聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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蒼き炎が魂を焼き、鎖が叫び、龍が砕け散る!

アテナへの忠誠を掲げる青銅聖闘士に、
デスマスクとエレナは改革された正義で断罪の鉄槌を下す!

価値観は平行線、拳が裁き、魂が決着をつける!

次回!『無神論の聖闘士と、一途な補佐官』

君の小宇宙は、何を信じる!?


無神論の聖闘士と、一途な補佐官

巨蟹宮

 

 

壁一面に描かれた「死人の顔・トリックアートコレクション(総工費一億円)」が、薄暗い照明の中でニヤニヤと笑っているように見える。

 

さっき黄泉比良坂から強引に舞い戻ってきた紫龍と瞬だが、その顔色は悪い。

 

そりゃそうだ。一度魂を抜かれて、地獄の入り口まで行って、鎖一本でバンジージャンプして帰ってきたのだ。時差ボケならぬ「冥界ボケ」で頭がクラクラしてもおかしくない。

 

対するデスマスクとエレナは、ピンピンしている。彼らはホームグラウンドでの試合を完全に楽しんでいる。特にデスマスクだ。彼は、先ほど自分が「鎖の手すり」扱いされた屈辱を、倍にして返そうと燃えている。物理的にも、燃えている。

 

「遊びは終わりだ。ここからは残業代も出ねぇサービスタイムだぜ」

 

デスマスクが、右手を高く掲げる。パチン。指を鳴らす音が響く。瞬間、彼の人差し指の先端に、ゆらりと青白い炎が灯る。

 

生き物のように蠢く、不気味な蒼炎だ。それは周囲の酸素を燃やしているのではない。 巨蟹宮に漂う、微かな霊気を燃料にして燃え盛っているのだ。

 

「魂ごと灰になりな!積尸気鬼蒼焔!!」

 

技名が叫ばれると同時に、指先の小さな炎が爆発的に膨れ上がる。

 

ボオオオオオッ!!

 

青白い火球が無数に分裂し、鬼火となって空中に舞う。それらは意思を持った獣のように、紫龍と瞬を取り囲む。熱い。でも、肌が焦げるような熱さではない。魂がヒリヒリと焼けるような、精神的な激痛を伴う熱波だ。

 

「なっ……!人魂が燃えている!?」

 

紫龍が驚愕の声を上げる。彼の目には、その炎の一つ一つが、苦悶の表情を浮かべた霊魂に見える。物理攻撃なのか、精神攻撃なのか、判別がつかない。聖闘士の戦いにおいて、「分からない」ことは死に直結する。

 

「紫龍!気をつけて!あれに触れると、肉体だけじゃなく、精神まで焼かれるよ!」

 

瞬が警告する。彼の星雲鎖が、ジリジリと嫌な音を立てて後退している。鎖でさえも、あの炎の「ヤバさ」を本能的に感じ取っているのだ。

 

蒼い炎の海が、津波となって押し寄せる。逃げ場はない。巨蟹宮の通路は狭い(トリックアート保護のため)後ろに下がれば、またあの趣味の悪い壁に追い詰められるだけだ。

 

紫龍の脳内で、瞬時に計算が行われる。防御か?いや、盾で防げる類の炎ではない。回避か?通路が狭すぎて無理だ。ならば。

 

「やるしかない……!」

 

紫龍の瞳に、決死の光が宿る。彼は腰を落とし、右拳を腰だめに構える。廬山の瀑布を逆流させるほどの、爆発的な脚力をチャージする。

 

「炎ごと突き破る!防御など不要!攻撃こそが最大の防御だ!」

 

紫龍が地面を蹴る。

 

ドンッ!

 

床のトリックアート(叫ぶおじさんの顔)が踏み砕かれる。紫龍の体が、砲弾となって飛び出す。

 

「廬山龍飛翔!!」

 

紫龍の全身から、緑色の龍のオーラが立ち昇る。彼は自らを一匹の昇り龍へと変え、燃え盛る蒼い炎の海へと突っ込んでいく。熱い。 魂が焼ける音がする。だが、紫龍の精神力はオリハルコン並みに硬い。「熱い?知らん!気合で耐える!」という昭和の根性論で、精神ダメージを無効化する。

 

「うおおおおおっ!!」

 

紫龍が炎を切り裂く。蒼い鬼火が、龍の勢いに押されて左右に弾け飛ぶ。見える。炎の向こうに、ニヤニヤと笑っているデスマスクの顔が。あのムカつく顔面に、この拳を叩き込めば、勝機はある。あと3メートル。2メートル。1メートル。届く!

 

「もらったァァァッ!!」

 

紫龍が拳を突き出す。デスマスクは避けない。いや、避ける素振りすら見せない。なぜなら。

 

「猪突猛進ですね」

 

冷静すぎる声が、横合いから響く。紫龍の視界の端、死角となる右サイドから、影が滑り込んでくる。エレナだ。彼女はハイヒールとは思えない滑らかな足運び(スライド移動)で、トップスピードに乗った紫龍の懐に割り込む。

 

「なにっ!?」

 

紫龍が目を見開く。止まれない。龍飛翔は、一度放てば直進あるのみの特攻技だ。急ブレーキなどついているわけがない。

 

エレナは、慌てず騒がず、右手を前にかざす。その掌には、漆黒の小宇宙が圧縮されている。それは、デスマスクが放つような広範囲の波動ではない。極限圧縮された、高密度の「闇」だ。

 

「積尸気は魂を抜くだけではありません。貴方たち、物理の授業はちゃんと受けましたか?」

 

エレナが問いかける。戦いの最中に授業の話をするな。紫龍はパライストラ(聖闘士養成学校)出身だが、物理は苦手だ。

 

「エネルギーは、圧縮すれば質量を持ちます。そして質量を持ったエネルギーを、運動エネルギーと衝突させれば……どうなると思います?」

 

エレナの眼鏡がキラリと光る。彼女は、迫りくる紫龍の腹部、聖衣ではなく生身の部分に、その掌を静かに、しかし強烈に押し当てる。

 

「答えは、『吹っ飛ぶ』です」

 

「積尸気冥界波・物理(フィジカル)!!」

 

ズドォォォォォォン!!!

 

鈍く、重い音が巨蟹宮に響き渡る。それは魂を引き抜く音ではない。ダンプカーが正面衝突したような、物理的な破壊音だ。

 

「ぐああああーーっ!!」

 

紫龍の悲鳴。彼の突進エネルギーが、正面からエレナのエネルギーと衝突し、行き場を失って爆発する。紫龍の体が、くの字に折れ曲がる。そして、ピンボールの玉のように弾き飛ばされる。

 

ヒュンッ!

 

紫龍が空を飛ぶ。水平に。猛スピードで。

 

バゴォォォォン!!

 

壁に激突する。そこには、ちょうど「口を大きく開けて叫んでいる人」のトリックアートが描かれていた。紫龍はその口の中に吸い込まれるように激突し、壁にめり込む。

 

絵画の一部になったかのような、見事なハマりっぷりだ。パラパラと石膏が落ちてくる。 紫龍は白目を剥いて、壁に埋まったまま動かない。文字通りの「壁の花」ならぬ「壁の龍」だ。

 

「紫龍!!」

 

瞬が叫ぶ。信じられない光景だ。あの積尸気冥界波が、あんな使い方ができるなんて。 魂を抜く技を、物理的な衝撃波として叩きつける。それはもはや霊術ではない。ただの超・発勁だ。

 

「乱暴な……!よくも紫龍を……!」

 

瞬の優しい瞳に、怒りの色が宿る。彼は普段、争いを好まない。だが、仲間を傷つけられた時だけは別だ。しかも、あんなネタキャラみたいな扱いを受けて、黙っていられるわけがない。

 

「ネビュラチェーン!サンダーウェーブ!!」

 

瞬が右腕を振るう。鎖が稲妻のような軌道を描いて伸びる。ジグザグに、不規則に敵の予測を裏切り、死角を突いて襲いかかる必殺の鎖。狙うは、紫龍を弾き飛ばして隙だらけ(に見える)のエレナだ。

 

「そこだ!」

 

鎖の先端が、エレナの背後から迫る。速い。反応できないはずだ。エレナは紫龍を吹き飛ばしたフォロースルーの姿勢のままだ。

 

だが。

 

ガシッ。

 

乾いた金属音が響く。鎖が止まる。エレナに届く寸前、その横から伸びてきた手が、鎖を無造作に掴んだのだ。

 

「えっ……?」

 

瞬が呆然とする。鎖の先を見る。そこにいたのは、大あくびをしている男。デスマスクだ。

 

「ふわぁ……。遅ぇよ」

 

デスマスクは、瞬のサンダーウェーブを素手で掴んでいる。しかも、まるで垂れ下がった電気コードでも掴むような、気軽な手つきで。鎖には数万ボルトの高圧電流が流れているはずだが、彼は全く気にしていない。絶縁手袋でもしているのか?いや、素手だ。ただの気合と、分厚い黄金聖衣の防御力によるゴリ押しだ。

 

「ちょこまかとウルセェ鎖だな。蛇のおもちゃかよ」

 

デスマスクが、面倒くさそうに鎖を軽く引っ張る。グイッ。

 

「うわっ!?」

 

瞬の体が、いとも簡単にバランスを崩す。デスマスクの怪力は、見た目以上にえげつない。瞬は前のめりに倒れそうになり、慌てて踏ん張る。

 

「あら、助かりました。ありがとうございます、デスマスク」

 

エレナが、眼鏡の位置を直しながら振り返る。

 

彼女は最初から、デスマスクが守ってくれると分かっていたような口ぶりだ。あるいは、守られなくても自分でどうにかできたが、花を持たせただけかもしれない。どちらにせよ、余裕がすごい。

 

デスマスクは、フンと鼻を鳴らす。彼は掴んでいた鎖を、汚いものでも触るかのようにパッと離す。

 

「……よせやい。お前に礼を言われると、背中が痒くなるぜ」

 

デスマスクが背中をボリボリとかく仕草をする。照れ隠しだ。分かりやすいツンデレだ。昭和のヤンキー漫画に出てくる、「勘違いすんなよ、別に助けたわけじゃねぇ」と言いながら助けてくれるサブキャラそのものだ。

 

「気持ち悪いな、そんな殊勝な態度取りやがって。いつものように『無駄な動きが多いです』とか言って減給処分にすりゃいいだろ」

 

「失礼ですね。上司の妻への敬意が足りませんよ?」

 

エレナはクスリと笑う。その笑顔は、氷のように冷たいが、どこか楽しそうだ。

 

「まあ、貴方のそういう素直じゃないところ、嫌いではありませんが。戦力としては優秀ですからね。性格は破綻していますが」

 

「一言多いんだよ!性格は余計だ!」

 

二人は戦闘中とは思えない軽口を叩き合う。完全に二人の世界だ。目の前で倒れている紫龍と、体勢を崩している瞬のことなど、眼中にない。「強者の余裕」というやつだ。あるいは、「社内恋愛(?)を見せつけられている」という精神的ブラインド攻撃かもしれない。

 

瞬は、唇を噛む。悔しい。歯が立たない。デスマスクの圧倒的なパワーと、エレナの冷徹なテクニック。そして、二人の完璧な連携。この巨蟹宮は、ただの通過点ではない。鉄壁の要塞だ。

 

壁に埋まった紫龍が、パラパラと石膏を落としながら、呻き声を上げる。「うぅ……物理……物理は卑怯だ……」 彼のうわ言が、虚しく響く。

 

デスマスクは、エレナの横に並び立つ。二人は見下ろす。満身創痍の青銅聖闘士たちを。

 

「さて、お喋りは終わりだ」

 

デスマスクの表情から、笑みが消える。殺し屋の目に戻る。

 

「アッシュ師範との約束もある。これ以上時間をかけると、俺の評価に関わるんでな」

 

エレナもまた、タブレットを取り出し、時刻を確認する。

 

「ええ。予定より3分オーバーです。そろそろ締めましょうか」

 

「締め作業」という名の処刑宣告。絶体絶命のピンチ。しかし、瞬の目は死んでいない。 彼は鎖を引き寄せ、再び構える。

 

「……まだです」

 

瞬が、か細い声で言う。

 

「僕たちは……まだ負けていない……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいか小僧ども。これが現実だ」

 

デスマスクが、倒れている二人を見下ろして言う。

 

「小宇宙の究極である『セブンセンシズ(第七感)』に目覚めていない聖闘士が、俺たちに勝てるわけがねぇんだよ。基礎体力が違う、基礎体力が」

 

デスマスクは自分の胸を叩く。「俺たちは、アッシュにシゴかれて、その領域に足を突っ込んでる。お前らはどうだ?友情パワーや火事場の馬鹿力頼みじゃねぇか。そんな不安定な出力で、安定稼働してる俺たちに勝てると思ってんのか?」

 

「あら?『黄金聖闘士に勝てるわけがない』とは言わないのですか?」

 

横から、エレナが茶化すように口を挟む。

 

従来の聖域ならば、黄金聖闘士こそが頂点であり、青銅聖闘士など虫けら同然という絶対的なカーストが存在していた。デスマスクも昔なら、「黄金聖闘士様だぞ!」とマウントを取っていたはずだ。

 

デスマスクは「ケッ」と吐き捨てる。バツが悪そうだ。

 

「それだといろいろ不都合だろうが。俺の周りには、黄金じゃなくても化け物みたいな奴がいっぱいいるんだよ」

 

彼はちらりとエレナを見る。この女だって白銀聖闘士だが、実力は黄金クラスだ。そして、彼らの師であるアッシュ参謀長も白銀(杯座)だ。さらに言えば、さっきアルデバランの角を折ったミスティたちも白銀だ。

 

「アッシュ師範や、白銀聖闘士のお前に悪いじゃねぇか。俺たちが証明しちまったからな。『階級(ランク)』じゃねぇ、『覚醒(センス)』してる奴が強ぇんだってな」

 

デスマスクは、倒れ伏す紫龍たちを指差す。

 

「だからよ、お前らが青銅聖闘士だから負けたんじゃねぇ。てめぇらが未熟だから負けたんだ。そこを履き違えるなよ?」

 

意外と真面目なアドバイスだ。彼は「お前らはゴミだ」と言っているのではなく、「お前らはまだレベル上げが足りてない」と言っているのだ。

 

「ま、青銅でも目覚める奴がいないとも限らねぇが……」

 

デスマスクの脳裏に、麓に残っているペガサスの少年の顔が浮かぶ。星矢だ。あいつだけは別格だ。天然でセブンセンシズを使いこなす、まさに天才肌のバグキャラ。アッシュも「星矢くんだけは計算外の動きをするから要注意」と太鼓判を押していた。

 

「あいつ以外の、今のてめぇらじゃ無理だ。出直してこい」

 

突き放すような言葉だが、そこには確かな実力主義の哲学がある。

 

紫龍が、震える手で床をつき、体を起こそうとする。「くっ……セブンセンシズ……」 彼は悔しげに呟く。パライストラ(聖闘士養成学校)で、ドルバル校長や老師から聞いてはいた。第六感(直感)を超えた先にある、小宇宙の真髄。奇跡を起こす力。

 

「パライストラの座学では習った……。だが、実技ではまだ……」

 

「まだ僕たちは……その領域に、目覚めることはできていなかった……」

 

瞬もまた、自分の無力さを痛感する。知識として知っていても、体現できなければ意味がない。彼らは今、圧倒的な「経験値の差」を見せつけられている。

 

デスマスクは呆れたように首を鳴らす。ポキポキと音がする。

 

「そもそもだ。お前たちはなぜ攻めてくる?」

 

デスマスクが素朴な疑問を口にする。戦闘の動機についてだ。

 

「もともとの約定を無視して、一方的に契約破棄してきたのはそっちだぞ?聖域は人間が管理する、日本はアテナが管理する。それで手打ちにしたはずじゃねぇか」

 

デスマスクは両手を広げる。「それを、『やっぱ聖域も欲しいから返せ』だ?『従わないなら殺す』だ?マフィアでももうちょっと筋を通すぜ?」

 

正論だ。あまりにも正論すぎて反論の余地がない。アテナ(システム)のやり方は、現代社会の契約概念からすれば完全にブラックだ。

 

「話も通じねぇ、約束も守れねぇ、いきなり暴力で解決しようとする……こんなクソ神、いらんだろうが。返品可能ならクーリングオフしたいレベルだぜ」

 

「なっ……!クソ神だと!?」

 

紫龍が反応する。彼にとってアテナは絶対的な正義の象徴だ。それを「クソ神」呼ばわりされたことが許せない。

 

「デスマスク!言葉を慎め!」

 

「ふふ。……神に仕える聖闘士の口から『クソ神』なんて言葉が出るなんて」

 

エレナがクスリと笑う。彼女はデスマスクの暴言を嗜めるどころか、楽しんでいるようだ。

 

「無神論者が聖闘士をやるなんて、いけない男ですね。背徳的でゾクゾクします」

 

「あ?文句あんのかよ?」

 

デスマスクが睨む。

 

「いいえ?素敵です」

 

エレナは微笑む。それは皮肉ではなく、神に縛られず己の足で立つ男への、同志としての称賛だ。

この聖域改革派のメンバーは、皆どこか「神への反抗心」を共有している。それが彼らの結束力の源泉でもある。

 

「へっ……よせよ。浮気は受け付けねぇぞ?俺は軽い女は嫌いなんでな」

 

デスマスクがそっぽを向く。

 

「ご心配なく。私はアッシュ一筋ですから。貴方のようなチンピラには興味ありません」

 

エレナが即答する。冷たい。でも、その冷たさが心地いい信頼関係だ。

 

「カァーッ!やってらんねぇな!これだからリア充夫婦は!」

 

デスマスクが頭を抱える。

 

「目の前で惚気やがって!独身貴族の俺への当てつけか!?」

 

そんなデスマスクたちの余裕と、神を軽んじる態度に、紫龍の中で何かが切れる音がした。プツン。我慢の限界だ。

 

紫龍は震える拳を握りしめて立ち上がる。ふらついているが、その目には燃えるような怒りが宿っている。

 

「……侮辱するな、デスマスク!」

 

紫龍の大声が、巨蟹宮に響く。壁のトリックアートもびっくりだ。

 

「俺たちはアテナの聖闘士だ!聖闘士である以上、死はもとより覚悟の上!たとえ神の命令が理不尽であろうと、それに従うのが我らの使命!」

 

紫龍は胸を張る。古い価値観かもしれない。でも、それが彼を支えてきた柱だ。

 

「神への忠誠を捨て、己の欲望のために生きる貴様らに、聖闘士を名乗る資格はない!アテナのために戦うのが聖闘士のはずだ!それを放棄したお前たちは、ただの力自慢のゴロツキだ!」

 

「そうです……!」

 

瞬も立ち上がる。彼の鎖がジャラリと鳴る。

 

「僕たちは、沙織さんのために戦う!今の沙織さんは苦しんでいる……助けを求めているんです!システムだとかバグだとか、そんなことは関係ない!」

 

瞬の訴えは感情的だ。でも、だからこそ胸を打つ。

 

「僕たちには正義があるはず……。あなた達だって聖闘士なら、人の心の痛みが、アテナの苦しみが分かるはずでしょう!?なぜ分かってくれないんですか!」

 

彼らの叫びは純粋で、真っ直ぐだ。まるで少年漫画の主人公のようだ。

 

いや、彼らは主人公なのだ。正義を信じ、友情を信じ、愛のために戦う。それは美しい。

 

だが。デスマスクにとっては、それはあまりに「幼い」理屈だった。

 

「はぁ…………」

 

深いため息。今までで一番深い、心底呆れ果てたようなため息が、デスマスクの口から漏れる。

彼の瞳から、先ほどまでの「教育者」としての色が消える。代わりに宿るのは、冷酷な殺し屋の色だ。「話しても無駄だ」という諦めと、「ならば処理するしかない」という断絶の色。

 

「契約破棄した『システム(神)』に従うのが忠誠か?」

 

デスマスクが冷たく問いかける。

 

「思考停止して命令に従うのが正義か?『上司が言ったからやりました』『私は悪くありません』……ナチスの戦犯と同じ理屈だな」

 

デスマスクの言葉は鋭利だ。紫龍たちの痛いところを突く。

 

「やれやれ……これだから教育ってのは大事なんだよ。パライストラでは何を教えてんだ?『社畜養成講座』か?」

 

デスマスクは小宇宙を高める。今度は手加減なしだ。殺気。純粋な殺意が、巨蟹宮の温度を一気に下げる。

 

「物の道理がわからない小僧どもめ」

 

デスマスクが指を突きつける。その指先に、再び蒼白い炎が灯る。しかし、今度の炎は先ほどよりも大きく、そして暗い。

 

「その青臭い脳みそ、黄泉比良坂で冷やしてきな!!今度こそ片道切符だ。キャンセル待ちはねぇぞ!!」

 

デスマスクの宣告と共に、巨蟹宮の空気が震える。交渉決裂。価値観の相違は、拳でしか埋められない。「神に従う正義」と「神に抗う正義」二つの正義が、決定的に衝突する瞬間が訪れた。




星矢「なぁ沙織さん……今回の巨蟹宮……なんかすごくなかった?いやすごいという言葉で片付けていいのか……俺には判断できない……」

沙織「最高だったわ!!積尸気冥界波・物理ッ!!なんなのあの使い方!?天才!?理系の暴力!?」

星矢「そこ!?魂抜かれるところじゃなくてそこなの!?」

沙織「あとデスマスクね……契約破棄した神に従うのが忠誠か?あれ完全に正論よね。刺さりすぎて心が死んだわ……」

星矢「沙織さん……神としての威厳……?」

沙織「しかもあの二人の夫婦漫才!はい優勝!エレナさんの上司の妻には敬意をは声出たわ!!」

星矢「なんか……巨蟹宮だけドラマが違う気が……」

沙織「うん。異伝はね、こういう混沌の奇跡が一番美味しいの♡」
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