聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
善サガ「……(肩を落とし気味に)まさか僕の奥義まで、あんなにあっさり模倣されるとは思わなかった。努力と修行の何年が、一瞬で……」
アッシュ「えっ、そんなに落ち込む?僕的にはリスペクトなんだけど……!」
善サガ「リスペクトは嬉しいけど、やっぱりちょっと複雑なんだよ……僕、少しは“唯一無二”でいたかったのに……」
(心の奥で、もうひとつの声が割り込む)
悪サガ「くだらんな、善サガ。奥義を再現されて気に病むとは小物だぞ。むしろアッシュ――お前ほどの才覚、やはり聖域改革の右腕としてほしい。俺が教皇になれば――」
アッシュ「わっ、今日も全力スカウトだ!相変わらずだね、悪サガ。僕、まだ“闇落ち”するつもりないよ?」
悪サガ「案ずるな。俺の下でなら、何者でもない“お前”が、いくらでも“唯一無二”になれる。理(ことわり)の模倣者よ――俺の聖域で力を尽くせ。」
アッシュ「いやいやいや、勧誘パワー強すぎ!でも、僕は今日もマイペースに研究とパン焼きが本業だから。」
善サガ「……パン焼き、か。アッシュ、君のそういうところは、羨ましくもあり、ちょっと救われるよ。」
悪サガ「善サガ、未練がましいぞ。奥義の模倣など些事。重要なのは――“新しい道を選ぶ勇気”だ。」
アッシュ「じゃあ、僕は“パンと奥義の二刀流”で今日も行くよ!」
(アッシュ視点)
孤独――それは案外、聖闘士星矢の世界でも、やっぱりしんどい。
サガとアイオロス、二人の“奥義”を完コピした僕を待っていたのは、拍手でも喝采でもなかった。
二人とも静かに黙り込み、空気が冷えた。
あれは多分、絶句ってやつだ。
僕が理詰めで「再現」したことで、友情の間に微妙な距離ができたのを、頭でなく体で痛感した。
インフラ整備を頑張ったり、パンを焼いたり、最新家電の使い方講座で村人にモテたり――そんな“合理性”では、この胸の穴は埋まらない。
何のために聖闘士になったのか、自分は何者なのか……ああ、厄介だな、「天才」ってやつは。
よし、ここは初心に帰って「知恵者」に頼ろう。
――ということで、僕は聖域の老害・・・・・もとい最高権威、教皇シオンのもとへと向かった。
教皇の間は、今日もホコリが舞っている。
前回あのあと苦情を出して以来、掃除は劇的に改善されたはずだが、なぜか今日も舞っている。むしろ増えてる?
……気にしない。今日は真面目な相談があるのだ。
扉の前で深呼吸。
「杯座のアッシュ、謁見を賜りたく参上いたしました!」
普段よりちょっと声を張る。大事な話だしね。
「入れ」
重厚な扉がギィィッと開き、ホコリとともにシオン様が現れた。いつもより威厳三割増し。今日も最高権威の貫禄は健在だ。
「……して、どうしたのだ。顔色がすぐれぬな」
やっぱり観察眼は鋭い。さすが長生きしてるだけある。
「教皇様。悩みがございます」
僕は玉座の前に進み、片膝をついて一礼した。
ここからは本気だ。友人にも言えなかった“本音”を、正面からぶつける。
「――オリジナルの技が、ありません。僕は誰かの技を一度見れば、仕組みも原理も解析できて、すぐ模倣できてしまうんです。でも、それはただのコピーでしかありません。サガもアイオロスも、僕の在り方を理解できず戸惑っています。
教皇様、僕は聖闘士として、いったい何を目指すべきなのでしょうか」
――完璧な構成、抜群の滑舌。これでダメならカウンセリングは国家資格持ちに頼むしかない。
シオン様は、腕を組んで「うむ」と深く頷く。
「アッシュよ、お前の悩み、よくぞ語った。その問いは、かつて我も――」
来た。これがサンクチュアリ伝統、長大講釈(ロング・プレリュード)だ。
「まず小宇宙とはな……」
どっしり玉座に腰を据え、指を組み、天を仰ぐシオン様。
「小宇宙とは、魂の写し身であり――魂とはすなわち大宇宙の記憶の断片……。
聖闘士の技とは、遥か昔、星々が生まれし頃より脈々と流れる力、その記憶を己の肉体を通じて呼び覚ます儀式に他ならぬ……」
おお、なんか壮大だ。さすが教皇。……最初の10分はね。
「すべての聖闘士は、大宇宙の歴史の演者に過ぎぬ。されどその“演目”を、いかに己の色に染めるかが個の証……」
うんうん、いいこと言ってる気がする。
「そして、そもそも大宇宙の“記憶”とは、時間と空間と意志が交わる点において……」
――ん?
「魂は幾億万の星々を経て、時に聖闘士となり、時にパン屋となり、時にピザ職人となり、また聖闘士に戻る」
……パン屋?ピザ職人?
村で流行ってた話が混じってませんか、教皇様。
「それゆえ、己の技とは、宇宙の歴史のリフレインにして、唯一無二の独奏でもある……」
ああ、段々わかんなくなってきた。
これ、前世で受けた「生物学概論」2限目の講義と同じ眠気だ。
ちらっと時計――いや、ここに時計はなかった。小宇宙時計しか。
「技とは“模倣”に始まり、“超越”に至る。すなわち“型”を知り、型を壊し、また型に戻る。禅問答における公案の如し――」
はいはい、ソレっぽい。
気が付けば30分が経過。
教皇様の語りは熱を増し、舞台はもはや宇宙開闢、星の誕生、銀河団の形成、はては「初代教皇がいかに便所掃除を嫌ったか」という謎の小話へ――
……さすがに眠い。
頭がぐらぐら揺れる。意識が宇宙の果てへワープしていく。
「アッシュ、聞いておるか?」
ハッと目を開ける。教皇様、鋭いな!
「は、はい!小宇宙が模倣から始まるところまでは!」
「ふむ……では最後に問う。そなたは“模倣”と“創造”の違いを、どう考える?」
出た、“哲学的返し”!
僕は慌てて思考を再起動する。
「えーっと……“模倣”は、誰かの歩いた道を辿ること。“創造”は、その先に自分の道を切り開くこと……とか?」
シオン様は、にやりと笑って玉座から立ち上がる。
「その通りじゃ。
アッシュよ、お前は“道を模倣する力”に長けている。だが、道を切り開くには、時に“迷子”になることも必要じゃ。
技とは、迷い、悩み、失敗し、そして自分なりの答えを掴み取ること……。焦るな、お前はすでに他にない強さを持っておる。その“迷い”もまた、オリジナルへの道標じゃろう」
おお、最後だけはちゃんとまとまった。
玉座をあとにして振り返ると、教皇様は既に新しい講釈の構想を練っていた。
たぶん、次は「大宇宙と水洗トイレ」の関係について30分語ってくれるんだろう。
今日の教訓――
聖闘士の悩みは、相談しても即解決しない。
でも、「迷うのも自分だけの一撃への道」と言われて、ちょっと気が楽になった気がする。
……これで、寝落ちしても許されるかな?
(シオン視点)
この老体も、長く聖域に生きてきた。多くの若者たちの成長と挫折を見てきたつもりだが――
どうも、杯座のアッシュという少年だけは、ひときわ異彩を放っている。
最初は礼儀正しく、悩みを真顔でぶつけてきた。「オリジナルの技が無い」「模倣はできるが意味がない」「私は何を目指すべきか」……まっすぐな眼差しに、老いた魂はつい語りたくなり、長い講釈を始めてしまった。
だが、そう長く続けられなかった。
「教皇様!」
アッシュが、不意に私の話を遮ったのだ。若者の勢いというのは恐ろしい。
「申し訳ありませんが、そのお話は俺には難しすぎます!それよりも、あなたの技を、牡羊座の黄金聖闘士の技を、この目で見せて頂けませんか!」
衛兵たちがザワリと反応し、緊張の空気が一気に場を満たした。
剣の柄に手をかけ、今にも取り押さえんばかり。これが王道の“場の空気”というやつだろう。
だが、私は手を上げて彼らを制した。
――これぞ若さ、これぞ革命の芽。面白い。
「なんと性急な若者よ。だが、その気概や良し。よかろう、我が二百年の年季、見せて進ぜよう」
玉座をゆっくりと離れ、足元のタイルに小宇宙を沈める。
老いた体、しかしその内に燃え続ける黄金の力。
僕は二百年の重みと誇りをまとい、小宇宙を燃やす。
その瞬間、空間が静謐に染まり、教皇の間そのものが宇宙の只中へと転じる。
――見せよう。星屑の奔流を。
「スターダスト・レボリューション!」
腕を振るい放った一撃は、穏やかな老人の小宇宙からは想像もつかぬ激烈な美しさをもって、無数の星屑となって宙を満たす。
銀河の旋律が空間を埋め、光と力が乱舞し、あらゆるものを焼き尽くす――伝説の黄金聖闘士の奥義だ。
衛兵たちすら息を呑む。
だが、アッシュ――この現代かぶれの若者だけは、驚愕の面持ちで「おおっ……!」と小さく声を上げた後、目がどんどん真剣に、鋭くなっていく。
その瞳は、ただの憧れや感動ではない。
――小宇宙の軌跡、粒子一つひとつの動き、技の構造、力の流れ……それを“観て”“読み解いて”いる。
ふむ。あれはもう、白銀の域を超えているのではないか?
技を放った後の余韻に、私は少しだけ息をつく。
教皇の間には、まだ星屑の光が漂っていた。
「見事でした、教皇様!」
アッシュが、すかさず合いの手を入れる。妙に元気で、返しが速い。
「この空間制御――エネルギーの粒子密度分布まで緻密に計算されている……!もはや天体物理学の応用ですね!」
うん、普通の若者なら「すごい!」か「美しい……」くらいで済ますだろうに、こやつはやはり現代かぶれ。理屈と合理の申し子か。
「おいおい、星屑を天体物理で語るな」
思わず微苦笑が漏れる。
だがその目は、正しく“創造”を志す者のそれだ。
衛兵が「ありがたきかな!」と拍手する隣で、アッシュは小声で「これは……手順さえ理解できれば再現可能……いや、まだ最終工程が曖昧か……」などと呟いている。
――本当に困ったものだ。人の技を、その場で“再現手順”に分解しようとするなんて。
私はゆっくりと玉座に戻る。
「どうだ、アッシュ。我が星屑の奔流、心に何を残した?」
「はい。美しさと同時に、星屑一粒一粒の“情報の流れ”を解析できました。あの集合軌道、粒子の分裂点、再集束のタイミング……驚くほど合理的で……」
「合理、合理と……お前、魂が機械になるぞ」
思わず呆れたように言いながら、微笑んでしまう。
こんな若者が、かつていただろうか?
「でも、最後の“煌めき”の部分だけ、僕にはまだ分かりません。あれは感覚なのでしょうか?」
問いかけに、私は敢えて答えをぼかす。
「それは、魂が宇宙に問いかける“即興”じゃ。お前が本気で迷い、探した先に初めて訪れるもの……。合理では語れぬ一瞬が、己だけの星屑を生むのだ」
アッシュはうなずきつつ、「なるほど……でも、それも数式にできる気が……」と小声で反論している。
そこが惜しい、現代っ子よ。
「……お前のような聖闘士が、あと十人いれば聖域の未来は明るい……いや、疲労で滅びるかもしれん」
冗談めかして言うと、アッシュは珍しく、子どもみたいに笑った。
「教皇様、今日のお話と技、きっと一生忘れません!」
その顔に救われる思いがした。
だが、その現代合理主義のまま“老害”にならぬよう、ここからはきちんと鍛えねばならぬ。
もしアッシュが未来で“教皇アッシュ”になったとき、星屑ではなくスマホでも投げてきたら、さすがに宇宙の秩序が崩壊する。
まだまだ、この若者の「魂の写し身」は見届けねばならぬ。
(アッシュ視点)
シオン様のスターダストレボリューションを目の当たりにした僕は、呼吸を整え――すっと小宇宙を合わせる。
「一回見せてもらえれば、あとはこう……」
再現。
完璧な再現。
――まさにコピー用紙から印刷されたみたいな、そっくりそのままの星屑の奔流。
技を打ち終え、教皇の間が再び静寂に包まれる。
衛兵さんたちが「ヒュッ……!」と目をむいているのを横目に、僕は教皇様の顔色をうかがった。
シオン様は、驚くどころか、どこか悟ったような顔でコクリとうなずく。
「見たか、アッシュよ。それこそが、お前の力なのだ」
――お、おお。これはまさかの満点評価?
シオン様は悠然と語り始める。
「お前は一つの技を極める者ではない。杯座(クラテリス)の聖衣が、その杯に注いだ水を鏡として万物を映し出すように、お前の魂は、あらゆる技、あらゆる理(ことわり)を『映し取り』、そして『再現』する。
それは単なる模倣ではない。森羅万象を理解し、その場で最適解を構築する究極の応用力……いわば、お前自身が歩く聖闘士の奥義書なのだ」
おおお、なんかすごくいいこと言われている気がするけど……それ本当に信じて大丈夫なんですか、教皇様?
いや、ありがたいけどさ。なんだか都合のいいキャラ付けじゃない?
あとで「やっぱ違ったわ」とか言われたら、どうしよう。
とりあえず僕は大きく深呼吸し、慣れた礼儀作法で「ありがとうございます、教皇様」と深々と頭を下げた。
だってね、ここで逆らったら二度と技コレクション見せてもらえないかもしれないし。
すると、シオン様はにっこり笑って、「せっかくだから教皇の間の技の秘伝書も見せてやろう」と大サービス。
――え? 見せてくれるの?
いいんですか?本当にいいんですか!?
衛兵さんたちが「いいのかよ……」と内心ツッコんでいるのが、顔に出ているけど、そんなのは気にしない!
黄金聖闘士の奥義書の扉が開く……!
ということで、教皇様のありがたいお墨付き(たぶん胡散臭いけど)を受けて、僕は聖域史上初の“全奥義コレクター”への道を歩み始めることになった。
その日を境に、僕の悩みは一気に消し飛んだ。
だってさ――
「サガのギャラクシアンエクスプロージョン? はい、解析完了」
「アイオロスのアトミックサンダーボルト? 波形調整もお手の物」
「シオン様のスターダストレボリューション? そっくり返しでいきます!」
黄金聖闘士全員の技どころか、奥義書に載ってる“ロストキャンバス版”黄金聖闘士の技まで研究。
おかげで聖域の訓練場では、もはや僕の一人演武会が連日開催。
――「あっ、今のは蠍座のスカーレットニードル!」
――「いや今のは山羊座のエクスカリバーじゃ……えっ、続けて魚座のブラッディローズ!?」
見学している新人聖闘士たちが、もはや何の稽古なのか分からなくなって混乱するレベル。
いいのか、これで。
僕の杯座の聖衣も、主の才能に満足したのか、かつてない誇らしい輝きを放つようになった。
しかも、相変わらずメロンソーダが大好物らしく、最近では「今日の輝きはメロン風味」とか、好き勝手な機能まで追加される始末。
その杯の水面には、サガの銀河も、アイオロスの雷光も、シオンの星屑も、全部等しく映り込んでいる。
――これ、世界のどこでも通用する“全対応ミラー”だ。
技をコピーしすぎて「もう君、なんでも屋さんだね」と婦人会に言われる始末。
パン屋さんからは「クロワッサン・アタック」なる新必殺技(物理)まで差し入れされ、最早、何のための聖闘士か分からない。
たまに村の子どもたちが「アッシュ兄ちゃん、あれやって!」とリクエストしてきて、やむなくスターダストレボリューションごっこでキラキラ星をばらまいたりもする。
聖域の最高機密、今や子どもの遊び道具ですか?
……いや、ここまで来ると何を目指しているのか自分でも分からない。
でもまあ、悩むより楽しいからいいか!
最後にひとつ――
この才能がどこまで伸びるかは自分でも未知数だけど、シオン様が「お前自身が歩く聖闘士の奥義書」と言ってくれたのは、なんだか悪くない気分だった。
それでも、僕は僕。
どんな技も“自分流”にアレンジして――
メロンソーダ片手に、今日も新たな必殺技を解析するのであった。
杯座の水面には、明日も何か面白いものが映るに違いない。
シオン「ふむ……アッシュという男、つくづく侮れぬな。」
アイオロス「まったくです、教皇様。正直、最初は“変わり者”だと思っていましたが、まさか黄金聖闘士の奥義まで模倣するとは……。」
シオン「しかも一度見ただけで、仕組みも原理も見抜く。知識と応用力においては、すでに歴代聖闘士の中でも突出しておる。」
アイオロス「はい。ですが――どこか、危うさも感じます。“天才”というのは、孤独と紙一重ですから。」
シオン「おぬしも気づいていたか。孤独は力にもなれば、道を誤る原因にもなる。“才能”は、時に仲間を遠ざけることもある。」
アイオロス「けれど、あいつは――誰よりも人懐っこくて、どこまでも“普通でありたい”と願っている気がします。」
シオン「うむ。だからこそ、サガやおぬしのような“友”がそばにおることが、何よりの救いじゃろう。……まあ、それでも今後“アッシュの才能”が聖域をどう変えるか、老骨にも見当がつかんがな。」
アイオロス「彼がいれば、聖域はきっと――新しい風が吹き続ける場所になるはずです。」
シオン「“新しい風”か。……よい言葉じゃ。さて、アッシュの次なる“発明”には、警備を三倍にして備えておくかの。」
アイオロス「やめてください、教皇様!またピザ窯が爆発したら、責任は取りませんよ!」
シオン「はっはっは、心配無用じゃ!すべては杯座の宿命――いや、“聖域の進化”ということで。」
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