聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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死んだはずの幽助の前に現れた、霊界案内人ぼたん!

自分の通夜を見下ろしながら、初めて知る仲間たちの涙。

だが――。

沙織、まさかの幽助発見!?

さらにコエンマから告げられる「生き返るための試練」!

幽助は再び、生者の世界へ戻れるのか!

君は、小宇宙を感じたことがあるか!


幽助発見! 女神と死神、通夜で遭遇

寝ているだけに見えた。

あそこに転がっているのが俺で、こっちから見下ろしているのも俺。どっちが本物なんだよ。ふざけてねえで起きろ、言ったところで何の返事もねえ。

 

「俺………本当に死んじまったってことか!?」

 

「ピンポンピンポーン!! 大正解!!」

 

「何がピンポンだ、縁起でもねえ!!」

 

何なんだ、こいつは。

ピンクの着物に、オール。宙に浮いている時点で普通じゃねえが、その答え方はもっと普通じゃねえ。俺が下に寝ているのが、そんなにめでてえのか。

 

「こらこら、あの世の使いにガンをくれないようにガンを……!アタシは親切丁寧がモットーなんだからさ!」

 

「でお前、一体誰だよ?」

 

「アタシかい? アタシは霊界案内人のぼたんちゃんだよ。西洋で言うところの『死神』ってやつさ!」

 

「死神が随分と陽気だな、オイ……」

 

もっと陰気な奴を想像していた。いや、真剣に想像したことなんかねえ。

 

しかも、俺に話しかけるのはこいつだけだ。

下では焼香が進んでいる。俺はここにいるのに、誰も上を見ねえ。見ているのは写真か、横になったままの体ばかりだった。

 

「幽助…………バカ……」

 

蛍子。

今朝も怒られた。煙草を見つけて、俺と沙織に向かって怒鳴っていた。

 

こんな小せえ声でバカと言われたことは、あまりなかった。

何か言ってやりたい。泣くなでも、悪かったでもいい。

 

隣には沙織がいる。

……何をやってるんだ、あいつ。さっきから天井、部屋の隅、妙なところばかり見回しやがって。

 

「沙織…………さっきからどうしたの??」

 

「いやね……幽助の幽霊が、そこら辺に浮いてるんじゃないかなーって探してるのよ。

成仏してない浮遊霊ならその辺の電柱にも結構引っかかってるけど、あいつに直接話を聞いてみないと気が済まないじゃない?」

 

おい。こっちだ。目の前の棺桶じゃねえ。もう少し上を見ろ。

 

「………幽霊?? 見えるの、沙織??」

 

「ええ、見えるわよ。だって私、元ぬーべークラスよ!妖怪や悪霊なんて小学生の頃から見飽きてるし、ついでに現役の女神よ!人間の幽霊くらい幾らでも知覚できるわ。……まあ、アテナの権能でも一度死んだ魂を生き返らせるような反則はできないから、せめて最後のお別れでも……むむ??」

 

あいつの小学校の話は、聞くたびにおかしなものが増えていく。本当に幽霊が見えるようになるのか。

 

女神だって話も、いつもの大口だと思っていた。

だが、俺がこうして浮いている以上、何を馬鹿なことをと言い切るのも変な話だ。見えるなら話が早い。蛍子に、俺がここにいると教えてやってくれ。

 

「うおおおおおおお!!! 浦飯ーーー!!!!!」

 

うるせえ。

聞き間違えようもない声だ。自分の通夜だってのに、反射でそう思ったくらいだ。

 

「あら、和真くん」

 

「俺は……俺はお前にまだ一度も勝ってねえんだぞ……!勝手にくたばりやがって、この野郎……!ううう……頼むから起きろ! 起きて俺の渾身のパンチを受けてみろよ!!うおおおおおおお!!!!」

 

桑原まで、何を泣いてやがる。

毎度殴りかかってきて、そのたびに負けて、また来る。俺がいなくなったら、もう負けずに済むだろうが。

知らなかった。俺が死んだら、こんなふうに泣く奴がいるなんて。

 

「なんだ……常識のない連中め。通夜の席で大声を出しおって」

 

その声を聞いた途端、頭が冷えた。

岩本。何しに来た。こんな時まで文句を言わなきゃ気が済まねえのか。

 

「全くだ。しかし岩本先生、浦飯が最後に子供を助けるなんて殊勝な真似をして死んでくれたおかげで、我が校の評判も上がりましたよ」

 

明石も一緒かよ。

俺のことを何と言おうと、今さらだ。だが、ここにはお袋がいる。蛍子もいる。聞こえるところで言うことくらい、選べねえのか。

 

「全くだな。……あ、お母さん、今回のことはお悔やみ申し上げます。ククク。どうせ、子供を蹴っ飛ばしたところに、ちょうど車が突っ込んできたんでしょうがね。まあ、学校にとっても世間にとっても、死んでくれて清々しましたよ」

 

「うえーーーん!! 幽助ぇぇぇ!!」

 

「てめぇ……岩本!! ブッ殺してやる!!!」

 

殴れなかった。

拳がそのまま向こうへ抜けた。手応えがねえ。避けられたわけでも、受け止められたわけでもない。

 

もう一度やっても同じだった。

こっちを見ろよ。文句があるなら俺に言え。お袋に言ってどうする。俺なら何度でも聞いてきたし、何度でも言い返せる。だから、こっちを――。

 

「………昼間あれだけ釘を刺したのに、まだ懲りてなかったんだ……岩本先生」

 

「げっ!! き、城戸……!!」

 

急に声が裏返った。

昼間のことは忘れていなかったらしい。だったら、黙って帰ればよかったんだ。

 

「瞬、氷河」

 

「はい、沙織さん」

 

「懲りないやつだな、こいつも……」

 

黒服じゃねえ。参列していた二人が、もう岩本の両側にいる。

片方は穏やかな顔のまま、もう片方は最初から話を聞くのも面倒そうだ。

 

「な……ま、またお前らか!! 何をするつもりだ、警察を呼ぶぞ!!」

 

「安心してください。命までは取りませんよ。ただ、あなたのその歪んだ根性を叩き直すために……しばらく聖域が運営する『パライストラ・インド校』にでも栄転してもらいます。シャカに預けて、一日二十時間の瞑想と精神修行の指導を受けるように手配しなさい」

 

「な………! パライストラ!? インド!? なんだそれはーーーっ!?」

 

「大丈夫ですから……痛くはありませんよ。どうぞ、こちらへ」

 

「安心しろ。あのシャカとて、人間の命まで奪いはすまい。……精神が持つかは保証できんがな」

 

どこで安心すりゃいいんだ、その説明。

沙織の知り合いが何人いるのかも、何をやっているのかも、俺にはさっぱり分からねえ。

 

ただ、岩本の声が遠ざかるのには、ほっとした。

俺の拳じゃ黙らせられなかった。

礼くらい言いてえが、まずは俺を見つけてもらわなきゃ始まらねえ。

 

「ふう…………あ」

 

今、合った。

こっちを見る目が、そこで止まっている。

俺が場所を変えても、ちゃんとこっちを追ってくる。

 

「………あ。おい、ぼたん……やっぱり目が合ってねえか、あいつ?」

 

「いんや、そんな馬鹿な! 普通の人間には絶対に見えないはずだよ?」

 

「しかしよ……あいつは自称・女神だし、さっきからオカルト耐性がカンストしてやがるぞ……」

 

「誰が自称だ!!! 『痛い女神』って言いたいのか、このヤニカス不良少年!!」

 

「やっぱりバッチシ見えてるし聞こえてるだろうがーーーッ!!」

 

そこまで言ってねえ!

怒鳴り返そうとして、先に嬉しくなった。

届いた。今のは俺に返してきたんだ。

死んでから初めて、いつもの相手と喋れた。

 

「いや驚いた!! 霊能力者どころの騒ぎじゃないよ、この娘……!!」

 

「っていうか幽助!! あんた、蛍子ちゃんというものがありながら、死んだ早々に浮気するとはいい度胸じゃない!!」

 

……喜んだ俺が馬鹿だった。

 

「だ、誰が浮気だ!! そんなことしてねえよ!!」

 

「じゃあ何よ、その横にいる無駄に愛嬌のある可愛い子は!!」

 

「え? アタシのことかい??」

 

「そうよあんたよ!!」

 

死神だよ! 俺が呼んだわけじゃねえ!

 

「沙織…………そこに、本当に幽助がいるの??」

 

「そうよ蛍子ちゃん!! 幽助のやつ、死んで早々に着物姿の可愛い女の子をナンパして侍らせてるのよ!! 硬派ぶってた割に手が早すぎるわ!!」

 

わざとだ。こいつ、わざとやってやがる。下へ行って口を塞ぎたいが、さっき岩本を殴れなかったことを思い出す。今の俺には、それさえできねえ。

 

「うう………幽助がいるの? そこにいるの、沙織ちゃん!?」

 

「はい温子さん!! バッチリそこに浮いてます!!」

 

お袋まで顔を上げた。

俺のいる場所より少しずれている。

 

いるよ。ここだよ。

沙織、今度はちゃんと、それを伝えてくれ。

 

「うおおおお……! 姿は見えねえが、なんか霊気を感じるぞ……!そこにいるのか、浦飯ーーーッ!!」

 

「和真くん、霊感あるんだね〜!! 凄い凄い、才能あるよ!!」

 

桑原も、こっちを向いている。

見えてねえくせに、妙に近いところを睨んでやがる。いつもなら、何をガンつけてんだと返すところだ。今はその顔が、ありがたかった。

 

あそこに戻れたら。

もう一度、お袋の前に立って、蛍子に文句を言われて、桑原を殴り返せたら。

 

「はへー……なんか賑やかな人達だねぇ。――で、どうするんだい、幽助? コエンマ様からの『生き返るための試練』を受けるかい?」

 

今、その言葉を聞かされて、ほかに答えがあるわけねえだろう。

 

「受けるに決まってんだろ!! 生き返る!! 絶対に生き返るっての!!こんな浮気疑惑を解かずに死んでたまるかーーーーッ!!!!」

 

それだけじゃねえ。

だが、今はそれでいい。みんなの顔を見たら帰りたくなったなんて、本人たちの前で言えるかよ。

 

下で勝手なことを言っているあいつにも、自分の口で文句を言わなきゃ気が済まねえ。

 

「えっ!? 生き返るの!? 幽助!!蛍子ちゃん、温子さん!! 幽助、生き返る気満々よ!!」

 

「ええっ!?」

 

まだ何をやるかも聞いてねえんだぞ。絶対に戻るつもりだが、今ここで起き上がるわけじゃ――。

 

「よし!! なら話は早いわ!!魂が戻る時のために、肉体の怪我は今すぐ全快させてあげる!!アテナの小宇宙でね!!!!」

 

「は……?」

 

直後、屋根がなくなった。

いや、なくなったのが見えたのは少し後だ。先に金色の光で何も見えなくなり、目を凝らした時には、天井の向こうに夜空が開いていた。

 

うちだぞ、ここ!

今度は家そのものが揺れた。お袋と蛍子は無事なのか。

 

傷が消えていく。

顔に残っていた事故の痕が薄くなり、体がただ眠っている時の俺に戻っていく。

 

まさか、本当に治しているのか。

 

「な………なにこれぇぇぇぇ!?霊界の奇跡どころじゃない! 神の領域のエネルギーだよ!?」

 

オールにしがみつく姿を見て、死神にも分からねえのかと、かえって不安になった。

 

「何って、アテナの小宇宙だけど?」

 

「小宇宙ってなにーーーーーっ!!??」

 

俺が聞きてえよ。




【アッシュの用語集】

■霊界案内人・ぼたん
死者の魂を霊界へ案内する少女。

西洋でいうところの死神に近いらしい。

ずいぶん明るい死神だな。

幽助には、このくらいの相手の方が合っているのかもしれない。

■浦飯幽助の霊体
死亡後、肉体から離れた幽助の魂。

普通の人間には見ることも、声を聞くこともできない。

沙織ちゃん?

あれを普通の人間として数えるのは、もう無理があるだろう。

■桑原和真
幽助の喧嘩相手にして友人。

幽助の姿は見えないが、霊的な気配についてはかなり敏感らしい。

素質はありそうだな。

■パライストラ・インド校
聖域が運営する教育・修行施設の一つ。

今回、問題のある教師を精神修養へ送る案が出た。

指導担当、シャカ。

……更生するかもしれない。

たぶん。

■コエンマ
霊界において、幽助へ「生き返るための試練」を提示した人物。

沙織ちゃんにも死者そのものを蘇生させることはできない。

だから幽助が戻るには、霊界側の手続きを踏む必要がある。

その方がいい。

生死まで神の気分一つで決まる世界なんて、ろくなものじゃない。

■アテナの小宇宙
アテナが持つ極めて強大な小宇宙。

今回は幽助の魂を蘇らせるためではなく、魂が戻った時に備えて肉体だけを修復した。

発想自体は悪くない。

ただし――。

沙織ちゃん。

人の家の屋根を吹き飛ばすほど出力する必要はあったのか?

■生き返るための試練
幽助が再び生者の世界へ戻るため、霊界から提示された試練。

内容については、これかららしい。

本人はやる気十分だ。

理由?

浮気疑惑を晴らしたいからだそうだ。

……素直じゃないな。
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