聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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神々は今日も食卓を囲む。
ハンバーグを讃える神、新聞を読む英雄、紅茶を啜る女神、そしてプリンを諦めない少女。
そこに突如現れたのは──神界最強の三執事。
コロナの光が家庭を照らすとき、城戸家の夕餉は神話を超える!

次回、『我が家はオリンポス直通 ―神対応のお風呂とプリンの夜―』
家庭の平和は、今日もギリギリで守られる!


我が家はオリンポス直通 ―神対応のお風呂とプリンの夜―

私はいつものようにランドセルをぶん投げて、勢いよく玄関に突っ込んだ。

 

「ただいまー! ママ、パパ、お腹すいたー! 今日のご飯なあにー!?」

 

テンションは常にMAX。

学校の騒動(アベル兄さん神様カミングアウト事件)は脳の端っこに置いておくとして、とりあえず私は夕飯のことしか考えていなかった。だってお腹が空いている時、人間はまともな思考ができない。

 

でも、その日の私は、玄関で方向転換を誤ったみたいに、食卓を見た瞬間ぶつかった。

 

正確には、現実にぶつかった。

 

テーブルの向こう側に──

学校で見たあの男が座っていたのだ。

 

アベル兄さん。

自称兄、自称神、ギリシャから来ました美形担当。

 

そのアベル兄さんが、私の家のティーカップを優雅に持ち上げ、

 

「今日はアールグレイが濃いめだね。香りが素晴らしいよ」

 

と、当たり前みたいに言っている。

 

うち、そんな気取った家庭じゃないよ!?

朝食は基本食パンだよ!?

 

私は固まった。

身体も思考も全部フリーズ。

 

「な……な……なんでいるの!? 不法侵入だよ!!」

 

ようやく声を絞り出したら、アベル兄さんはカップを皿に置き、涼しい顔で言った。

 

「おかえり、沙織。なぜ? と言われてもね。家族なのだから、ここにいるのは自然だろう?」

 

自然じゃないよ!!

自然界から訴えられるよ!!

 

「家族じゃない!!」

 

叫んだ。叫ぶしかなかった。

 

けど──

 

エリスママが、いつものように紅茶を啜りながら、超堂々とこう言った。

 

「ああ、沙織。そのアベルとやら、行くところがないと言うからな。我が娘の兄ならば、我が子も同然! 泊めてやることにした!」

 

いやいやいやいや。

 

「ちょっと待ってママ!? なんでそうなるの!?」

 

「私の娘の兄なのだろう? なら私の息子である!」

 

血筋の概念どうなってるの!?

 

叫びながら、助けを求めるようにパパを見る。

 

パパは、新聞を読みながら平然と言った。

 

「ここは日本だ。神との共存を望む国だ。兄君の一人や二人、増えたところで問題ない」

 

問題あるよ!?

めちゃくちゃあるよ!?

それどころか学校生活の基盤が破壊されてるよ!?

今私の世界、家族構成に神が混じり始めてるんだけど!?

 

「パパ、普通の反応してよ!!」

 

「普通は人それぞれだろう?」

 

くっ……そんな真顔で言われたら何も返せない!

 

絶望しながらアベル兄さんを見ると、彼は家族席に完全に馴染んでいた。

椅子の座り方ひとつがエレガンス。

うちの家具が高級に見えるマジック。

 

「沙織、落ち着きなさい。今日は君の好きな煮込みハンバーグがあるよ」

 

そんな……。

そんな顔で言わないでよ……。

好きなメニューを人質に取られた気分だ。

 

椅子に力なく座りながら、何とか言葉を絞り出した。

 

「……どういうこと? いつからここにいるの?」

 

「今日の昼頃かな? 挨拶を済ませておいた」

 

そんな簡単に済む挨拶ないよ!?

 

しかし、エリスママは涼しい顔。

 

「問題などないぞ。私はこの少年が気に入った。血の繋がりなど重要ではない」

 

アイオロスも普通に頷く。

 

「うむ。言葉が通じるだけでも十分だ。家族として何の問題もない」

 

いや、ある。

ツッコミどころしかない。

 

けど、この家族には、もう私の声じゃ止められない気がする。

 

アベル兄さんはさらに追い打ちをかけてきた。

 

「それに、沙織。明日からは一緒に登校しよう。兄として当然の役目だ」

 

「いやああああああああああああ!!」

 

 

「お願いだから学校に来ないで!! 絶対に変な噂になる!!」

 

「変な噂……? それは困るね。僕は慎ましく振る舞うつもりだよ。必要以上に神力を使わないようにもするし」

 

使うつもりはあるのね!?

 

「兄として、妹の学校生活を守るのは当然だ。安心するといい」

 

安心できない!!

誰か、翻訳機ちょうだい!?

 

エリスママは満足げに言う。

 

「よいではないか沙織。兄というものは人生を豊かにするぞ」

 

パパもいつの間にか相槌を打つ。

 

「私も弟のアイオリアにはいつも助けられている」

 

いや、だから……。

 

私の頭は限界を迎え、テーブルに突っ伏した。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

アベル兄さんは私の肩に手を置き、優しく言った。

 

「何も心配しなくていい。君が望むなら、僕は全力で妹を守る。必要ならば天変地異からも、神の怒りからも救ってみせる」

 

そんな大規模な守りいらない!!

私が欲しいのは、普通の学校生活!!

 

なのに──

なのに家族全員が、当たり前みたいに神様を受け入れている。

 

深いため息をついた。

 

「……また常識が壊れた……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の食卓は──

一家団らんというより、神話会議。

神々の円卓。

終末会議。

 

パパ(アイオロス)

ママ(翔子=中身エリス)

アベル(自称兄・自称神)

私(疑惑の女神)

響子さん(ヴィーナス様)

 

……え、なにこれ。

我が家っていつからオリンポスと直通になったの?

 

ぽかーんとしてる間に、既にヴィーナス様とアベル兄さんはお茶して談話してた。

人間扱いされてないミートボールをもぐもぐ食べながら、私は耳だけそっちに向けた。

 

ヴィーナス様がふわっと微笑む。

 

「それで、アベル君。久しぶりだけど、いつ地上に来たの? オリンポスは相変わらず退屈だったでしょう?」

 

アベル兄さんは、優雅にフォークを置き、爽やかな神スマイルを浮かべた。

 

「ええ、ヴィーナス様。地上を浄化し、神の手に戻すために来たのですが……この日本に、貴女たち三柱の女神がいると聞いて、まずは話を聞こうと思いましてね」

 

……地上浄化?

スケール大きすぎるんだけど。

 

さらにアベル兄さんはあっさり続ける。

 

「地上を穢した人間どもにも、神と共存するなどという殊勝な考えが残っていたとは、少し驚きました」

 

人間ども……?

ここ私のお家なんですけど……?

 

パパは新聞読みながら淡々としてたけど、ママは肩をすくめ、

 

エリス(翔子の身体で)=ママが言った。

 

「あまり人間を悪く言うものではないわ、アベル。暮らしてみると、なかなかどうして愛おしいものよ……まあ、主に我が夫のことだがな!」

 

父はコーヒーを飲む手をピタッと止めた。

 

パパ照れてる!!

エリスママの発言にパパは照れてる!!

神話時代じゃ絶対ない光景だよ!!!

 

ヴィーナス様は優雅に笑って、

 

「まあまあ、あの不和の女神がそう言うのよ。面白いじゃない」

 

もう……ご飯の味が……頭に入らない……。

 

アベル兄さんは少し間を置いて、

 

「……ですね」

 

と神妙に頷いていたけど、視線が全部上から。

地上のご飯を食べながら、地上民を品定めしている神って、なんなのよ。

 

その横でミートボールを必死で咀嚼するしかない。

だって止めたら絶対会話に巻き込まれるから。

 

できれば今日の私はただの小学生でいたかった……。

 

でも、神々の談話は止まらなかった。

 

「ところでアベル君、日本はどう? 女神が三柱も地上にいる国なんて珍しいでしょう?」

 

「確かに……。皆が神を恐れず、依存せず、しかし否定もせず……奇妙な国です。力の均衡が保たれている。アテナ(沙織)も、ヴィーナス様も、エリス様も……同じ場所に存在することを選んだ理由は、興味深いものですね」

 

選んだ理由なんて、この家に押しかけてきた女神と神様によって強制的に住まわされてるからなんだけど!?

 

パパは淡々と一行読みながら呟く。

 

「日本は神々が歩く国だ。君が来たことも、さほど驚きではない」

 

いや、驚くよ!!

めちゃくちゃ驚くよ!!

一般人みんな腰抜かしてるよ!!!

 

アベル兄さんは納得したように頷く。

 

「兄として、妹である沙織の生活を知ることも、当然だと思っています。日本という地上は、確かに調和の可能性を秘めていますね」

 

兄として……兄として!?

勝手に妹タグつけるのやめて!?

 

エリスママがさらっと言い放つ。

 

「まあ、アベル。ここでは威張らずともよい。人間は神を見上げるだけの存在ではない。むしろ……面白い玩具のようだぞ」

 

「ママー!!?」

 

玩具って言ったよ今この人!!?

 

ヴィーナス様はくすくす笑っているし、アベル兄さんは普通に受け止めて頷いてる。

 

「確かに面白いですね。人間たちは神に依存せず、しかし神を拒絶もせず……中間の立場を保とうとする。興味深い生き物です」

 

興味深いじゃないのよ!!

私たち人間は珍しい動物じゃないのよ!?

 

ハンバーグをかき込みながら、心の中で叫んだ。

 

「もうだめ……頭がおかしくなる……」

 

声が裏返った。

響子さん(ヴィーナス様)まで微笑んで言ってくる。

 

「いいじゃない、沙織ちゃん。兄って便利よ? 荷物持ってくれるし、困ったら助けてくれるし」

 

いや、神の兄はスケール違うんだよ!!

荷物どころか天気操作までしそうなんだよ!!!

明日から学校が神罰エリアになるんだよ!!!

 

私の人生、大丈夫?

本当に大丈夫なの??

 

アベル兄さんは微笑んで、

 

「安心するといい。妹が困らぬように僕が全力を尽くす。それが家族というものだ」

 

絶対嫌な予感しかしない。

 

でも、パパもママもヴィーナス様も、満足そうに頷いている。

……なんで私以外全員納得してるの!?

 

とうとう観念して、ハンバーグに顔を押し付ける勢いで突っ伏した。

 

「……明日、学校がどうなっても知らない……」

 

アベル兄さんは優しく笑っていた。

 

こんなカオスの中でミートボールを食べてる私って、一体何者なんだろう。

 

たぶん、普通の小学生ではないんだと思う。

 

この家に生まれた時点で、もう普通とは縁が切れてたんだ……。

 

 

 

 

 

夕食が終わったタイミングで、どこからともなくスッ……と三つの影が現れた。

 

黒の燕尾服。完璧な姿勢。滑らかな身のこなし。

そして、誰一人として空気を乱さない気品。

 

この三人は、どう見ても──

 

執事。

 

え、執事? うちの家、今日から唐突に執事増えたの!?

 

一番背の高い男が、銀トレイを片手にスッとアベルの椅子に膝をついた。

 

「アベル様。お済みでいらっしゃいますか」

 

アベルは涼やかに頷き、紅茶のカップを彼に渡した。

 

「うむ。アトラス。ジャオウ、ベレニケの面倒まで見てくれるとは、この地の人間たちは神への信仰を捨てていないと見える。良いことだ。光政殿にもよろしく伝えておけ」

 

その瞬間、私はあらゆる意味で理解していた。

 

この三人、執事じゃない……コロナの聖闘士だぁぁぁ!!

 

しかも、完全にうちの家の使用人として馴染んでいる。

 

「ねえパパ!? なんでコロナの聖闘士が家にいるの!?」

 

パパは新聞をたたみながら、普通の口調で答えた。

 

「光政殿からの提案だ。『アベル君の護衛は必要不可欠。しかし神の威厳を保つためには、生活面のサポートも重要である』……と仰っていた」

 

いや、その理由おかしいよね!? 威厳と炊事洗濯ってつながらないでしょ!?

 

ママは湯飲みのお茶を一口飲みながら平然と続ける。

 

「それに彼らは戦闘力が高く、家事能力まで備えている優秀な者たちだ。問題あるまい」

 

いやいやいや、問題大ありだよ!!!

うちの家、今日から戦闘力Sランクの執事が三人加わったんだけど!?

やばい、セキュリティどころか戦力が国家レベルになってる。

 

そんな私の混乱もよそに、アベルはソファに寝転がり──

 

テレビのリモコンをポチッ。

 

「ほう。これは『ドラゴンボール』というものか。よくできた地上人の神話だな。参考になる」

 

参考にされては困る。

 

私は恐る恐る兄(仮)の横に近づく。

 

「……ねえ、お兄様」

 

「どうした、妹よ」

 

「なんでそんなに自然にリビングくつろいでるの?」

 

「当たり前だろう? 家族だからな」

 

「いやその家族の定義が広すぎるのよ!! 神話レベルでまとめられても困るんだよ!!」

 

アベルはソファでごろっと寝返りを打ちながら言う。

 

「それにしても、このテレビという装置はなかなか面白い。神の審判より娯楽性がある。地上の文化は発展しているようだな」

 

神の審判とテレビを同列に語らないで欲しい……

 

そのとき、アトラスたち執事三人が息ぴったりに頭を下げた。

 

「アベル様。お風呂の準備が整いました」

 

「脱衣所には温度調整済みのタオルを」

 

「神々の御髪にふさわしい、最上級のトリートメントもご用意しております」

 

「ちょっとぉぉぉ!? なんでうちのお風呂が神対応なの!?」

 

パパはどこか誇らしげだった。

 

「光政殿も張り切っておられたからな。神を迎える家にふさわしい浴室リフォームをしてくれたらしい」

 

それはただの道楽だよおじいちゃん!!

 

アベルは立ち上がり、実に自然に言った。

 

「では、妹よ。風呂でのんびりするとしよう。人間界の文明は、神の疲れを癒すにはなかなか良いものだ」

 

「ちょ、ちょっと待って!? お兄様、私女の子だよ!?」

 

「何か問題があるのか?」

 

やめて。

本当にやめて。

私の平和が崩壊する。

 

そんな私の絶望など気にもせず、アベルはさらに追い打ちをかける。

 

「そうだ、明日のお弁当、楽しみにしているよ。妹の弁当は、兄として当然味わうべきものだ」

 

「誰もそんな義務決めてない!!」

 

ママが妙ににっこりしている。

 

「沙織よ。兄弟が増えるというのは、良いものだぞ。私は千年以上ぶりにすがすがしい気持ちだ」

 

千年単位の価値観で語られても困るよぉぉぉ……

 

さらに、響子さん(ヴィーナス)はにやにやしながら紅茶を飲みつつ言った。

 

「沙織ちゃん、よかったわねぇ。家族が増えるって嬉しいでしょ? そのうちアベル君の友達や部下も家に泊まりに来たりして、もっと賑やかになるわよ」

 

やめて。

ほんとにやめて。

うちの家、これ以上神族増えたら床抜ける。

 

深いため息をつき、悩んだ末に結論を出した。

 

……もういいや

 

これが私の普通なんだ。たぶん

 

気づけば、コロナの執事たちは私の分のデザートまで準備してくれていた。

 

「沙織様。プリンをどうぞ」

 

「……ありがとう」

 

気づいたことがひとつ。

 

この家はもう完全に

 

──人間と神の共同生活施設

 

だった。

 

でもまあ……

プリン美味しいし、兄はイケメンだし、執事は頼もしいし、パパとママは相変わらずだし……

 

……まあ、いっか

 

プリンをひとくち食べて、人生を半分諦めた笑みを浮かべた。




アッシュ「なあ、アイオロス。お前んち、今神々の同居ハウスになってるって本当か?」

アイオロス「違う。正確にはオリンポス臨時出張所だ」

アッシュ「余計にヤバいじゃねぇか!」

アイオロス「沙織が楽しそうだから問題ない。アベルも機嫌が良い」

アッシュ「いやいや、あいつが機嫌良い時って、だいたい世界規模でトラブル起きてるだろ!」

アイオロス「たしかに……だが、父としては娘の笑顔が何よりの平和だ」

アッシュ「父親力の使い方が神域だな」

アイオロス「ふむ。ちなみに明日、アベルは沙織と一緒に登校するそうだ」

アッシュ「……ぬ〜べ〜先生、昇天するな」

アイオロス「教師の精神修行には丁度良い」

アッシュ「違う意味で成仏するっつーの!」

アイオロス「それに、ヴィーナスも保護者参観に行くと言っていたぞ」

アッシュ「やめろォォォ!! 神々の保護者参観とか、学校ごと消滅する!!」

アイオロス「だが、彼女たちは人間界の文化を学びたいだけだ」

アッシュ「そう言って何人の文明が沈んだと思ってんだ……」

アイオロス「大丈夫だ。最悪、私がハンバーグを焼いて鎮める」

アッシュ「ハンバーグ万能説やめろ!!」

アイオロス「では、プリンでも食べるか?」

アッシュ「……お前、オチに使いやすい男だな」

アイオロス「誉め言葉として受け取っておこう」

この次の映画編はどちらがいいですか?

  • 真紅の少年伝説編(日本編)
  • 最終聖戦の戦士たち編(聖域編)
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