聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
しかし、その夢は太陽神の笑顔とともに粉砕される!
加護が乱れ、信仰が生まれ、教師も覚醒!?
次々と増える信者たち──そして母までもが布教に参戦!?
次回、『童守小学校、アベル教誕生 ―普通の小学生になりたい女神―』
世界の秩序が乱れる前に、ぬ〜べ〜先生……あなたしかいません!
翌朝。私は玄関で、すでに心が折れそうになっていた。
「沙織、準備はできたかい?今日は初めての兄妹登校だね。嬉しいだろう?」
「別に!!」
靴ひもを結ぶ手がプルプル震える。
普通の小学生が抱える登校拒否とは別次元の理由だ。
しかも、今日は昨日より気合い入れてきてる。
水色の髪がやたらサラッサラ。
おまけに香水までつけてる……太陽神くん、女子中学生の美容雑誌でも読んだのか。
「沙織、下駄箱まで手を繋ぐかい?転んだら危ないだろう?」
「子ども扱いしないで!!」
こうして私は――
昨日会ったばかりの自称兄(自称神)と共に校門をくぐった。
瞬間。
視線の嵐が襲ってきた。
「「「キャーーーーー!!!」」」
「え、今日もイケメンきてる!?」
「昨日の転校生のアベル様だ!!」
「隣の子だれ!? 妹!? 妹なの!?」
「沙織ちゃん!? なんで!? どうして!?」
「ずるい!! 交代して!!」
誰かぁぁぁぁぁ!! 私を守ってえぇぇぇ!!
アベルは、その黄色い歓声を心地よさそうに受け止めている。
「ふむ……僕を信仰する者たちが、どうやら増えているな。良いことだ」
「学校で信仰とか言わないで!!」
その時、廊下を歩いていた5年生男子たちが、羨望と嫉妬の入り混じった目でこちらを見る。
「おい見ろよ……あのイケメン、沙織ちゃんのお兄さんらしいぞ」
「妹と手つなぎ……? く……神か?」
「勝てねえ……顔面偏差値で全敗……」
そんなところで絶望しないで!! こっちはもっと深刻だから!!
ようやく教室につくと、美樹と郷子が勢いよく駆け寄ってきた。
「沙織ぃぃぃ!! なんで昨日のうちに言わないのよ!!」
「知らなかったの!! 昨日突然来たの!!」
「うそでしょ……あんな完璧超人がお兄ちゃん……? 今日からあんたの家、聖域と同じ扱いになるじゃん……」
「やめて!! 言葉の重みが違いすぎる!!」
と、そこへ。
アベルが教室のドアを優雅にノックして入ってきた。
女子の悲鳴が爆発。
「キャアアアアア!!」
「沙織ちゃんのお兄様きた!!」
「しかも今日もイケメン!!」
「近づく!! 空気が美味しい!!」
アベルは、当然のように私の席まで歩いてくる。
「沙織、午前の授業は体育だろう? 水分はしっかり取るんだぞ。お兄さんは君の健康が心配だ」
「やめて!!! 恥ずかしい!!!」
「では、私は自分の教室に行くよ。何かあればすぐ呼んでくれ。空間を越えて駆けつける」
「呼ばない!!」
アベルは軽く手を振って去っていった。
その背中に向けて、女子たちは崇拝モード。
「笑顔が神……いや神だったわ」
「光背見えた……後光さしてた……」
「城戸家に入りたい」
やばい……これ信者ができてる……完全に……
そのとき、美樹が私の肩をポンと叩いた。
「……沙織、今日からあんたは城戸家教団の教祖だね」
「やめて!!」
「いろいろ諦めた方が楽だと思うよ……?」
「諦めない!! 正常な学校生活を取り戻したい!!」
しかしその叫びは、先生の登場によってかき消された。
「おーい……お前ら朝から何を騒いで……って、アベル君か。今日も麗しいな……」
「先生まで信者化しないで!!」
「いやあ、つい……」
その後もアベルは廊下を歩くだけで小さな騒動を巻き起こし、女子も男子も、果ては先生まで動揺させていた。
そして昼休み。
私が廊下を歩いていると、アベルのクラスの女子たちが取り囲んできた。
「ねえ沙織ちゃん。アベル様と一緒に写真撮りたいんだけど……」
「サインとか……してくれる?」
「できれば……婚約の約束とか……」
「勝手に婚約しないでえぇぇぇ!!」
アベルは、そんなカオスを背に、優雅にお茶を飲んでいた。
窓から差し込む光を背負って微笑む太陽神。
「妹よ。この学校はなかなか楽しいな」
お願いだから……お願いだから……普通になって……
でも、その願いは太陽のように遠かった。
◆
休み時間。私はそっと6年2組の教室を覗いた。
理由は簡単。
なんか、廊下が妙にざわざわしてる気がするからだ。
で、そのざわざわの原因は――
兄(自称)だった。
アベルは教壇の前に立ち、クラスメイトたちに囲まれ、堂々と説教をしていた。
「――というわけで、私は太陽神アベル。そして我が妹・沙織はアテナだ。二人を信じる者には、大いなる加護を与える」
「キャー!神様って本当にいるんだね!」
「マジかよ。じゃあ御利益とかあるの?」
アベルはしばし瞳を閉じ、そして得意げに頷いた。
「もちろんだ。ではまず、君に交通安全の加護を授けよう」
どこからともなくキラッキラの石のついたアクセサリーを取り出した。
あれ、私見たことないんだけど。どっかのオリンポス倉庫から持ってきた?
「うお、本物っぽい!」
「そのお守りを身につける限り、車に轢かれることはない」
いや何それ!! 言い切り!? 車に!? 轢かれないってどういうレベル!?
そっとその場を離れた。
怖い。
兄が怖い。
でも放課後。
その怖さは、さらに現実のものになる。
男子Aは、アベルからもらったお守りを握りしめ、いつものように帰ろうとしていた。
そして信じられないほど間の悪いタイミングで、彼は道路に飛び出してしまった。
「やべっ!」
猛スピードのトラックが迫っていた。
見ていたみんなが叫んだ。
「きゃーーー!!」
「危ない!!」
その瞬間。
ドゴォォォォォン!!!!
トラックのほうが吹っ飛んだ。
まるで目に見えない巨大な壁にぶつかったように。
ド派手に横転し、煙が上がる。
男子Aは――
無傷。
ぽかんと立ち尽くしていた。
他の生徒も呆然。
「………………アベル様……ガチの神だ……」
こわいこわいこわいこわい!!
ぬ〜べ〜が駆け寄り、男子Aが握りしめていたお守りを見る。
「これは……霊力?いや、もっと違う……まるで神気……?
人間の運命にここまで干渉できるなんて……」
先生なのに、本気で震えてる。
私も震えてる。
さらにその数十分後。
恋愛成就のお守りをもらった地味な女の子がいたんだけど。
その子、靴箱で信じられない場面に遭遇していた。
「す、好きです!オレと付き合ってください!!」
「えっ!?えっ!?わ、私!?でいいの!?」
「うそおおおおおおおおお!!!!!!」
「キャプテン!?あの硬派キャプテンが!?誰でもない、地味な子に!?なんでぇぇぇ!」
少女はお守りを見つめ、震える声でつぶやいた。
「アベル様……すごい……!!」
いやすごいじゃなくて!! なんか色々ダメでしょ!?
さらにその後も加護事件が連続で起きた。
・学年一運動が苦手な男子が突然50m走で1位
・問題児が急に悟りを開いたように穏やかになった
・給食のプリンがなぜかアベルの机だけ倍増していた
教師陣もざわついてくる。
「城戸アベル君は……いったい何者なのかね……?」
「と、とりあえず教育委員会に……」
「(腕を組み)下手に刺激しないほうがいい。あれは人間が扱う領域ではない」
先生ガチで言ってるじゃん!?
そして放課後。
私は勇気を振り絞ってアベルを問い詰めた。
「なんでそんなもの配ったの!? 学校が宗教みたいになってるよ!!」
「不思議だな。私はただ、本来の力を少し込めただけだよ。あれでも地上仕様に調整してある」
「地上仕様でトラック吹っ飛ぶの!? どんな基準!?」
「太陽神の愛は偉大だからね。妹の通う学校に害があるのは許せない」
「だからって過保護が強すぎるよ!!」
アベルは優雅に肩をすくめた。
「信じたい者が信じればいい。私はただ、善意で加護を与えているだけだ」
そんなことを言って、彼は夕日に照らされながら微笑んだ。
その姿は――確かに神様だ。
でも同時に――
迷惑すぎる神様だった……
童守小学校は、今日を境にアベル教として目覚めてしまった。
◆
翌日。私は机に突っ伏したまま、静かに人生の終わりを感じている。
昨日のアベル(自称兄)の奇跡乱発事件以来、童守小学校は一夜にして宗教都市になってしまった。
休み時間になるたびに、校内のどこからか
「アベル様ァァァァ!」
「お守りくださいーっ!!」
「太陽の子ーー!!」
という悲鳴とも歓声ともつかない声が響き渡り、私はそのたびに胃がキリキリする。
そんな私の苦しみを無視し、今日も朝から地獄は始まった。
休み時間。教室のドアが乱暴に開かれた。
「おい城戸!!」
「ひっ!?な、なに!?また何かあったの!?」
克也君は、どこかで拾ってきた派手なお守りを握りしめ、興奮気味に私の机に身を乗り出した。
「お前の兄貴、マジやべえ!
昨日、俺の友達が車に轢かれそうになったのに無傷だったってよ!
お前の兄貴が出した安全のお守りの力だって話だぞ!
だからよ、俺にもなんかくれよ!!」
「え、ええ!?私、そんなの出せないから!!」
「沙織ちゃんは知恵の女神アテナなんでしょ!?お願い!明日のテスト、何も勉強してないの!知恵の加護をちょうだい!!」
「ひぃぃぃ!!私、小学生のテストすら自力だよ!!
加護とか付け方わかんない!!」
しかしクラスメイトは容赦しない。
「ケチ!」
「女神のくせに!」
「兄貴は配ってくれたのに!!」
「だから私は兄貴じゃないってばぁぁぁぁぁ!!!」
教室を飛び出した。
涙目で廊下を走りながら、心の中で叫ぶ。
もうやだぁ!!
普通の小学生として過ごしたいのに、なんで女神とか兄とか加護とか出てくるのよ!!
助けてママぁぁぁぁ!!
一縷の希望を胸に、職員室の前で深呼吸した。
大丈夫。エリスママなら、きっとなんとかしてくれる。
あの人はいろいろアレだけど、私のことはちゃんと守ってくれるはず!
そして、勢いよく職員室のドアを開け放った。
「ママぁぁ!!助けて!!」
……が。
見たのは――地獄だった。
エリス(教師モード)と翔子(ときどき精神世界)が、職員室の机を教卓のように使って列を作らせていた。
「はーい、並んで並んで!これは、別れたい恋人と円満に(物理的に)別れられるお守りよ!はい、次!そっちの君には、部活の大会で必ず勝てるように、ライバルの腹痛を祈願するお守りね!」
「ちょっ!?なに配ってるのママぁぁぁぁぁ!!!」
『ちょっとエリス!内容はともかく、やり方はまずいって!
職員室でお守り配布って完全にアウトでしょ!!』
『うるさいわね!アベルが良い手本を見せたんだから、倣うのが一番効率的でしょうが!
これも小宇宙の有効活用よ!!』
「効率とかそういう問題じゃないからぁぁぁ!!」
子どもたちは大喜びで列を作っている。
「エリス先生のお守り欲しいー!」
「恋愛運!恋愛運!」
「腹痛祈願お願いします!!」
なんで腹痛が人気なのよ!!
エリスママは妙にノリノリで、どう見ても無許可でお守り量産体制に入っている。
しかも職員室の奥では、ぬ〜べ〜が腕を組んで唸っていた。
「これは……まずいな……。霊的エネルギーが強すぎる……。
このままじゃ童守小の結界が歪む……!」
結界!?私の学校に結界あったの!?
もういろいろ限界だった。
その場でガクンと膝から崩れ落ちた。
「あら沙織?どうしたの?
あなたも欲しいの?母の愛情込めた必勝祈願お守り?」
「いらないぃぃぃ……!!」
目の前が暗くなり、私はそのまま白目をむいて倒れ込んだ。
周囲の子どもたちの声が遠くなる。
「城戸さん倒れた!」
「女神でも倒れるんだ!」
「じゃあ余ったお守りもらっていい?」
「腹痛のやつほしい!!」
もう……やだ……。兄も……ママも……暴走神だらけ……。
私の普通が……遠ざかっていく……
気絶する直前、私は心の底からこう思った。
ぬ〜べ〜先生……学校を……守って……私のメンタルも……守って……
◆
翌朝。童守小の昇降口に立つ私は、すでに魂が抜けかけていた。
だって手の中には、徹夜で作った可愛いアクセサリーがぎっしり詰まった箱。
これ、見た目は普通のビーズアクセだけど、問題は――
全部、加護付き。
……普通の小学生はさ……こんな神力入りアクセを自作しないよね?
でも昨日、アベル兄様とママとヴィーナス姉様に朝まで詰められたんだもん……
昨日の夜のこと。
「女神のくせに加護ひとつ作れないというのは、どうなんだい?
妹として、神として、沽券に関わるよ」
「『その通りよ。アイオロスの娘が、加護ひとつ扱えないなんて、母親として泣けるわね!』」
「ねぇ沙織ちゃん、こういうのは練習あるのみよ?
さあ、この恋愛運上昇ブレスレットを一晩で100個ね♪」
「無茶苦茶だぁぁぁぁぁ!!私まだ小学五年生!!」
その後、女神(+太陽神)に囲まれ、
「加護の成分配合」
「アクセデザインの魅せ方」
「祈願の文言センス」
などのスパルタ教育を受け続けた。
結果……徹夜。
私の身体は、小学生じゃなくてブラック企業の新入社員みたいになっていた。
現在、昇降口。
クラスメイトが次々と押し寄せてくる。
「沙織ちゃーん!今日テストだから知恵の加護ちょうだい!
昨日のお守り貰った子、全員点数上がってるんだって!」
「沙織ちゃん、恋愛運上がるやつほしい!
あのね、隣のクラスの佐藤くんに告白されたいの!」
「オレは格闘ゲームで勝てるやつ!昨日の腹痛祈願のやつ効きすぎて、相手が部活休んでんだけど!」
「それはダメだと思う!!」
でも私は覚悟を決めた。
だって昨日、唱えられたのだ。
「お前が普通の女神になれば、普通の学校生活に近づくのだ」
「『女神がちょっと加護を配るのは当たり前のことだ』」
「普通の女の子だって、お手製アクセプレゼントするでしょ?」
……いや、しないと思うんだけど。
でも私は信じた。
自作の小物をプレゼントする女の子……これは普通…!!私は普通の女の子……普通……普通……
壊れたみたいに自分に言い聞かせながら、必死でアクセを配り続けた。
「はい、これは知恵の加護。記憶がスッと来るようになって、ひらめきやすくなるわ。
こっちは芸術の加護。手先が器用になって、絵が上手く描けるようになるわ……」
「おおーー!!!女神の加護スゲェ!!沙織ちゃん、神!!」
内心で泣いていた。
このままじゃ普通どころか、
童守小の宗教的中心人物(アテナ)になってしまう。
そのとき、私の背後からふわっと気配がして――。
「ところで沙織。
昨日から君の言う普通が、どうにもおかしい気がしてね」
「えっ……?」
「君の普通って、どう考えても君がやり込んでいるギャルゲーの主人公ムーブなんだよね。
あれは普通の人間ではなく、普通に見せかけた攻略可能ヒロインだ。
僕が見る限り、人間の普通とはだいぶ違うと思うんだが……」
「私は普通よぉぉぉぉぉぉ!!!!」
クラスメイトたちが「あ、また城戸さん叫んでる」と笑っている。
アベルは満足げに頷き、私の頭をポンと撫でた。
「まあ、そういうところが妹らしくて愛しいけどね」
「キャー!兄妹尊い!!」
「城戸兄妹、推せる!!」
今日も童守小の朝はうるさかった。
そして私の心の叫びは、誰にも届かず――
青空だけが、虚しくその声を吸い込んでいった。
沙織「……ねえ、オルフェウス。お願い、もう私、限界なの……」
オルフェウス「限界? またアベル殿とエリス様が何か?」
沙織「何かどころじゃないのよ! 学校中がお守りで信者化してるの!
ぬ〜べ〜先生まで混乱してるし、ママは職員室で加護配布会!
もう誰か、普通の常識人はいないの!?」
オルフェウス「……ふむ。なるほど、君の心が嘆いているのがよくわかる。
やはり私は音楽で癒すしか――」
(静かに竪琴を構え、優しい旋律が響く)
沙織「うう……オルフェウス……やっぱりあなたは違う。
落ち着く……優しい……一番人間らしい……」
オルフェウス「そう言ってもらえると嬉しいよ。
ああ、そうだ。実は私もアベル殿から演奏の加護をもらってね」
沙織「…………はい?」
オルフェウス「見てくれ、これだ」
(胸元から取り出したキラッキラのリラ型チャーム)
「音程を外さないお守りだそうだ」
沙織「うそでしょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
オルフェウス「試しに着けてみたら、本当に外さなくなった。
……だが、代わりに観客が勝手に泣き崩れるようになったんだ。
神曲って、そういう意味だったのかもしれないね」
沙織「もうやだぁぁぁ!!あんたまで汚染されてるじゃないの!!」
オルフェウス「汚染とは失礼だな。美の波動の調和だ」
沙織「言い方ァァァァ!!」
オルフェウス「ふふ……それに、君にもよく似合いそうだよ」
(リラチャームを沙織の首にそっとかける)
沙織「ちょ、やめっ……!!あ、あれ?……音が……きれいに響いて……?」
オルフェウス「それが神の旋律だ。君も童守フィルハーモニーの一員だね」
沙織「そんな宗教団体みたいな名前やめてぇぇぇぇ!!!」
この次の映画編はどちらがいいですか?
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真紅の少年伝説編(日本編)
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最終聖戦の戦士たち編(聖域編)