聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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伏魔殿最上階、闇の玉座にて真実が明かされる!
造られし器、分かたれた魂――双子座サガ、その運命は欺瞞か宿命か!?

そして、燃え尽きたはずの男が帰ってくる――!

「堕天の玉座、覚醒の光」

神と人、理と愛、すべてを越える拳が、今、闇を貫く――!!


堕天の玉座、覚醒の光

伏魔殿の最上階。

巨大な円形の玉座の間は、黒曜石のような光沢を放っている。

天井は果てしなく高く、光はほとんど差し込まない。

唯一の光源は、玉座の背後にそびえる十字状の亀裂――そこから滲む、濃密な闇だ。

 

その中心に、堕天使ルシファーがいた。

純白の翼は広げられたまま、しかしその羽根の一本一本が黒く腐食している。

それは、かつて神に最も愛された存在が、今や地上の最深部へ堕ちた証だった。

 

「来たか、教皇殺しの大罪人よ」

ルシファーの声は、静かでありながら全方位に響く。

「いや、今や聖域の簒奪者と呼ぶべきか」

 

サガは、歪む空間の中を一歩ずつ踏みしめて進んでいた。

双子座の黄金聖衣がきしみ、周囲の重力がねじれる。

彼の小宇宙が、禍々しいほどの密度で膨張していく。

 

「神を騙り、地上に厄災を振りまく堕天使め。その首、このサガが貰い受ける!」

 

玉座に腰掛けたルシファーの唇が、わずかに動く。

「威勢は良いな。だが、理解しているか? 貴様が今、挑もうとしている存在が何なのか」

 

サガは応えず、一気に距離を詰めた。

両腕を広げ、光を収束させる。

重力場が歪み、床の石が砕けた。

 

「喰らえ! アーク・ゲミンガ!!」

 

次の瞬間、空間が潰れた。

目に見えぬ重力の牢獄が、ルシファーを包み込み、全方向から押し潰す。

常人なら一瞬で肉体も魂も粉砕される。

 

だが――ルシファーは玉座から動かなかった。

「……愚かな」

 

その声と共に、重力場が逆転した。

圧縮されていたはずの空間が弾け、サガの体が吹き飛ぶ。

彼は床を転がりながら受け身を取り、立ち上がる。

 

「バカな……俺のアーク・ゲミンガが……!」

 

ルシファーは指先をひとつ振る。

空気が震え、金属の軋む音が響いた。

「人間程度の技が、神の子である私に通用すると思うか。

ましてや――人間以下のものの技など、なおさらな」

 

その一言が、サガの内に渦巻く二つの魂を揺さぶった。

 

「人間……以下?」

悪の人格が唸る。

「貴様、何を……!」

 

ルシファーは笑った。

「フフ……思い出せ。お前が生まれたあの瞬間を。

あれは母の胎の中ではない。星辰の歪みの中、運命の女神ケールによって造られた。

お前の存在は偶然ではない。聖域を内側から滅ぼすために仕込まれた歪みだ」

 

サガの表情が凍りつく。

「なに……を、言って……」

 

「お前の中に宿る二つの魂。善と悪。

それこそが神の呪いだ。

一方は光に焦がれ、もう一方は闇を欲する。

だが、その悪はお前自身ではない。

お前は冥王ハーデスの手先として設計された分裂した器にすぎん」

 

ルシファーの瞳が、夜空のように光を吸い込む。

「貴様はすでに堕ちていたのだよ」

 

沈黙。

伏魔殿の空気が重く沈む。

サガは息を荒げながら拳を握るが、その拳は震えていた。

 

「俺が……悪霊だと?

冥王の……手先……だと?」

 

胸の奥で、二つの声がぶつかる。

 

――「フン、バカバカしい! 俺が誰の手先だと? そんなもの、信じるか!」

――「……だが、思い当たる節はある。なぜ俺だけが、常に二つの声を聞いていた……?」

 

善と悪、光と闇が、彼の内で再び対立を始める。

視界が揺らぎ、聖衣がきしむ。

 

ルシファーはゆっくりと立ち上がる。

その動きに、玉座の周囲の闇が波打った。

「その動揺こそが証だ。お前の存在は神々が創った失敗作。

この世に自由意志など存在しない。お前が誰を討とうと、それはあらかじめ書かれた運命だ」

 

サガは頭を抱えた。

「黙れ……! 運命など、俺が決める!」

 

「運命は抗う者を喰う」

ルシファーが指を鳴らした。

瞬間、床が割れ、黒い光が吹き上がる。

それは冥界のエネルギー――魂を侵す闇だ。

 

悪サガの声が叫ぶ。

「違う! 俺は俺のために戦ってきた!」

善サガが返す。

「いや、俺たちは誰かの意思の中で……!」

 

ルシファーはその様を愉快そうに見下ろす。

「そうだ。それでいい。お前は最後まで二つの存在のまま、自己を壊しながら死ね。

それがお前に与えられた宿命なのだから」

 

 

 

 

 

 

ルシファーの言葉は、毒を超えて呪詛のようにサガの内奥へ入り込んだ。

響きが魂の奥底で反響し、意識の層を削り取っていく。

黄金聖衣を貫くほどの圧力ではない。

それは、存在そのものを否定する言葉の重力だ。

 

悪の人格――サガの暗い側面が、膝をつく。

両手で頭を抱え、苦しげな唸りを上げる。

「う……ああ……! やめろ……! やめろぉぉぉっ!」

 

次の瞬間、脳裏を閃光のような映像が駆け抜けた。

知らぬはずの光景。

それなのに、鮮明すぎるほどに感覚が蘇る。

 

暗黒の空。

崩れ落ちる神殿。

その中心に立つ、ひとりの女――。

 

彼女は漆黒の冥衣をまとい、氷のような瞳で彼を見下ろしていた。

その名が、口をつかずとも浮かんだ。

 

――ケール。

 

運命を司る女神。

ルシファーが言ったとおり、あの名が確かに脳裏に刻まれていた。

 

「う……ううっ! 頭が……割れる……!!」

悪サガの身体が激しく痙攣する。

頭の中で、見知らぬ声がいくつも重なって響いた。

 

――お前は選ばれた。

――器となれ。

――聖域を壊し、神の秩序を暴け。

 

聞き覚えのないはずの声。

だが、その響きは自分の内から出ているようにも感じられた。

 

善の人格が慌てて叫ぶ。

「どうした!? しっかりしろ! 奴の言葉に惑わされるな!」

 

だがその声は、遠く霞んでいく。

悪の人格の耳には届かない。

目の前に広がるのは、崩れた記憶の断片だけだった。

 

「俺は……偽物なのか……?」

絞り出すような声だった。

「誰かに操られるためだけに……生まれたというのか……?」

 

善サガの声が震える。

「違う! そんなことはない! 俺たちは自分の意志で戦ってきたはずだ!」

 

悪サガはうつむいたまま、かすかに笑った。

それは乾いた、虚無の音だ。

「……本当にそうか? 教皇を殺した夜のことを覚えているか?

あの時……なぜ、あの手が勝手に動いた……?」

 

善の人格が息を呑む。

確かに、あの瞬間――自分にも理由は分からなかった。

怒りでも、信念でもない。

あれは何かに突き動かされたような衝動だった。

 

ルシファーの笑いが、玉座の間を満たす。

「フハハハハ! その表情だ、それでいい。

真実を知った者の顔は、いつもそうなる。

貴様の意志など、最初から存在しなかったのだ!」

 

言葉が、刃のように降り注ぐ。

悪サガの小宇宙が乱れ、光が不安定に揺らいだ。

聖衣が軋み、床にひびが走る。

 

「お前は、神に造られ、冥王に囚われ、そして女神に利用された。

お前が抱く正義も悪も、全て他人の設計図の中にある、もはや個性ではない。欠陥だ」

 

ルシファーの声が冷たく響く。

「貴様は偽りの存在。自我の模造品だ。

運命という舞台で踊る操り人形。

唯一の役目は、聖域を内側から壊すことだった。

それを果たしたのだから、もう存在する理由はない」

 

悪サガは立ち上がろうとしたが、膝が震えて動けなかった。

息が詰まり、心臓が痛む。

小宇宙が軋むように崩れていく。

 

善サガが懸命に立て直そうと叫ぶ。

「違う! 俺たちは……選んできた! 罪を犯したのも、贖おうとしたのも、自分の意志だ!」

 

しかし悪サガは首を振る。

「それも幻かもしれん。

俺の中の正義も、悪も、最初から誰かにプログラムされていたなら……

俺が何を思っても、それは意味のない幻だ……」

 

 

 

 

 

 

 

「(悪の俺が……消えていく……? 違う……これは……)」

善サガの心の声が、かすかに響く。

「(アッシュ……すまん。俺は……どうやら、お前の友ですらなかったようだ……)」

悪の人格が、かつての誇りを失い、消え入りそうな声でそう呟いた。

 

玉座の上から、ルシファーがゆっくりと立ち上がる。

その姿には一片の焦りもなかった。

白銀の髪が闇の風に揺れ、金色の瞳が笑う。

 

「さて、道化の時間は終わりだ」

ルシファーの声は、静寂の中でやけに鮮明だ。

「聖域の支配者ごっこも、これまでだな。

消えろ、双子座のサガよ」

 

彼の指先に、禍々しい光が集まる。

それは星の死よりも冷たい輝き。

小宇宙の理を超越した、純粋な破壊そのものだ。

 

サガは動けなかった。

心も、体も、既に限界を超えている。

ただ、己の運命を受け入れるように、目を閉じた。

 

ルシファーが手をかざす。

「哀れな存在よ。せめて苦痛なく、消してやろう」

 

光が放たれる。

その瞬間――。

 

「──させるか!!!」

 

轟音と共に、眩い閃光が玉座の間を裂いた。

ルシファーの放った闇の光線は、突如現れた別の力によって弾かれ、天井を穿つ。

眩しさの中でサガは目を開け、見上げた。

 

そこに立っていたのは、一人の男。

全身が傷に覆われ、砕けた聖衣を無理やり繋ぎ止めながらも、なお立つ者。

杯座の白銀聖闘士、アッシュだ。

 

息を切らしながらも、その瞳だけは濁っていない。

むしろ、どこか楽しげにさえ見えた。

 

「やれやれ……少し手間取ってしまったな」

アッシュが軽く肩を回す。

「サガ、大丈夫か」

 

サガは呆然と立ち尽くしたまま、かすれた声で答える。

「アッシュ……なぜ……なぜここに……」

 

アッシュはニヤリと笑った。

「友がピンチの時に駆けつける。

それも様式美ってやつだろ?」

 

その言葉に、サガの胸の奥で何かが弾けた。

失いかけたものが、再び息を吹き返す感覚。

誰かに呼ばれたわけでも、命じられたわけでもない――確かに友が来てくれたのだ。

 

ルシファーの視線が、アッシュへと向けられる。

黄金聖衣に刻まれた無数の傷を一瞥し、彼は薄く笑った。

 

「ほう……まだ生きていたか。

あれほどの光を放ってなお、肉体が保っているとはな」

 

アッシュは小さく息を吐いた。

「おかげさまで、メロンソーダの炭酸がまだ効いてる」

 

ルシファーの眉がぴくりと動いた。

「貴様……何を言っている?」

 

「冗談だよ。緊張をほぐすためのな」

アッシュはそう言いながら、サガの前に立つ。

その背は、何かを守るためのものに変わっていた。

 

ルシファーが静かに両翼を広げる。

「アッシュ……杯座の聖闘士よ。

貴様は、神の設計に背いた。

光をもたらすべき者が、闇に肩入れするとは」

 

アッシュは答えなかった。

代わりに、拳を構える。

その掌に宿る光が、ルシファーの放つ闇と同じ強度で空間を震わせる。

 

「設計とか理屈とかはどうでもいい。

俺は人間として戦う。

それが、あんたら天使に一番腹が立つ理由だからな」

 

「人間風情が、神に逆らうか」

ルシファーの翼が爆ぜるように広がり、床の大理石が浮き上がる。

「ならば、天と地の理をもって消し飛ばしてやる!」

 

「それを言うやつほど、だいたい最後にやられるんだよ」

アッシュが片足を踏み込み、小宇宙を解き放った。

 

閃光が、伏魔殿全体を貫く。

ルシファーの放った黒の奔流と衝突し、轟音とともに爆風が生まれた。

空間が歪み、崩壊の衝撃波が階層を伝って広がっていく。

 

伏魔殿の頂で、光と闇が衝突する。

神と人、天と地。

そのすべての境界を越えた決戦が、ついに始まった。




サガ「……まったく。あの場で現れるとは、相変わらず空気を読まん男だ」

アッシュ「いや、俺なりに読んでたつもりだぞ? そろそろ劇的な登場が欲しい頃だなって」

サガ「……貴様という奴は……」

翔子「うわー……緊張感ゼロだ……でも、アッシュ君が来ると安心するんだよね」

エリス(冷ややかに)「あれを安心と呼ぶなら、貴様の感覚は神すら理解できぬ」

アッシュ「おいおい、俺は神よりメロンソーダ派だ」

サガ(苦笑)「……やれやれ。どうやら、我々の理性より炭酸の方が強いらしい」

翔子「それ、名言にしてもいい?」

エリス「やめろ。愚かさが感染る」

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  • 真紅の少年伝説編(日本編)
  • 最終聖戦の戦士たち編(聖域編)
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