聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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──燃えろ!友情と筋肉と恋愛イベント(予定)の小宇宙!──

童守ファイターズの応援席に立つ沙織。
その姿はまさに女神…いや、なぜか格闘技界の未来を背負う逸材としてスカウトの嵐!

迫りくる女子アスリートたちの熱視線!
避ける男子!
ときめかない星矢!
そして、なぜか芽生える百合ゲーへの興味!

次回『バーサーカー女神、恋に迷走!?百合ゲーの扉が開く時』

沙織「私は普通の女の子になるのよっ……なるはずなんだからぁー!!」

アテナの小宇宙、今こそ燃えあがれッ!


童守小のバーサーカー女神
バーサーカー女神、恋に迷走!?百合ゲーの扉が開く時


童守ファイターズの応援席は、朝からすでにお祭り状態だった。

 

 カラフルなメガホンと、手作り感のある応援旗と、やたらやる気満々な保護者の声援。グラウンドではアップ中の選手たちが走り回っていて、砂埃と日差しで、見ているだけで喉が渇きそうだ。

 

そんな中で、ひときわ視線を集めている存在がいた。

 

……はい、私です。

 

「ねえ沙織。本当にその格好で来ちゃったんだ……」

 

隣で美樹が、引きつった笑顔を浮かべている。

 

 私はというと、童守ファイターズカラーに合わせた特製チアガール衣装。肩出し、へそ出し、スカートはひらひら。布の節約に全力を注いだ結果、ほぼ「合法の範囲ギリギリ」なデザインになっている。

 

ふふふ。完璧。

 

「さ、沙織……! いくらお兄ちゃんの応援でも、ちょっと露出高すぎない……?」

 

 美樹が、さっきからずっと私の肩ひもの位置を直そうとしてくる。気持ちは分かるけど、そこはコンセプトなのよ、コンセプト。

 

「それにさ」

 

郷子が、眉間にしわを寄せながら私をじろっと見た。

 

「星矢君がいるのに、他の男の子に色目使う気? 節操なしって思われるわよ?」

 

「甘いわね、二人とも」

 

私は、用意してきたポンポンをしゃかしゃか振りながら胸を張った。

 

「恋愛フラグは、立てられる時に立てまくるに越したことはないのよ。乙女ゲーの基本じゃない」

 

「基本なの?」

 

「基本よ!」

 

ここは大事なところだ。

 

「まずは共通ルートで全員に好感度をばらまきつつ、真の攻略対象の嫉妬ゲージを上げるの。ヒロインが他の男の子にモテてるほうが、星矢だって絶対ハラハラして燃えるんだから」

 

「……なんかすごいこと言ってる気がするんだけど」

 

「要するに、星矢君を嫉妬させたいのね?」

 

「そう、それ!」

 

郷子のまとめが早い。友人の理解力に感謝したい。

 

「それに、今日はお兄様のチームメイトも大勢いるのよ? ここで印象をがっちり掴んでおけば、後々どこでルートが分岐するか分からないじゃない」

 

「沙織、それ完全に兄のチームを恋愛イベント会場にする発言だからね?」

 

「システム的には有効活用よ」

 

私はポンポンを片手に、グラウンドをちらりと見た。

 

 お兄様はウォーミングアップ中で、チームメイトと何か話しながら笑っている。あの爽やか笑顔の周りに、友達の男子が集まっている。はい、好青年コミュニティ。ここにちゃんと顔を売っておくのは、将来のためにも重要事項だ。

 

よし、いくわよ

 

私はベンチ横の通路を通って戻ってくる選手たちに向けて、全力の笑顔を投げた。

 

「童守ファイターズ、ファイトー!お兄様のお友達も、がんばってね!」

 

ついでに、軽くウインクも添えておく。ファンサービスは早め早めが肝心だ。

 

……が。

 

近くを通る男子生徒たちは、誰一人として私に視線を向けない。

 

え?

 

いやいや、恥ずかしくて見られないパターン?分かる分かる、分かるよ。初めて見るタイプのチア衣装だしね。顔を直視できないのかもしれない。うん、そう考えたほうが精神衛生上よろしい。

 

ところが。

 

タイムアウトでベンチに戻ってくる列から、ひそひそ声が聞こえてきた。

 

「やべえ、童守小のバーサーカー女神だ……」

 

「目を合わせるなって。ドッジボールの二の舞になるぞ」

 

「この前の球技大会、マジでトラウマなんだけど……」

 

「顔向けたら、狙い撃ちされるぞ。背中にも目ついてるからな、あの人」

 

……あの人?

 

あの人って、誰のことかしらね?

 

ちょっと待って

 

心の中で、私は慌てて巻き戻しボタンを押した。

 

──そういえば、あった。球技大会。

 

いや、だって、当てればいいんでしょ?当てれば。

 

 どうせやるなら徹底的に、っていうアテナ精神がうっかり発動して、ボールを持つたびに「そこのあなた出てきなさい」状態で片付けていった結果──

 

『童守小のバーサーカー女神』誕生。

 

待って、そんな二つ名、私の知らないところで流通してるの?

 

ちょっとぉおおおお!

 

 内心で机をひっくり返しながらも、表情は女神スマイルを崩さない。ヒロインは常に余裕の笑み。これ基本。

 

「沙織、聞いた?」

 

美樹が、半笑いで私の袖を引っ張った。

 

「バーサーカー女神だって」

 

「聞こえてるわよ。なんなのその称号。ありがたくない」

 

「自業自得じゃない?」

 

郷子が、ため息まじりに肩をすくめる。

 

「あのとき、ボール投げるたびに笑ってたよね? 怖かったよ」

 

「あれは楽しんでるじゃなくて、ゾーンに入ってる顔だったわよね……」

 

「二人ともひどくない!?」

 

私はポンポンを握りしめた。

 

私はただ、クラスの勝利のためにがんばっただけなのに……!

 

 そんな私の心の叫びとは裏腹に、選手たちは私の前を、なぜか少し距離を空けて通り過ぎていく。視線は合わせない。会釈もしない。むしろ「視界に入ったら危ないもの」扱い。

 

 おかしい。ここ、ヒロインのモテイベント会場のはずなのに。何この「野生のボスキャラに遭遇したからエンカウント避けてます」的な空気。

 

なんでよー!

 

心の中で頭を抱えていると、代わりに別方向から声が飛んできた。

 

「あら、そこのお嬢ちゃん」

 

「……へ?」

 

振り向くと、そこには屈強なお姉様方の姿があった。

 

 ひとりは柔道着姿。腰には黒帯。肩幅がガッシリしていて、目がキリッとしている。童守中の柔道部主将らしい。

 

 もうひとりは、道着に帯を締めた空手道場の師範代。こちらも女性。細身なのに、立っているだけで圧がある。

 

 その他にも、陸上部のエースっぽいお姉さんとか、バスケ部のキャプテンっぽい先輩とか、「運動できる系女子」がなぜか一列になって私のところに来ていた。

 

「お嬢ちゃん、すごい大胸筋と三角筋ね」

 

柔道部主将が、感心したように腕を組む。

 

「え、えっと?」

 

「その肩から腕にかけての筋肉の付き方。あれだけの露出なのに、全然頼りなく見えない。ちゃんと鍛えてるでしょ?」

 

「鍛えてるっていうか……まあ、いろいろやってたら、こうなったというか……」

 

 アテナとしての修行と、日々の聖闘士たちとの鍛錬と、星矢たちの命を守るための奔走と。いろいろひっくるめると「トレーニング」と言って差し支えないものにはなっている。

 

「うちの柔道部に来ない? すぐ黒帯までいけるわよ。投げられる側より、投げる側になれるタイプよ」

 

「いやいやいやいや」

 

私は慌てて両手を振った。

 

「私、今でも人間関係で投げられてばかりなんですけど?」

 

「体幹の強さを見れば分かるのよ」

 

今度は空手の師範代が、じっと私を見つめてくる。

 

「ジャンプしたときのバランス、ブレなかったでしょ。あれ、完全に経験者の動き」

 

「あの一回のジャンプで!? 観察眼怖くない!?」

 

「いや、その体幹の強さ、空手にこそ活かすべき。全国も夢じゃないわ」

 

「全国……?」

 

その単語には、ちょっとだけ心がぐらつく。

 

 全国制覇。高校スポーツ青春物の王道ワード。そこから始まる恋愛イベントも、各種取り揃えられているに違いない。

 

でも今の私は、お兄様の応援に来てるんだし……

 

 視線をグラウンドに戻すと、ちょうどお兄様がボールを受け取っているところだった。

 

「ごめんなさい。気持ちは嬉しいんですけど、今日はお兄様の応援がメインなので……」

 

「そっかぁ」

 

柔道部主将が、少し残念そうに頷く。

 

「でも、本気でやる気になったら、いつでも来てね。あの踏ん張り、放っておくには惜しいわ」

 

「いや、だから何を見て踏ん張りって判断してるのよ……」

 

私が困っていると、陸上部のお姉さんまで参戦してきた。

 

「スプリントもいけると思うのよね。あの脚の筋肉。短距離も長距離も、どっちでも対応できそう」

 

「脚の話まで!?」

 

「うちの部にもぜひ。スター選手になれるわよ。応援される側になるの」

 

そこに、郷子が苦笑しながら割って入った。

 

「なんで私は、男の子じゃなくて、お姉様方に筋肉を褒められてるのよ……って顔してるね、沙織」

 

「読まないでよ心を!」

 

「分かるよ、顔に全部出てる」

 

美樹もぽつりと呟く。

 

「ていうかこれ、モテ期ではあるんじゃない?」

 

「方向が違うのよ!私の求めてるモテ期、これじゃない!」

 

 そう。私の理想図はこうだ。

 

 チア衣装で応援席から声援を送る私。下心はさておき、見た目は完全に女神の応援。そこに、グラウンドの男子たちの視線が集まり、「あの子可愛いな」とか「誰の彼女だろ」とか、ざわざわし始める。

 

 そして、その様子を見ている星矢が、ちょっとだけ不機嫌になって、「沙織さん、もう少し露出を控えたほうが……」なんて注意してくる。

 

そこから始まる、甘酸っぱい口論。

 

完璧なルート。

 

……の、はずだった。

 

現実:男子に避けられて、女子アスリートにスカウト殺到

 

どこの筋肉系青春漫画に迷い込んだの、私。

 

「お嬢ちゃん、そのコールもいいわね」

 

柔道部主将が、私の応援の声に耳を傾けて言う。

 

「声がよく通るし、腹から出てる。組手中の指示出しにも向いてるタイプよ」

 

「もうやめて、私の適性を掘り下げないで……!」

 

私が頭を抱えていると、コートから笛の音が鳴った。

 

試合再開の合図だ。

 

「沙織、とりあえず今は応援に集中しよ?」

 

美樹が、そっと私の背中を押す。

 

「お兄ちゃん、真剣な顔してるよ」

 

……そうだった

 

私はポンポンを握り直した。

 

「童守ファイターズ、ファイトー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 タイムアウトが明けて、試合は後半戦に入っていた。

 

私はさっきから応援席でポンポンを振り続けていて、腕と喉がけっこう限界に近い。

 

というか、さっきから男子には避けられ、お姉様方には筋肉を褒められ、メンタルのほうもそろそろ限界なんだけど

 

 コートでは、お兄様が出ているバスケの試合が白熱している。

 

「ディーフェンス! ディーフェンス!」

 

 応援席から定番のコールが飛ぶ中、私はポンポンを振りながらも内心ぐつぐつしていた。

 

男にはモテないし、女の人には筋肉褒められるし……なんなのよもう……

 

私の目標、普通の女の子なんだけど? どこでルート分岐を間違えたのかしら

 

そんなことを考えていた、その瞬間だった。

 

「うわっ!」

 

コートから、ひときわ大きな声が上がった。

 

 次の瞬間、視界の端で何かが高い弧を描く。パスミス。ボールが選手の手を離れて、コートを大きく外れ、観客席のほうへ飛んできていた。

 

しかも、スピードがえげつない。

 

「きゃああああっ!」

 

「危ない!」

 

周囲の観客たちが悲鳴を上げて身をかがめる。

 

その軌道上。ど真ん中にいるのは、はい、私です。

 

あ、これ、完全に顔面コース

 

 ふつうなら、ここで悲鳴を上げて目をつぶるシーンなのだろう。ヒロインが危ないところを好きな男の子に助けられる、王道イベント。

 

……だけど、私の身体はアテナ仕様だ。反射的に動いてしまう。

 

「ふっ」

 

私はその場で片手をすっと伸ばした。

 

パンッ。

 

乾いた音がして、飛んできたバスケットボールが、ぴたりと私の手の中で止まった。

 

周りの空気が、一瞬だけ固まる。

 

 私自身は、特に何も考えていない。ただ、いつも通り「飛んできたものを止めただけ」(小宇宙もそんなに燃やしてないし、本当に軽く、軽くよ)

 

けれど、観客席の反応は違った。

 

「えっ……今、片手で止めた?」

 

「顔面直撃コースだったよな?」

 

「キャッチの音、おかしくなかった?」

 

 ざわざわとざわめきが広がる。

 

……しまった

 

ここ、ヒロインが「きゃー怖かったー」って震えるところなんじゃないの? なんで私、反射的にキャッチしてるのよ

 

 そして、ここで終わっておけば、まだ「運動神経いいかも」くらいで済んだのかもしれない。

 

問題は、その次だ。

 

手の中のボールの感触が、やたらとはっきり伝わってくる。

 

 さっきから溜まりに溜まっていた鬱憤。男子からの恐怖認定。女子アスリートからの筋肉スカウト。普通になりたいのに、どんどん「体育会系脳筋枠」に追いやられていく現実。

 

……むかつく

 

気づいた時には、私の中で何かがぷつんと切れていた。

 

「男にはモテないし、女の人には筋肉褒められるし……なんなのよ、もう!」

 

口から勝手に叫びが飛び出す。

 

その勢いのまま、私はボールをコートへ向かって投げ返した。

 

投げた、というか、叩き込んだ、に近い。

 

「お、おい!」

 

「待て、速っ──」

 

観客席の誰かの声が終わる前に、ボールが空気を切り裂いた。

 

シュゴォォォッ!

 

 空気が震える音がはっきり聞こえた。漫画かゲームでしか聞かないような、衝撃波付きの音。

 

 ボールは一直線にコート中央へ突き進む。というか、正直私の目にも軌道が追えていない。投げた本人なのに。

 

……あれ? ちょっとやりすぎた?

 

 ほんのり冷や汗をかき始めたところで、そのボールを、すっと伸びた片手が受け止めた。

 

お兄様だった。

 

 お兄様は普段と変わらない、淡々とした表情で、片手でそのボールをキャッチしてみせた。さっきまで走っていた流れを崩すこともなく、そのままドリブルに移行する。

 

 何事もなかったかのように。

 

……なんでお兄様は涼しい顔してるのよ

 

 私が若干引きつり気味の笑いを浮かべていると、周囲から悲鳴と歓声が入り混じった声が上がった。

 

「ひぃぃ! 死ぬかと思った!」

 

「今のパス、見えなかったぞ!」

 

「どこから飛んできたんだ、あれ!」

 

男子たちの声は、だいたいそんな感じだ。恐怖と驚愕と、若干のトラウマ。

 

一方、その視線の先のアベルには、別の種類の声が飛んでいた。

 

「キャー! アベル様、素敵ー!」

 

「今の片手キャッチ、カッコよすぎ!」

 

「手、長い……指、きれい……」

 

黄色い歓声。完全にアイドル扱い。

 

うん。知ってた。見えてた。こうなる未来は、分かってた。

 

 ハイパー危険球を片手で殺した美形男子。そっちに注目が集まるのは、まあ分かる。分かるけど。

 

こっちは、顔面に飛んできたボールを片手で止めて、そのまま音速パスに変えた女神なんだけど!?

 

そう叫びたいのをこらえていたら、背後からぐいっと肩をつかまれた。

 

「お嬢ちゃん、今の、どうやって投げたの?」

 

耳元に落ちてきた声は、低くてよく通る女性の声。

 

振り向くと、そこには、さっき筋肉を褒めてきた柔道部主将のお姉さんがいた。目がギラギラしている。

 

「フォーム、見逃しちゃったのよね。もう一回やってくれない?」

 

「試合中に追加実験要求しないでください!」

 

「いや、今のは反則級だわ。潜在能力どころの話じゃない」

 

今度は空手道場の師範代まで前に出てくる。

 

「肩の可動域がおかしい。普通の女子小学生の動きじゃない。拳じゃなくてボールだったのが惜しいわね」

 

「惜しくないです!」

 

さらに、後ろのほうから陸上部のお姉さんが顔を出す。

 

「今の助走なしスローであの初速……やっぱり短距離より砲丸投げ路線かな……」

 

「なんで私の進路がどんどん体育会系になっていくのよ!」

 

気づけば私は、道場系お姉様方の真ん中にすっぽり囲まれていた。

 

 右から左から、腕や肩や背中を軽く触られながら、「力の入り方が」「ここでひねりを」と、専門的な言葉が飛び交う。

 

「腕を上げた時の肩甲骨の動きがいい。柔道向きね」

 

「いや、踏み込みのタイミングを見るに、打撃系でもいける」

 

「下半身のバネもあるから、総合格闘技も視野に入るわね」

 

「総合はやめて!? 私、そんなガチの方向性、希望出してないから!」

 

 私は必死に抵抗するけど、さすがに鍛え上げられた彼女たちの手は強い。もちろん、本気で逃げようと思えば逃げられるけど、ここで力ずくで振りほどいたら、さらに評価が上がりそうで怖い。

 

関節外して抜けたわね。やっぱり才能あるわとか言われる未来が見える

 

なので私は、大人しくもみくちゃにされるコースを選んだ。

 

 柔道部主将の腕に抱き寄せられたり、空手の師範代に肩を組まれたり、陸上部のお姉さんに腰のラインを確認されたり。

 

うぅ、もみくちゃ……

 

心の中では泣きそうなのに、肌に触れる感触はやたらしっかりしている。

 

でも、このお姉様たち、みんな美人でスタイルも良くて、いい匂いがする……

 

 汗の匂いじゃない。ちゃんとシャンプーとボディミスト的な、さわやか系と甘い系が混ざった感じ。(語彙力)

 

いろいろと疲れ切っていた私の脳に、そのギャップがじわじわ効いてくる。

 

……あれ?

 

ふと、どうでもいいことが頭をよぎった。

 

そういえば私、百合ゲーはまだ未プレイだったわ

 

 乙女ゲームはしっかりプレイ済み。ギャルゲーも、「研究」と称してそれなりに履修してきた。BLは……まあ、お兄様に見つかると面倒なので、ほどほど。

 

でも、女の子同士で恋愛するゲームは、手を出していなかった。

 

男の子とイチャイチャするより、こっちのほうが安全かもしれない……?

 

 星矢ルートは、好きだけど難易度が高い。アベルはそもそもお兄様。クラスメイト男子は「バーサーカー女神」認定で距離が遠い。

 

 それに比べて、今私を挟んでいるお姉様方は、ほがらかで、頼もしくて、抱き心地が良い。

 

これは……新しいジャンルの扉なのでは?

 

 頭の中に、百合ゲーのタイトルロゴが浮かぶ。仮タイトル「童守女子格闘記~リングの上で君と~」とか、そんな感じのやつ。

 

よし、予習しておこう!

 

私はひっそりと決意した。帰ったら、まずは百合ゲーの名作を検索だ。

 

 そんなことを心に決めていたら、ちょうどタイムアウトの笛が鳴った。お姉様方がいったん解散してくれて、呼吸が楽になる。

 

私はポンポンを抱え直し、隣にいる美樹と郷子のほうを向いた。

 

「ねえ、美樹、郷子」

 

二人が同時にこちらを見る。

 

「なに? 沙織」

 

「今度は何企んでるの?」

 

ひどい言い方だけど、否定はできない。

 

「二人はさ、女の子同士で付き合ったことある?」

 

「「ないわよ!!」」

 

ハモった。珍しく息ぴったり。

 

「即答ね?」

 

「即答よ!」

 

郷子が顔を赤くしながら、全力で首を振る。

 

「なんで急にそんなこと聞くの!」

 

「いや、ちょっと新しいジャンルの研究をね」

 

私が真顔で言うと、美樹がじとっとした視線を送ってきた。

 

「研究って言えば何でも許されると思ってない?」

 

「許されない?」

 

「許されないよ」

 

くっ、正論。

 

「じゃあさ」

 

私は気を取り直して、ポンポンを膝の上に置いた。

 

「今日、私としてみない?」

 

「は?」

 

「へ?」

 

二人の口から、きれいに間抜けな声が出た。

 

「だから、付き合う練習。恋愛シミュレーション。女の子同士で手をつないで歩いてみるとか、腕組んで買い物してみるとか、そういうやつ」

 

「なんでそうなるの!?」

 

郷子が思いきりツッコミを入れてきた。

 

「流れおかしいでしょ!」

 

「流れは大事だけど、勢いも大事なのよ、恋愛は」

 

「違う意味で勢いありすぎなんだってば!」

 

「美樹、どう?」

 

話題を振る相手を変えた。

 

「私と付き合ってみる?」

 

「やめてその言い方!」

 

美樹が真っ赤になって手をぶんぶん振る。

 

「付き合うとかそういう重いワードを軽率に使わないで! しかもなんでよりによって私!?」

 

「じゃあ郷子は? ダメ?」

 

「ダメ!」

 

即答だった。ちょっと傷つく。

 

「なんで? ほら、郷子は広君のことが好きでしょ?」

 

「な、なんでそこでその名前出すのよ!」

 

郷子の顔が一気に沸騰したみたいに赤くなる。

 

「その時のための、練習にさ!」

 

「どういう理屈!?」

 

はい、今日二度目の「どういう理屈」自覚はある。

 

「だって、恋愛って経験値が大事でしょ? 本命に突撃する前に、安全な相手で練習しておくのは、シミュレーションとしては理にかなってるわ」

 

「安全な相手って、私たちのこと?」

 

「そう。私は女神だから、いざとなったら記憶ごと消せるし」

 

「物騒な前提やめて!?」

 

美樹が頭を抱える。

 

「ていうかさ、沙織。そういうのは、ゲームの中だけでやりなよ。現実でやろうとするから話がややこしくなるんだよ」

 

「現実とゲームの境界線を曖昧にして生きていくのが、オタク女子の生き様じゃない?」

 

「知らないよ、そんな生き様!」

 

郷子も、呆れつつも若干笑っている。

 

「でも、まあ……沙織が普通になりたいって本気で言ってるのは、分かるけど」

 

「うん……方向性が毎回おかしいだけで」

 

「二人ともひどくない?」

 

私は頬をふくらませてみせた。

 

「私はこれでも真剣に考えてるのよ? 普通の学校生活を送りつつ、恋愛イベントも充実させて、お兄様の応援もして、神としての仕事もして、オタクとしての趣味も追求する。完璧な人生プランじゃない」

 

「盛りすぎなんだってば、人生プランを」

 

「一人で全部抱え込むから、どこかがおかしくなるのよね……」

 

二人の言葉は辛辣だけど、どこか心配も滲んでいる。

 

 まあ、自覚はある。私の「普通への道」は、どう考えても一本道じゃない。寄り道だらけで、たまに修羅場を挟む、RPGのサブクエスト祭り状態だ。

 

それでも、私は進むのをやめるつもりはない。

 

だって、普通の女の子って、そう簡単になれるものじゃないし

 

分かっているけど、やっぱりやめられない。

 

「とりあえず、今日は練習保留ね」

 

美樹が、ため息をつきながらも笑った。

 

「百合ゲーのほうは、好きに研究すればいいけど」

 

「プレイレポは聞いてあげるわよ」

 

郷子も、肩をすくめる。

 

「ただし、実地訓練に私たちを巻き込まないこと」

 

「むぅ……」

 

そこまで釘を刺されると、さすがに強行突破はしづらい。

 

「分かったわ。じゃあ、最初はソロプレイにしておく」

 

「その言い方やめなさい」

 

二人から同時にツッコミが飛んできて、私は思わず笑ってしまった。




沙織「エリスママぁぁ〜今日も私、普通になれなかったわ……」

エリス「大丈夫よ沙織。普通になりたいと願う時点で、あなたはもう普通じゃないわ」

沙織「お母様、それ慰めになってない……!」

エリス「でも安心して。あなたには無限の可能性があるの。格闘技、恋愛、百合、乙女ゲーム……」

沙織「最後の二ついらないわよ!?」

エリス「選べる女は強いのよ、沙織」

沙織「お母様、強いの意味が違うんだけどぉ!!」

十二宮編の最後は誰と誰の対決に?

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