬間、幻のシオンが歩み寄る。

その歩幅は静かだが、確実に心を侵食していく。

「ムウ。お前は弟子であることに酔っている。

私を敬愛することで、自分の正義を保っているだけだ」

 

ムウは後ずさった。

そのとき、現実世界でモアが嗤う。

「ほら、あなたの敬愛が、あなたの足枷となった」

 

同時に、現実のムウの身体を、光の刃が貫いた。

黄金聖衣の胸部が砕け、マスクが弾け飛ぶ。

「ぐっ……あああああ!」

 

壁際まで吹き飛ばされたムウは、膝をつきながらも立ち上がろうとした。

「……まだ、終わっては……」

 

モアは冷たく言い放つ。

「いいえ、終わりです。あなたは自らの記憶に敗れた。

シオンを超えられなかったあなたに、未来などない」

 

 

 

 

 

 

 

砕けた石床の上で、ムウは血を滴らせながら、それでもゆっくりと立ち上がった。

黄金聖衣はひび割れ、装甲の一部は粉々に砕けている。

それでも、その瞳の奥に宿る光は消えていなかった。

 

「モアよ……確かに、私の心は弱い」

ムウは吐息を混ぜながら、言葉を紡いだ。

「師を殺めた者たちへの憎しみと、彼らが築いた平和を認める心……その狭間で、私は迷い続けていた」

 

モアは薄く笑い、天を仰ぐ。

彼の周囲に無数の光の蝶が舞い上がり、鈍い鐘の音が響いた。

「ならばどうするのです。これはアンジェラスの鐘。

キリストの受胎を告げる聖なる音にして、君の葬送曲となる」

 

鐘の音が響くたびに、伏魔殿の空気が歪む。

光と闇が入り混じり、ムウの足元の床が溶け始める。

聖音の波動が彼の身体を包み、魂を崩壊させようとしていた。

 

ムウはその中で、静かに目を閉じた。

心の奥で、懐かしい風を感じる。

故郷ジャミールの乾いた空気。

夜空を見上げながら、師と共に語り合ったあの日々。

星々の輝きを、誰よりも愛していた師の姿。

 

――民を愛し、地上の正義を何よりも重んじた男。

それが、ムウの知るシオンだった。

 

「(師よ……今の聖域をご覧になったら、貴方はどう思われるか)」

心の声が、彼の中で静かに響く。

「(嘆くことはあっても、決して否定はしないはずだ。

そこに、私が守るべき民の笑顔と、活力と、向上心があるのなら……!)」

 

その瞬間、ムウの小宇宙が変質した。

炎のように荒ぶるのではなく、澄みきった水のごとく静謐で、それでいて限りなく高い波濤へと昇華していく。

 

モアが眉をひそめる。

「この気配……何だ、これは……!?」

 

ムウがゆっくりと顔を上げた。

その瞳はすでに、戦士のものではなかった。

慈悲と覚悟を湛えた、師と同じ光を宿していた。

 

「我が小宇宙よ……極限まで高まれ。

冥界におわす我が師まで届け!」

 

ムウの全身を黄金の光が包み込む。

その輝きは聖域の星空にも似て、伏魔殿の闇を押しのけていった。

 

突如として、モアの背後に揺らめく影が現れる。

それはムウの記憶が形を取った幻――シオンの姿だった。

 

「……お前も知っているはずだ」

幻影のシオンは、穏やかな声で言った。

「この星屑に飲まれたものは、生きては戻れぬ。

だが、それでも征け、ムウ。

お前は、私の自慢の弟子だ」

 

ムウの喉が詰まり、涙がにじむ。

「……シオン様……!」

 

その瞬間、ムウの両腕が動いた。

全ての感情を昇華した動きだった。

師への憎しみも、迷いも、すべてを光に変えて放つ。

 

「喰らえ、モア!

我が師に捧ぐ――スター・ダスト・レボリューション!!!」

 

星々の奔流が生まれる。

無数の恒星が一斉に爆ぜるような光景だ。

伏魔殿の空が裂け、階段ごと空間そのものが震え上がる。

光がモアの身体を飲み込み、逃げる暇すら与えない。

 

「う……うわあああああ!!」

モアは絶叫した。

その身体が星屑の中に飲み込まれながらも、必死に声を上げる。

「君の……君たちの闘志は……一体どこから……!」

 

ムウは答えなかった。

ただ、光の中心で静かに目を閉じていた。

師の笑顔が、心の奥で優しく頷いている気がした。

 

やがて光が収まり、伏魔殿の空間が静寂を取り戻す。

モアの姿は消え、星の欠片のような粒子が舞い散っている。

ムウはよろめきながらも立ち尽くしていた。

血に濡れた胸から、淡い光がまだ漏れている。

 

「……これでいい。師よ……私は貴方を超えるのではなく、共に在りたかったのです」

 

ムウは膝をつき、床に手をついた。

そこに残るのは、自らの血と、モアの残した灰だけ。

 

遠くで、轟音が響く。

伏魔殿全体が振動し、天井の亀裂から光が漏れ落ちる。

 

ムウは目を細め、その方向を見上げた。

「シャカ……アッシュ……サガ……。私もすぐに――」

 

言葉を終える前に、膝が崩れた。

しかし、倒れる瞬間も、ムウはその身を前へと傾けたまま立とうとしていた。

その姿は、まるで師の幻影に敬礼するかのように。

 

「……師よ。貴方の教えが、今も私を導いています。

 だから私は恐れません。

 例えこの命が尽きようとも――この光は消えない」

 

静かな微笑を浮かべたまま、ムウの小宇宙が薄れていった。

その身体の周囲に、淡い星屑が舞い上がり、やがて天井の裂け目から上空へと流れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伏魔殿の一角。

光も届かぬ漆黒の回廊で、乙女座のシャカと力天使エリゴルの激闘は続いていた。

空間そのものが歪み、石の階段がひび割れては再生し、崩壊と再構築を繰り返している。

二人の放つ小宇宙が、この領域の理を上書きし続けているのだ。

 

エリゴルの身体からは黒炎のような闘気が吹き上がっていた。

「――聖魔蟷螂拳!!」

 

瞬きする間もなく、無数の刃がシャカを襲う。

その全てを見切ったはずのシャカの頬に、細い一筋の線が走った。

鮮血が頬を伝い、床へと落ちていく。

 

シャカは指で血を拭い、静かに言った。

「……まさか。このシャカに血を流させるとはな。実に興味深い」

 

エリゴルは嗤った。

「フハハハハ!見たか!神に最も近い男も、我が前では赤子同然!

この拳の速さ、もはや神の領域だ!」

 

自信に満ちたその声は、伏魔殿の天井に反響した。

しかし、次の瞬間、エリゴルの笑い声が途切れた。

筋肉が強張り、身体が動かなくなる。

 

「……な、何だ? 身体が……!」

 

シャカの掌が静かに開かれていた。

彼の周囲に、金色の曼荼羅が浮かび上がる。

複雑な紋様が無限に回転し、仏の印相を象る光の輪が空間を満たす。

 

「ここが貴様の終着点だ」

その声は、祈りのように穏やかで、それでいて絶対的だった。

「乙女座シャカ最大の奥義――天舞宝輪。

これは攻防一体の戦陣。一度この中に入れば、もはや逃げることも、防ぐこともできぬ」

 

エリゴルの瞳に恐怖が浮かぶ。

「ぐっ……! これが……天舞宝輪……!」

 

「そうだ。貴様の小宇宙を、あらゆる感覚ごと封じる。

その魂がどれほど抗おうとも、この光輪の理からは逃れられん」

 

シャカの声が響くたびに、曼荼羅の光が強くなる。

「消えよ、エリゴル。――第一感、剥奪」

 

エリゴルの世界から視覚が消えた。

光が存在しない。闇ではない。ただ、何も見えない虚無。

 

「ぐううっ! 何も……見えん!?」

 

「第二感……聴覚、剥奪」

音が消えた。自分の鼓動も、声も、風の振動もない。

 

「第三感……嗅覚、第四感……味覚。第五感……触覚」

 

一つ一つの言葉と共に、五感が削ぎ落とされていく。

エリゴルは悲鳴を上げたくても声が出ない。

身体は存在しているはずなのに、感覚がない。

 

それでも彼は、闇の中で小宇宙を燃やした。

魂だけが燃えるように、無限の力を求めて。

 

「まだだ! 五感を失おうと、我が小宇宙は……聖魔天使の小宇宙は、無限に高められる!!」

 

その闇の中で、シャカは静かに目を閉じた。

「まだ動くか。……哀れな。輪廻の理を外れた者ほど、執着に囚われる。

力に酔い、神に背きながら、なお天にすがる。滑稽だ」

 

沈黙。

シャカの周囲の光輪が、さらに広がり、伏魔殿全体を包み込んだ。

黄金の輝きが天井を突き抜け、地上の方角へも届くほどだった。

 

「ならば、その輪廻から外れた魂ごと、昇華してやろう」

シャカが手を合わせた。

「舞えよ、宝輪――」

 

一瞬で、世界が光に染まった。

視覚を失ったエリゴルでさえ、それを感じ取った。

全ての存在を焼き尽くすほどの圧倒的な光。

 

「バカな! この俺が……このような場所で……!」

かすれた声が、光の中に溶けた。

 

エリゴルの身体は塵となり、魂の残滓すら残さず、宝輪の中へ吸い込まれていった。

その瞬間、曼荼羅はゆっくりと閉じ、静かに消滅した。

 

あたりには再び、静寂が訪れる。

ただ、崩れた瓦礫の上に、シャカが一人立っていた。

金色の髪が静かに揺れ、頬の血が乾き、跡を残している。

 

「……終わったか」

 

小さく呟く。

 

シャカは瓦礫の間に散った光の粒を見つめ、手を合わせた。

「迷える魂よ。次の輪廻では、己の力を誇ることの虚しさを知れ」

 

彼の掌の間に、金色の光が一つ生まれ、それがやがて霧散していった。

 

やがてシャカは、深く息を吐き、背を向けた。

階段の上方から、遠くで響く別の戦いの気配が聞こえる。

その先にルシファーがいる。

 

「……さて、私も行こう。

 まだ、この混沌の理に決着をつけねばならん」

 

光の欠片が、彼の足元に吸い込まれるように舞った。

 

「人の罪を浄めるのは神ではない。

 人が己の愚かさを認めるとき、初めて救いは訪れる。

 ……それが、地上の理というものだ」

 

その言葉を最後に、乙女座の黄金聖闘士は闇の中へと消えた。

 




ヴィーナス「……あの、今回のシャカさん、ちょっと神様すぎません?」

エリス「フッ。理屈の化身だな。愛想というものを知らん」

翔子「でも、ムウさんのほうは泣けましたね……共に在りたかったって……」

ヴィーナス「ねぇねぇ、シャカさんにもああいう感情表現、教えたほうがいいんじゃない?」

エリス「無理だ。あの男、呼吸するより説法が先だ」

翔子「でもね、最後の『人が己の愚かさを認めるとき〜』ってセリフ、あれ、アッシュ君が好きそうなやつですよね」

ヴィーナス「あら、じゃあ録音して贈ってあげましょう♡」

エリス「……やめろ。面倒が増える」

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  • 真紅の少年伝説編(日本編)
  • 最終聖戦の戦士たち編(聖域編)
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