聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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――伝統は誇りか、それとも足枷か!?
神話の時代より連綿と続く聖域の伝統。しかし、その影で聖域のトイレは穴のまま、洗濯板で涙を流す女聖闘士、階段で膝を壊す壮年組……。

だが今、白銀聖闘士・アッシュが立ち上がる!
ロドリオ村での奇跡を武器に、聖域近代化プロジェクトを提案――
伝統重視の教皇シオンとの激突、パン屋と婦人会を巻き込んだインフラ戦争が、今始まる!

次回、「伝統を砕け!聖域改革の白銀伝説」
――闘士たちよ、快適トイレを夢見て、明日を生きろ!

―君は、小宇宙を感じたことはあるか?


伝統を砕け!聖域改革の白銀伝説

(アッシュ視点)

 

 

ヘファイストス・ラビュリントス事件――

 

 僕、アッシュ。今や聖域の英雄。村のおばちゃんには「伝説の白銀聖闘士!」とか「救世主!」とか呼ばれ、村の子どもたちには毎日サイン攻め。村長にはクロワッサン詰め合わせを贈られ、パン屋のお姉さんからは「アッシュ兄ちゃんの分だけクリーム多めにしておいたわよ!」とウィンク付きで渡される日々。

 

 そんなご機嫌な朝、教皇シオン様から「ロドリオ村近代化プロジェクト」の公式認可を頂いた。……いや、村長の承認は半年も前に出てたんだけど。

 「ありがとうごぜえます、シオン様!……って、これ、何の意味があるんだろう?」

 

 でも、まあいいか。これは公式“お墨付き”。この勢いで、いよいよ――

 

 聖域本体の改革に、僕が切り込む!

 

 

 

 翌朝――

 

 僕は完璧なプレゼン資料を手に、教皇の間へと乗り込んだ。

 題して――

 「聖域インフラ刷新に関する包括的提案書」!

 

 内容は盛りだくさん。

 ・聖域全域に上下水道の新設

 ・小宇宙発電所による電力網の構築

 ・全エリアWi-Fi完備&光回線導入(サガ推し)

 ・十二宮石段を一発解決!最新エレベーター設置案

 ・食堂&寮の衛生基準をWHOレベルへ

 ・トイレは温水洗浄便座付き

 ・ゴミ分別リサイクルルール導入

 ・“闘士の心を癒やす”マッサージチェア(自費購入可)

 

 村での成功モデルを最大限に反映した、“未来志向型聖域”への道筋だ。

 

 シオン様の前で深呼吸一つ、全力でプレゼンスタート!

 

 「教皇様!本日は、聖域の未来に向けた――」

 

 「……却下だ」

 

 開始2秒で即死。

 今、何か言いました……? いやいや、落ち着こう。たぶん聞き間違いだ。

 

 「い、いえ!資料はこの分厚さ、すべてロドリオ村での実績データです!」

 

 「アッシュよ。聖域は神話と共にあり、その“不便さ”こそが闘士の魂を鍛える砥石となる」

 

 ……マジか。

 伝統バリア、強すぎ問題発生!

 

 

 

 ここからは泥仕合である。

 

 「しかし教皇様!あの石段、五十代以上の聖闘士に関節痛を訴える者が続出しています!現代医療とインフラがあれば――」

 「痛みは魂を磨くものじゃ。私は230歳を超えておる。」

 

 「洗濯板での手洗いは衛生的にも非効率です!自動洗濯機があれば女性聖闘士の手荒れも――」

 「鍛錬の一部だ」

 

 「伝書鳩は絶滅危惧種です。スマートフォンによる即時連絡網の構築を――」

 「……小宇宙で鳩語を理解できる者が育つ」

 

 「Wi-Fiくらい……」

 「神話にWi-Fiは不要」

 

 「せめて水洗トイレだけでも!!」

 「精神の純化は排泄の苦行から始まる」

 

 ああ、もうだめだ。ブラック企業の“根性論上司”と対峙している気分である。

 

 

 

 このやりとりを聞いていた側近のカサンドラさん(仮名)がボソッと呟いた。「アッシュ様、聖域の伝統は地層よりも分厚いのです」

 いや地層って……いつからギリシャは化石の国に?

 

 サガが「今どき伝書鳩とか、もうやめようよ」と援護射撃するも、「双児宮の古文書には“メッセンジャーバード”の記述がある」と一蹴。

 

 アイオロスが「衛生は大切だと思います!」と熱血アピールしてくれたが、「汚れもまた修行」と返されて終了。

 

 

 

 こうして僕の“未来志向型聖域”への道は、開幕早々、伝統バリアの前に木っ端微塵になった。

 

 帰り道、肩を落としながら資料を抱えて階段を降りると、村長さんから「アッシュ兄ちゃん、村でお湯が出るようになったよ!」の報告と、子供たちから「Wi-Fiありがとう!」の寄せ書きを受け取る。

 

 ――そうか。たとえ聖域は時代遅れでも、村は確実に“未来”に向かって進んでいるんだ。

 

 僕はしばし足を止め、そっと心の中でガッツポーズを決めた。

 

 「いいさ、いつか“神話”もアップデートしてやる。伝説は、ここから始まる!」

 

 

 

 

聖域改革――それは一筋縄ではいかない、神話級のデスマーチである。

 

 だが僕は、諦めなかった。

 昨日は「一括刷新」案で玉砕した。ならば次は、「部分的改良」で突破だ!

 

 まずは、というか何度でも「水洗トイレ」。衛生環境の要にして、文明人の最低ライン。

 企画書のタイトルは『聖闘士宿舎における衛生的環境の改善について(水洗トイレ導入の急務性)』。

 データは完璧、図表もバッチリ。伝染病リスク低減、闘士のQOL向上、カビ・湿気問題の一挙解決、さらには「大」に集中しやすくなる心理的効果まで、あらゆる角度から切り込んだ。

 

 「教皇様!この一案、絶対に損はさせません!」

 

 シオン様は微笑み――

 「却下。流水での禊(みそぎ)は、心身の穢れを祓う神聖な儀式である」

 

 ……出た、また神話理論だ!

 ていうか、この人、宿舎の現実を一度も見に行ったことあるんだろうか?

 男子トイレの惨状、あれはもう神話どころか、カオスだぞ!

 

 

 

 だが僕は引き下がらない。

 「一日一善」ならぬ、「一日一企画」だ。

 

 2日目:『聖域内における栄養管理の最適化提案(週一でのピザパーティー導入効果)』

 ・闘士の筋肉維持には良質なタンパク質と炭水化物が不可欠

 ・ピザには野菜もチーズも肉も全部乗ってる(完全食)

 ・週一でみんな笑顔→ストレス軽減→小宇宙が活性化する可能性

 

 「教皇様、これぞ新時代の食育!」

 

 「却下。真の聖闘士は霞(かすみ)を食しても戦える」

 

 はい出ました、“霞メシ理論”。昭和の体育会系指導者か!

 

 

 

 3日目:『闘士の睡眠環境改善計画(マットレスの高反発化)』

 提出するや否や、

 「却下。大地に身を横たえることで、母なる星の力を受け取れる」

 え、じゃあ布団も敷くなってこと?

 毎晩、聖域の床と母なる会話、ですか。朝起きたら腰痛悪化するのは“母の愛”だったのか…!

 

 

 

 4日目:『教皇の間・空気清浄機設置案』

 もうこうなったら、目の前の“ホコリ”から手をつけるしかない。

 「教皇様、これなら即導入できます。音も静かです!」

 

 「却下。ホコリは時の積み重ね、歴史の証である」

 

 さすが聖域、ホコリも伝統だった。

 “歴史的埃”で誰かのくしゃみが出たら、それもまた「古の力」ってか?!

 

 

 

 毎朝――。

 

 案内人のおじさんは苦笑いで言う。「アッシュ様、今日のご提案は何でしょう?」

 僕は胸を張って新企画書を見せる。「今日は“聖衣クリーニングの効率化”案だよ!」

 

 シオン「却下。“汗と血こそが聖衣を強くする”」

 

 この人、たぶん全否定スタンプ持ってる。

 

 

 

 日々、僕のプレゼン術はどんどん進化していった。

 ・プレゼン資料の分厚さ→A4二枚に要約→一句で伝達(「トイレは大事」)

 ・視覚資料→漫画風スライド→寸劇→替え歌(「ホコリの歌」)

 ・ついに寸劇で“シオン様役”を自分でやって却下までセルフ演技

 

 サガやアイオロスも見かねて、

 「アッシュ、いっそ提案書じゃなくて小宇宙で直訴したら?」

 「むしろ今度は、教皇様の好きな“禊”をピザでやってみたら?」

 と、奇抜な助言をくれる始末。

 

 ……いや、冗談抜きで、

 “聖域の伝統”VS“現代人の知恵”の泥仕合、今ここに極まれり。

 

 

 

 それでも僕は諦めなかった。

 毎晩、村の子供たちが作ってくれた「応援うちわ」を見ながら誓う。

 

 「絶対に…絶対に、伝統バリアを突破してやる!」

 

 ああ、明日は何を出そうか。

 “教皇様専用・肩こり改善ストレッチ教室”……ダメか。

 “石段に滑り止め設置案”……滑るのが鍛錬だからダメか。

 “伝書鳩のGPS化案”……「魂の羅針盤を持て」とか言われそうだ。

 

 

 

 そうして迎えた、伝統バリア撃沈デイズ・7日目。

 

 僕は、今や「即却下祭り」の殿堂入り者として、教皇の間の歴史の一部となった――(ホコリにまみれながら)。

 

 でも、いいさ。

 失敗は学び。ギャグは心の栄養。今日も、明日も、明後日も。

 「この老害め!」を、心の挨拶代わりに。

 僕は“聖域の未来”を諦めたりしない!

 

 

 

(サガ・アイオロス)

 

 

 「……また却下か」

 

 夕暮れのロドリオ村の公民館。サガは窓辺に腰かけ、分厚い書類の束を指先で弄んでいた。その隣ではアイオロスが、湯気の立つ紅茶を両手で包み込むように持っている。二人とも、ここ数日“ある噂”で持ち切りの聖域から、ほんのひとときだけ距離を置いていた。

 

 「今日も教皇様の間に、アッシュが分厚いファイルを抱えて現れたそうだ」

 「もう七日連続だよな。しかも、今日の企画書は“教皇の間の埃対策”……」

 

 二人は思わず顔を見合わせて苦笑した。アッシュの情熱にはいつも驚かされる。だがそれは、単なる珍事や悪ふざけではなかった。むしろ、聖域に新しい“風穴”を開けようとする、勇気ある挑戦なのだ。

 

 

 

 サガは、少し前まで自分が“内輪”の人間だという意識が強かった。

 改革など夢物語。聖域の伝統は、神話時代から続く巨大な「岩」。これまでは、自分たちが少しずつ削って、整えるものでいいと思っていた。

 

 だが――

 

 アッシュの姿勢はまるで違う。彼は「山を削る」のではなく、「一気に山を爆破解体しよう」としている。大胆で、無謀で、時に無鉄砲。でも、その行動が、間違いなく周囲を動かし始めているのも事実だった。

 

 「サガ、お前も本当はアッシュに賛成なんだろ?」

 アイオロスが、おずおずと尋ねる。

 

 「もちろんだ」

 サガはあっさりと認める。「ロドリオ村を見てみろ。あの村は、もう“奇跡の集落”だ。衛生も、通信も、教育も――聖域のどの村よりも快適で、安全だ。子供たちも健康に育っている。あれが今の“時代”の、正しい答えなんだろう」

 

 「……けれど、教皇様は」

 「うん。山は動かない。むしろ意地になっているように見える」

 

 アイオロスはうつむく。「僕は正直、どちらの言い分も分かる。聖域には千年の歴史がある。その重みは、僕たち若い聖闘士が勝手に変えていいものじゃない。けれど……」

 

 「けれど?」

 

 「アッシュの言う“未来”も、やっぱり間違っていないと思う。彼がやっているのは自己満足じゃない。闘士みんなのためだ。実際、怪我人や病気が減ったし、みんな笑顔になった」

 

 サガは、にやりと笑った。

 「アイオロス、お前も少しは“今風”になってきたな」

 「失礼な! ……でも、昔の僕なら、きっと全部否定していたと思うよ。だけど今は――ロドリオ村に来て、アッシュや村の人々の笑顔を見て、心が揺れているんだ」

 

 

 

 二人は黙って、しばし夕焼けを眺める。

 

 「サガ、お前はどうするつもりだ?」

 アイオロスが問う。

 

 サガは机の端に企画書をそっと重ねた。「俺は、アッシュの挑戦が失敗で終わっても、笑い飛ばすつもりはない。むしろ、どこかで“爆破解体”が必要だと感じている。……だが、正面からぶつかってばかりじゃ、相手は余計に意地になる。もっと違うやり方が必要だ」

 

 「違うやり方?」

 

 「そうだ。例えば……小さな“実例”を積み重ねていくんだ。ロドリオ村が変わったように、他の村にも少しずつ広げていく。教皇様が“外堀が埋められた”と気付く頃には、もう後戻りできないほど改革が進んでいる――そんな“包囲作戦”だ」

 

 「……なるほどな」

 アイオロスは頷いた。「正面突破じゃなくて、側面や背後から攻める。アッシュに伝えてやらないか?」

 

 「もちろん。だが、きっとアイツは、明日もまた“水洗トイレ”を直訴しに行くさ」

 「……だろうな」

 

 二人は苦笑し、そしてまた紅茶を一口。

 その時、玄関の扉がバンと開いて、元気な声が飛び込んできた。

 

 「おーい、アイオロス、サガ! 今日の敗因分析会を始めるぞー!」

 

 全く懲りていない。

 彼の明るさと情熱が、今は何より、この聖域の未来を照らしているようだった。

 

 




悪サガ「……ふむ。アッシュ、この“Wi-Fi全域導入”ってのは、実に画期的だが、予算計上が甘いな。配線ルートと維持費も明記しろ」

アッシュ「え、えっ? サガさん、なんか今日は妙に真面目じゃ……?」

悪サガ「当然だろう。改革は勢いも大事だが、根回しとコスト感覚は必須だ。あと、この“温水便座”――電源工事はどうする?」

アッシュ「ま、まさか、悪サガに会計管理を指摘されるとは……。えーっと、発電量の計算はこっちの資料に……」

悪サガ「採用側の目線になれ。教皇に“情熱”だけじゃ伝わらん。論理と数字で叩き潰せ。
……ところで、これは“パン屋のクロワッサン無償化”……不要。却下」

アッシュ「ええっ、婦人会が泣きますって!」

悪サガ「妥協と譲歩、それが交渉の基本だ。……ふふ、まったく。俺も随分と“真面目”になったものだな」

アッシュ「……あの、“悪”って何だったんですか?」

悪サガ「改革の邪魔をするのが“悪”なら、今日くらいは“善”でいってやるさ。――行け、白銀伝説。お前の革命を、俺も見てみたい」

アッシュ「……サガさんが真面目だと、逆に落ち着かないなあ」

悪サガ「ふん、次は“風呂の全自動化”案だ。さあ、次の資料を持ってこい!」

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