聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
流星拳を捌き、地中へ叩き込み、小宇宙を集めるアッシュ!
だが、決着寸前――異変は起きた!
黄金の矢を自ら引き抜き、完全に目覚め始める神の機工!
城戸沙織の意識を押し潰し、アテナはついに人間そのものへ牙を剥く!
それでも沙織は消えていない!
残された最後の機会を掴むため、昨日まで敵だった者たちが動き出す!
星矢!
アッシュ!
エレナ!
そして黄金の蓮とともに、ついにあの男まで戦場へ!
君は、小宇宙を感じたことがあるか!
「行くぞ、星矢!!」
「来い!!!」
星矢が神聖衣の翼を広げた。
星矢、まだ猛るか……。それでいい。それでこそだ。
俺が転生して見たかったものはこれだった。だが、倒れてやるわけにはいかない。
俺はサガに賭けると決めたんだ。なら……聖闘士に勝たなければいけない。人間として!!
右手を星矢へ向け、笑った。
「まずは小手調べだ! ブラッディソーン!!!」
背後に倒れているアフロディーテの腕から血を引き出し、無数の針へ変えて放った。
俺の血には毒がない。なら、毒を持っている奴から借りればいい。
「いっ、いた! いたたたたた!! なんで私の血を使うのですか、アッシュ!!」
「俺の血は毒がないからな。有効活用だ」
星矢は退かず、翼を使って前へ出た。顔へ向かった針を避け、胸を狙った針は手甲で弾く。星矢の動きは止まらない。
この程度で止まるはずがないか。
「ペガサス流星拳!!」
無数の拳が迫る。
「聖闘士に同じ技は二度通じない!!」
正面から来る拳を逸らし、その拳を後ろから来る拳へぶつけた。次の拳も同じように潰した。
まだだ。もっと来い、星矢。
「クラテリスの技を、一つ見せてやる!」
両手へ小宇宙を集め、指を鳴らす。
星矢の足元が爆発させる。体勢を崩したところへ踏み込み、脇腹へ拳を入れる。続けて胸へ掌底を打ち、肘で顎を上げた。神聖衣は砕けないが、衝撃は中まで通る。
星矢が腕を上げる前に足を払い、胸を蹴り抜いた。
身体が地面を突き破り、地中へ沈んだ。俺は地上へ戻り、右手を上げる。
「パラボラリティ・アナイアレーション!!」
もう一度、指を鳴らした。
地中で爆発が起こり、星矢が土砂とともに吹き飛ばされた。地面へ落ちた星矢は立ち上がろうとしたが、腕に力が入っていない。
効いている。
だが、これで終わるとも思っていない。
「神聖衣と言えど、中身が生身なら耐えきれんぞ!! そのまま喰らえ!! ゾディアック・クラメーション!!!!」
十二星座の小宇宙を集める。
星矢はまだ立とうとしていた。
来い。立ってみろ。立ったところを、今度こそ倒す。
◇◇
「ううう…………あああああっ!!!!!!」
背後から沙織ちゃんの絶叫が聞こえた。
俺は技を止めて振り返った。沙織ちゃんは胸に黄金の矢を刺したまま、天を仰いでいた。苦痛に震えていた身体から力が抜け、顔から表情が消えていく。
「なに!! 計算より速い!!」
沙織ちゃんが黄金の矢を掴んだ。
まずい。
止めるより早く、矢が引き抜かれた。
胸から血が噴き出しても、沙織ちゃんは傷を見ようともしない。
あの目は沙織ちゃんのものではなかった。
「この程度の神器で、私を屠ろうなどと……浅はかな」
手の中で黄金の矢が砕けた。
「やはり、逆らう聖闘士など不要。あなた達の家族や友人に至るまで、全て消滅させます。その後に、パライストラの素直な生徒達を育てればいい……」
「アテナの神の機工……!! 完全に安全装置が外れやがったか!」
「私はアテナ。地上の愛と正義のため。今生きている全員を、殺す」
何が愛と正義だ。
人間を守るために人間を殺す。それを間違いだとも思っていない。
「沙織さん……!」
星矢が身体を起こした。血を吐きながら、沙織ちゃんを見ている。
「沙織さん!! 目を覚ましてくれ!!」
「ペガサス……期待外れです。死になさい」
アテナが黄金の杖を星矢へ向けた。杖の先に光が集まっていく。
「沙織さん! 俺はあんたを!!」
星矢へ光が放たれようとしたとき、杖を握る指が止まった。
沙織ちゃんの顔が歪み、腕が星矢から外れる。光は地面へ落ちた。
「…………星矢! 逃げて!!」
戻ってきた。
「沙織ちゃん! 気を強く持つんだ!!」
「星矢……愛してるの……。だから……お願い……うううっ……」
沙織ちゃんの目から涙が流れた。だが、黄金の杖はまた星矢へ向かおうとしている。
星矢は逃げない。沙織ちゃんから目を逸らしもしない。
ここで退けば、次はない。
「星矢! 逃げるな! ここを逃せば、沙織ちゃんは二度と戻らないぞ!!」
「おお!!」
星矢が翼を広げ、両足で立った。
「おのれ!! 城戸沙織め!!! かりそめの器の分際で、神の意思に逆らうか!!」
沙織ちゃんの中で二つの小宇宙がぶつかった。黄金の光が周囲へ広がり、大地が揺れ始める。
このままでは沙織ちゃんの身体がもたない。
だが、アテナの小宇宙を押さえる手がない。
「アッシュ……。祭壇星座の力を……」
声のしたほうを見ると、エレナが立っていた。足を引きずり、胸から血を流している。
その身体で、ここまで来たのか。
だが、迷っている時間はない。
「よし!! 小宇宙の完全な剥奪はできなくとも、中和はできる!! 結界を張るぞ!!」
エレナの膝が崩れた。地面へ落ちる前に引き寄せ、肩を抱いた。
「エレナ……俺の腕のなかにいろ」
「はい……」
エレナは俺の胸に顔を預けた。
エレナの小宇宙へ、俺の小宇宙を重ねた。
祭壇星座の結界がアテナを包む。外へあふれていた光が止まり、浮き上がっていた瓦礫が地面へ落ちた。
アテナの小宇宙は消えない。結界へぶつかるたび、エレナの身体が震えた。
黄金の光が上から降りてきた。
蓮の花とともに、シャカが俺たちの前へ降り立つ。
「危なく、また登山するところでしたよ。さすがに、この状況でもう一度あの階段を登るのは嫌でしたからね」
この状況で、最初に言うことがそれか。
だが、助かった。
アフロディーテ「アッシュ」
アッシュ「なんだ」
アフロディーテ「私の血を勝手に使いましたね?」
アッシュ「使った」
アフロディーテ「しかもブラッディソーンに」
アッシュ「毒入りだからな」
アフロディーテ「だからといって普通、倒れている仲間から勝手に採血しますか?」
アッシュ「では使用料を払おう」
アフロディーテ「いくらです?」
アッシュ「メロンソーダ一本」
アフロディーテ「安すぎます!!!」