聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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兄を救った拳。
迷いを力に変えた獅子の魂。

だが、立ちはだかるは十二宮の頂点——
双子座サガ。

アテナの命、改革派の未来、そして友情の決着。

次回『迷いこそ人の強さ、単純なる一撃』

男たちの13年越しの答えが火花を散らす!


迷いこそ人の強さ、単純なる一撃

【REMAINING TIME09:00:00】

 

 

 

ドガァァァァン!!

 

派手な音がして、獅子宮の頑丈な石壁に金色の塊がめり込む。アイオリアだ。彼はそのままズルズルと床に滑り落ち、四つん這いになって咳き込む。口から赤い液体がこぼれる。血だ。結構な量だ。内臓がシェイクされたような気持ち悪さがこみ上げてくる。

 

「ガハッ……!バカな……!こんな……!」

 

アイオリアは脂汗を流しながら、視線を前へと向ける。そこには、アイオロスが立っている。いや、立っているだけだ。構えすら取っていない。まるで散歩の途中で小石を蹴飛ばしただけのような、あまりにも自然体な立ち姿。

 

「これほどの……力の差があるわけが……!!」

 

アイオリアは叫ぶ。納得がいかない。13年前ならいざ知らず、今の自分は黄金聖闘士として脂が乗っている時期だ。しかも、アッシュによる近代的なトレーニング理論と、効率的な小宇宙運用法を叩き込まれている。セブンセンシズにも完全に目覚め、光速拳の精度も上がっている自負があった。それなのに。兄は一歩も動いていない。指先一つ、動かしていない。ただそこから放たれる「圧」だけで、自分を吹き飛ばしたのだ。

 

アイオロスの纏う聖衣が、ドクンと脈打つ。黄金の輝きの中に、赤い血管のようなラインが走る、神邪霊聖衣。アテナの聖なる力と、エリスの禍々しい力が融合した、禁断の装備。

 

「アイオリアよ」

 

アイオロスの声が、静かに響く。それは勝利を誇る声ではなく、事実を淡々と述べる事務的なトーンだ。

 

「なぜ勝てないか分かるか?それは、お前に『迷い』があるからだ」

 

「迷いだと……?」

 

アイオリアが眉をひそめる。

 

「そうだ。お前の拳は重いが、芯がブレている」

 

アイオロスは、冷徹に弟を分析する。

 

「アッシュやサガの作る『人間の聖域』を守るべきか。それとも、古来からの掟通り『アテナ』に従うべきか。その狭間で揺れ動いている。右に行こうか左に行こうか迷っている人間に、真っ直ぐ走ってくる人間が止められるわけがない」

 

アイオロスは自分の胸を指差す。

 

「俺を見ろ。俺にはもう、迷いなど微塵もない。娘である沙織を救う。……ただそれだけだ」

 

シンプルだ。あまりにもシンプルすぎて、清々しいほどだ。世界がどうなろうと、聖域がどうなろうと知ったことではない。娘が死にかけているから助ける。以上。そこには葛藤が入る隙間など1ミリもない。

 

「知ったような口を……!」

 

アイオリアが激昂する。図星だからこそ、腹が立つ。彼は立ち上がり、小宇宙を燃やす。金色のライオンのオーラが、彼の背後で牙を剥く。

 

「俺だって!アテナを救いたい気持ちは同じだ!」

 

アイオリアが地面を蹴る。光速の突進。ライトニング・ボルトの構え。迷いを振り払うような、全力の一撃。

 

だが。

 

「遅い」

 

アイオロスは、やはり動かない。ただ、彼の小宇宙が瞬間的に膨張する。見えない壁。いや、暴風だ。アイオリアの拳が届く前に、圧倒的なプレッシャーの壁が彼を弾き返す。

 

ドォォォン!!

 

「ぐああああーーっ!!」

 

アイオリアが再び吹き飛ばされる。今度は反対側の柱に激突し、柱をへし折って瓦礫の山に埋もれる。手も足も出ない。物理的なパワーの差ではない。「覚悟」の質量の差だ。

 

アイオロスは、冷ややかな目で見下ろす。

 

「アテナに従うか、人間の聖域を守るか……俺にとっては、今はどうでもいいことだ」

 

彼は歩き出す。弟になど構っていられないと言わんばかりに。

 

「命よりも大事なものは、娘の生死以上にはない。人間だから。父親だから。……それはいつも、お前の師であるアッシュも言っていたことだろう?」

 

アイオロスの言葉が、瓦礫の下のアイオリアに突き刺さる。アッシュの名前。聖域を変えた男。アイオリアに新しい生き方を教えてくれた男。

 

瓦礫の中で、アイオリアの意識が遠のく。暗闇の中で、走馬灯のように過去の記憶が蘇る。

 

(回想)

 

場所は、聖域の居酒屋「サンクチュアリ・ナイト」。仕事終わりのサラリーマンのように、黄金聖闘士たちがたむろしている。カウンターで、アッシュがビールを飲んでいる。その隣で、アイオリアが深刻な顔でウーロン茶を飲んでいる。

 

『アッシュ……俺は、どうすればいいんだ』

 

当時のアイオリアは悩んでいた。英雄の弟という羨望。周囲からの冷ややかな視線。強くなればなるほど、孤独になっていく感覚。

 

アッシュは、枝豆をつまみながら答える。

 

『なんだ、シケた面してんなぁ。また「兄さんは立派だったのに俺は」とか考えてんのか?』

 

『……ああ。俺は、兄さんのようにはなれない。あんな完璧な聖闘士には』

 

アイオリアが俯く。アッシュは笑って、アイオリアの背中をバンと叩く。

 

『バカ野郎。なれなくていいんだよ』

 

『え?』

 

『完璧超人なんてつまんねぇぞ?漫画のキャラだってそうだろ。欠点があって、悩んで、ウジウジして、それでも頑張るから応援したくなるんだ』

 

アッシュはビールをあおる。

 

『いいかアイオリア。迷え、悩め。バカをやれ。失敗しろ』

 

『し、失敗?聖闘士に失敗は許されない……』

 

『うるせぇな、ここは学校じゃねぇんだよ。俺たちの改革だってそうだ。正解なんてわからん。毎日が手探りだ。予算は足りないし、雑兵はストライキするし、サガは二重人格で会議中に寝るし』

 

アッシュが愚痴る。サガへの不満が混じっているが、その目は楽しそうだ。

 

『だがな、迷いながら進むこと……あっちこっちぶつかりながら、泥だらけになって進むこと。それこそが人間が生きてる証だ。神様みたいに、最初から答えを知ってる奴に、俺たちの気持ちなんて分かってたまるか』

 

アッシュはニカっと笑う。

 

『迷いこそが、お前の伸び代(ポテンシャル)だ。迷って迷って、最後に自分で決めた答えなら、それは誰にも負けねぇ最強の答えになる』

 

『迷いが……強さ……?』

 

『そうだ。だから安心しろ。お前は今、最高に人間らしいぞ』

 

(回想終了)

 

「……くっ……ふふ……」

 

瓦礫の山から、笑い声が漏れる。アイオロスが足を止める。振り返ると、石材を押しのけて、ボロボロのアイオリアが立ち上がろうとしている。血だらけだ。足も震えている。だが、その表情は、先ほどまでの悲壮感漂うものではない。何か、吹っ切れたような、清々しい笑みを浮かべている。

 

「そうだ……。あいつはいつも、俺の迷いを肯定してくれた」

 

アイオリアが、口元の血を手の甲で拭う。

 

「英雄の弟という重圧に潰されそうになった時も、改革の中で俺が空回りしてバカをやった時も……。『それでいい』と言ってくれた」

 

アイオリアの小宇宙が変わる。先ほどまでの、鋭利だが脆い光ではない。濁り、揺らぎ、しかし熱く燃え盛る、太い炎のような小宇宙。迷いが晴れたのではない。迷いそのものを飲み込み、燃料に変えたのだ。

 

「兄さん、あなたは言ったな。迷いがあるから弱いと」

 

アイオリアが顔を上げる。その瞳には、かつての兄への憧憬はない。あるのは、対等な男として、一人の人間として対峙する強い意志だ。

 

「ならば断言しよう。……今の兄さんでは、サガには決して勝てない!!」

 

「……?」

 

アイオロスが、初めて表情を変える。眉をひそめる。何を言っているんだ、という顔だ。

 

「なんだと?俺がサガに劣るとでも言うのか」

 

「ああ、そうだ。パワーの話じゃない。生き様の話だ」

 

アイオリアが一歩、踏み出す。その足取りは重いが、確実だ。

 

「なぜなら彼らは……サガも、アッシュも、この13年間、迷い、悩み、苦しみながら戦い抜いてきたからだ!」

 

アイオリアは叫ぶ。聖域の改革は綺麗事ではなかった。古い体制との軋轢。神への背徳感。終わらない激務。それでも彼らは、人間による楽園を作るために、泥水をすすって進んできた。

 

「兄さんもそうだったはずだ!13年前、日本という異国の地で、赤子の世話をし、生活に追われ、悩み苦しんだはずだ!だからこそ、あなたは強かった!人間の痛みを知っていたからだ!」

 

アイオリアは、兄の変貌を指摘する。今のアイオロスは、強すぎる。迷いがなさすぎる。それは「神」に近いかもしれないが、「人間」としての厚みを捨ててしまっている。

 

「それを捨てて、ただの『父親』という殻に閉じこもり、思考を停止して直進するだけなら……それはただの暴走機関車だ!そんな単純な強さで、人間の複雑な想いを背負ったサガたちに勝てるわけがない!」

 

「ほう……」

 

アイオロスの目が細められる。痛いところを突かれたのか、それとも弟の成長に感心したのか。赤いオーラが揺らめく。

 

「生意気な口をきくようになったな、アイオリア」

 

「事実だ!迷っても進み、悩みながら壁を乗り越えていくことこそが、人の本当の強さだ!」

 

アイオリアが構える。その拳に、黄金のプラズマが集束する。だが、今度の光は違う。一直線の光ではない。複雑に絡み合い、螺旋を描き、混沌としながらも力強く輝く光だ。

 

「俺は欲張りな人間だ!どちらか一つなんて選べない!」

 

アイオリアが宣言する。究極の二択に対する、彼なりの答え。

 

「俺はアテナの命はお救いしよう!彼女は罪のない少女であり、俺たちの守るべき象徴だからだ!だが!」

 

ドンッ!地面を踏み砕く。

 

「この『人間の聖域』も絶対に守る!アッシュたちが血と汗で作り上げた、この場所を壊させはしない!」

 

矛盾している。アテナを救えば、アテナは改革派を粛清するかもしれない。改革派を守れば、アテナと敵対するかもしれない。だが、アイオリアはその矛盾を丸ごと背負うと決めた。

 

「アテナを救い、そしてアテナを説得する!改革派の正しさを認めさせる!もしアテナがそれを否定し、古い支配を押し付けるなら……!」

 

アイオリアの瞳が燃える。

 

「その時は、俺がアテナを止める!たとえアテナに弓引くことになったとしても、俺はこの聖域の『自由』を守り抜く!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ならば、その力を示してみせろ」

 

アイオロスの声が、獅子宮に響く。それは、審判の合図だ。

 

「うぉぉぉぉぉぉーーっ!!」

 

アイオリアが吼える。全身から黄金の小宇宙が噴き出し、獅子のオーラとなって具現化する。もはや一直線の、綺麗なだけの光ではない。迷い、悩み、葛藤し、それでも前に進もうとする人間の泥臭さを孕んだ、複雑で、それゆえに強靭な光。

 

「ライトニング・プラズマ!!!!」

 

アイオリアが拳を突き出す。一秒間に一億発。その拳圧が、空間を埋め尽くす網の目となってアイオロスに襲いかかる。先ほどとは桁違いの威力と密度だ。一発一発が重く、そして軌道が読めない。蛇行し、交差し、予期せぬ角度から敵を穿つ。これこそが「迷い」を肯定した拳。予測不能の乱撃。

 

だが。アイオロスは動じない。彼は背中の巨大な翼を、バサリと大きく広げる。神邪霊聖衣の赤い輝きが、獅子宮全体を飲み込むように膨れ上がる。

 

「見事だ。だが、届かん!」

 

アイオロスの言葉と共に、彼の体から黄金の暴風が発生する。

 

「ケイロンズ・ライト・インパルス!!!」

 

射手座の奥義。すべてを吹き飛ばす光の衝撃波。アイオリアのプラズマの網が、暴風の前に紙屑のように引き裂かれていく。圧倒的な出力差。質量の差。アイオリアの拳がアイオロスに届く前に、光の暴風がアイオリアを飲み込む。

 

ガガガガガッ!!アイオリアの黄金聖衣に亀裂が入る。パーツが弾け飛び、砕け散っていく。防御など無意味。この暴風圏の中では、立っていることすら奇跡に近い。

 

「ぐああああああッ!!」

 

アイオリアの絶叫がかき消される。今回も、力の差で押し負けるかに見えた。神と悪魔の力を融合させたアイオロスの前では、人間の覚悟など無力なのか。

 

「終わりか、アイオリア!」

 

アイオロスが叫ぶ。その瞳は、赤く輝いている。彼は弟を試している。限界を超えろと、無言で訴えている。

 

「そうだ……お前の全てを出してみろ……!人間の意地とやらを見せてみろ!」

 

アイオロスの小宇宙が、さらに高まる。セブンセンシズを超えた領域。阿頼耶識(アラヤシキ)。神のみが立ち入ることを許された、究極の領域。

 

「そして俺の到達した神の領域……『第八感』の前に、獅子座の魂を魅せてくれ!!」

 

アイオロスは出力を最大まで上げる。獅子宮の天井が吹き飛び、柱がなぎ倒される。もはや立っていることすら不可能な暴風圏。その中心で、アイオロスは絶対的な王者として君臨する。

 

だが。その暴風の中で、一つの影が動いた。

 

倒れない。吹き飛ばされない。ボロボロになり、血を流し、聖衣の半分を失いながらも、アイオリアは立っている。風圧で皮膚が裂け、筋肉が悲鳴を上げているが、彼の足は地面に根を張ったように動かない。

 

「う……うぉぉぉ……!!」

 

アイオリアが呻く。風に逆らって、一歩。ズシン、と足音が響く。また一歩。前に進む。

 

小細工はいらない。変化球も、フェイントもいらない。迷いも、悩みも、苦しみも、全てを右の拳の中に握り込む。アッシュの教え、サガへの想い、アテナへの忠誠、そして兄への愛憎。すべてを混ぜ合わせ、一つの単純なエネルギーへと昇華させる。

 

アイオリアは、兄の懐へと踏み込む。暴風の目の中へ。死地へ。

 

「なにっ!?」

 

アイオロスが目を見開く。信じられない。エイトセンシズの暴風を、生身同然の体で突破してくるだと?理屈ではない。気合だ。根性だ。そして、兄に追いつきたいという、幼い頃からの純粋な憧れだ。

 

アイオリアの瞳が、一点を見据える。兄の腹。鳩尾。そこだけを狙う。一億発の拳など必要ない。たった一発。魂を込めた一発があればいい。

 

「ライトニング……ボルトォォォーーッ!!!」

 

アイオリアが右拳を突き出す。極限まで圧縮された光の弾丸。プラズマのような広範囲攻撃ではない。エネルギーを一点に集中させた、単純極まりないストレート。だが、それゆえに最強の貫通力を誇る。

 

ズドンッ!!!

 

重い衝撃音が響く。暴風が、ピタリと止む。時間が凍りついたかのような静寂。

 

アイオロスの神邪霊聖衣の腹部に、アイオリアの拳が深くめり込んでいた。硬いはずの神邪霊聖衣が、ミシミシと音を立てて歪んでいる。

 

「ぐっ……!」

 

アイオロスが呻く。口から血が滴り落ちる。彼はゆっくりと、自分の腹に突き刺さった弟の拳を見下ろす。そして、目の前で荒い息を吐くアイオリアの顔を見る。

 

静寂が戻る。吹き飛んだ天井から、聖域の青空が見える。太陽の光が、二人の兄弟を照らす。

 

アイオロスはたたらを踏み、ガクリと片膝をついた。支えきれなかった。弟の一撃が、神の鎧を貫通し、兄の体に届いたのだ。

 

「……随分と、単純に来たな」

 

アイオロスが、苦笑混じりに呟く。痛みはある。内臓に響く、強烈な一撃だ。だが、不思議と不快ではない。

 

「今の俺の防御を抜くとは……。ただの拳でぶち破るとはな」

 

「はぁ……はぁ……」

 

アイオリアは、拳を突き出した姿勢のまま、肩で息をする。全身から力が抜けていくのが分かる。今の攻撃に、すべての小宇宙を使い果たした。もう指一本動かせない。

 

「はい。兄さんの心には、単純な方が効くでしょう?」

 

アイオリアが、かすれた声で答える。

 

「昔から……真っ直ぐで、単純なんだから……。難しい理屈よりも、ガツンと一発殴られた方が目が覚めるタイプでしょう?」

 

アイオリアの言葉に、皮肉はない。兄を誰よりも理解している弟だからこその、確信に満ちた言葉だ。アイオロスは、日本で「父親」として振る舞っていたかもしれない。だが、その根っこにあるのは、単純で、熱血で、少し不器用な「正義の味方」だ。

 

アイオリアの体が揺らぐ。限界だ。彼は意識を失いかけ、崩れ落ちそうになる。

 

「っと……」

 

アイオロスが、とっさに弟の体を支える。自分のダメージも深いはずだが、兄としての本能が体を動かしたのだ。

 

「はは……。翔子にもよく言われるよ。『貴方は単純すぎる』『すぐ熱くなる』とな」

 

アイオロスは、弟を優しく床に寝かせる。ボロボロになった弟の顔。傷だらけだが、そこには達成感が浮かんでいる。アイオロスは、血と泥にまみれた弟の頭を、大きな手で撫でた。子供の頃によくしたように。

 

「見事だったぞ、アイオリア。お前の『人の強さ』、確かに見た。迷いも、悩みも、全て力に変えたお前は……俺よりも強いかもしれん」

 

「兄さん……」

 

アイオリアの目が、うっすらと開く。そこには、兄への信頼と、安堵の色がある。

 

「安心しろ。沙織は助ける。……だが」

 

アイオロスの声色が、少し変わる。先ほどまでの、狂気じみた妄執ではない。冷静で、理知的で、そして力強い「英雄」の声だ。

 

「もしアテナが救出された後、またあのような理不尽な命令をするなら……『問答無用で殺せ』などという暴君のような振る舞いをするなら……」

 

アイオロスの瞳から、赤い狂気の光が消え、澄んだ黄金の光が戻る。

 

「俺が止める。この命に代えてもな。娘の尻拭いをするのが、父親の役目だからな」

 

アイオロスの言葉に、アイオリアは微かに笑う。戻ってきた。これが、俺の知っている兄さんだ。優しくて、強くて、そして誰よりも正しい兄さんだ。弟の一撃が、彼を「娘への愛ゆえに暴走する父親」から、「正義と愛を両立させる英雄」へと引き戻したのだ。

 

「……ふっ。兄さんは妻子がいるでしょう?」

 

アイオリアが軽口を叩く。

 

「未亡人にしてはいけませんよ……。そんな簡単に命を賭けるなんて言わないでください」

 

「………そうだな」

 

アイオロスは苦笑する。翔子の怒った顔が目に浮かぶ。「勝手に死んだら承知しないわよ」と言われるのがオチだ。

 

「生きて、達成するとしよう。アテナも救い、聖域も守り、そして家族の元へ帰る。欲張りかもしれんが、それくらい目指さないと、お前に笑われるな」

 

アイオロスは立ち上がる。腹部のダメージは深いが、彼の足取りはしっかりしている。その背中からは、先ほどまでの禍々しさが消え、頼もしい兄の背中に戻っていた。

 

「兄さん……」

 

アイオリアの意識が遠のいていく。視界が暗くなっていく。だが、不安はない。兄が背負ってくれる。自分が守りたかったもの、伝えたかった想い、すべてを兄が受け継いでくれた。

 

「アテナを……サガを……そしてアッシュを……頼みます。あいつらは、不器用な連中ですから……」

 

アイオリアは、全てを誰よりも信頼する兄に託した。そして、深い眠りへと落ちていった。心地よい、達成感に満ちた眠りへ。

 

「ああ。わかった」

 

アイオロスは短く答える。

 

「任せておけ。お前の分まで、俺が働いてやるさ」

 

アイオロスは、眠る弟を振り返ることなく、獅子宮の出口へと歩き出す。その目指す先は、十二宮の頂上。因縁の友・サガの待つ、教皇の間。そして、その傍らにいるであろう、弟の師・アッシュの元へ。

 

13年前のあの日から止まっていた時計の針が、今、再び動き出す。アイオロスは拳を握りしめる。サガ。待っていろ。今度こそ、決着をつけよう。男として、友として、そして。




星矢「なぁ沙織さん……今回のアイオリア、めちゃくちゃカッコよくなかったか?」

沙織「カッコよすぎて息止まったわよ。あの迷いを燃料にするとか何よ……人間讃歌じゃない……?」

星矢「最後の一発……兄さんの腹にぶち抜いたやつ……あれ震えたな。」

沙織「分かる!あれね、あの瞬間だけアイオリアがジャンプ主人公補正乗ってた。しかも兄弟の和解イベント兼ねてるとか優良シナリオすぎ!!」

星矢「……読者目線すぎないか?」

沙織「アテナはね、兄弟の殴り合いで心が通じるというジャンルに深い理解があるのよ。」

星矢「どんな理解だよ!?」

沙織「でもね……アイオロスパパ、あれ絶対翔子ママに怒られるわ。勝手に死ぬ気出さないで!って。」

星矢「……確かに妻の前では弱そうだな、お父さん。」

沙織「そこがいいのよ。英雄でも、パパの顔になると急に弱くなるギャップ……尊い……」

星矢「尊いで語るな!!」
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