聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
「……というわけで、アッシュよ。
ヘファイストス・ラビュリントスの奥地まで、今度こそ“徹底的に”調査してきてもらいたい」
重厚な玉座の上、シオン様がいつにも増して厳しい表情をしている。その背後では、今日も控えの衛兵たちがホコリの処理に四苦八苦していた。
「“徹底的に”って……また面倒な掃除の話じゃないですよね? 前回、床の自動ワックス機能までバグ修正しましたけど」
「違う!いや、あれは大いに助かったが……(咳払い) 今回は遺跡の“心臓部”だ。前回のバグ取りだけでは危険性が残っておる」
「ふむふむ。“心臓部”というと……ラスボス感ありますね。敵キャラとか出てきませんか? セーブポイントどこですか?」
「お主は相変わらず緊張感がないな……。だが、今回の探索は“知恵”が頼りじゃ。決して力でねじ伏せようとは思うな」
「安心してください、僕は戦闘より解読担当ですから。……一応、敵が出てきたら“パンチ”より“Excelショートカット”で応戦します」
シオン様は、じっとアッシュの目を見つめた。
「……この老骨の目から見ても、そなたの“解析力”は奇跡だ。だが、神の遺産は未だ人智の及ばぬ領域。くれぐれも油断なきよう」
「はいはい、“油断禁物”で参ります。ついでに、迷宮のネットワーク環境も調査しておきましょうか?」
「それは後でいい……。――アッシュよ、聖域の未来はそなたに託したぞ!」
「承知しました、教皇様。迷宮の奥の奥、しっかり探索してまいります!」
――かくして僕は、
またしても「神話時代のバグ取り作業」に向かうことになったのである。
(アッシュ視点)
静まり返った迷宮の奥底――
そこは、人間の足音も、機械の唸り声も、すべての音が飲み込まれるような異質な空間だった。
「――ここが、“心臓”か。」
エーゲ海の大地を揺るがせた神代の遺跡「ヘファイストス・ラビュリントス」。
その中心部にあったのは、想像していたような「敵」ではなかった。
神話級の防衛システムも、自己修復機能も、すでに解析し“友好的”に制御できるようにしたつもりだった。
それでも残っていた最大の問題――この巨大な動力炉、「ヘファイストスの心臓」だけは、どうしても止められなかったのだ。
目の前に広がるのは、眩いばかりの光の奔流。
まるで無数の星々が暴れまわる宇宙の核そのものだ。
動力炉の表面には神代の文字が、無数に明滅している。
それぞれが意味を持ち、アクセスコード、セキュリティパターン、自己修復アルゴリズム、膨大なデータストリームを構成している。
僕は何度もこのパズルに挑み、何度も跳ね返された。
――ただの現代的なパスワード入力じゃない。
ここに刻まれているのは、神話の時代の“知恵”と“意思”そのものだ。
数学、論理学、暗号理論……すべてを動員し、神代の文字のパターンを一つずつ解き明かしていく。
(あと少し……もう少しで……)
指先で光のパネルをなぞる。
一つパターンが崩れるたびに、巨大な動力炉が唸りを上げ、エネルギーの流れが僅かに収束していく。
「……最後のコード、これで行けるか?」
だが、“最後の壁”があった。
止まらない。
どうやっても動力炉の核心部、暴走のトリガーに直接アクセスできない。
迷宮全体の制御は可能なのに、動力だけは別の論理――いや、別次元の“意志”で守られている。
ただの機械仕掛けじゃない。「神の知恵」と呼ぶしかない防壁だ。
ここで僕は、シオン様やアイオロス、サガたちの“技”を思い出す。
スターダストレボリューションの拡散的エネルギー。
アトミックサンダーボルトの極限の収束力。
どれも、小宇宙を「現象」として捉え、物理現象として再現できたはずだ。
「理屈は……全部分かる。あとは、仕組み通りに再現するだけ……!」
僕は動力炉の前で小宇宙を燃やし、
まず、スターダストレボリューション――拡散する無数の星屑を再現し、動力炉の周囲を一斉に包む。
次に、アトミックサンダーボルト――一点集中の閃光を、炉心に向けて打ち込む。
続いて、解析しきった“黄金聖闘士たちの技”をパズルの最後のピースとして組み込む。
……だが。
動力炉は止まらない。
エネルギーはさらに暴走し、迷宮全体が不穏な振動を始めた。
(――なぜだ? 構造も、エネルギーの流れも、計算上は完全に抑え込めるはずなのに……)
「アッシュ!」
背後から、サガの声が響く。
振り返ると、深い闇と光をまとった彼が、静かに佇んでいた。
「サガ……なぜ、ここに?」
「放っておけると思うか?――それより、お前は今、何を迷っている?」
「全部……理解している。理屈も、解析も、何もかも。なのに、どうしても……届かない。
サガ、君たちの“奥義”は、再現できても、どこか“本物”にはなれないんだ。
セブンセンシズも、意味は知ってる。でも……自分の中では“分かったつもり”でしかない。
――何が、足りない?」
サガは一歩、こちらに歩み寄った。
その瞳はどこまでも静かで、どこまでも深い。
「お前が迷っているのは、“再現”の限界だろう。
小宇宙は、現象ではなく――魂そのものだ。
理屈で到達できるものではない。だが――お前は、すでに扉の前に立っている。」
「……扉?」
「そうだ。
お前は、どこまでも“他者”を理解しようとし、模倣し、辿り着こうとしてきた。
だが、セブンセンシズとは、“他者の理解”ではなく、“自分の奥底”と向き合うこと――
“自分の魂”そのものを燃やし尽くすことだ。」
僕は、その言葉を――頭では、何度も理解したつもりだった。
“魂を燃やす”。“本質を掴む”。
でも、それを本当に“体験”したことがあっただろうか?
サガが、静かに両手を広げる。
「見ていろ――」
サガの小宇宙が、迷宮の空間全体に広がっていく。
星々が爆ぜるような光。空間そのものを歪め、ねじ伏せる暴力的な“意志”。
彼が再び、ギャラクシアンエクスプロージョンを発動した――
しかし、それは以前とはどこか違う。
技の構造も、エネルギーの流れも、すべて解析できる。
けれど、そこに――“魂”が、ある。
サガ自身の願い、恐れ、怒り、誇り、すべてが一瞬にして結晶化して――
暴走する動力炉の“核心”に、“本物”の小宇宙が触れた。
(ああ、これが――)
魂が、現象を越え、世界の理に触れる瞬間。
その時、動力炉が微かに振動し、膨大なエネルギーが一瞬で収束を始める。
暴走する光が、静かに――消えた。
迷宮全体を揺るがしていた異常な波動も、徐々に静まり返っていく。
サガは、肩で息をしながら、僕を振り返った。
「見たか?――これが“魂”だ。理屈じゃない。
どれだけ模倣しても、どれだけ理解しても、それだけじゃ届かないものがある。
……お前にも、いつか必ず分かる。」
僕は、呆然とその光景を見つめていた。
(サガの小宇宙――彼の“魂”そのもの。
それは、理屈じゃない。計算できない。けれど、確かに、届いた。
自分にも、いつか――)
気付けば、動力炉の“心臓”が、静かに息を引き取っていた。
――あれだけの知恵も、理論も、技も、すべて通じなかった。
だが、“魂”だけが、世界の核心に触れることができる。
教皇様はよく言う。
「技とは、魂の写し身」――それが、今なら少し分かる気がする。
“自分だけの魂”、それを探しに行こう。
理屈も、再現も、全部“自分の中”に還元して。
いつか、本当に“本物”に辿り着ける日が来るまで。
迷宮の静寂を背に、僕はサガと共に、ゆっくりと出口へ向かった。
――聖域の朝は、どこかがちょっと騒がしい。
いや、正確に言うと「ちょっとどころじゃない」。
だって今日もまた、僕の名前が大広間や村の広場で叫ばれているのだ。
「アッシュ兄ちゃん、すごい!」
「杯座様のおかげで迷宮が収まりました!」
「今夜はメロンソーダで乾杯じゃあ!」
パン屋のおばちゃんから村の子どもまで、やたらとテンションが高い。
しかも婦人会は「アッシュ様スタンプカード」なる謎の制度を勝手に発明し、何か貢献するたびにクロワッサンがもらえるという破格の待遇まで始めてしまった。
聖域、いったいどこへ向かうのか――
そもそも、きっかけは先日の“神の迷宮騒動”だった。
エーゲ海に突如現れたヘファイストス・ラビュリントス。
黄金聖闘士でも歯が立たない怪物ダンジョンに、僕――“杯座のアッシュ”が単身殴り込み(物理じゃなくて解析)。
「パンチ」も「キック」も使わず、ひたすら小宇宙をプログラム解析用の針に変えて壁や床をペタペタ。
現場の聖闘士たちの視線が痛い。
「おい、こいつ敵に挨拶してるぞ」とか「アッシュさん、また意味不明なこと始めてるぞ」とか、小声がやたら響く。
で、ついには迷宮を「友達」にし、動力炉のパズルを(ほぼカンニングペーパー付きで)解き明かし、サガの魂の一撃に感動して大円団。
――まるでRPGのラスボスを「説得」コマンドで倒したようなものだ。
まあ、普通ならここでちょっとはシリアス路線に突入するものなんだけど、
すみません、僕の性分は長続きしません。
あれから数日、僕の周りはギャグと茶番に満ちている。
朝食後、村の広場にて。
「アッシュ兄ちゃん!今日は何のバグ取り?」
「バグじゃなくて、今日はパン焼き講座だよ!」
「え~!技の稽古は? クロワッサン・アタック見せて~!」
……うん、なんかもう、僕の必殺技が「パン工房」とか「家電の取り扱い説明」に変換されつつある。
新米聖闘士の子たちも、「今日の奥義練習はアッシュ式家事スキルです!」とか言い出す始末。
ついでに、僕の聖衣(クロス)はなぜかメロンソーダの香りをまとうようになり、今や「メロンソーダスプラッシュ」は村の夏祭り定番イベント。
聖域、世界観を見失ってないか?
日中、聖域の会議室。
「……というわけで、迷宮事件以降、聖域全体で“解析・支援・問題解決”系聖闘士の重要性が爆上がりしています」
報告するのは僕――じゃなくて、真面目な文官さんたち。
教皇シオン様も真顔でうなずいている。
「……ほほう。戦闘以外で聖域を救う時代が来るとはな」
「それもこれも、杯座アッシュの功績じゃな」
でも、周囲の空気はなぜか緩い。
「アッシュさん、次はどんな迷宮をバグ修正してくれますか?」
「俺の家の水回りも解析お願いできますか?」
「Wi-Fi繋がらないんですけど!」
いやいや、みんな現代人か!
アイオロスもやってくる。
「アッシュ、君の才能はすごいな。僕らにはできない新しい聖闘士像だよ」
――おっと、ここは真面目に返そう。
「ありがとう、アイオロス様。そっちのパン屋もWi-Fi対策はお任せを」
「……いや、そうじゃなくて!」
アイオロス、ツッコミも冴えてきたな。
午後、聖闘士訓練場。
サガとアイオロスと並んで、いつもの小宇宙鍛錬。
今日は「戦闘以外も聖闘士の能なり」特別授業だ。
「アッシュ、今度は“Excelのショートカット”を教えてくれ」
「パン焼きの温度管理、小宇宙でやるコツは?」
「迷宮の自己修復システム、もう一回解説してくれる?」
うん……戦闘力どこいった?
ついでに聖域の経理部から「仕分け作業手伝って!」と声がかかる始末。
あれ?僕のクロス、家計簿アプリと同期し始めてるんだけど?
村のパン屋さんが新作「ギャラクシアンエクスプロージョン・クリームパン」を持ってくるし、婦人会の奥様は「スターダストレボリューション・スムージー」とか謎メニューで攻めてくる。
カロリー高そうだな、これ。
夜、聖域大広間にて表彰式。
「杯座のアッシュよ、そなたの活躍は聖域の誇りだ!」
教皇シオン様のスピーチに、なぜか全聖闘士と村人とパン屋が大集合。
横ではアイオロスが「お前は戦友だ!」と熱く語ってくれる。
……ありがたいけど、その横でサガが
「アッシュ、うちでWi-Fiルーターの設定頼む」
と言ってるのはどうなんだ。
ついでに婦人会が「メロンソーダで乾杯!」と大騒ぎ。
「今日のヒーローはアッシュ兄ちゃん!クロワッサン・アタック!」
気がつけば僕の周りにパンが舞い、メロンソーダの泡が飛び交い、なぜかシオン様も「バグ修正!」と叫んで踊っている。
……聖域の威厳が、また一つ消えていく音がした。
でもまあ、いいか。
考えてみれば、戦うだけが聖闘士じゃない。
パンを焼いたり、家電を直したり、迷宮のバグを取ったり――
それも全部、人を助ける力だ。
「アッシュ兄ちゃん、今日も助かった!」
「またクロワッサンお願いね!」
そう言ってもらえるなら、聖闘士の新時代も悪くない。
夜空に杯座の星がキラリと光る。
たぶん明日も、聖域のどこかで「アッシュのWi-Fi講座」や「パン焼き奥義」が開催されるんだろう。
真面目な話?
そろそろ持たないので、
クロワッサン片手に、メロンソーダ一気飲みで、
今日も全力ギャグで頑張ります!
――杯座のアッシュ、ここに新時代の聖闘士として爆誕(?)!
アッシュ「ねえサガ、正直に言うけどさ――僕、セブンセンシズってやつ、いまだにつかめないんだよね。」
サガ「……お前ほど何でも解析できる奴が、それを言うのか?」
アッシュ「だって理屈はわかるよ?“人間の限界を超えた第七感覚”でしょ?でも、実感がないんだ。」
サガ「セブンセンシズは、“理屈”ではなく、“魂”の領域だ。」
アッシュ「うーん、その“魂”ってのがまた抽象的すぎて。心を燃やす?気合?ひらめき?」
サガ「違う。“魂の奥底”と向き合い、自分自身を超える瞬間――それがセブンセンシズだ。」
アッシュ「なるほど……。やっぱりさっぱりピンと来ない。」
サガ「お前は、答えを外に探しすぎているのかもしれないな。」
アッシュ「えー、そんなこと言われても……検索すれば何か出てくる?」
サガ「検索で出てくるものなら、聖闘士はいらないさ。」
アッシュ「うわ、名言っぽい……でもやっぱり分からない。」
サガ「焦るな、アッシュ。お前にはお前のやり方がある。そのうち――必ず、“自分の答え”に辿り着ける。」
アッシュ「……期待せずに待っててよ。」
サガ「ふふ、楽しみにしている。」
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