聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
百聞は一見にしかず――この言葉が、まさかここまで重みを持って胸に響くとは思わなかった。
「一度、本気を見せてくれないか?」
僕の頼みに、サガもアイオロスも、すぐに頷いた。ふたりとも、この村での修行を心から楽しんでいるのだろう。黄金聖闘士の誇りを懸けたその技を、僕のために惜しみなく披露してくれる。
まず動いたのはアイオロスだった。彼は射手座の聖衣を纏い、静かに両の手を構える。深く呼吸し、小宇宙を一点に絞るその所作は美しかった。次の瞬間、空気そのものが震え、稲妻のような光が奔る。
「アトミックサンダーボルト!」
眩い光と轟音が一体となって、無数の光速拳が一条の矢に収束する。空気が焼け、空間が歪む。地平線の向こうにまで衝撃波が広がり、村の子どもたちが歓声を上げるのが遠くに聞こえた。だが僕は、その光景をただ眺めていたわけじゃない。
――小宇宙の流れ。エネルギーの伝達。肉体から放たれる意思と、聖衣が生み出す指向性エネルギーの軌跡。
僕の中の“なにか”が、すべてを解析していた。目で見たもの、耳で聞いたもの、肌で感じたもの、それらすべてを分解し、数式に還元する。
光速拳が生まれる理由。なぜエネルギーがこれほどの速度と破壊力を持つのか。その全てが、頭の中でクリアに再現されていく。
次はサガが前に出る。彼の双子座の聖衣は、まるで宇宙そのもののような深い輝きを湛えていた。
「ギャラクシアンエクスプロージョン」
静かな声と共に、サガの周囲の空間が歪む。銀河を砕くと謳われるその一撃は、現実そのものを引き裂くかのようだった。空間が収束し、中心に極小の特異点が生まれ、次の瞬間、破壊的な衝撃波が四方八方に走る。
見ているだけで身がすくむ。だが、僕はその恐怖を押しのけるように、理性の目でその全てを見つめた。
――空間そのものを標的にする。極小の特異点の生成と崩壊による、次元断層的な衝撃波。エネルギーの集中と解放のタイミング。サガの小宇宙が、宇宙の摂理すら凌駕する瞬間。
唖然とする村人たち。微笑むサガ。誇らしげなアイオロス。
その場にいる全員が、技の壮絶な迫力に酔いしれていた。
でも、僕の目は違った。感動も、恐怖も、胸の奥に確かに湧き上がってくるのに、意識は冷静だった。
僕は――彼らの技を、理解した。
「……そういうことか」
小さく呟く。アトミックサンダーボルトは、小宇宙を極限まで指向性エネルギーに変換し、超高速で分裂・加速させる。プラズマ化したエネルギー体が一点に収束することで、空間を圧縮して撃ち抜く技術だ。
ギャラクシアンエクスプロージョンは、空間を“点”で捉え、局所的に極端なエネルギー密度を作り出す。その特異点を一気に崩壊させ、次元の断層を通して解放する……つまり、空間そのものを砕く一撃。
理屈としては、理解できる。
ふたりの視線が、僕に向く。
「どうだった、アッシュ?」
アイオロスが微笑む。その期待に応えるように、僕は静かに立ち上がった。
「今の、ちょっと真似してみてもいい?」
驚く二人。だが、僕の中には確信があった。小宇宙を、あの“型”に合わせて燃やす。
アイオロスの立ち方をなぞり、身体の軸を意識し、拳に集中を込める。
頭の中で、すべてのエネルギーラインが組み上がる。手順は完璧だ。
「アトミックサンダーボルト――」
僕の拳が走る。空気が震え、青白い光が集まる。
発射。稲妻のような閃光が一直線に空間を貫いた。
さすがに本家ほどの威力は出ない。けれど、その“構造”は限りなく近い。自分の小宇宙が新しい流れ方を覚えたような、不思議な感覚。
続いてサガの構えを真似る。両手を広げ、意識を集中させ、空間の歪みを“創る”。
ギャラクシアンエクスプロージョン。
――小宇宙の流れ、空間への干渉、圧縮、そして放出。
見様見真似でやっただけなのに、目の前の空間が“バキッ”と音を立てて割れかけた。
衝撃波が控えめに走り、周囲の空気が震えた。
「……やっぱり、本物とは違うな」
肩で息をしながら、僕はふたりを振り返る。
アイオロスは驚愕した目で、サガは静かな驚嘆の表情で僕を見ていた。
「アッシュ、お前……今、どうやって?」
「見て、感じて、理解して、再現しただけだよ」
言葉にすれば簡単だ。でも、その“理解”は、感覚じゃなく、僕の中の“解析”によるものだった。
理屈で分解し、再構成する。それが、僕の強さの正体なのかもしれない。
でも、胸の奥に残るのは奇妙な空虚感だった。
「僕の“オリジナル”って、やっぱりまだ分からないな……」
本家の迫力、本家の凄み。それは、技の理屈だけじゃ埋められない何かがある。
僕の拳は空間を割った。でも、アイオロスのような“矢”も、サガのような“宇宙”も、そこにはなかった。
「でも……」
小さく呟き、拳を見つめる。
「僕のやり方で、何かを見つけてみせるよ」
ふたりは無言で頷いた。
その夜、村に戻る帰り道、僕の頭の中では、数えきれないほどの方程式が組み上がり、崩れてはまた立ち上がった。
オリジナルの一撃。
――その答えは、まだ遠い。
(サガ視点)
――あの瞬間、僕は言葉を失った。
さっきまでの空気は、和やかなものだった。
「一度、本気を見せてくれないか?」
アッシュの素直な頼みに、僕とアイオロスは快く応じた。
アイオロスはアトミックサンダーボルトを――その無数の光速拳が一点に集束し、空間を貫く閃光となる。その威容を、僕は何度見ても圧倒される。
続いて僕が、ギャラクシアンエクスプロージョン。銀河を砕くとまで称される一撃――空間を標的とし、特異点を生成して崩壊させ、時空を断層ごと破壊する。
僕ら黄金聖闘士が、血の滲む修練の果てに体得した奥義。
それを、アッシュは――
「じゃあ、ちょっと真似してみてもいい?」
そう言うなり、まるで呼吸を合わせるかのように、アイオロスの構え、僕の動きを一瞬で再現し――そして。
アトミックサンダーボルトも、ギャラクシアンエクスプロージョンも――
「再現」したのだ。
わずか一度、目の前で見せただけで。
……空気が止まる。
アイオロスは、震える声で問いかけた。
「なぜだ……なぜ君に、これが出来る?」
アッシュは、悪びれもせず、ただ当然のことのように笑って言った。
「いや、原理さえ分かれば、あとは小宇宙でその現象を組み立てるだけだから。君たちの技は、すごくロジカルで分かりやすかった」
その答えに、僕は底知れぬ戦慄を覚えた。
僕たち聖闘士は、常人では到達できぬ小宇宙の境地を極め、何年、何十年と命を削って「奥義」を得る。
けれどアッシュは、努力や鍛錬や血の滲む過程ではなく、
――まるで数式を解くように、技そのものの「構造」を瞬時に解析し、組み立て、実行してしまう。
これは、「天才」と呼ぶべきなのか。
それとも、「異物」なのか――。
アッシュがすごいことは、分かっていた。
どんな訓練でもすぐに順応し、僕やアイオロスと互角以上に渡り合う。
模倣も応用も、常人の理解を超えていた。
だが――今、目の前で目撃したものは、それまでの常識を完全に覆すものだった。
アッシュは、僕たちが幼少から積み上げてきた“感覚”や“伝承”とは異なる。
この男は、あらゆるものを「現象」として捉え、「原理」を掴むことで何でも自分のものにしてしまう。
それは、技を受け継ぐ者、伝統に生きる者としての僕には、到底受け入れがたい「異質」だ。
しかもアッシュ本人は、どこか物足りなげに呟いた。
「コピーじゃ意味がない。僕だけの技……それが見つからないんだ」
自分の限界を越えた“再現”の才能に、当の本人が満足していない。
そんなことが、ありうるのか――
僕は、彼の横顔をじっと見つめた。
この男なら、あるいは――
聖闘士の技だけではない。
海皇ポセイドンの海闘士たちの技も、冥王ハーデスの冥闘士たちの技すらも。
目で見て、原理を掴みさえすれば「解析」し、「再現」してしまうのではないか――。
僕の心に、その予感が浮かんだ。
ぞっとした。
アッシュの才能は、希望であると同時に、底知れぬ恐怖でもある。
もし彼が、正義から逸れた道を選んだなら?
この“異物”が、世界の理をひっくり返す「危うさ」そのものなのではないか?
……けれど。
「――でも」
僕は、目を閉じ、静かに息を吸い込む。
アッシュは、今この瞬間も苦しんでいる。
自分だけの技、自分だけの“意味”を、あれほど渇望している。
その目には、技を再現できることの優越ではなく、どこか寂しげな葛藤が滲んでいた。
……才能を持つ者の孤独。
「アイオロス、サガ。僕のやり方で、何かを見つけてみせるよ」
その言葉の裏に込められた叫びに、僕は少しだけ心を救われる。
確かに、アッシュは危うい。
だが、それでも僕は信じてみたいと思った。
この男の“異質さ”が、聖域に、そして僕自身に新たな道を切り拓いてくれるのではないかと。
「お前の可能性は、底知れない。だが、その先に“友”として、共に歩む道があれば――」
言葉にしなかった祈りを胸に、僕は静かに彼を見つめる。
世界がどう変わろうとも。
アッシュという“異物”が、いま僕たちの隣にいることを、僕は選び続けるだろう。
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