聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
だが、プリンは消え、教師は凍り、生徒は神を拾う。
今日も平和(?)な童守町に、ひときわ眩しい転校生が現れる。
名は――城戸アベル。
ギリシャから来た帰国子女(?)である。
混乱と信仰とプリンの欠乏が交錯する、超常系スクールライフ・コメディ。
『神のカミングアウト@童守小』、授業開始!
神のカミングアウト@童守小 ―優雅とはプリンの喪失に動じない心である―
今日の童守小は、いつも通りカオスだ。
いや、いつもよりちょっと事件のにおいが濃い気がする。
だって、教室の真ん中でぬ〜べ〜先生が叫んでる。
「こら、まこと!また貧乏神を連れてきて!給食のプリンが全部消えただろ!」
まことは反省ゼロの顔で言い返す。
「先生の霊能力でなんとかしてくれなのだー!」
そんなやり取りの横では、プリンを奪われたクラス全員が超真顔になっている。
私だって怒りたいのはやまやまだけど、怒ったら負けな気がする。
だって、私──城戸沙織は、いつも心は優雅でありたいのだ。
(※優雅とは、プリンの喪失に動じないメンタルのことである)
そのプリン泥棒の妖怪らしき小物が、天井付近でギャーギャー逃げている。
ぬ〜べ〜先生は必死に鬼の手で追いかけてるけど、あの人の鬼の手ってもっとこう、必殺武器って感じじゃなかったっけ?
そのとき、窓の外に気配を感じた。
見たら雪女のゆきめさんが、めっちゃうっとりした目でぬ〜べ〜先生を見つめてた。
「ぬ〜べ〜♡ 今日も素敵!」
ゆきめさんが、ふぅ~~って甘い吐息みたいな雪を吹くと、
ぬ〜べ〜先生は妖怪もろともカチンコチンに凍った。
「……寝たし」
本当に寝た。めっちゃ気持ちよさそうに。
教室の温度が3度くらい下がった気がしたけど、そんなことより私は今、重大な情報をキャッチしている。
美樹が、あのテンション高めの声で私に囁いたのだ。
「ねえねえ、沙織ちゃん、聞いた!? 今日、6年生にすっごいイケメンが転校してくるんだって!ギリシャからの帰国子女らしいよ!」
ギ リ シ ャ。
その単語を聞いた瞬間、私の中の何かが覚醒した。
顔が熱くなる。胸がどきどきする。
そして脳内に大きな文字が浮かぶ。
《イケメン》
よし、これは行くしかない。
これは使命だ。
「イケメン!? ギリシャ!? 見たい! 絶対見たい!」
私、即答。
自然と郷子も身を乗り出してくる。
「見に行くしかないでしょー!? この日本に来るギリシャ美少年よ!? 少女漫画じゃん!」
そして三人で固く見つめ合い、頷く。
ぬ〜べ〜先生は氷漬け。
ゆきめさんは先生の氷を抱きしめながらとけないように冷却中。
クラスは阿鼻叫喚。
つまり、今。
抜け出すには最高のタイミングである。
――と、そのとき。
担任がカチコチのまま、ガタガタと震えだした。
「……さ、さおり………ダメだぞぉ……先生はいま……夢の中で……君たちの名前を呼んでいる……」
「寝てるじゃないですか!!」
私は思わずツッコんだ。
凍ってても寝言は言えるんだな、ぬ〜べ〜先生って。
しかしヘタにここで笑ってる場合じゃない。
今日のミッションは、6年生に新しく来るというギリシャ帰りイケメンの確保。
いや、確保はダメ。
視察。
観察。
……鑑賞。
美樹が小声で言ってくる。
「沙織、今のうちに抜け出そう!」
郷子も乗り気。
「廊下に出て、階段ダッシュして6年の教室へ! ぬ〜べ〜が解凍される前に!」
うん、それでいこう。
私はこっそり席を立ち、ドアへ歩く。
クラスメイトたちは、プリンロスで深刻な顔をしながらも、誰も私たちを止めない。
ぬ〜べ〜先生は氷像のまま。
ゆきめさんも氷像に頬ずりして夢の世界。
つまり……
これはもう、教師不在と認定していい!!
私たちは、教室を抜け出した。
廊下に出て、走る。
スカートが揺れて、髪が跳ねて、心臓がドキドキいってる。
「沙織、急いで!」
「郷子、こっちこっち!」
「6年の教室ってこっちじゃないのー!? あっちだっけ!?」
もう方向感覚とか忘れた。
ただ、胸の高鳴りだけが私を走らせる。
そして私の目に飛び込んできたのは。
窓際で制服の袖をまくり、
柔らかい蒼髪を揺らしながら、静かに本を読む少年。
……イケメン。
超イケメン。
ギリシャの風が吹き抜けた。
「……………………いた」
美樹「……やべぇ」
郷子「……王子様……?」
私「……合格」
私の視界には、あのギリシャ少年しか映っていなかった。
世界は、今日から変わる。
――そんな気がした。
◆
……え、なに、王子?
王族?
ギリシャの神話に出る英雄?
私たち三人の心の声は完全にシンクロした。
(((キャーーーーー!!!!!)))
担任の先生が説明している。
「えー、静かに。転校生を紹介するぞ。城戸アベル君、ギリシャ帰りだそうだ。みんな、仲良くしてやれよ」
アベル?
名前からもうイケメンが確定してる。
少年は優雅に微笑んで言った。
「城戸アベルです。よろしく」
……声までイケメン。
絶対モテるやつ。
人生イージーモードだ。
私はうっとり見つめていた。
しかしそのとき……
教室の中で男子が手を挙げた。
「なあ、城戸って……もしかして、5年生の城戸沙織ちゃんの?」
(えっ?)
私の耳が勝手に全力で開いた。
いや、耳だけじゃない。
細胞全部を耳にした。
するとアベルは、やたら柔らかい笑みを浮かべて……こう言った。
「その通りだ。5年生の城戸沙織は、僕のかわいい妹だよ。君たちも、ご存知かな?」
……。
…………。
……………………。
「「なにーーーーーー!?」」
美樹と郷子が廊下で叫んだ。
そして同時に私の心も叫んだ。
「なにーーーーーー!?」
いや、ちょっと待って。
私、妹……?
え?
知らないんだけど???
美樹が私の肩を揺さぶる。
「沙織ちゃん!? あんたお兄さんいたの!!??」
「知らないし!! え? え? 私そこまで設定盛られてたの!?」
「設定言うな!!」
私は完全にパニックだった。
ギリシャ帰りの美少年が兄とか、どこの少女漫画なのよ。
城戸家、やっぱり一般家庭じゃなかったの!?
いや、家に執事っぽい人いる時点で気づくべきだったのか?
そのとき──
ドアが開いた。
アベル本人が、廊下に立つ私たちを見て微笑んでいた。
「……沙織?」
うわああああああ!!!
見つかったあああああ!!
「お兄さん……かっけえ……!」
「これはもう……反則……!」
◆
「沙織じゃないか。噂をすれば、だね。今はホームルームの最中だろう?大丈夫なのかい?いくら女神でも、学校のルールは守らないと」
……待って。
待ってよ、お兄様??
なんか今、サラッとおかしいワードが混じってたよね!?
私、5年生だよ!?
私、算数の宿題も満足に終わらないんだよ!?
神様ってそんなゆるゆるなの!?
私は慌てて声を絞り出した。
「お、お兄様っ!? あの……その……アテナって……」
頭の中で警報が鳴る。
ピーンポーン。
ピーンポーン。
「現実世界に異常発生」ってお知らせがきてる気分だ。
しかしアベル兄さんは落ち着いていて、何か昔から知っているみたいに言った。
「ふふ、そんなにかしこまらなくていい。神話の時代以来、こうして会うのは久しぶりなのだから」
……神話!?
時代!?
なにその壮大ワード!!
私の歴史、縄文時代から一気にオリンポスにジャンプしたんだけど!?
私は目が回りそうだった。
いや、もう実際ちょっと回ってた。
そんな時。
ヒタッ……と、後ろから嫌な気配。
担任の先生だ。
「君たち! どうして廊下に──って、城戸君? これは……?」
アベル兄さんは全く動じず、にこやかに先生へ向き直る。
「すみません、先生。妹が僕を心配して、つい様子を見に来てしまったみたいです。どうか、怒らないで下さい」
その言葉の柔らかさ、完璧な姿勢。
まるでモデルみたいな微笑み。
先生、目が泳いでる。
完全にペース握られてる。
「そ、そうか……妹想いだな、城戸君は……」
先生まで落ちた。
アベル兄さん、強い。
この人、絶対人生で苦労してない。
6年生の教室の中から、ひとりの男子生徒が手を挙げた。
「なあ、沙織ちゃんが女神なら、アベル君も神様ってこと?」
……ちょっと待とうか。
私は焦って言い返そうとしたけど、アベル兄さんが先に答えた。
「おお! 君はとても鋭いね! そうだよ。僕は神だ。これからの信仰は、大歓迎さ」
にこ~~~っと最高の笑顔。
その瞬間、6年の女子全員から声にならない悲鳴があがった。
「ああ……神様……」
「かっこいい……」
「信仰……します……!」
完全に様子がおかしい。
宗教法人・6年2組が発足しようとしている。
私は慌てた。
「ま、待って!? この人は……その……!」
言葉が出ない。
なんて言えばいいの!?
『兄を名乗る自称神イケメン』って紹介するのも失礼だし、
でも『本物の神様』って認めたら世界がやばい。
そんな私の横で、美樹と郷子は固まっていた。
「沙織んち……また自称神様増えた……」
「神様のバーゲンセール……?」
ちょっと待って。
私の家、そんなカオスだったっけ!?
いや……うん……そういえば……神殿とか聖衣とかあるし……
神様が出入りしてても……おかしくは……ないのか……?
でも学校よ!?
ここ童守小学校よ!?
なんで神のカミングアウトが普通に行われてるのよ!?
教室の中は一気に「神様を拝むモード」に突入。
アベル兄さん??が手を軽く振るたびに、女子たちの「きゃああ」が響く。
男子は男子で、
「神って強いのか?」
「ゲームに出てきそう」
「バトルもののラスボスかよ」
と好き勝手言っている。
私は疲れてしまって、アベル兄さんを見上げる。
「お兄様……」
「どうしたんだい、沙織?」
「私……普通に学校生活送りたいんだけど……」
「大丈夫だよ。僕がいれば、どんな試練も乗り越えられるさ」
いや、そういうことじゃない。
そういうことじゃないんだよお兄様。
あなたが存在してる時点で平常運転が崩壊してるの。
そこへ──廊下の向こうから怒号が響いた。
「何をしているんだあああ!!」
ぬ〜べ〜だ。
氷漬けにされて眠ってたはずなのに、復活してた。
誰が溶かしたの!?
なんでこのタイミングなの!?
「きゃー!! ばれた!!」
「撤退!! 撤退!!」
「なんで私がこんな目に!!」
全員で全力逃走。
後ろからぬ〜べ〜の叫びが追ってくる。
「待てーーー!! 今度という今度は逃がさーーん!!」
アベル兄さんはそんな混乱を見ながら、優雅に微笑んでいた。
「……楽しそうだね、沙織」
いや、楽しくないよ!?
これ地獄だよ!?
あなたのせいで事態が悪化してるのよ!?
「……はぁ……疲れた……」
そう呟きながら、私は走り続けた。
童守町の一日は、今日もまた平和だった。
……いや、違うな。
今日からさらにカオスになった。
「……お兄様、あの、ちょっといいですか」
「どうしたんだい、沙織?」
「学校に来るなとは言いませんけど、神のカミングアウトは控えてください!!」
「でも、自己紹介は正直にするのが礼儀だろう?」
「正直にも限度があります!! 女子全員が信仰始めたんですよ!? 教室が宗教法人になりました!!」
「ははは、信仰とは自然発生するものだよ」
「そういう問題じゃないの! ぬ〜べ〜先生が本気でお祓いしようとしてたんですよ!」
「鬼の手で神を祓うのか……それは興味深いな」
「興味持たないで!!」
「ところで、あの先生、なかなか良い魂をしていた。」
「だからやめてくださいってば!!」
「ふむ……しかし、君は相変わらず優雅だな。プリンが消えても動じないとは」
「……優雅ってそういう意味じゃないです!!」
「違うのか?」
「違います!!」
「まあいい。明日は君のクラスに転入届を出しておこう」
「なんでですか!? 私の生活圏まで侵略しないでください!!」
「兄妹は仲良くしなくてはな。アテナとアベルなのだから」
「ちょ、ちょっと待って!? それ今言っちゃダメなやつでしょ!?!?」
「ふふ……童守町は、なかなか退屈しないな」
「退屈どころか毎日サバイバルなんですけど!?」
「……それが人の営みというものさ、沙織」
「お兄様、お願いです。せめて給食の時間だけは神様モード封印してください」
「了解した。だが、プリンは守れないかもしれない」
「そこ守ってくださいよぉぉぉ!!!」
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