聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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長かった――本当に長かった!

ついにワルハラ宮へ潜入するテティス!

同行者は宮廷医師アンドレアス、謎の男グリム、そして日本から来た響子社長!

……これ、本当に潜入なの?

さらに、それぞれが隠す正体と思惑も交錯し始める!

今度こそ任務を果たせ、テティス!

君は、小宇宙を感じたことがあるか!



ついに潜入! 人魚姫、ワルハラ宮へ

私の名はマーメイドのテティス……!

 

……はい、また私です。そろそろお分かりでしょうが、今日は違います。ついにワルハラ宮へ入るのです。今度こそ任務です!

 

ポセイドン様、聞こえていらっしゃいますか。私はようやく宮殿へ――。

 

……二ヶ月以上かかったことは、どう報告しよう。

寄り道。バイト。置き引き。遭難。

駄目。書くと全部私のせいに見える。実際、半分くらいは私のせいなんだけど。

コートの内側で身分証を確かめる。ある。臨時助手兼看護師。名前はちゃんとテティス。小魚ではない。何度見直したって、そこは安心するわね。

 

ところで、白衣を着る人が間違っていませんか。

本物の先生は優雅なコート姿で、借り物の白衣を羽織った無職の男は、さっきから右へ左へふらついている。眼帯は巻き直したのに、足元は直す気がないらしい。

……あっ。こぼした。

 

「ヒック……あっ、いけねぇ! 酒を雪の上にこぼしちまったぜ……。……ん〜〜、泥が混じっちまったが、上澄みをペロッと舐めればまだいけるか……?」

 

襟首をつかんだら、白衣の糊が指に当たった。新品なのよ、これ! 早速汚すつもり!?

 

「やめなさい!! 地面を舐めるな! どこまで意地汚いのよアンタはーーっ!!」

 

昨夜からご飯を一粒も口にしていない、酒瓶を空けるのは早い。いったい何で生きているの。

 

私も先ほどからお腹が鳴っている。ちゃんとした朝ご飯を買えばよかった。先生のお家を出た途端に、次から次へと話が増えてしまって……。

 

それにしても。なんで、こんな駄目男を好きになったんだろう。

昨夜の声は格好よかった。あの腕も、あの顔も。そこは認める。認めるから、地面を舐めるのはやめて。私の目の前でやらないで。

 

こちらを振り向く先生の顔も、実に腹立たしい。ご自分の義兄でしょう。注意してくださいよ。

 

……ロ、から始まる名前を持つ先生。

ロキ? まさか。あの邪神の名前を言いかけたの?

何か知っているなら教えてほしいわ。私、グリムの恋人として宮殿へ連れていかれるのよ?

 

「へー! スパイごっこみたいで面白いわねぇ、テティスちゃん!」

 

はい。最後のお一人はこちら。

両星響子社長。私を救いに日本から飛んできてくださった、恩人。そして美と愛の女神を宿すお方。

……付いてきちゃったのよ!

 

『ふふふ……これほどの神気。さすがは北欧の主神、オーディーンのお膝元というわけね』

 

実質五人。

私、宮廷医師、お酒で動く男、社長、社長の中のカミサマ。

 

おかしいでしょう。潜入って、もっとこう、目立たないように忍び込むものじゃなかった? コートの袖にお菓子の甘い匂いが移りそうなくらい近くで、神話の話をされているんだけど。

 

「ヴィーナス、あまり勝手に出てこないでちょうだい。驚かれちゃうでしょ?」

 

『そんな冷たいこと言わないでキョーコさん。私だって北欧の地に足を運ぶのは、およそ千年ぶりくらいなんだから』

 

千年ぶり。

こっちは二ヶ月の遅刻で怒られそうなのに、気の長いお話ね。

……いえ、そんなことを考えている場合じゃない。社長の前では普通の社員。海闘士なんて知らない。海皇様の密命なんて、聞いた覚えもございません。

 

今日もそのつもりで笑っていればいいのよね。うん。

……頬が疲れてきたわ。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

私の白衣を貸したのは、間違いだったでしょうか。

 

襟首をつかまれて起こされる姿が、いつになく無様ですね。小魚さんの前では平気で地面に這いつくばる。あの方も、随分と甘い顔をするようになったものです。

 

もっとも、余計な女神にお付き合いいただくとは聞いていませんでしたが。

甘い香りが鼻につきますね。昔は別の香りでしたか。どちらにせよ、好ましくありません。

 

「……千年前、あの美の女神がこの地に色目を使いに来た時は、本気で殺してやりたくなりましたね」

 

「まあ言うな。今のところ敵対する気はなさそうだし、幸いなことに俺たちの正体にも気づいてねえようだからな」

 

声を落とすと、片目がこちらへ寄った。前を歩く女たちに聞かせる必要はありません。せっかく往診に出るというのに、ここで名乗り合う茶番は御免です。

 

「……自分たちの隠行術の精密さを誇るべきか、それともあの愛の女神がおめでたいバカだと笑うべきか……」

 

「両方やっておけ。それがお前らしい陰湿さだ」

 

褒め言葉として受け取っておきましょう。小魚さんの機嫌を損ねるたびに、私へ助けを求めるおつもりなら困りますが。

女神も、今は上機嫌で結構。宮殿を出る際にも、そのままの顔でいていただけると助かります。

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

社長にお会いしたのは、今朝だった。

先生のお屋敷を出て、これでようやく宮殿へ入れると身分証を眺めていたとき。

 

「テティスちゃん!!」

 

「き、響子社長ーーーッ!?」

 

社長!?

あの、連絡したのは私だけれど、本当に来てくださったの!? 会社は? 日本のお仕事は大丈夫なんですか!?

 

「む……」

 

「げぇっ!?」

 

「日本から連絡をもらって飛んできたわよ! 置き引きに遭ったんですって!?

はいこれ、再発行の手続きをした仮パスポートと、当座の活動資金よ!」

 

封筒が重い。

中には書類とお金。私の名前。帰れる。これがあれば、日本へ帰れるんだわ。

 

……泣く。駄目、こんな通りの真ん中で泣く。

温かいお風呂に入って、きれいな制服を着て、お菓子の箱にラベルを貼る。来期の正社員登用。期末ボーナス。全部、まだ望んでいいのね。

 

社長、ありがとうございます。絶対に戻ります。残業だって進んで引き受けます!

それに引き換え、海皇様……。

 

ヒルダを籠絡してこいと命じておいて、使えるお金が二千円。こっちは渡航費を稼ぐのに何日働いたと思って――。

 

いやっ! 比較しない! 主神と他社の社長を比べるなんて不敬よ!

……活動資金、何枚あるんだろう。

 

「あら? 後ろの素敵な男性二人は……どなた?」

 

「あ……あの……! 私が路頭に迷って追われていたところを、助けてくれた現地の方たちで……」

 

先生のお名前を紹介する前に、社長の口元が緩んだ。

……あ。この笑い方は。

 

『むふふふふ……あらあ〜。テティスちゃん、そんな彫りの深いイケメン二人を従えるなんて、流石は海の男たちを惑わす人魚さんね〜』

 

出たな、ヴィーナス!

私が人魚だと? ただの言い回し? どっち?

 

日本で働いていたときは、平凡な短期バイトのつもりで通した。ここで小宇宙を探ったら、全部台無しよ。相手が女神だと気づいていることも、悟らせちゃ駄目。

笑う。普通に笑う。社長が男二人を見てからかっていらっしゃる。そういうことでいい。

 

「い、いえ……! そんなやましい関係じゃありませんから……きゃっ!?」

 

腰を抱かれ、封筒ごと胸に引き寄せられた。

ちょっと! 社長の前!

 

「アンタはどちらさんだい?悪いがな、このテティスは昨日の夜から『俺の女』なんだよ。日本からわざわざお越しいただいたところ済まねえが、色恋の女神様が放つようなお節介な愛の矢なんざ、俺たち二人には端から要らねーぜ」

 

ううう。今、それを言う? 昨日の夜から、というところを、そんなにはっきり言う必要がある?

社長の顔を見られない。私、どんな顔をしているんだろう。封筒に隠れたい。

 

◇

 

『ヴィーナス、一旦下がって!』

 

……あらまあ。私が来るのを待っている間に、こんなことになっていたの。

隻眼の彼は、こちらの顔を見ている。愛の矢は要らない、と。

ご安心なさい。せっかく見つけた恋人を取り上げるつもりはありませんよ。

 

「あら……! テティスちゃんに、そんな頼もしい彼氏ができたの!?私、日本で菓子製造会社を経営しております、両星響子と申します。うちの子がお世話になっております」

 

「初めまして、響子様。私はアスガルドの宮廷医師を務めております、アンドレアスと申します」

 

アンドレアス。

フレイ様の話に何度も出てきた名前だわ。

 

「あら……貴方が噂のアンドレアス様!?フレイ大主教から日本でよくお話を聞いておりますよ。アスガルドで最も信頼に足る名医だと……」

 

「これは恐縮です。私どももフレイ様から、日本に大変素晴らしい女性がおられると伺っております。……して、お二人のご結婚はいつ頃になりそうですかな?」

 

……そちらへ話を移すのね。

初対面なのに、遠慮がないこと。フレイ様、私のことを何と話したのかしら。帰ったら聞いてみなくちゃ。

 

『まあ! フレイったら、顔も体も極上なのに本当に奥手なんだから〜! キョーコさんを焦らしちゃって罪な男よねぇ』

 

「ヴィーナス、静かに!!……失礼いたしました。その、私とフレイ様のことは……大人の流れというものがございまして……」

 

もう。本人のいないところで勝手なことを言わないで。

まずはこの子。お金を盗まれて困っていたはずなのに、どこへ行こうとしていたの?

 

◇

 

し、知り合いなのーーーっ!?

 

噂を聞いていた。日本でよく話していた。大主教と社長のご結婚。

 

最初から、社長に全部相談していればよかったんじゃない!?

ヒルダ様に会うお仕事なんです。ワルハラ宮へ入る方法をご存じですか。そう聞いたら、あら、知り合いがいるわよ、で終わった可能性があるんだけど!

 

乗り継ぎ三回の飛行機も、酒場の皿洗いも、あの狭い穴も……。

……いや。労働の対価。自分で旅費を稼いだことには意味があった。そうよ。正社員登用にも近づいたし。

 

あの穴については、後ろの男に文句を言っていいわよね。

 

「ところで、テティスちゃんはこんな所で何をしているの?」

 

「え……あ、その……かくかくしかじかで……」

 

宮殿に知り合いがいる。その人に会わなければ帰れない。昨夜は兵隊に追われた。

そこから先は言えない。

 

どうか、海皇様の名前を聞かないでください。会いたい理由も、詳しく聞かないで。助けてくださった方に嘘を重ねるのは、つらいんです。

 

「へー! ワルハラ宮殿へ、ヒルダちゃんに会いに行きたい……ねえ。大丈夫かしら? テティスちゃんみたいな華奢で可愛い子が行ったら、あの代行者ちゃんに無理やり押し倒されちゃうかもしれないわよ?」

 

……社長もご存じなんですか。

ヒルダ様。あなた、外でどういう評判になっているの。

 

兵隊の誘い文句も、グリムの言葉も、社長の心配も、全部同じところへ行き着くじゃない。

 

だから、安全に取り次いでくださいとお願いしているんですよ、先生。私が助手として伺うことは、忘れないでくださいね。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

そして、今。

 

昨夜はもっと暗かった。数も多かった。息を切らした男たちに囲まれ、逃げ場がなくなって……。

 

ああ、思い出したくない。

身分証を出そうとすると、手袋の指が引っかかった。早く取れ。早く。入れなくていいから、この人たちの前から――。

 

「こ、これはアンドレアス様……! それに、日本の響子様まで……!!よ、ようこそおいでくださいました!!」

 

……あら?

私の方を見ていない。

 

「………………」

 

「こんにちは。ヒルダ様はお手すきかしら?」

 

「は、ははっ!! 本日はアンドレアス様の往診の日となっておりますゆえ、ヒルダ様も執務室にてお待ちでございます!どうぞ、皆様お通りください!!」

 

通れるの?

まだ、名前も言っていないんだけど。身分証も手袋も、この手に引っかかったままなんだけど。

 

「ありがとう。じゃあテティスちゃん、行きましょうか?」

 

「は………はいっ!!」

 

槍の脇を通り、門の内側へ足を置いた。

何も言われない。

 

白衣から酒臭さを漂わせる男にも、別段の注意はないらしい。社長と先生に礼をするのに忙しくて、私なんて見えないのね。

 

……入っちゃった。

本当に。ワルハラ宮。あんなに苦労していたのに、こんにちは、ありがとう、で。

やった。ようやく海将軍様たちをお捜しできる。まずは――。

 

……待って。

この四人で、ヒルダ様に会うのよね?

先生の往診の日。執務室でお待ち。つまり、このまま一緒のお部屋に入る。

 

密命は?ねえ、どうやって切り出すの!?

例えば、ヒルダ様の前で、海皇様のお名前を高らかに――。

 

「ヒルダ様!! 海皇ポセイドン様に協力し、共に地上を我が物となしなさい!!」

 

相手の目が輝く。私へ手が伸びる。

 

「協力してもよろしくてよ……? ただし――貴女のその美しい肢体を、この私に余すところなく捧げるならばね!!」

 

「いやああああああっっ!! あーーれーーーーっっっ!!」

 

……駄目!

今のは考え直し! 私、まだ廊下を歩いている! 誰にも触られていない!

そんな返事はお断りよ。海界に報告できる内容じゃないわ。グリムも黙っていないはずだし。

 

なら、もっと落ち着いてお願いすれば?

声を張る必要はない。頭を下げて、お力をお貸しくださいと。そういう言い方なら、失礼にもならない。

 

「ポセイドン様にお仕えください、ヒルダ様」

 

背後で、先生のメスが光る。

 

「ふむ…………貴女、ポセイドンの手先でしたか。我が領土を乱す害虫は切除せねばなりませんね」

 

ひっ。

待って。切除はやめて。私はちゃんと名乗って、話し合いに来ただけです!

横を見れば、グリムの顔も変わっている。

 

「テティス……お前、俺に惚れたって言ったのは嘘だったのか!? 俺を裏切るのかテティスーーッ!!」

 

違う! それは違うの!

任務で来たことと、好きになったことは、どっちも本当なのよ。助けてほしくて惚れたふりをしたんじゃない。だから、そんな顔はしないで!

 

社長も、何か言ってくださ――。

 

『あらあら〜? ポセイドンごときが、オリンポスの調和を乱して北欧を巻き込む気配……?? アスガルドごと、私の愛の炎で灰にして差し上げましょうか……??』

 

ぐむうううううううううっ!

もっと駄目ーーーっ!

 

密命って何なの。全員に聞こえるところで海皇様のお名前を出したら、その時点で終わりじゃない!

 

せめて二人きりに。ヒルダ様と私の二人きりに……。

いや、それが最初の駄目なやつ!

 

どうしよう。お腹が痛い。空腹のせいじゃないわね、これは。

隣から、干し肉を噛む音がする。

持っていたの!? それ、私にも分けてよ! あなたの恋人は今、気持ち悪くなるほど考え込んでいるのよ!

 

先生はカルテの角を指で撫でている。あの手でメスを持つのね。……想像しない。私を切るために来たわけじゃない。たぶん。

 

そうよ。身分証を作ってくださった恩人なんだから。

……海闘士だと分かっているのなら、あの身分証は何のために作ったの?

 

ああっ。考えちゃ駄目。疑ったら、もう誰にも頼れなくなる。

シードラゴン様。ソレント様。イオ様。

 

私は宮殿におります。どうか見つけてください。すぐに連れ出してください。文句は言いません。正体の知られないうちに、なんとか――。

……うう。胃が痛い。

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

テティスちゃん、お腹を押さえている。

少し休ませた方がよさそうね。往診が済んだら、お茶をお願いしましょう。封筒を渡したときには、あんなに嬉しそうだったのに。

 

その前に、ヴィーナスと話しておきたい。

 

『……いいの? ヴィーナス』

 

『何がかしら、キョーコさん?』

 

『あの二人よ。……ただの医者と酔っ払いじゃないことくらい、私にだって分かるわ。尋常じゃない気配を隠している』

 

酔っ払いの白衣。気安い笑い声。

私を見て、何を相談していたのかしら。

 

『ふふふ……我らオリンポス十二神は、本来ならば――『神の機工』を乱す不届き者は決して許さない。……けれどね。北欧の神々は、私たちとは全く異なる理(ことわり)で巡る異形の存在だもの。それに、あのテティスちゃんの右往左往っぷりも、見ていて実に面白いじゃない?』

 

面白い、ね。

この子を採用したときも、そう言っていたわね。

確かに、お菓子の箱を運ぶのにあんな力が出るとは思わなかった。頼まれたシフトを埋めて、足りない旅費を計算して。働き者だったわ。

 

あまり悪い結末にはしたくない。

 

『テティスちゃんを日本で拾って保護したのは、海界(ポセイドン)の動きを監視するためでもあったけれど……。沙織ちゃん(アテナ)に、一報を入れておいた方がいいかしら?』

 

『現状、どちらに転ぶとも思えないし、まずは様子を見ましょう。あちらの北欧の男たちも、私が彼らの正体に『気づいている』ということには気づいていないようですしね』

 

あちらも、静かに済ませたいのね。

日本から来た会社の社長。その顔で通してくれるのなら、こちらも余計な挨拶は控えましょう。

 

『……そうね。あの子たちが、神域である『日本』に手を出さないというのなら……私は静観するわ』

 

『あら? 最悪の場合、海界と聖域が全面戦争になっても気にしないと?』

 

遠いわね。うちの工場も社員も、日本にいる。そこへ被害を持ち込まれるのは困るけれど、世界中の神々の喧嘩に付き合うつもりはない。

 

『――翔子が気に病まないなら、別に構わないわ』

 

『くすくす……怖いお姉様ねぇ。アイオロスを夫にしている翔子が、いざ聖戦となった時にどう出るか……見ものね』

 

見もの、で済ませないで。

翔子は子供の頃から、放っておけば自分のことを後回しにする。家族が傷つくとなれば、止める暇もなく飛び出すでしょう。あの子の夫も、娘も、きっと同じ。

 

なら、巻き込まれる前に私が気づかないと。

 

「……家族の平穏を乱す者は、神であろうと容赦はしないわよ」




【アッシュの用語集】

■臨時助手兼看護師テティス
アンドレアスの助手という名目で、正式にワルハラ宮へ入ることになったテティス。

身分証も本物。

正門から堂々と入場できる。

ここまで来るのに二ヶ月以上。

正門通過にかかった時間、数十秒。

人生とはそういうものだ。

■両星響子
日本で菓子製造会社を経営する女性。

テティスの勤務先の社長でもある。

今回、置き引きに遭った社員を助けるため、自ら北欧までやって来た。

パスポート再発行の手配。
活動資金。
現地への救援。

海界。

社員福利厚生で負けているぞ。

■ヴィーナス
響子と肉体を共有する、美と愛を司る女神。

北欧を訪れるのは約千年ぶりらしい。

グリムとアンドレアスについても、普通の人間ではないことには気づいている。

互いに正体を隠しているつもりの神々。

面倒だから、できれば静かにしていてほしい。

■アンドレアスの往診
宮廷医師アンドレアスがワルハラ宮へ定期的に赴くこと。

今回はテティス、響子、グリムも同行。

門番からすれば、

「いつもの宮廷医師と、その同行者」

テティスが必死に用意した身分証?

確認されなかったらしい。

■神の機工
神々が世界へ干渉するために築いた仕組み。

オリンポス十二神にとっては、その秩序を乱す存在を看過できない場合もある。

ただし北欧の神々は、また別の理に属するらしい。

神の世界も、統一規格ではないということだ。

■テティスの密命
ヒルダへ接触し、海皇ポセイドンへの協力を取り付けること。

ようやくワルハラ宮へ到着。

あとは本人へ話をするだけ。

……なのだが。

テティス。

どうやって話すか、今から考えているのか?

■家族の平穏
響子が何より守りたいもの。

神々同士が争おうが、本人は積極的に関わるつもりはない。

だが家族へ被害が及ぶなら話は別。

神より家族。

俺は、その考え方を支持する。
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