聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
アッシュ「えっ、いいんですか?射手座の黄金聖闘士相手に呼び捨てとか、天罰が落ちないかな……」
アイオロス「はは、俺は天罰なんて下さないよ。友達同士、対等でいいだろう?」
アッシュ「……じゃあ、遠慮なく。アイオロス!」
アイオロス「おう、アッシュ!」
アッシュ「……なんか急に距離が近くなった気がするなぁ。」
アイオロス「いいことじゃないか。聖域も、もっとこうやってオープンになればいいのにな。」
アッシュ「うん、“呼び捨て革命”から始めて、次はやっぱりトイレ革命だね!」
アイオロス「……お前、やっぱりそこに戻るんだな。」
アッシュ「人間にとって一番大事なインフラだからさ!」
アイオロス「ははは、全く、お前らしいや。」
(アッシュ視点)
その日、ロドリオ村の夕焼けは、不自然なほど鮮やかだった。
小学校跡の公民館で「村インフラ発展会議」を終え、婦人会の面々に押し切られる形でピザを何切れも食べ、ようやく一息ついて外に出た。夕陽が村の家々や、遠く聖域の石壁をオレンジ色に染めている。
村の子どもたちの笑い声を聞きながら、「文明開化もいいけど、食べ過ぎには注意しなきゃな」なんてどうでもいいことを考えていた――そのときだった。
背後から、静かに、けれど尋常でない気配が近づいてくるのを感じた。
振り向くと、そこに立っていたのはサガ……いや、サガの顔でありながら、まるで別人のような雰囲気。闇夜のごとく深い黒髪、冷ややかな眼差し。
ああ、これが噂の「悪サガ」モードか、と内心で妙に納得してしまう自分がいた。
「やあ、来たな、スーパー裏モード。」
冗談めかして声をかけると、悪サガは微かに口角を上げて言った。
「ふん、相変わらず余裕だな、アッシュ。」
敵意は感じない。むしろ、興味と観察。じっくりと品定めするような、知的な光の冷たさがあった。
「何の用だい?まさか僕のピザ目当てじゃないだろう?」
「くだらん。俺は民衆のご機嫌取りには興味はない。」
彼の声は、普段のサガとは異なり、低く、圧倒的な自信に満ちていた。
「お前の改革案――悪くはないが、甘いな。」
いきなり“ダメ出し”である。僕は苦笑するしかない。
「甘い?どのあたりが?」
「民の生活を便利にし、彼らの歓心を買い、村や聖域を活気づかせる……理想論だ。だが歴史を見ろ、いかなる時代も、“民衆の支持”ほど脆いものはない。民は移ろいやすく、裏切りやすい。彼らに舵を委ねては、統治は長続きせん。」
悪サガの声は鋭く、冷たい理論が刃のように突き刺さる。
「では、どうすればいいと?」
「支配だ。恐怖と秩序。強き者が民を導き、逆らうものには罰を。従順なものには恩恵を。そうしてこそ、統治は“絶対”となる。これこそ、最も効率的な支配だ。」
さすが「悪サガ」。考え方が徹底している。いや、現代社会に生きていれば、こういう強権的リーダーシップも歴史の教科書で嫌というほど見てきた。
「……なるほど。確かに“効率”だけを考えれば、それが一番早い。だけどね、僕の経験上――“恐怖で人を縛る体制”って、見かけは盤石でも、どこかでほころびが生まれるんだ。」
「ふん、強がるな。理想にすがるのは愚者の証。俺はお前の“知恵”が目当てで来たんだ。お前ほどの才覚、聖域の歴史でも稀有だ。俺が教皇となれば、お前を全権設計者に据える。俺の“力”とお前の“知恵”で、神々すら跪く“理想郷”を共に築こう。」
悪サガは冗談ではなく、本気でそう言っているのがわかった。
全権設計者――たしかに心くすぐられるオファーだ。内心、評価されているのは素直に嬉しい。
でも……。
「ありがたい話だよ。あのサガにそこまで言われるなんて、光栄だ。でも、僕はね、支配よりも“共感”や“参加”の方が、長期的には絶対に安定すると思ってる。」
「笑わせるな。民衆に自由など与えれば、怠惰と分裂が生まれるだけだ。」
「うん、そういう側面もある。でも、現代の組織論やマーケティング理論では、“恐怖や強制”による統治は一時的な結束しかもたらさないって証明されてる。“リーダーについていきたい”と思わせるカリスマと、皆が“自分ごと”として動くシステムを作れば、支配者は“監視役”じゃなくて“旗振り役”になれる。」
悪サガは、しばらく沈黙した。
夕闇のなか、彼の瞳だけが月光を反射して冷たく光る。
「……理屈は分かる。だが、お前の言う“皆が自分の頭で考える社会”など、果たして現実に存在しうるのか?人間とは弱い。放っておけば腐敗する。」
「その通り。だからこそ、教育と環境整備。言ってしまえば“仕組みづくり”だよ。意志を育てる制度を作ればいい。人は最初は失敗する。でも、自分で選んで進む経験を積めば、やがて自律的になる。そのサイクルを“恐怖”じゃなく、“ワクワク”で回す――これが、今どきのリーダー論さ。」
悪サガは「ふっ」と鼻で笑った。
「やはりお前は甘い――が、その甘さ、悪くない。」
気がつけば、互いに少しだけ肩の力が抜けていた。
「お前は、なぜそこまで“人”を信じられる?」
「信じてるわけじゃないよ。そっちのほうが結局“効率的”だから。恐怖の体制は、一度崩れれば瓦解が早い。何世代にも続く統治を目指すなら、“恐怖”より“共感”だ。」
「……なるほどな。お前はやはり面白い。力で黙らせても、心まで縛れはしない――か。」
なんだか、話し込むうちに僕自身が妙にまじめになっていることに気がついた。
――らしくないな、と内心自嘲した。
「ま、どちらの手法も“完璧”はないってことさ。だけどまずは、みんなが健康で快適に過ごせる環境がなきゃ、統治も何も始まらないよ。サガ、まずは聖域に水洗トイレを普及させないとね?」
悪サガは、急に笑った。
「……お前、本当にふざけてるのか、真面目なのか分からんな。」
「どっちも本気さ。歴史を動かすのも、トイレの水を流すのも、人間の営みには変わりないでしょ?」
「……その通りだな。友よ。」
夕闇の村に、悪サガの“素”の笑みが浮かんだ気がした。
僕はどこかで、こんな対話をずっと待っていたのかもしれない。
神話の時代も、現代も――
人が人であるために必要なのは、“支配”でも“服従”でもなく、
“同じ未来を笑い合える誰か”なのかもしれない。
今夜の僕は珍しく真面目だ。
だけど、不思議とその真面目さも悪くない気がした。
(アイオロス視点)
双児宮の隣、書庫の扉を閉じるたび、最近どうにも胸が落ち着かない。
“ロドリオ村”――かつては聖域の外れの小さな村。今やその名は聖域中に響き渡っている。
理由はひとつ。
双子座のサガ、その「親友」とやら、杯座(クラテリス)のアッシュ。
こいつが村に来て以来、聖域の風向きが明らかに変わったのだ。
「サガ様、また村で電気工事の手伝いしてました」
「サガ様、アイスの食べ過ぎでお腹こわしたそうです」
「サガ様、婦人会のカラオケ大会で『愛と誠』を熱唱!」
――なんなんだその近代化は!?
俺が知らないうちに双子座は家電量販店になったのか?
いや、それどころか最近、村の子どもたちがサガを「サガ兄ちゃん」呼ばわりして駆け寄っているという。
聖域の“威厳”とは、どこへ消えたのだ……。
黄金聖闘士たるもの、誇り高く、民衆の模範でなくてはならない。
それが、俺たちの伝統。
けれど、サガは今や村のヒーロー。小宇宙で田んぼを耕し、婦人会のお尻の悩みを解決し、夜な夜なピザを食べる――。
いや、ピザは許すとしても(美味いから)、
どうして俺だけ置いてけぼりなんだ?!
いかんいかん。嫉妬で頭が沸騰しかけている。
俺は聖域の守護者・黄金聖闘士、射手座のアイオロス。
義と誠と正義と、あと弟への愛だけは絶対に誰にも負けない男だ!
こうして俺は、意を決してアッシュに会いに行くことにした。
ロドリオ村の入り口。
村の案山子までが「アッシュ印」とか書かれたリボンをしている。
何なんだそのブランディングは。
村人たちに聞けば「アッシュ様のおかげで、村もパンもお尻も毎日快適です!」と笑顔満面。
なんだよ“お尻”って。意味が分からん。
村の中心、やたら立派な図書館――いや、もはや“サガの秘密基地”になっている場所の前で、俺はついにその男と向き合った。
「おー、アイオロス様! お久しぶりです!」
軽快に手を振るアッシュ。サングラスに仕立ての良いスーツ、背筋はやたらと伸びているが、そのくせ芝生の上にあぐら。
どうにも、礼儀なのかラフなのかよく分からない。
「……久しぶりだな、アッシュ。」
俺はなるべく「黄金聖闘士のオーラ」を漂わせてみたが、目の前のこいつには一切効いてない。
隣には、例によってサガがアイス片手に現れる。
「あ、アイオロスもアイス食う?」
「いや、今はいい!」
まずは真剣に話がしたいんだ!
俺はアッシュをぐいと手招きして、二人きりの空間を作る。
サガはピザをほおばりながら「がんばれよ」とウインクしてきた。
……あいつ、どうかしてる。
「アッシュ、君に聞きたいことがある。」
「なんでしょう?」
サングラスをちょっとずらして、こっちを見てくる。
俺は真正面から、まっすぐぶつけた。
「君は、サガを甘やかしていないか?
彼の黄金聖闘士としての責任から目を逸らさせ、改革という耳障りの良い言葉で、彼を惑わせているのではないか。」
村の風が止まる。
アッシュは一瞬だけ、いたずらっぽい表情から、珍しく真剣な顔になった。
「……僕は、サガを“甘やかして”いるつもりはありません。むしろ、“人間として”の彼を一番大切にしたいんです。」
俺は息をのんだ。
その時だけ、アッシュのサングラスの奥の瞳が強く、何かを訴えていた。
「サガは、聖域の光であらねばならない。
彼は黄金聖闘士、みんなの希望だ。
だけど、その光が強すぎれば、きっと……本人は壊れてしまう。」
「でも、それが“責任”だ。
サガは“選ばれた者”として、運命を背負う義務がある。
俺もそうだし、君だって、聖闘士なら分かるだろう?」
アッシュは首を振った。
「僕は“親友”だから、彼の弱さも迷いも全部ひっくるめて、そのまま受け止めたいだけなんです。
“責任”や“伝統”で無理に縛るより、まず“人”として、隣にいてあげたい。」
うーん、何だその理屈。
……いや、理屈じゃなくて本音なのか。
まっすぐだけど、どうにも照れくさい話だ。
でも、俺には納得できない。
「だけど、サガが“人間”に戻ってしまったら、聖域はどうなる?
“親友”や“仲間”も大事だが、最後に民を救うのは“聖闘士”としての矜持だ。」
アッシュは肩をすくめて、なぜかピザを取り出した。
「アイオロス様もどうぞ。」
「……いや、真剣な話をしてるんだぞ!」
「じゃあ、逆に質問です。
“聖闘士”と“人間”、どちらか一つしか救えない時が来たら、どっちを取ります?」
「そ、そんなの……どっちも救うに決まってる!!」
「ですよね!僕もそう思いますよ。」
――え、今のは誘導尋問か?
サガの悪ノリがうつったのか、こいつ。
でも、どこかほっとしたのも事実だった。
「ただ……」とアッシュが続ける。
「僕は“サガ”っていう一人の人間が、心から笑える世界を作りたい。
その上で彼が聖闘士としても戦えるなら、それが最高じゃないですか。」
俺は唸った。
正論……いや、妙な説得力がある。
でも譲れない。
「サガがもし闇に落ちたら、どうするつもりだ。
黄金聖闘士は、聖域の未来だ。
俺は“光”の下で生きてほしい。」
アッシュは一瞬黙ったあと、小声で言った。
「もしサガが“影”に落ちるなら、その時は僕が一緒に影の中に入りますよ。
それが親友の役目だと思ってるから。」
真っすぐすぎて、何だか鼻の奥がツンとした。
「……アイオロス様は、どんな時もサガの“光”であり続けてください。
僕は“影”でも“友”でいますから。」
それを聞いた瞬間、俺は何か、心の奥に熱いものが込み上げてきた。
――これがアッシュ流の「親友論」か。
俺の「聖闘士論」と、正反対だけど、なぜか嫌いじゃない。
サガは、どちらの道も望んでいるのかもしれない。
俺たち“光”と“影”――両方の支えがあってこそ、あいつは“サガ”でいられるのかもな。
ピザをかじりながら、アッシュと並んで村の夕焼けを眺める。
その背中に、サガがニヤニヤしながら近づいてきた。
「お前ら、まじめな顔して何の話だ?」
「光と影の話だよ」と、アッシュ。
「ふーん。じゃあ俺は、ピザの“影”を担当する!」
……もう、何でもいい。
お前が笑っているなら、それで十分だ。
そんな夕焼けのロドリオ村。
俺の正義も、アッシュの友情も、どちらも“サガ”のためのものだ。
明日も、サガを“光”へ導くため、
俺はまっすぐ――聖闘士でいようと思う。
悪サガ「……くだらん。お前は相変わらず甘いな。あのアッシュという男、ただの道化かと思えば、案外芯がある。」
善サガ「たしかに彼は…不思議な男だ。軽薄そうでいて、誰より真剣に人を見ている。だが、お前が考えるような“支配”では、彼は決して動かせない。」
悪サガ「ふん、俺は民衆を“恐怖”で統べる道しか信じん。だが――アッシュの語る“共感”や“友情”、否定しきれぬ何かがあるのも、事実だ。」
善サガ「僕は彼の隣にいると、自分の弱さも、強さも、素直に認められる。君もそうだろう?彼の前では“影”も“光”も、すべて受け入れられる。」
悪サガ「……認めたくはないが、確かに。俺も、あいつだけは“友”と呼ぶことを許している。どんなに考え方が違おうと、それだけは変わらん。」
善サガ「うん。それでいい。互いに相容れなくても、“アッシュ”という存在だけは――心の中で大切にしておこう。」
悪サガ「まったくだ。……さあ、そろそろ出番だ。お前も俺も、どちらが表に出ようとも、奴との友情だけは…忘れんぞ。」
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