聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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アテナの小宇宙を抑え込む、アッシュ、エレナ、そしてシャカ!

残された道を進めるのは、ただ一人――星矢!

だが祭壇星座の結界は、アテナだけではなく神聖衣の力までも中和してしまう!

神聖衣を自ら脱ぎ捨て、生身で神の小宇宙へ踏み込む星矢!

一方、沙織へアテナが突きつける残酷な選択。

それでも、人間たちは諦めない!

十二宮から集う黄金聖闘士たちの小宇宙!

そしてついにサガとアイオロスも戦場へ!

神の機工が理解できないもの――。

父と娘の十三年間。

仲間たちの絆。

そして、少年と少女の恋。

星矢よ、神ではなく城戸沙織へ手を伸ばせ!

君は、小宇宙を感じたことがあるか!


届いた想い! 星矢、沙織を取り戻せ

シャカは俺たちの横で両手を合わせた。

 

頼むぞ、シャカ。俺とエレナだけでは、もう長くもたない。

 

「オーム……!」

 

腕を押し戻していた力が弱まった。俺の胸に身体を預けているエレナも、止めていた息を吐く。沙織ちゃんの周囲で縮んでいた結界が元の広さまで戻った。

 

来てくれて助かった。二度目の登山が嫌だったという理由は、この際どうでもいい。

 

これなら星矢を中へ通せる。

 

俺とエレナは結界から離れられない。どちらかが力を抜けば、アテナの小宇宙がまた外へあふれる。シャカにも結界を支えてもらわなければならない。

 

沙織ちゃんのところまで行けるのは、星矢だけだ。

 

「行くぞ星矢!! 沙織ちゃんを助けてこい!!」

 

「沙織さん!!」

 

星矢が走り出した。

 

結界へ踏み込んで三歩目で、神聖衣の翼に亀裂が入った。続いて肩の装甲が光の粒へ変わり、胸と腕にも亀裂が広がっていく。

 

何だ?

 

答えは考えるまでもなかった。俺とエレナが中和しているのは、アテナの小宇宙だけではない。神聖衣に込められた神の力も同じだ。

 

止まれと叫びかけた。神聖衣を失った状態であの中へ入れば、星矢の身体がもつ保証はない。

 

だが、星矢はこちらを見なかった。俺が止めるより先に、自分で神聖衣を外し始めている。

 

「聖衣が……! だが、そんなもの関係あるか!!」

 

星矢は崩れ始めた神聖衣を自分から外し、後ろへ投げた。

 

そう言うと思ったよ。

 

星矢にとって、聖衣は戦うための力ではあっても、立ち上がる理由ではない。

沙織ちゃんが目の前にいる。それだけで、こいつは生身でも神の小宇宙へ入っていく。

 

見えない刃が星矢の右頬を裂いた。次は左肩だった。胸が切れ、腹からも血が流れる。脚を斬られて膝が落ちかけたが、踏み出した足は止まらない。

 

星矢の血が地面へ落ちるたび、結界へ向けている腕を動かしたくなる。

ここから引き寄せてしまえば助けられる。だが、俺が力を抜いた途端、今より多くの刃が星矢を襲う。

 

見ているしかない。

 

星矢が自分の足で進むと決めたなら、俺は道を残す。

 

「ぐぁっ……! あぁぁぁっ!!」

 

さっきまで俺は、星矢を倒すつもりで殴っていた。

それが今は、沙織ちゃんを助けてくれと願っている。

 

勝手な話だ。

だが、星矢なら俺を責めるより先に走る。だから俺も、こいつに任せる。

 

行け、星矢。

 

「やめてえええ!! 星矢!!!!」

 

アテナの口から沙織ちゃんの声が出た。

 

「城戸沙織。ペガサスを殺させたくなければ……お前が消えろ!!」

 

沙織ちゃんの小宇宙が弱くなった。自分が消えれば星矢を殺さないと、神が中学生を脅している。

 

何が地上の愛と正義だ。やっていることは子供を人質にした脅迫じゃないか。

 

消えるなと叫びたかった。星矢のために自分を差し出すな。

こいつは、沙織ちゃんが消えて助かったと喜ぶ男ではない。

 

だが、今の沙織ちゃんへ俺の声がどこまで届くか分からない。

俺が言うより、目の前で血を流しながら進む星矢の姿を見せたほうがいい。

 

「へっ……そりゃあ、矛盾してるなあ!!」

 

デスマスクが地面に片腕をつき、顔を上げた。立つ力は残っていないらしいが、口と小宇宙は止まっていない。

 

「人間は塵芥……いかにも神様らしい、わかりやすい悪役じゃねえか!! だがよ……! だからこそ……『少年少女の愛が世界を救う』んだろうが!!」

 

「デスマスク……!」

 

「良いねえ! 最高に燃える『お約束』って奴だ!! 行け! 星矢!!」

 

こんな時に何を言い出すかと思えば、正論だった。

 

お前が「わかりやすい悪役」を語るのかとは思うが、今までのことを持ち出す場面でもない。デスマスクの小宇宙は、俺たちが押し返せなかった神の力を確かに止めていた。

 

少年少女の愛が世界を救う。そういう話を、俺も見たかった。

 

デスマスクの小宇宙が俺たちの結界へ入った。足元で揺れていた境界が止まり、押し返す力が強くなる。

 

それだけではなかった。

 

十二宮から、別の小宇宙が次々と届いた。

 

『ふむ……神の器が、人間として神に挑む……。悪くない』

 

最初はカミュだった。

 

『そうだな、カミュ! アッシュ師範! 俺の力を使え!!』

 

続いてミロの小宇宙が加わった。こいつはこんな時まで声が大きい。

 

『紫龍よ。お前の言う星矢の彼女を助けるためなら……俺たちも戦う必要はなかったのかもしれんな』

 

シュラの声に、俺は危うく力を抜きそうになった。

最初からそれで済めば、どれほど楽だったことか。

 

『アテナ!! 目をさまされよ! 沙織さん!!』

 

アイオリアの声が響き、その小宇宙が結界の右側を支えた。

 

『ガハハ! やはりアッシュたちに協力したいよな、この場合は!!』

 

アルデバランまで来た。お前は最初からそちらへ来たがっていたのだから、今さら確認しなくていい。

 

『沙織ちゃん。神なんかに負けるな! 星矢! 愛を示すのです!』

 

ムウ、お前も随分と直接的になったな。

だが、その通りだ。星矢に任せるなら、最後に必要なのは技ではない。

 

「アッシュ師範! エレナを離すんじゃないですよ!」

 

背後からアフロディーテの声が飛んできた。

言われるまでもない。離せるわけがないだろう。

 

エレナの肩を抱き直した。触れた身体は熱いのに、腕は震えている。

自分の足で立てない状態になっても、小宇宙は俺に合わせている。

 

ああ、エレナが合わせてくれるなら、俺が先に乱すわけにはいかない。

 

シャカ、デスマスク、十二宮にいる黄金聖闘士たち。

全員の小宇宙を受け取り、祭壇星座の力へ重ねていく。

 

先ほどまで俺たちを押し潰そうとしていたアテナの小宇宙が後退した。

星矢の周囲を走っていた刃も減り、沙織ちゃんまでの距離が縮まっていく。

 

「アウ……アウ!! エラー!! えらー!! エラー!!!」

 

沙織ちゃんの口から、途切れた声が漏れた。

 

俺たちの結界が外から押さえ、沙織ちゃんが内側から抵抗し、星矢が近づいている。

神の機工は、その全部を同時に処理できていない。

 

完璧な神様が聞いて呆れる。人間が予定どおりに諦めなかっただけで、エラーを連呼する羽目になったじゃないか。

 

「愚かな人間どもめ!!! 消えろ!!!!」

 

アテナの小宇宙が結界の一部を破った。漏れ出した光が地面を砕き、十二宮へ続く階段へ穴を開ける。別の光はデスマスクの横を通り過ぎ、岩壁を崩した。

 

結界へ戻す前に、最も大きな光が俺たちへ向いた。

 

避ける余裕はない。ここで俺が動けば結界が崩れ、星矢がアテナの小宇宙をまともに受ける。

 

「エレナ!」

 

エレナを抱き込み、光へ背を向けた。

せめてエレナだけは――。

 

「アナザーディメンション!」

 

光が届く前に、背後で空間が開いた。

 

振り返ると、アテナの光が歪みの中へ吸い込まれていく。

最後の一本まで消えると、開いた空間から男が歩いてきた。

 

サガだった。

 

黄金聖衣はない。頬は腫れ、口の端から血が流れ、服も身体も土に汚れている。

アイオロスと何をしてきたのか、聞く必要もなかった。

 

来たか、サガ。

俺はお前に賭けた。ここで来なければ、あとで地獄の底まで殴りに行くところだった。

 

「これは、最後のデバッグだ。邪魔はさせん」

 

サガが口の端の血を拭い、笑った。

 

「サァァァァガァァァァァァ!!」

 

アテナがサガの名を叫んだ。沙織ちゃんへ向けていた小宇宙までサガへ集中していく。

どうやら、神の機工にとって一番見たくない顔らしい。

 

「沙織……」

 

サガの後ろから、アイオロスが歩いてきた。

 

こいつも聖衣を着ていない。額と口から血を流し、足取りも安定していなかった。

サガだけが一方的に殴られたわけではないようだ。

 

沙織ちゃんの目がアイオロスへ向く。

 

「アイオロ……」

 

「パパ!!!」

 

今度は間違いなく沙織ちゃんの声だった。

 

アテナの小宇宙に押し込まれていた沙織ちゃんが、アイオロスを見ただけで戻ってきた。どれほど神が上から塗り潰そうと、十三年分まで消せるものか。

 

沙織ちゃんは器ではない。父親を見てパパと呼ぶ、俺たちが知っている沙織ちゃんだ。

 

神の言うことを聞くために育てられたわけでもない。アイオロスが命を懸けて守り、育てた娘が、神の都合だけで消えるはずがない。

 

「……星矢!! 娘を……君に沙織を託す!!!」

 

「は、はい!!!!」

 

星矢の返事が裏返った。

こんな状況でも、そこは緊張するのか。

 

「道を開け!! 俺の小宇宙!!!! ケイロンズ・ライト・インパルス!!!!」

 

アイオロスが両腕を振り抜いた。

 

沙織ちゃんの周囲に集まっていた光が左右へ吹き飛び、星矢の前から消える。沙織ちゃんまで続く道が開いた。

 

「まだだ!!!!!」

 

アテナが残った小宇宙を集め、道を閉じ始めた。

 

俺は結界を維持するだけで動けない。サガも新たな攻撃を異次元へ送り続け、アイオロスは技を放った姿勢のまま膝をついた。

 

あとは、お前だけだ。

 

「沙織さーーーん!!!!」

 

星矢が走った。

 

道の両側から戻ってきた光が頬を裂き、腕と脚へ傷を増やす。

神聖衣はもうない。守るものがなくても、伸ばした手は下げない。下げるな。行け!!

 

沙織ちゃんも手を伸ばそうとしている。

アテナに押さえられ、指が動くたびに腕が引き戻される。腕を引かれても、星矢から目を逸らさない。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー人間の想いは……。

 

 

 

 

 

 

血に濡れた手が沙織ちゃんの肩へ届く。

 

星矢はそのまま沙織ちゃんを抱きしめた。

 

結界を押していた力が消えた。俺の腕が前へ出そうになり、抱いていたエレナの重みが胸へ戻ってくる。

 

「星矢……?」

 

沙織ちゃんの目から、アテナの光が消えている。

 

星矢は何度も息を吸い、沙織ちゃんを抱いたまま口を開いた。

 

「沙織さん、俺は……君を……好きだ」

 

ようやく言ったか、馬鹿。

 

星矢が好きなのは、城戸沙織という一人の女の子だ。

 

 

沙織ちゃんの目から涙がこぼれた。星矢の胸へ顔を埋め、声を上げて泣き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー届いた。

 

 

 

 

 

十二宮に夕日が差していた。




アイオロス「星矢」

星矢「は、はい!」

アイオロス「沙織を君に託す」

星矢「はい!!」

アイオロス「大切にしてくれ」

星矢「もちろんです!!」

アイオロス「泣かせるなよ」

星矢「絶対に!」

アイオロス「門限は守れ」

星矢「はい!」

アイオロス「帰宅したら連絡を入れろ」

星矢「はい!」

アイオロス「二人きりで泊まる場合は――」

沙織「パパ、ウザい」

アイオロス「沙織!?」

沙織「星矢、帰ろ」

星矢「お、おう!」

アイオロス「待ちなさい! まだ話は終わっていないぞ!」

サガ「諦めろ。娘とはそういうものらしい」

アイオロス「お前に娘はいないだろう!」

サガ「見れば分かる」

今後の『聖闘士星矢異伝』は――  ※アスガルド編・ポセイドン編については、すでにプロットがあります。

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