聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
伏魔殿の空、崩れ落ちる理の階段!
天を嘲る堕天使ベルゼバブ、その翼が人の夢を裂くとき――!
知と叛逆を掲げる男、アッシュ!
仲間の想いとメロンソーダを胸に、神をも越える光を放つ!!
「天を撃つ者、アッシュ=ロマン」
見よ! 理を笑う者こそ、真の英雄なり!!
上層での戦いにより崩れかけた構造体は軋み、天井の裂け目からは光と闇が混じり合った旋風が吹き荒れている。
その中心で、二つの影が激突していた。
黄金の光と漆黒の翼。
アッシュとベルゼバブ――それは知と傲慢の象徴同士の戦いだった。
互いに血を流しながらも、二人は視線を逸らさない。
呼吸のたびに床の岩盤がひび割れ、小宇宙の圧力が空間を歪めていく。
ベルゼバブが先に動いた。
「小賢しい文官め、ここまで粘るとはな」
その声には怒りではなく、楽しげな響きがあった。
「だが、それも終わりだ。我が翼は天と地、その全てを支配する。
貴様のような凡愚が、どれほど知略を巡らせようと、神の叡智には届かぬ!」
黒い翼が大きく広がる。
次の瞬間、伏魔殿の空間が唸りを上げた。
「喰らえ!お前を地獄へ送る聖なる死の翼――ガルーダ・ヘル・ウイング!!」
翼が振り抜かれた瞬間、無数の真空の刃がアッシュを取り囲んだ。
それは大気の分子そのものを切断する殺傷波であり、逃げ場のない死の渦だった。
しかし、アッシュは動かなかった。
脚をわずかに開き、掌を天と地に向けたまま、微動だにしない。
「空がなんだ」
冷たい声が響いた。
「俺の仲間たちは、大地も宇宙も動かしてきたぞ」
足元の床が光り始め、黄金の円陣が展開する。
「天と地より挟まれるがいい――タイタンズノヴァ!」
地底から吹き上がるように大地のエネルギーが爆発した。
同時に、頭上の虚空が裂け、星々の輝きが流星の雨のように降り注ぐ。
「そして――プレアデスノヴァ!!」
星と大地が一点で交わり、巨大な閃光となってベルゼバブを直撃した。
轟音。
風圧で階段の側壁が砕け、瓦礫が飛び散る。
「ぐううううっ!! 貴様は……俺の空を!」
ベルゼバブが片膝をつく。
だがすぐに立ち上がり、獣のように笑った。
「面白い……人間のくせに、天を撃つとは!」
アッシュは口の端を上げた。
「空飛ぶ蝿には、それなりの殺虫剤を使うさ」
黄金の光が再び集束する。
「スターダスト・レボリューション!!」
星屑の奔流が放たれ、ベルゼバブの正面を撃ち抜く。
しかし、堕天使の身体はそれを掻き消すように動いた。
「小賢しい!」
ベルゼバブの声が雷鳴のように響く。
「その程度の星屑、我が速さの前では無意味!!
◆
天井の裂け目から落ちる瓦礫が光を反射し、空気中の粉塵が閃光のように散る。
聖衣の装甲はすでに半壊し、肩の装飾は欠け、胸のプレートには深い裂傷が走っている。
対するベルゼバブの聖魔衣も同様だった。
白銀の装甲はひび割れ、片翼は根元から折れ、彼の口元には黒い血が滲んでいた。
両者の間に言葉はない。
呼吸音と、足裏で砕ける瓦礫の音だけが、戦場に響いていた。
先に動いたのはアッシュだった。
拳を握ると同時に、左腕から冷気が走る。
「……ダイヤモンドダスト!」
凍てつく白光が吹き荒れ、周囲の空気が瞬時に凍結する。
ベルゼバブは体をひねって回避を試みたが、その脚に氷が絡みついた。
一瞬、動きが止まる。
「今だ……!」
アッシュが地を蹴る。
右腕に光が収束し、刃のような輝きが形成された。
「エクスカリバーッ!」
黄金の軌跡がベルゼバブの胴を薙ぐ。
だが、命中の寸前にベルゼブブの瞳が光った。
「遅い!」
彼の身体が光速の残像と化し、アッシュの間合いをすり抜けた。
直後、背後から衝撃が走る。
ベルゼバブの拳が、アッシュの背中を叩きつけていた。
「ぐっ……!」
肺の中の空気が一気に吐き出され、アッシュは前のめりに崩れる。
床に激突した瞬間、瓦礫が跳ね上がった。
ベルゼバブは追撃をかけず、距離を取って構えた。
その目には油断も、哀れみもない。
ただ、敵を完全に殺すという冷徹な意志だけが宿っていた。
「貴様のような人間が神々に歯向かうから、世界は歪む。
その存在自体が矛盾だ。滅ぶべきだ、アッシュ!」
アッシュは痛みに耐えながら立ち上がる。
血を吐き、口元を拭い、低く笑った。
「……それはお前が決めることじゃない。俺は俺の意志で立っている。
矛盾だろうと、非合理だろうと――それが人間ってやつだ」
再び両者の小宇宙が高まる。
翆玉と漆黒の光が混じり合い、伏魔殿の階段全体が振動する。
互いの間合いを見極め、わずかに動く。
空気が、緊張に耐えきれず裂けた。
「行くぞ!!」
「来い!!!」
次の瞬間、二つの光が衝突した。
拳と拳、足と足、膝と肘――すべてが光速で交錯する。
一撃ごとに衝撃波が走り、床石が砕け、天井からの光が乱反射する。
ベルゼバブが低空から飛び上がり、翼の欠片を槍のように射出する。
「ガルーダ・スラスト!!」
それをアッシュが正面から受け止め、拳で砕いた。
粉塵が視界を遮る。
「これで終わりだあああああ!!!」
ベルゼバブが叫び、拳を突き出した。
アッシュもほぼ同時に構えを取る。
(……避けない。避けては勝てない。
お互いにもう防御は残っていない。なら、最後は拳だ)
二人の拳が、同時に軌道を描いた。
光速を超える二つの閃光が交錯する。
「「はああああああっ!!!」」
直後、轟音が伏魔殿全体を揺るがした。
爆発的な衝撃波が階段をえぐり、残っていた壁が一気に崩れ落ちる。
両者の拳が、互いの腹部に深々と突き刺さっていた。
衝撃で空気が抜け、二人とも同時に血を吐く。
そのまま両者は反発し合うように吹き飛び、床に叩きつけられた。
「……ぐっ……!」
アッシュが膝をつく。
息が荒く、視界がぐらつく。
ベルゼバブも同様に、片膝を立てながら苦しげに笑った。
「……悪くない……人間の拳にしては、重いな……」
アッシュは答えず、拳を床に押しつけて体を起こす。
「お前も……悪くない。
だが……俺は……ここで倒れるわけにはいかないんだ」
ベルゼバブの瞳が細められる。
「アテナか……それとも、そのロマンとやらか?」
アッシュは唇を歪めて笑った。
「どっちでもない。
……ただ、仲間を信じている。それだけだ」
沈黙。
二人の呼吸が重なる。
血の匂いが濃く、空気は熱を帯びていた。
ベルゼバブが静かに立ち上がる。
「なら、立て。
最後まで立ち、拳で語れ。
それが人間のやり方なんだろう?」
アッシュもまた立ち上がる。
全身から血が滴り落ちる。
聖衣の破片が床に落ち、金属音を立てた。
再び、二人は向かい合った。
戦いはまだ終わっていない。
◆
アッシュとベルゼバブは、互いに満身創痍のまま立っていた。
拳は割れ、血は乾き、呼吸のたびに肋骨が軋む。
アッシュの体は限界だった。
白銀聖衣の輝きはすでに失われ、左肩からは血が滴っている。
彼の目の前で、ベルゼバブがゆっくりと翼を広げた。
片方は焼け焦げ、もう片方は血のように黒く染まっている。
「……終わりだ、アッシュ。もはや立つことすら奇跡だろう」
堕天使の声は冷たく、どこか哀れみを含んでいた。
アッシュは荒い息を吐きながらも、ゆっくりと笑った。
「……ああ、確かにな。もう限界だ」
ベルゼバブが眉をひそめる。
「ならば潔く沈めばいい。人間の限界は美しいが、愚かでもある」
アッシュはゆっくりと右手を腰に伸ばした。
砕けた聖衣の破片の間から、小さな金属製の筒が現れる。
それは戦場に似つかわしくない、日常の残り香のようなものだった。
「……はぁ……はぁ……これを使いたくは、なかったんだがな」
かすれた声でそう呟くと、アッシュは水筒の蓋を外した。
カシュッ――。
その音は、崩れゆく伏魔殿の中で異様なほど鮮やかに響いた。
次の瞬間、空気が変わる。
焦げた石の匂いに混じって、甘く爽やかな香りが広がった。
ベルゼバブは、一瞬、理解が追いつかなかった。
「……何をする気だ……?まだ何か奥の手が……」
だが、遅かった。
香りが空間を満たした時、堕天使の脳裏に“懐かしさ”が走った。
この世のものとは思えぬほど優しい匂い――それは、天界にいた頃、神々が宴の席で嗜んだ甘露の香りに似ていた。
「…………は?」
目を見開いたベルゼバブが、口を歪めた。
「メロン……ソーダ……だと? 貴様、この俺を……聖魔天使ベルゼバブを愚弄するかぁっ!!」
怒声が伏魔殿全体に響く。
だがアッシュは何も言わず、静かに胸元の破損した聖衣へとその液体を注ぎ込んだ。
緑色の炭酸が、砕けた金属に流れ込む。
瞬間、泡が弾け、そこから蒸気が立ち上がった。
それは血の匂いではなかった。
甘く、清涼な香り。生命そのものの気配だった。
アッシュの小宇宙が、淡い翠玉色に変わった。
光が膨張し、彼の全身を包み込む。
砕けた聖衣の裂け目が、ゆっくりと修復されていく。
胸の紋章が再び光を放ち、蒼と緑の境界のような輝きが走った。
「ふぅー……」
息を整えたアッシュが、淡々と呟いた。
「やはり、これに限る」
ベルゼバブが後ずさる。
「馬鹿な……ただの飲料で……!」
◆
ベルゼバブの怒号が、伏魔殿全体に響き渡る。
「ふざけるなぁぁぁぁぁっ!!!」
怒りの爆発と共に、ベルゼバブの身体が光速を超える勢いで突進する。
翼を失ってなお、その速度は風そのものだった。
空間が裂け、衝撃波が階段を粉砕する。
だが、アッシュは動かなかった。
静かに手をかざし、低く告げる。
「待て。今から、お前に――究極の奥義を見せてやる」
ベルゼバブの脚が止まった。
その声音に、理性を失っていたはずの堕天使が、一瞬だけ息を呑む。
アッシュの背後で、何かが膨張し始めていた。
黄金の粒子が宙に舞い、やがて三つの聖衣の幻影を形作る。
双子座、水瓶座、山羊座。
それぞれの聖衣が、アッシュの背後で重なり、三重の光陣を形成する。
「……それは……!」
ベルゼバブの表情が歪む。
「まさか――三位一体の禁忌、アテナ・エクスクラメーション……!?」
アッシュは無言で頷いた。
その表情には、もはや勝利への執着も、怒りもなかった。
ただ、冷静な計算と、燃えるような意志があるだけだった。
「この技は、本来三人の黄金聖闘士が同時に放つことで、神に匹敵する威力を発揮する禁じ手。
だが……俺の模倣と解析は、それを一人で擬似的に再現することを可能にした」
ベルゼバブが低く笑う。
「一人でだと? 滑稽だな……その身が保つものか!」
アッシュは拳を握り、ゆっくりと腰を落とした。
「保つかどうかなんて、やってみなきゃ分からない」
空間の温度が一気に上昇する。
アッシュの周囲に生じた三つの光輪が回転を始め、光子と粒子の奔流が収束していく。
それはまるで宇宙の始まりを逆再生するかのような、光の渦だった。
ベルゼバブが咆哮する。
「小賢しい人間が……そんな真似をして、無事で済むと思うなぁぁぁっ!!!」
アッシュの声が轟く。
「小規模ながら――ビッグバンに匹敵する!! 耐えられるものなら、耐えてみろ!!」
両の拳が重なり、光が炸裂した。
「アテナ・エクスクラメーション!!!!!」
瞬間、伏魔殿の空が消えた。
轟音も、振動も、何もかもが消え、代わりに光だけが残る。
空間のあらゆる物質が、原子単位で分解され、構造が崩壊していく。
ベルゼバブが翼を広げ、防御を試みたが――
「ば、馬鹿な……この出力……! 一人の人間が、これを……!!」
光の奔流が彼を包み込み、その輪郭が溶けていく。
黒い羽が一枚、また一枚と剥がれ落ちる。
そして、断末魔が響いた。
「ぐあああああああああっ!! 人間風情が……神を……超えるなどぉぉぉっ!!!」
ベルゼバブの身体が消滅した瞬間、伏魔殿の階段全体が崩壊を始めた。
アッシュは拳を下ろし、膝をついた。
全身の血管が浮き上がり、皮膚が裂ける。
禁断の技を単独で放った代償は、あまりに大きかった。
「……っ、ふ……これで……終わりだ……」
呼吸を整えながら、アッシュはふと笑う。
その笑みには痛みよりも、安堵の色が濃かった。
「……俺も、少しは馬鹿なロマンをやれたってことだな」
彼の視界が白く霞む。
彼の小宇宙が完全に収束したとき、伏魔殿の一部は、空間ごと消滅していた。
だが、その輝きは、遠く離れた地上、日本にまで届いていた。
女神たちの祈りの場。
方陣の中心で小宇宙を燃やす三柱の女神のもとに、ひときわ眩い光が差し込む。
沙織が顔を上げ、つぶやいた。
「……アッシュさん……」
彼女の頬を伝う一筋の涙が、翠色の輝きと重なった。
同じ頃――別の回廊で、シャカが戦いの最中に顔を上げた。
「ほう……随分と張り切っているな、アッシュ師範は」
そして、ルシファーの玉座へと向かうサガが、階段の中腹で足を止める。
彼は振り返ることなく呟いた。
「アッシュ……やり遂げたか……!」
黄金聖闘士たちの心に、確かな希望の光がともった。
それは、どんな神にも奪えぬ人間の火。
翔子「……アッシュさん、やばすぎない? 禁忌技を一人で撃った上にメロンソーダ飲んでるんだけど!」
エリス「彼はもはや、人か飲料メーカーの化身か、どちらかだな」
響子「ていうか炭酸補給して神を倒すって何のCMよ!?」
ヴィーナス(唐突に降臨)「人間が愛を持って挑むとき、それは神の創造にも匹敵する。……メロンソーダ、一本ちょうだい?」
翔子「え、飲むの!?」
エリス「味覚を得る神とは……世も末だ」
響子「ま、ロマンってやつでしょ」
この次の映画編はどちらがいいですか?
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真紅の少年伝説編(日本編)
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最終聖戦の戦士たち編(聖域編)