聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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今日のテーマは――「普通」。
そう、ただのデート。ただの小学生の恋。

神も女神も封印して、私は一人の女の子として、
星矢先輩と笑ってみたかった。

……まあ、結果は読んでの通り、太陽神乱入イベント。
恋愛ルートって、どうして毎回ボス戦になるのかしらね。


恋と嫉妬と太陽光線 ― 普通を夢見た女神 ―

「普通の恋愛を楽しむ」

その一点だけを目標に掲げた、私の本日のミッションである。

 

……そう、あの星矢先輩と。

 

女神とかアテナとか、半神のお兄様とか、三柱の女神が同居とか、そういうややこしい設定は今日は全部忘れる。

私は「普通の少女・城戸沙織」

ただの恋する小学生なのだ。

 

そんな意気込みで、私は校門の前に立っていた。

太陽はまぶしいし、空は青いし、今日こそは絶対にギャルゲーの甘々イベントルートに突入すると、私は固く誓った。

 

「星矢!」

 

呼ぶと、星矢が振り返った。風に揺れる茶色い髪、爽やかすぎる笑顔。

 

「どうしたんだ?沙織さん」

 

……はい、来ました。安定の「さん」付け。

 

年下の私に敬語、でもそれがなぜか自然なのが星矢先輩のすごいところ。

 

「ううん、呼んだだけ。エヘヘ」

 

「あはは、甘えん坊だな、沙織さんは」

 

その言葉が胸に刺さった瞬間、私の脳内の恋愛ゲージは一気に上昇した。

完全に甘々幼な妻ルートに突入である。

 

きたきたきた!この距離感、このテンポ、この空気!どう見ても、ただの「普通」の恋愛イベントでしょ!!!

 

ほくそ笑んでいると、星矢が続けて言った。

 

「それで今日はどうする?ゲーセン行くか?それとも遊園地?」

 

「ゲーセン!今日こそ星矢を格ゲーで倒してやるわ!」

 

「おっと、そう来るか!上等だ。負けないぞ!」

 

私の手を取った星矢は、そのまま走り出した。

この自然な手つなぎ……乙女ゲームのスチルとして実装してほしい。

 

心の中でガッツポーズを決めた。

 

デフォルメでいいからこの瞬間のSDキャラCG欲しい……

 

星矢と二人並んでゲームセンターへ。私は内心非常に満たされていた。

 

……だったはずなのだが。

 

 

ゲーセンに到着すると、目に入ったのは格闘ゲームの新作筐体。

星矢の手を引っ張って座り込んだ。

 

「今日こそは勝つからね!」

 

星矢は苦笑しながら席に座り、コントローラーを握った。

 

「沙織さん、これ結構難しいんだぞ。大丈夫か?」

 

「ふふふ……私は昨夜、お兄様にコンボ指導を受けたのよ。太陽神の英才教育よ!」

 

「その時点でもう普通じゃないんだけど……」

 

星矢のツッコミは完全無視。

 

ゲームがスタートすると、私は怒涛の連打をかまし、お兄様に叩き込まれた真・太陽爆裂コンボを発動。

画面の中の星矢キャラが空に舞い上がる。

 

「やった!勝った!」

 

「いや、なんで小学生女子がそんな高度なコンボ決めるんだよ!ていうかお兄様って誰だよ!」

 

星矢は混乱していたけど、私は勝利のポーズに酔いしれていた。

 

普通の恋愛イベントでさ、格ゲーで彼氏を負かすヒロインってどうなの?いやでも現代的でありじゃない?

 

 

気を取り直して、私たちはプリクラコーナーへ移動した。

小学生とは思えないほど恋愛イベントの王道ルートを踏んでいる自覚はある。

だが、私はあえて突き進む。

 

「星矢、プリ撮ろ!」

 

「お、おう……そういうの得意じゃないけど……」

 

プリクラ機の中に入ると、私は星矢の腕にぎゅっとしがみついた。

プリのカメラがピカッと光る。

 

そして、すぐに私の心臓は止まりかけた。

 

――星矢が、私の頭にそっと手を置いたのだ。

 

「なんか、こういうの照れるな。でも……いい写真になるといいな」

 

「へっ……」

 

言葉が出ない。

私の脳内は大爆発した。

 

だめだこれ!!攻略スチル!!!完全に恋愛ゲームのクライマックス前イベント!!控えめに言って優勝!!

 

震えながら星矢に寄り添い、2枚目、3枚目のプリを撮った。

 

完全に乙女ゲームのテンションである。

 

 

プリクラから出た私は、もう普通の世界に戻れる気がしなかった。

星矢は気にも留めず「どうした?疲れたか?」と心配してくれる。

 

「う、ううん……なんでもない……」

 

「無理するなよ、沙織さん」

 

その優しさが、また胸に刺さる。

刺さりまくりで私の心は大渋滞だ。

 

そんな帰り道。

 

 

 

 

 

 

 

そんな甘酸っぱい空気をぶち壊す、とんでもない小宇宙が前方から接近してきた。

 

ズガアアアアアアッ!!!

空気が震えて、地面がビリビリする。

反射的に星矢の腕を掴んだ。

 

「な、何だこの小宇宙……っ!」

 

星矢が驚く中、私は見覚えのある神のオーラを感じて青ざめた。

 

道の真ん中に――青い髪を憤怒で逆立て、瞳を妖しく光らせたお兄様が仁王立ちしていた。

 

「沙織、後ずさりしてるぞ。知り合いなのか?」

 

「う、うん……お兄様……だよ……」

 

星矢が「へ?」と言いかけた瞬間、音もなく目の前に現れた。

移動速度、神。怖い。

 

「お兄様……どうしたの?そんな怖い顔して……」

 

そう尋ねると、お兄様は低く、冷たく、地獄の底から響くような声で言った。

 

「……アテナよ。その少年は……誰だ?」

 

 

「えっと……星矢先輩だよ。ペガサスの聖闘士候補で……エヘヘ……私の彼氏!」

 

つい言ってしまった。

星矢が振り返った。

 

「そ、そうだったのか!?あっ、あの、お兄さん、俺は星矢です。よろしくお願いします!」

 

良い笑顔で手を差し出す星矢。

しかしアベルはそれを完全に無視し、ただ一つの感情だけを顔に浮かべていた。

 

――嫉妬。

 

太陽神による、妹への恋敵認定。

地上最強クラスの危険行為である。

 

私は震えながら、恐る恐る言った。

 

「お兄様……?」

 

アベルは唇を小さく動かし、何かを呟いた。

 

「……だ」

 

「え?」

 

「……まだ我慢できると思っていた……しかし……」

 

青い瞳がギラッと光る。

 

「やはり人間は粛清だ!!!!」

 

出たーーーーーーーーーー!!!

 

「へあっ!?」

 

星矢が後ろに飛び退いた瞬間、アベルの足元から巨大な光の柱が立ち上った。

太陽神の怒りのエネルギーが、周囲の空気ごと焦がしている。

髪の毛がビリビリして、私は星矢の後ろに隠れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

星矢とお兄様の間に、ピキピキと空気の亀裂みたいなのが走っていた。いや、実際に小宇宙で空間が歪んでるから、あながち比喩じゃないかもしれない。

 

「なんで!?信者には手を出さないんじゃなかったの!?」

 

必死に叫んだ。だって、昨日はあんなに落ち着いてたのに、今日は一周回って大荒れだよ。神様って情緒が忙しい。

 

お兄様は空を背景にして、風になびく青髪をバサァッと揺らして怒鳴った。

 

「黙れ!やはりこの地上は、愚かな人間どもによって、憎しみ、妬み、欲望など、あらゆる邪悪に満ちようとしている!」

 

「満ちてるのは、お兄様の心(嫉妬)では?」

 

「ぐっ!!」

 

刺さった!確実に刺さった!

お兄様の頬がぴくぴくしてる。太陽神のプライドを粉砕する効果は抜群だ。

 

その間にも星矢は困った顔で私の後ろに立っていた。

「沙織さん……お兄さん、怒らせちゃったんじゃ……?」

 

「怒らせたのは、たぶんあなたの存在そのものよ」

 

星矢が「は?」って顔で固まる。

ごめんね星矢……でも事実だから。

 

お兄様は拳を握りしめ、太陽みたいに眩しい光の柱を背負って叫んだ。

 

「神の力で、再びこの地上を浄化するのだ!アトラス!!」

 

空間がぐにゃっとねじれて、私の視界にコロナの聖闘士アトラスが現れた。

完璧な所作、隙のない体、冷静沈着な雰囲気。

あのお兄様の護衛たちの中でもトップレベルに頼りになる男である。

 

アトラスは片膝をつき、頭を垂れる。

 

「御前に」

 

その動作があまりにも美しすぎて、通りすがりの女子中学生たちが黄色い悲鳴を上げた。

 

あの、うちの兄の部下なんですよ……って言いたくなるけど、余計ややこしくなるので黙っておいた。

 

するとお兄様が指をビシッと星矢へ向ける。

 

「この!我が妹にたかる害虫を始末せよ!」

 

星矢が「害虫!?」って叫んだ瞬間。

 

アトラスはため息をついた。

 

「拒否します」

 

お兄様の青い瞳が全力で見開かれた。

 

「何だと!?」

 

アトラスはまったく動じない。

 

「アベル様。嫉妬は、ご自分で解決なさいませ。神であられる貴方が感情に任せて暴走するのは、見苦しいかと」

 

横で星矢が「えっ、見苦しいって言われてるぞ」みたいな顔で私を見る。

私は無言で「うん、正論よ」って頷いた。

 

アトラスは続ける。

 

「それに、星矢殿は貴方様とさほど年齢も変わりません。子供の恋愛に、神が介入するのは、どうかと思われます」

 

「ぐむむむ……!」

 

お兄様が完全に言い返せなくなってる!

心の中でガッツポーズした。

アトラスさんマジで頼りになる。

 

というか、これ絶対、毎回お兄様の暴走を止めてきた経験あるよね!?

プロの護衛というより、神の精神安定剤みたいな役割になってるよね!?

 

しかしお兄様は、最後の最後で無益なプライドを発動させた。

 

「わかった!わかりましたとも!ならば僕は、兄としてではなく――神として、この愚かなる人間(星矢)に神罰を下す!」

 

「うわ、最悪の選択肢来た……!」

 

星矢が青ざめていた。

まあ、自分を殺すって兄に宣言されてるようなものだからね。

胃がひっくり返る思いで立ちすくんだ。

 

お兄様は空に向かって手を広げ、禍々しい光をまとった。

 

「パライストラの闘技場で待つ!来なければ――この街ごと浄化する!」

 

「街ごと!?アベル様ちょっと!?」

「止めてぇぇぇぇぇ!!」

 

私とアトラスの声は虚しく空に吸い込まれ、

太陽神アベルは光の柱と共に消えた。

 

……その場には、私と星矢、そして深いため息をつくアトラスだけが残された。

 

 

 

 

 

 

 

 

アトラスは星矢をちらりと見やったあと、私のほうに軽く頭を下げた。

 

「アテナよ、星矢殿。我が主が大変失礼致しました。…あの通り、少々精神が肉体に引っ張られているご様子。お気になさらず」

 

「精神が肉体に引っ張られてる」という言葉の意味はよくわからないけど、たぶん子供姿になってるせいで、精神年齢まで下がり気味ということなのだろう。つまり、お兄様は嫉妬深い子供モードが強く出てしまうのだ。太陽神でも反抗期ってあるんだなぁ…と、遠い目になりつつ思った。

 

アトラスは無駄な動き一つなく立ち上がり、主を追うように空気を歪めて消えていった。

 

残された私は、星矢と顔を見合わせた。

 

「…………。」

 

「…………。」

 

沈黙。マジで沈黙。空気が重いとかそういうレベルじゃない。

 

何か大きなイベントをクリアした直後のRPGみたいに、次の行動に迷う感じの沈黙。

 

しばらくして星矢が、ぽりぽりと頬を掻きながら言った。

 

「なあ、沙織さん。とりあえず、カラオケ行かねえ?」

 

その言葉を聞いた瞬間、私はすべての悩みがどうでもよくなった。

 

「…うん、行く」

 

神だの闘技場だの浄化だのは、ひとまずどっかに投げ捨てて、私は星矢の手を取った。こういうときに一緒に遊べるのが普通の恋愛イベント、これが正しい平和のあり方なのだ。そう信じたかった。

 

カラオケでは、私は星矢にべたべたした。

 

そのあと入口のクレーンゲームに挑戦したら、星矢が秒でぬいぐるみを取ってくれた。いや、本当に秒だった。開始3秒でアームが大きなくまのぬいぐるみを持ち上げ、そのままストン。店員さんも驚いてた。

 

「どうだ、沙織さん。取ったぞ!」

 

「わあぁ……」

 

その瞬間、私の心のHPが全回復した。こんなふうに誰かに何かをしてもらうのって、すごく嬉しい。

普通のデートってこういうのなんだなぁ…。

甘酸っぱくて、心がふわふわする感じ。

めちゃくちゃ幸せ。

 

夕方になり、城戸邸へ帰ると、玄関に何やら丸くなっている物体が見えた。よく見ると、そこには膝を抱えて座り込み、すすり泣くお兄様の姿があった。しかも鼻を真っ赤にしている。完全に拗ねた子供である。

 

「……なんで泣いてるの?」

 

ため息をつきながら声をかけたけど、アベルは顔を上げず、肩を震わせて呟いた。

 

「……一日中待ってたのに……誰も来ないから……さみしくなった……」

 

「えぇぇぇぇぇぇぇ!!?」

 

あの太陽神が!?あの自信満々のお兄様が!?

寂しくて泣いてるの!?

しかも玄関で!?

 

星矢が「やべえとこ来ちまったな俺…」って顔で固まっている。

 

そのとき、家の奥からもといエリスママが出てきて、泣くお兄様を抱き寄せた。

 

「よしよし。寂しかったんだな、アベル。もう大丈夫だぞ」

 

「うぅぅ……お母様ぁ……」

 

ぎゅうぅぅ。

 

うちの玄関先で、太陽神が不和の女神に抱きついて号泣している光景。

いや、何なのこの家。

 

そのあとお兄様はママの膝の上で寝落ちした。完全に子供である。

その日の出来事を全部胸の中にしまった。

 

まあ、言いふらさないであげよう。

あのお兄様にも可愛いところがあるし、私の家族だし。

 

――ただし、星矢に手を出されたら話は別。

 

恋は戦場。私は女神だけど、普通の女の子である。

自分の恋くらい、自分で守る。

そのためなら、兄が太陽神でも容赦しない。

 

「よーし、今日のデートは100点満点!」

 

普通の恋って、こんなに大変で、こんなにキラキラしてるものなのね。

 




沙織「……ねぇ、ママ。今日ね、すっごく楽しかったの」

エリス「ふむ。楽しそうに帰ってきたと思えば……玄関でアベルが泣いていた理由、ようやく理解したぞ」

沙織「うっ……やっぱり見てたのね……」

エリス「見ないようにするほうが難しい。あれほど派手に光って泣く神、久しぶりに見た」

沙織「だって……ちょっとデートに行っただけなのに、嫉妬で街を浄化しようとするなんて……」

エリス「男というものは、神であれ人であれ、妹に好きな相手ができると不安になるのだ」

沙織「でも……私はただ、普通の恋をしてみたかっただけ。
手をつないで、笑って、プリクラ撮って……それだけでよかったのに」

エリス「普通ほど、神々には難しい願いだ。お前たちは光を持ちすぎている」

沙織「うぅ……やっぱり普通の恋って無理なのかな……」

エリス「無理ではない。ただし普通を求めるあまり、自分を小さくするのは愚かだ。
お前はアテナだろう? 愛するなら、女神らしく全力で愛せ」

沙織「……女神らしく、全力で?」

エリス「そうだ。世界を守るのと同じ力で、恋を守れ。
ついでに兄の嫉妬も制圧しておけ」

沙織「うわぁ、それ一番むずかしいやつ!」

エリス「案ずるな。……あの子は泣いたが、泣けたということは、まだ愛しているという証だ。お前を手放せる日は、いつか来る。今はただ、見守ってやれ」

沙織「……うん。ありがと、ママ」

エリス「ふふ。ところで、デートの写真は?」

沙織「え!?な、ないよ!消した!もう消した!!」

エリス「……残念だ。ショーコが孫の顔が見たいとつぶやいていたぞ」

沙織「ママぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

十二宮編の最後は誰と誰の対決に?

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