聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
伏魔殿を震わす黄金と白銀の閃光!
双頭の蛇が咬み、蟹がその毒を抱きしめる!
彼女の名は、蟹座のエレナ。
死を恐れぬ者だけが掴む命の輝きを、今――冥界に刻む!
『セインティア翔編 ~明けの明星~』
「魂を抱いて逝け、黄金の乙女」
見届けよ、女神の使徒たちが描く生と死の舞踏を!
伏魔殿の大階段は、崩壊と再生を繰り返していた。
天井から滴る闇の液体が、まるで血のように階段を染める。
その中心で、二つの小宇宙がぶつかり合い、周囲の空間そのものを焦がしていた。
光速の攻防の末に、エレナとアシタロテは互いに距離を取り、静止する。
両者とも呼吸は荒く、黄金と白銀の鎧には無数の傷が走っている。
それでも、エレナの瞳には恐怖の影はなく、アシタロテの瞳には焦燥が宿っていた。
「小賢しい女狐め……!」
アシタロテの声が響く。怒りに染まったその声には、焦りが滲んでいた。
「光速の動きにはついてこれるようだが、それもここまでだ。
我が真の奥義を受け、その魂ごと散るがいい!」
彼の小宇宙が爆発的に膨れ上がる。
純白の聖魔衣が形を変え、背から蛇のような双頭が伸びる。
天使の面影は消え失せ、そこに立つのは「双頭の白蛇王」と呼ぶにふさわしい異形だった。
その瞳が左右に裂け、蛇の舌が鎌首をもたげるように揺れる。
「双頭の白蛇王、ケルビムのアシタロテ最大の拳――」
空気が震え、伏魔殿全体が軋む。
「喰らえ! キラーファングド・コブラー!!」
二条の闇の光が螺旋を描き、獲物を噛み砕くように迫ってくる。
逃げ場など存在しなかった。空間そのものが“牙”となって閉じる。
だが、エレナは避けなかった。
ただ静かに立ち尽くし、来るべき衝撃を受け止める姿勢を取った。
――ゴォォォォォン!
凄まじい衝撃音と共に、アシタロテの拳が黄金聖衣を貫通した。
光が弾け、金の破片が舞う。
エレナの腹部に、深々と拳が突き刺さり、赤い液体が滴り落ちた。
鮮血が弧を描いて宙に舞う。
階段に散ったその血は、黄金の装甲の上に赤い線を刻み、鈍い輝きを放った。
アシタロテは拳を押し込み、ゆっくりと口角を上げた。
「フン……女だてらによく頑張ったが、これで勝負が見えたな」
彼の声は余裕に満ちていた。
「我が拳をその身で受け止めるなど、愚の骨頂よ」
だが、その余裕は数秒で崩れた。
腕を引き抜こうとした瞬間、異様な抵抗感が走る。
抜けない。
アシタロテは眉をひそめ、力を込める。
それでも、腕は動かない。まるで鋼鉄の枷に挟まれたかのように。
「……なに!?」
目の前のエレナが、血に濡れた唇を吊り上げた。
獰猛な笑みを浮かべながら、かすれた声で言葉を返す。
「それは、どうでしょうね」
アシタロテの顔が歪む。
「馬鹿な……腕が抜けん……! 貴様、その身体で……!」
エレナの呼吸は荒い。だが、その目はまだ光を失っていない。
「ええ。この蟹座の黄金聖衣ごと……私の腹筋と背筋で、あなたの腕を捕らえました」
その声には痛みよりも、確信があった。
「我ながらひどい賭けですが……あなたのほうが速い。なら、避けるのは諦めて、捕まえればいい」
アシタロテの腕から、鈍い音が響いた。
黄金聖衣の内部で、エレナの筋肉が硬直している。
全身の神経が限界を超えて収縮し、彼女は文字通り、相手の腕を挟み潰していた。
「無茶を……する……!」
アシタロテが呻く。
その声には、驚きと――僅かな敬意が混じっていた。
「戦場では、どう生きるかより、どう死ぬかが問われるのですよ」
エレナは血を吐きながらも、笑っていた。
「そして、蟹座の聖闘士が死ぬときは……いつだって冥界を抱えて逝くものです」
◆
アシタロテは息を荒げながら嘲る。
「まだ抗うか……この傷で……!」
その声には焦りがあった。掴まれた腕から、尋常ではない熱と圧力が伝わってくる。
エレナの小宇宙が燃え上がっていた。
炎ではない。冷たいはずの光が、燃焼という言葉にふさわしい激しさで彼女の全身を包んでいる。
「……祭壇星座の聖闘士としてではなく……アッシュに仕える一人の女として」
声はかすれていた。
「いえ……この聖衣を貸してくれた友の信頼に応えるために!」
その瞬間、彼女の瞳が蒼く輝いた。
その光は炎ではなく、氷のように澄み切った光。
静謐な熱が、彼女の周囲の空間を揺らす。
アシタロテが息を呑む。
「貴様……何を……!」
「蟹座のエレナ、最大の奥義!」
その宣言と共に、伏魔殿の空間に異変が起こる。
足元から無数の光が立ち上がった。
それは魂の光。聖域で散っていった数多の聖闘士たち――英霊たちの魂だった。
光の粒は静かに回転し、彼女の背後に集結していく。
無数の声が重なり、祈りのような低い響きとなって空間を満たした。
――我ら、聖域の守護者。
――魂は死なず。誇りは滅びず。
「積尸気ーーーー転霊波――!!!!!」
轟音が伏魔殿全体を貫いた。
零距離から放たれた冥界波の奔流が、アシタロテを包み込む。
その瞬間、天井の聖魔紋章がひび割れ、内部から光が爆ぜた。
「ぐああああああっ! 馬鹿な……! 我は……堕天使ルシファー様に仕える聖魔天使……! こんな、人間の想念ごときに……!」
アシタロテの叫びが、光の中に溶けていく。
その身体が内側から崩壊していた。
白い翼が砕け、粉塵が光に変わり、最後の瞬間に彼の表情が穏やかに変わる。
「……これが……人間の……意志……か……」
光が爆発し、彼の姿は完全に消滅した。
残されたのは、黄金の光に包まれたエレナ一人だけ。
全身を蝕む痛みの中で、彼女はゆっくりと腕を離す。
砕けた拳の断片が床に転がり、金属音を立てた。
「……終わった……?」
息を整えようとしても、肺が動かない。
血の気が失われ、視界の端が白く霞む。
壁に背を預け、エレナはずるずると座り込んだ。
腹部の傷は深く、聖衣の裂け目から血が滲み出ている。
指先に力が入らない。
それでも、彼女の口元には微笑があった。
「……これで……アッシュのロマンには……付き合えた、かしら……」
声は掠れていたが、その笑みは穏やかだった。
彼女の頭の中に、アッシュの横顔が浮かぶ。
不器用で、理屈っぽくて、それでも誰よりも情の深い男。
彼の言葉が思い出される。
――死ぬ時くらい、格好つけてみせろ。
エレナは目を細めた。
「……あなたらしいわね……」
肩で息をしながら、彼女は血に濡れた床を見下ろす。
そこには、英霊たちの残光が漂っていた。
それらは、静かに彼女を見守るように揺れている。
「……デスマスク……ありがとう。あなたの聖衣、役に立ちましたよ」
黄金聖衣が微かに反応するように、胸部の紋章が光を放つ。
その光が、彼女の傷口を包み込み、血の流れを一時的に止めた。
エレナは天井を見上げる。
裂け目の向こう、光がわずかに差し込んでいる。
遠く、仲間たちの小宇宙が戦場を照らしているのがわかる。
――サガ、ムウ、シャカ、アッシュ……みんな……行って。
「……これで、少しは……役に立てたわね」
彼女の声が途切れ、静寂が戻る。
薄れゆく意識の中で、手が無意識に胸元を探る。
そこには、かつてアッシュから渡された小さなペンダントがあった。
今はそれを、彼女は握りしめた。
――アッシュ。
――あなたが見ていた未来は、きっと私たちが繋いでいく。
心の中でそう呟き、彼女は最後の微笑みを残した。
「……早く……止血しないと……意識が……」
声は誰にも届かない。
小宇宙の光がゆっくりと弱まり、彼女の瞳から輝きが消えていく。
響子「うわぁぁ……エレナさん、ガチでやばかったわね。あんな抱きつき方、婚活どころじゃないわよ!」
ヴィーナス「ふむ。あれは愛の形の一種ね。命と命を重ね、死をも恐れぬ抱擁――それを人は、ロマンと呼ぶのよ」
響子「いや、女神的にそれOKなの? 死に際に『ロマンには付き合えた』って言うの、完全にヒロインムーブなんだけど!」
ヴィーナス「……愛は、時に死よりも深い。だがね、響子。あの娘ほど綺麗に逝ける者は少ないわ」
響子「なんか泣かせないでよ……! もう、まだ死んでないんだからね!」
ヴィーナス(微笑)「ふふ、そう願うのも人の愛よ。美しいわね、22歳のくせに」
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真紅の少年伝説編(日本編)
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最終聖戦の戦士たち編(聖域編)