聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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童守町を照らす光は、もはや街灯ではなかった――。

ゴミ拾いに勤しむ太陽神、称賛される神、そして……
まさかの銀行強盗相手に炸裂するアテナドロップキック!?

兄を吹っ飛ばした妹、誇る母、呆れる女神。
今、町は史上最も“まぶしい”日常へと突入する!

次回、『神と強盗とドロップキック ―童守町、まぶしすぎる日常―』

普通を求める少女の叫びは、今日も神々の笑いにかき消される!


神と強盗とドロップキック ―童守町、まぶしすぎる日常―

最近、童守町にはキラキラした光が増えた。

それは……

 

原因:私の家に住みついた太陽神。

 

そう、お兄様(自称)

私の兄を名乗る、完璧すぎる神様アベルである。

 

朝、私がまだ目を擦りながらトーストを食べている時間。

アベルはすでに家の前の道路のゴミ拾いを終え、町内会長に褒められている。

 

「アベル君は偉いねえ。最近の若いもんには珍しいよ」

 

「僕が滞在している間に、この街を少しでも綺麗にしたいのです。神として、ね」

 

「重い荷物、助かったよ〜〜〜」

 

「どうかお気になさらず。弱き者を助けるのは、当然のことですから」

 

……いや、あの。

あなたまだ子供の姿なんだけど?

その丁寧で優雅な口調、逆に怖いんだけど?

 

 

そして学校では――

 

「太陽神アベルと智慧の女神アテナを讃える会」

略して アベル会 が爆誕した。

 

「沙織〜〜!今日のアベルお兄様、町中の犬にまで祈願してたよ!すっごい優しかった!」

 

「ねえ、ほんとに入会しなよ!入会特典で、お兄様の手作りお守りもらえるんだよ!?

昨日なんか、交差点で転びそうになったのに、風が吹いて助かったんだから!」

 

「…………はぁぁぁぁぁぁぁ」

 

「またため息ついた!!幸運が逃げるってば!」

 

「逃げていいのよ。幸せより普通のほうが大事だもの…」

 

私の中では、普通>幸福。

最近、その構図が完全に形成されてしまった。

 

だって――私の毎日は普通じゃなさすぎる!

 

 

放課後。

廊下を歩いていると、何やら6年生の教室前に女子が群がっていた。

 

「アベル様〜〜♡ 今日の布教(※本人はそう言っていない)楽しみですぅ♡」

 

「ねえ、今日のテーマは何かしら。正しい太陽の浴び方とか?」

 

嫌な予感しかしない……!

 

顔を覗かせると、やっぱりアベルが教壇に立っていた。

 

「皆さん、本日もご参加ありがとう。

ではまず心と体を浄化するための朝日との向き合い方から始めよう」

 

「「はぁぁぁ〜〜〜〜♡」」

 

……やばい。

宗教ができあがってる。

完全に完成してる。

 

しかも、アベル会の活動内容はいいことばかりなのが余計タチが悪い。

 

・ゴミ拾いの手伝い

・老人ホームでの歌の発表会

・落ちていた子猫の保護

・町の花壇の手入れ

・学校の掃除

 

……うん。

 

どこをどう切っても善行。

よって、誰も止められない。

 

 

さらに家に帰ったら――

 

「『沙織〜〜!今日もお兄ちゃん、地域の人からたくさん差し入れもらってきたわよ!』」

 

「太陽神アベルのおかげで町が明るくなったと、校長先生も感激していたぞ」

 

「……普通の小学生は、校長先生を感激させたりしないと思うの……」

 

「何か言ったかい、沙織?」

 

「別に……」

 

「そうだ、明日の授業参観、僕も行くよ。妹の晴れ姿を見るのは兄の務めだろう?」

 

「えっ……明日……???」

 

「もちろん、父さんと母さんも一緒さ」

 

「ああ、楽しみにしているぞ」

 

「『私も行くからな!先生としては少ししか見られないかもしれないが!』」

 

「………………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ」

 

今日一番の、魂が抜けるような深いため息が出た。

 

「沙織、息吐きすぎて軽くなって飛んでいかない?」

 

「いや、逆に地面に沈んでいきそうよ……」

 

「誰か!私に普通の毎日をください!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

銀行に来た理由は、ただの用事だった。

預金とか、振り込みとか、そういう普通のやつ。

 

そう、普通を目指す私にとっては、むしろ貴重なイベントのひとつ。

しかし――

 

……なんで銀行にまで神やら女神やらついて来るのよ

 

エリスの魂が入っている母・翔子。

完璧すぎる兄(自称)のアベル。

 

この二人が普通の銀行に馴染むと思う?

いや、思わないよね。

私だって思わない。

 

 

順番待ちの長椅子に座って、静かにため息をついた。

 

「はぁ……今日は何も起こらないといいんだけど」

 

「心配しなくても大丈夫だよ。僕がいる限り、君の安全は保障されている」

 

「『そうだぞ沙織。何かあったら母が蹴散らすからな!』」

 

……この親子、危機感が逆方向に振り切れている。

 

そして、フラグは静かに立っていた。

 

 

突然、外からけたたましいサイレン。

次の瞬間、銀行の入り口がバンッ!と開かれた。

 

覆面の男たちが叫びながら入ってくる。

 

「動くな!金を出せ!騒ぐと人質の命は――」

 

「はーいはーい、分かった分かった」

 

「ん? えっ? なんでそんな冷静なんだ?」

 

「怖がってほしいなら、別の銀行にしなさい。ここは翔子さんが常連なのよ?」

 

「……しょう、こ? 誰だよそれ」

 

振り返った先、そこに立っていたのは――

腕を組み、完全に呆れ顔の母。

 

「はぁ……また強盗? この町は妖怪も来るし、悪霊も出るし、強盗も来るし、忙しいわね」

 

待って、そんな日常いらない……!

 

強盗たちは、まだ状況を把握していなかった。

 

「おい、ババア! 動くなと言っただろ!」

 

「『ババア? 今の、聞き捨てならないわね』」

 

「『ショーコ、やってしまえ!』」

 

「エクレウス流星拳!!」

 

ドゴゴゴォォォォッ!!

 

光の拳が強盗たちを包み込み、次の瞬間、彼らは見事に横一列でぶっ倒れた。

 

「な……なんだこの光……!?」

 

「こ、光速……?」

 

「ママぁ……」

 

完全ノックアウトである。

 

 

銀行内の空気が一変した。

 

「いやぁ〜翔子さんすげえや!」

 

「いつも助けてもらって、ありがとうございます!」

 

「今日も安心してお金を預けられるわ」

 

なにこの、地域密着型ヒーロー感……

 

アベルはというと、そんな騒ぎにまったく動じず、むしろ冷静に立ち上がって強盗を確認していた。

 

「うむ。怪我は軽度だね。君たち、悪事はもうやめなさい。悔い改めるなら、僕が光を与えてあげよう」

 

 

 

 

 

 

 

胸に手を当てて、深く息をついた。

 

よかった……今日は普通じゃなかったけど、とりあえず無事に終わって……

 

その瞬間だった。

 

むくり。

 

床で伸びていたはずの強盗の一人が、ゾンビみたいに起き上がった。

 

「ガ……ガキでも……人質は……人質だぁぁっ!!」

 

「え、ちょっ――」

 

気づいたら、目の前にいて、ナイフを振りかざして突っ込んできていた。

 

あー。はい。これ、完全に終わった……

 

だが、私より先に動いた影があった。

 

アベルだ。

 

彼の瞳から、一瞬で優しい光が消えた。

 

「……愚かだな、人間。我が妹へ、汚れた刃を向けるとは。やはり、粛清しかあるまい」

 

アベルの手が、強盗の腕を掴んだ。

その握力だけで、金属のナイフが軋んだ。

 

「ひっ!? な、なんだこの力――」

 

「太陽神の逆鱗に触れた罪、すぐにでも――」

 

この人、本気で握り潰す気だ。

いや、もうすでに潰れかけている。

 

うわぁぁあ! これ止めないと殺しちゃうやつ!!

 

思考より先に、身体が動いた。

 

「やめてぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

その瞬間、私は飛んでいた。

本当に飛んでいた。

 

足がアベルと強盗の方に真っ直ぐ向かって――

 

ザシュッ!

 

重力無視の綺麗な弧を描きながら、

私のドロップキックが炸裂した。

 

ゴッシャァァァァン!!

 

壁が砕けて、人型の穴が二つ開いた。

 

穴Aにアベル。穴Bに強盗。

 

二人とも、見事に仲良く気絶していた。

 

「『おお……沙織の蹴り、あれは光速に近いんじゃないか?』」

 

「あの子、聖闘士になれるんじゃ……」

 

「いやぁ、兄ちゃんと強盗を同時に吹っ飛ばすなんて、肝が据わってるねぇ」

 

「いやいやいや、誰も褒めてないわよ!? これ普通じゃないから!!」

 

慌ててアベルのもとに駆け寄った。

 

「お兄様っ!? だ、大丈夫!? 生きてる!?

てか、死んでない!? ごめん!!」

 

アベルはうっすらと目を開けた。

 

「……妹よ……」

 

「はい!! なんでもしますから!!」

 

「……随分……手荒い……天罰だ……」

 

「ごめんぬあああああああ!!」

 

銀行中に私の謝罪が響いた。

 

「『沙織……よくやったぞ。母として誇りに思う』」

 

「誇らないで!!

兄を吹っ飛ばすの、普通じゃないから!!

むしろダメなやつだから!!」

 

「『いや、あれは本気で殺しそうだったからな。止めたのは正しい判断だ』」

 

周りの人々も頷いている。

 

「いやぁ、あのままじゃ大惨事でしたよ」

 

「兄ちゃんも神様で力加減が分からないんだろうねぇ」

 

いや、たしかにそうだけど……

でも人間界で神の暴走を止める小学生ってなに……?

私の普通どこ行ったの……?

 

 

 

しばらくすると、救急車と警察が来て、強盗は連行された。

アベルは医務室へ運ばれ、私はその後をてくてく歩きながら、どうすればこんな一日を普通として処理できるのか真剣に悩んでいた。

 

「はぁ……」

 

「『どうした沙織? 今日も普通だっただろう?』」

 

 

 

 

 

その夜の食卓は、静かだった。

 

そこには、ソファで壁にめり込んだ傷をさすりながら座る太陽神(半神)アベル。

そして、料理をよそいながら「まあまあ」と笑う翔子(時々エリス)。

向かいには、アベルと翔子を鬱陶しそうに見てはため息をつくヴィーナス。

そして私――今日、人間界で神を蹴り飛ばした女神(見習い)。

 

……もう、家族構成が情報過多すぎる。

 

おそるおそる箸を置いた。

 

「お兄様……その……今日のこと、怒ってません……?」

 

喉がひっくり返りそうなほど緊張していた。

もし「妹に蹴られて屈辱だった。今日をもって人間は粛清だ」とか言い出されたら――童守町どころか日本が終わる。

 

だがお兄様は、まるで何でもないように紅茶を一口すする。

 

「ん? ああ、銀行でのことかい? 怒るどころか、実に愉快だったよ」

 

……愉快?

 

予想外すぎて目が点になった。

 

「え……愉快?」

 

「もちろんだとも。まさか、アテナの天罰があれほど華やかで、お転婆なドロップキックだとはね。あれほど豪快に吹っ飛ばされると、むしろ清々しい」

 

お兄様は胸を張り、なぜか誇らしげだった。

 

「……いや、その……蹴ったの私なんですけど……」

 

「だからこそだよ、沙織。神話の時代のアテナにはなかった、実に地上らしい動きだった。特に、蹴りの軌道が美しかった」

 

褒められてる……のか?

いや、褒めてるよね?

でも褒められてる内容のはずなのに、どうして私はこんなに疲れているんだろう。

 

私が困惑していると、お兄様はさらっと続けた。

 

「それに、人間が愚かであることなど、神話の時代から変わっていないさ。強盗など、あの頃にも山ほどいた。今さら僕の中の人間の愚かレベルが上がることもないよ」

 

……あ。この人やっぱり神だわ。

 

翔子ママが、ふーん、と頷きながら料理を運ぶ。

唐揚げとサラダの皿を置く動作が、どこか機械仕掛けみたいにスムーズだ。

 

翔子ママの中でエリスママがぼそっとつぶやいた。

 

(フン。普通の神はそこまで人間に肩入れしない気もするがな……)

 

お兄様がフォークを止めて視線を向けた。

 

「お母様。神話の時代から人望が薄かったあなたが言っても、説得力がありませんよ」

 

エリスママの精神世界が一瞬で凍りつく気配を感じた。

 

翔子ママの身体がフリーズして、ゆっくり、ぎこちなく笑顔を作った。

 

「じ……人望は……あるほう……だと思うぞ……?」

 

エリスママは、しばし沈黙したまま固まっていた。

あ、刺さってる。めちゃくちゃ刺さってる。

 

ヴィーナス様が肩を震わせて笑いをこらえつつ、私に耳打ちしてきた。

 

「アベル君ね、あれでいて神と人間のハーフなのよ。だから感性が人間に近いの。神話の時代はああ見えて、けっこう苦労人だったのよ」

 

「苦労人……?」

 

「ええ。太陽神の一族って、基本的に神々の会議で浮くのよ。強すぎるし、光りすぎるし、眩しすぎるから」

 

ああ、なんかわかる気がする。

たしかにお兄様、存在してるだけで後光が差してるし、身だしなみ完璧だし、周囲の人間と温度差がすごい。

 

でも、彼の人間っぽさも少しずつ見えてきて、私はホッと息をついた。

 

「……あの、じゃあ、お兄様は人間のこと、完全に見下してるわけじゃないのね?」

 

お兄様は微笑み、優雅にティーカップを置いた。

 

「もちろんだよ。僕の信者たちは、この街で幸せに生きている。だから僕は彼らを守ろう。太陽神といえど、信者の生活を脅かすようなことはしない」

 

信者……。

学校でも増え続けてるアベル会のことだ。

 

お兄様は続けて言う。

 

「もしこの街に危機が訪れれば、僕は太陽神の力で守ろう。

――ただし、必要があれば妹の天罰ドロップキックを発動してもらうかもしれないがね」

 

「発動しないわよ!!」

 

翔子ママは相変わらずエリスママと精神内で討論しているらしく、表情がコロコロ変わっている。

 

お兄様の寛容さが思ったより大きくて、私はようやく心が落ち着いてきた。

 

……でも同時に理解した。

 

私はもう、「普通」な日常には戻れない。

 

私の家庭には、

黄金聖闘士のパパ、

二人の女神のママ、

太陽神(半神)の兄、

オリンポスの女神の叔母さん、

そして私自身がアテナ。

 

どこをどう見ても普通じゃない。

 

「……まあ、これが私の普通ってことなんだろうな……」

 

誰に言うでもなく呟くと、アベルが私の頭を軽く撫でた。

 

「そうだよ、沙織。

君が普通でいようとする必要なんて、どこにもない。

君は君のままでいいんだ」

 

その言葉に、胸が少し熱くなった。

 




ドルバル「……また童守町が光に包まれたか。あれはまるで、神話の再演だな」

フレイ「太陽神アベルのことですか? どうやら今は善行モードに入っているらしいです」

ドルバル「善行モード……? 聞き慣れぬ言葉だ。神が地上でゴミ拾いなど、どういう了見だ?」

フレイ「人間界での信仰率向上キャンペーンだそうです」

ドルバル「……やはり、災厄の序章か」

フレイ「だが本人は満足しています。『妹のドロップキックは神聖な裁きだった』とまで言っていました」

ドルバル「ほう。太陽神を蹴り飛ばした女神がいると?」

フレイ「アテナです。もっとも、今は普通の小学生を名乗っていますが」

ドルバル「小学生の蹴りで太陽神が壁にめり込むのか。
……それを普通と呼ぶなら、神界の基準も見直さねばなるまい」

十二宮編の最後は誰と誰の対決に?

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