聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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倒れたムウ。
崩れゆく白羊宮。
そして、深まる十二宮の殺意。

アッシュ改革で強化された黄金たちは、
アイオロスの異端の力を前にどう動くのか。

次回、
「黄金の風、愛の彗星 ~白羊宮、決着~」

神話を裏切り、父が神話を創り直す。


黄金の風、愛の彗星 ~白羊宮、決着~

ムウが、ゆっくりと両手を広げる。相手を彼岸へと送り出す、引導を渡すための構えだ。 彼の周囲に、蛍のような光の粒子が無数に舞い始める。それは美しく、そして残酷なほどに静かだ。

 

「終わりです、アイオロス」

 

ムウの声には、もう感情の色はない。ただ事務的に、壊れた機械を処分するかのような冷徹さが漂う。

 

「貴方のその迷いが、貴方を弱くしている。過去の栄光にしがみつき、神という偶像に縋るだけの弱者。その迷いごと、宇宙の彼方へ消えなさい」

 

ムウの小宇宙が収束する。光の渦が生まれる。

 

「スターライト・エクスティンクション!!」

 

技名が紡がれると同時に、白羊宮がまばゆい光に飲み込まれる。星の光が消滅する時のエネルギーを応用した、ムウ最大の奥義。その光は、対象を物理的に破壊するだけでなく、空間ごとねじ曲げて別の次元へ放逐する。逃げ場はない。光速を超える光の奔流が、アイオロスを完全に包み込む。

 

誰が見ても、これで決着がついたと思う。ムウ自身も、勝利を確信する。彼は腕を下ろそうとする。

 

だが。

 

ドォォォン!!

 

爆音が響く。光の渦の中から、何かが飛び出す。それは、光の消滅速度すら置き去りにする、神速の影だ。黄金の矢のような鋭さで、爆風を切り裂いてムウの横をすり抜ける。

 

「……ッ!?」

 

ムウが目を見開く。彼の視線の先、数メートル離れた場所に、アイオロスが着地する。 膝から崩れ落ち、片手で地面を支えて、なんとか体を起こしている。全身から煙が上がり、黄金聖衣の損傷はさらに激しくなっている。しかし、彼はそこに「いる」消滅していない。五体満足で、現実に留まっている。

 

「まだ動けたのですか……」

 

ムウが驚嘆の声を漏らす。スターライト・エクスティンクションを、直撃寸前で回避したのか。それとも、光の奔流の中を強引に突破したのか。どちらにせよ、瀕死の状態で可能な芸当ではない。

 

「ですが、無駄な足掻きです。次は外しません!」

 

ムウが再び構える。今度こそ確実に仕留めるために、小宇宙を練り直す。しかし、アイオロスの様子がおかしい。彼は膝をついたまま、肩で息をしているが、その口元から漏れる言葉は、命乞いでも、聖闘士としての誇りでもない。

 

「……俺は……沙織の父親だ」

 

掠れた声。しかし、そこには確かな熱がある。

 

「翔子の夫だ。……エリスの夫だ」

 

「……は?」

 

ムウが眉をひそめる。何を言っているんだ、この男は。錯乱したのか?

 

「家族ごっことは惰弱な!!その甘さが命取りだと言っているのです!」

 

ムウが叫ぶ。苛立ちが募る。聖闘士にとって、私情は禁物だ。個人的な感情が判断を鈍らせ、任務の失敗を招く。それが「新しい聖域」の合理的思考だ。それなのに、この期に及んで家族だの夫だのと、センチメンタルなことを口走る。

 

それがムウには、許しがたい退行に見える。

 

「貴方は英雄でしょう!聖闘士の鑑でしょう!ならば、最後まで戦士らしく散りなさい!」

 

ムウが右拳を突き出す。光速の拳圧が、アイオロスを襲う。回避不能な距離。防御する体力も残っていないはずだ。

 

バシィッ!!

 

乾いた音が響く。空気が凍りつく。

 

ムウの動きが止まる。彼の突き出した右拳が、止まっている。アイオロスの左手によって、ガッチリと受け止められているのだ。素手で。あの瀕死の状態から、光速拳を、素手で。

 

「なっ……!?」

 

ムウが絶句する。信じられない。力負けしている。アイオロスの指が、ムウの黄金聖衣に食い込んでいる。ギリギリと音がするほどの握力だ。アイオロスが顔を上げる。その瞳を見て、ムウは背筋に寒気が走るのを感じる。

 

そこには、迷いがない。だが、かつてのような「聖人君子」の澄んだ光もない。あるのは、もっと泥臭く、もっと生々しく、そして獰猛な光だ。獲物を狙う野獣の目。あるいは、子のために全てを敵に回す親の目。

 

「そうだった……単純なことだった」

 

アイオロスが呟く。彼はムウの拳を握ったまま、ゆっくりと立ち上がる。その動作には、凄まじい威圧感が伴う。

 

「俺はもう……大切なものしか持っていない」

 

「何を……訳のわからないことを!アテナの聖闘士としての誇りはどうしたのです!」

 

ムウが問いただす。アイオロスは、フッと笑う。それは自嘲気味で、でもどこか吹っ切れたような笑みだ。

 

「誇り?……ああ、そんなものもあったな」

 

アイオロスは首を振る。

 

「いや、違う。ムウ、俺はアテナの聖闘士をやめた」

 

「……はい?」

 

ムウの思考が停止する。やめた?聖闘士を?今、ここで?

 

「俺はもう、アテナの聖闘士ではない」

 

アイオロスは断言する。その言葉と共に、彼の纏う小宇宙の色が変わっていく。純粋な黄金色の中に、どす黒い赤が混じり始める。

 

「俺がここに来たのは……ただ、サガと決着をつけたかったからだ」

 

アイオロスは語り始める。自分の心の奥底に蓋をしていた、本音を。

 

「13年前。あいつに英雄なんて重荷を着せられ、俺は死んだことにされた。まあ、それはいい。アテナを守れたならそれでいいと、自分に言い聞かせてきた」

 

アイオロスの握る力が強まる。ムウのガントレットにヒビが入る。

 

「だがな……やっぱり腹の底では、ムカついていたんだよ。あいつとの喧嘩のケリをつけないと、どうにも収まりが悪くてな……。それだけが、俺の聖域への未練だった」

 

個人的な恨み。男としての意地。そんな俗っぽい理由。

 

「アイオロス……貴方は……」

 

ムウは言葉を失う。目の前の男が、自分の知っている「理想の聖闘士」から、ただの人間へと変貌していく。

 

「そして今は、娘の命が危ないのだ」

 

アイオロスの声が大きくなる。小宇宙が膨れ上がる。

 

「父親なら!何を賭しても救うのが父親だろう!!理屈も、立場も、神話も関係ない!俺の娘が死にそうなんだ!助けるのに理由がいるか!」

 

咆哮。それは白羊宮を揺るがす。ムウはたまらず後方へ跳ぶ。距離を取らなければ危ない。本能がそう告げている。

 

アイオロスの小宇宙が、爆発的に高まっていく。それは通常のセブンセンシズを超えている。もっと禍々しく、もっと荒々しいエネルギーだ。

 

かつて、彼は日本で「闇のエデン」と呼ばれる事件に巻き込まれた。そこで、邪神エリスと融合した妻・翔子と向き合い、彼女の血を浴び、その魂に触れた。長い年月、邪神の器である妻と共に暮らす中で、彼の肉体と小宇宙は、知らず知らずのうちにエリスの神気と同調していたのだ。それが今、娘を救いたいという強烈な執念(愛)をトリガーにして、化学反応を起こしている。

 

「なんだ……この禍々しくも神々しい小宇宙は!?」

 

ムウが戦慄する。黄金の輝きの中に、鮮血のような真紅の雷が走っている。それは聖なる力でありながら、邪悪な力でもある。清濁併せ呑む、混沌のエネルギー。

 

「うぉぉぉぉぉーーーっ!!」

 

アイオロスが吠える。彼の背中の翼が、バサリと大きく広がる。その形状が変わる。 黄金聖衣が軋み、変形していく。

 

翼はより巨大に、より鋭利になる。天使の翼ではない。ドラゴンの翼のように攻撃的で、天を切り裂く刃のようなフォルムへと進化する。そして、黄金の装甲の表面に、異変が起きる。まるで血管か、あるいは植物の根のような「赤い葉脈」が走り、ドクン、ドクンと脈動を始める。聖衣が生きている。いや、聖衣に宿る意思が、アイオロスの執念に呼応して、禁断の進化を遂げているのだ。

 

神聖衣。アテナの血を受けた聖衣が進化する、最強の形態。しかし、これは違う。アテナの血ではなく、邪神エリスの気配と、父親の妄執が作り上げた、異端の神聖衣。

 

「これが……俺と翔子(エリス)の絆の形……」

 

アイオロスが低く呻く。彼の瞳が、赤く輝く。その姿は、神話の英雄ではない。地獄の底から這い上がってきた、復讐鬼のようだ。

 

「射手座・神邪霊聖衣!!」

 

アイオロスが名乗りを上げる。真紅のラインが走る黄金の翼を広げ、彼はムウを見下ろす。その威圧感は、先ほどまでの比ではない。ムウでさえ、直視すれば目が焼かれそうなほどのプレッシャーだ。

 

そこにはもう、聖人のような英雄の姿はない。誰もが憧れた、優しく正しいアイオロスは死んだ。ここにいるのは、家族を守るためなら神をも食らい、世界を敵に回すことも厭わない、一人の修羅だ。

 

「俺はもう……誰にも負けん!!」

 

アイオロスが右手を掲げる。

 

「ムウ!どけ!さもなくば、この力でねじ伏せる!」

 

「くっ……!」

 

ムウは冷や汗を流す。計算外だ。アイオロスが、ここまで壊れるとは。いや、これが「人間」としてのアイオロスの本質なのか。アテナという枷を外し、父親という野生を解放した男の、底知れぬ強さ。

 

「面白い……!やれるものならやってみなさい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ムウの額を、冷たい汗が伝う。理屈では説明がつかない。アッシュ参謀長の近代的なトレーニング理論でも、サガ教皇の膨大な知識データベースでも、この現象は解析不能だ。 エラー。エラー。エラー。ムウの脳内で、冷静な計算式が次々と崩壊していく。

 

「……ふざけるな」

 

ムウが低い声で唸る。彼は恐怖を怒りで塗りつぶす。未知への恐怖に震えるのは、旧時代の人間だ。今の自分たちは違う。自分たちは、神の気まぐれに怯える子羊ではなく、自らの意思で未来を切り拓く開拓者なのだ。

 

「この力は……何としても通さん!」

 

ムウの全身から、かつてないほどの黄金の小宇宙が噴き上がる。それは、リミッターを解除した決死の輝きだ。肉体が悲鳴を上げる。筋肉が断裂し、血管が破裂しそうになる。それでも、彼は構わない。ここでアイオロスを通せば、彼らが築き上げてきた「人間の聖域」が崩壊する。あの快適な生活も、仲間との語らいも、全てが神の独裁によって奪われる。それだけは、絶対に阻止しなければならない。

 

「神に屈してなるものか!!人間の可能性を、舐めるなァァァッ!!」

 

ムウが両手を掲げる。彼の周囲に展開される星々の幻影が、実体を持って具現化する。 それは美しい夜空ではない。終末の空だ。無数の隕石が、燃え盛りながらアイオロスの頭上に集束していく。

 

「スターダスト・レボリューション!!」

 

ムウの絶叫と共に、銀河が崩落する。数千、数万の光弾が、アイオロスめがけて降り注ぐ。一つ一つが、山をも砕く質量を持っている。それが雨のように降り注ぐのだ。白羊宮そのものを消滅させかねない、文字通りの戦略級攻撃。逃げ場はない。回避も不可能。 全てを塵(ダスト)に還す、絶対の破壊。

 

対するアイオロスは、動かない。彼は神邪霊聖衣の翼を、優雅に、そして不気味に広げる。赤いラインが走る翼が、怪物の口のように開く。彼は静かに構えを取る。左手を前に突き出し、右手を引く。弓を持たずとも、その姿は誰よりも雄弁に「射手」であることを物語っている。

 

神話の時代。賢者ケイロンより受け継がれし、射手座の至高の構え。だが、今の彼が放つのは、正義の矢ではない。愛という名の呪いだ。

 

「……道を開けろ、ムウ」

 

アイオロスの声は、轟音の中でもクリアに響く。命令ではない。事実の通告だ。

 

「ケイロンズ・ライト・インパルス!!!」

 

その瞬間。世界の色が反転する。

 

黄金の疾風が巻き起こる。それは単なる風ではない。高密度の光子(フォトン)の嵐だ。 全ての小宇宙を拡散させ、中和し、消滅させる絶対的な光の衝撃波。

 

圧倒的な質量で迫っていたムウの星屑(スターダスト)たちが、その光の風に触れた瞬間、ジュッという音を立てて蒸発する。物理的な岩石も、小宇宙の塊も、関係ない。アイオロスの放つ風の前では、全てが等しく無力な塵となる。

 

「なっ……!星屑が、消された!?」

 

ムウが驚愕に目を見開く。自分の最大奥義が、まるで蝋燭の火を吹き消すように消滅させられた。次元が違う。これが、神の力を取り込んだ聖闘士の実力なのか。

 

だが、驚いている暇はない。星屑を消し去った光の衝撃波は、勢いを弱めることなく、そのままムウへと殺到する。津波のような光の壁。

 

「ぐああああーーっ!!」

 

衝撃波がムウを直撃する。黄金聖衣がきしむ。身体が後方へと弾き飛ばされそうになる。 だが、ここで吹き飛ばされれば、白羊宮の守りが破られる。ムウは歯を食いしばる。口の中が血の味で満たされる。

 

「させる……かぁッ!!」

 

ムウは空中で体勢を整え、自身の背後に両手をつく。そこには壁はない。あるのは虚空だ。だが、彼はそこに「壁」を作る。

 

「クリスタルウォール!!」

 

ムウの背後に、透明な防御壁が出現する。彼はその壁に背中を預け、正面からの衝撃波を無理やり受け止める。通常の使い方は、敵の攻撃を前で防ぐものだ。だが、今は自分が吹き飛ばされないための「支え」として使う。

 

凄まじいGがかかる。正面からはアイオロスの神風。背面からは自分の作った不動の壁。 二つの力に挟まれ、ムウの肉体はプレス機にかけられた金属のように圧縮される。

 

メリメリメリッ!

 

全身の骨がきしむ音が、頭蓋骨の内部で響く。内臓が破裂しそうな圧迫感。視界が赤く染まる。それでも、ムウは足を地面に突き刺し、耐える。一歩も引かない。一ミリも通さない。その意地だけが、今の彼を支えている。

 

嵐が過ぎ去る。白羊宮の入り口は、更地のように削り取られている。土煙が舞う中、一人の男が立っている。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

ムウだ。彼はクリスタルウォールを背にしたまま、肩で息をしている。黄金聖衣はボロボロになり、マントは消滅している。全身から血が噴き出し、立っているのが奇跡のような状態だ。だが、彼は倒れていない。その瞳から、理知的な光は消え失せ、代わりに鬼のような執念が宿っている。

 

「ここは……通さない……。絶対に……」

 

ムウが血を吐き捨てる。赤い飛沫が、白い床を汚す。

 

「人間が築き上げたこの場所を……神に屈してなるものか……!」

 

その声は震えているが、力強い。神への反逆。それは傲慢かもしれない。

 

だが、自分たちの手で掴み取った自由と尊厳を守ろうとするその姿には、敵であるアイオロスでさえも敬意を抱かざるを得ない気迫がある。彼は立派な戦士だ。アッシュが育て、サガが導いた、新しい聖域の象徴だ。

 

だが。今のアイオロスには、その執念すら置き去りにする「理由」がある。敬意は払う。だが、止まることはしない。

 

「……見事だ、ムウ」

 

アイオロスの声が、すぐ耳元で聞こえる。ムウがハッとして顔を上げる。いつの間にか。 本当に、瞬きするよりも短い時間の間に。アイオロスはムウの眼前、鼻先が触れそうなほどのゼロ距離まで肉薄している。速い。光速を超えている。これが、神邪霊聖衣の力。

 

ムウの身体が強張る。反応できない。アイオロスの右拳が、静かに、優しくムウの胸元に添えられる。トン……という軽い感触。

 

「……っ!?」

 

ムウの背筋が凍る。その触れられた一点から、底知れぬエネルギーの奔流を感じるからだ。熱い。いや、冷たい?聖なる輝きと、禍々しい闇が、螺旋を描いてその拳一点に収束している。

 

「妻の技……今は借りよう」

 

アイオロスが呟く。妻の技。翔子の技。かつて子馬座(エクレウス)の聖闘士として戦い、今は邪神の器として生きる、最愛の女性の得意技。

 

アイオロスは、彼女と共に暮らす中で、その技術を、その魂の形を、自身の肉体に刻み込んでいたのだ。

 

アイオロスの背後に、幻影が浮かぶ。

 

天を駆ける白き子馬(エクレウス)のシルエット。

 

そして、それに絡みつくように笑う、妖艶な邪神エリスの影。相反する二つの力が、アイオロスの拳を通して一つになる。

 

「エクレウス彗星拳」

 

静かな宣告。次の瞬間、世界が弾ける。

 

ドガガガガガガッ!!!

 

ゼロ距離で炸裂した彗星の衝撃。それは打撃ではない。貫通するエネルギーの塊だ。

 

ムウの胸元の装甲を一瞬で粉砕し、その衝撃は肉体を通り抜け、背後のクリスタルウォールへと到達する。

 

パリーン!!

 

ムウが自らを支えていた最後の砦、クリスタルウォールが粉々に砕け散る。支えを失い、かつ体内を破壊されたムウの身体が、人形のように崩れ落ちる。

 

「ガハッ……!」

 

ムウの口から、大量の血が溢れる。彼の視界が激しく揺れる。何が起きたのか、理解するのに数秒かかる。

 

本来は青銅聖闘士の技だ。だが、神の力を纏った黄金聖闘士が、ゼロ距離で放てば、それはビッグバンのような破壊力を生む。

 

しかも、回転を加えた螺旋の衝撃は、クリスタルウォールのような「面」での防御を一点突破で無効化する。

 

ムウの体から、完全に力が抜ける。小宇宙の灯火が、風前の灯のように弱まる。

 

それでも彼は、倒れまいと踏ん張る。プライドが、彼を支えようとする。だが、肉体は正直だ。膝がガクガクと笑い、脳からの指令を受け付けない。

 

「馬鹿な……私が……」

 

ムウが呆然と呟く。自分の手を見る。震えている。何も掴めない。

 

「この私が……たった一撃で……」

 

黄金聖闘士の中でも屈指の実力を誇る自分。アッシュと共に聖域最強の一角を担う自分が。たった一発の拳で、再起不能に追い込まれた。

 

これが、「神邪霊聖衣」のスペック差なのか。それとも、「背負うもの」の違いなのか。家族を守るという、個人のエゴが、組織の正義を上回ったというのか。

 

アイオロスは拳を下ろす。彼は、ゆっくりと崩れ落ちていくかつての友を見下ろす。その目に、勝利の喜びはない。あるのは、悲しみと、そして揺るぎない決意だけだ。

 

「殺しはしない。急所は外してある」

 

アイオロスは短く告げる。 情けではない。これ以上、無益な血を流したくないという、彼なりの矜持だ。ムウはもう戦えない。それで十分だ。

 

「……先に行くぞ」

 

アイオロスは、倒れるムウの横を通り過ぎる。一度も振り返らない。振り返れば、謝ってしまいそうになるからだ。謝罪は、全てが終わった後でいい。今はただ、一歩でも先へ進まなければならない。

 

「待ち……なさい……」

 

ムウが、床に手を突きながら声を絞り出す。呼び止める声は、あまりにも弱々しい。

 

アイオロスの耳には届いているはずだが、足音は止まらない。遠ざかっていく黄金の背中。赤いラインが走る翼が、ムウの目には悪魔のようにも、天使のようにも見える。

 

ムウの視界が霞んでいく。白羊宮の天井が、ぼやけて見える。意識の糸が、プツリと切れそうになる。

 

「ぐっ……アッシュ師範……サガ……」

 

ムウは、盟友たちの名前を呼ぶ。悔しい。守れなかった。自分が最初の砦として、ここでアイオロスを止めるはずだった。アッシュたちが作った、あの平和な聖域を。美味しい紅茶が飲める、あの穏やかな午後を。守りたかった。

 

「申し訳……ありません……」

 

涙が、血と共に頬を伝う。

 

「人間の……未来を……」

 

ムウの手から力が抜ける。彼は、床に伏すようにして倒れ込む。

 

ドサッ。

 

白羊宮の守護者、牡羊座のムウは、意識を失った。

 

白羊宮の第一の戦いは、アイオロスの圧倒的な勝利で幕を閉じた。神の力を得た父の執念は、聖域最強の盾をも粉砕したのだ。

 

しかし、これはまだ始まりに過ぎない。

 

十二宮はまだ11も残っている。そして、その奥には、さらに強力な、そしてさらに「改革」された黄金聖闘士たちが待ち受けている。

 

彼らはムウの敗北を知り、より一層の警戒と殺意を持って、侵入者たちを迎え撃つだろう。

 

デジタル火時計の表示は、残り11時間30分。

 

 

 

神と人との戦争は、最初の脱落者を出して、次のステージへと進む。




星矢「なぁ沙織さん……さっきのアイオロスさんのアレ、なんか……地獄の合体魔法みたいだったんだけど?」

沙織「いや〜ッ!!わかる!!あの禁断進化!!ドチャクソ熱い展開だった!!BL同人誌10冊描けるやつ!!」

星矢「えっ!?なんでBL!?」

沙織「ムウの抵抗シーンがさ〜、理性 vs 本能って感じで尊すぎて……はい優勝。はい沼。」

沙織「てか今のパパ、家族愛で覚醒する父キャラのテンプレに、邪神属性まで盛ってあってもう……属性大渋滞!!最高!!」

星矢「テンプレなの!?あれテンプレなの!?ていうか同人誌作るなよ!?」

沙織「星矢、知らなかった?公式より先に妄想が走るのがオタクってものなのよ♡」

星矢「沙織さんがいちばん暴走してるよ!!」
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