聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
歓喜する海将軍たち!
しかしジュリアンの目に映ったのは――怪しすぎる宗教団体!?
地上侵略か、それとも聖戦開始か!
海皇の第一声が、海界の運命を変える!
君は、小宇宙を感じたことがあるか!
海は青い。
よし。普通の景色だ。波も雲も、私の知っている地中海に見える。妙な光はない。手すりも白い。
朝食を終えて外へ出たのは正解だった。
人の顔を見るのに、あんなに神経を使うとは思わなかった。光から目を逸らせば、話を聞いていないように思われる。
おかげで、何を食べたのかよく覚えていない。
「ジュリアン様……その……体調の方は、本当によろしいのですか?」
見抜かれていたか。
誰にも気づかれないよう、矛を静かに置いたつもりだった。朝食の受け答えも間違えていないはずだ。
心配をかけたな、バイアン。
「……ふっ、お前には敵わないな、バイアン。実はな……先ほどあの矛に触れてから、少々目眩がしてな」
「!! 大丈夫でございますか!? どうか私の肩をお貸しいたしましょうか!?」
慌てなくてよい。自分の足で立てるし、手すりに掴まっているのも眺めがよいからだ。
しかし、ありがたい。面接で感じたとおり、よく気のつく男だ。
「いや、少し風に当たれば落ち着くさ。……さて、バイアン。私としては、なかなか困ったことになったらしいのだ」
「困ったこと……でございますか?」
話してよいものか。
父上には言いにくい。叱られた直後なのだ。さらにおかしな話を持ち出せば、屋敷から出られないどころか、一人になる時間もなくなるかもしれない。
この男なら、まず話を聞いてくれるだろう。
「うむ。……笑わずに聞いてくれよ?あの三叉の矛に触れた瞬間から……私には、人間の内に秘められた生命エネルギー……とでも呼ぶべきなのか? そのような不思議なオーラが見えるようになってしまったのだ。バイアン、お前の体にも、常人とは明らかに異なる荒れ狂う大波のようなものが見える」
「はっ……!」
やはり驚くか。
今、向かい合っているお前の姿を見て、こうして平静に喋っているのが不思議なくらいだ。背後の海より、お前の中の大波の方が激しい。
もっと驚く話もある。
口にした途端、笑い飛ばしてもらえたら、少しは気が楽になるかもしれない。
「そして何より……頭の中に流れ込んできた記憶によれば、私は太古の神――海皇ポセイドンの生まれ変わりだというのだ。……はは、我ながら何を馬鹿げたことを言っているのかと。忘れてくれ」
「ポセイドン様ーーーーッッッ!!!!」
何っ。
目の前から顔が消えた。両膝が床についている。
こちらを見上げようともしない。
「あ……ひ、跪いた……!? え、お前、本気なのか……!?」
「海馬(シーホース)のバイアンにございます!ポセイドン様のご復活……このバイアン、誠に嬉しく、魂の震える思いでございます!!」
……冗談ではなさそうだ。
「海馬とは……あの、水族館にいるタツノオトシゴのことか?確かに愛嬌があって可愛らしい生き物だが……お前のその体格には少々似合わんな」
「い……いえ!! 断じてタツノオトシゴなどではございません!!神話において天馬ペガサスと並び称される、海を翔ける幻獣の――!」
わかった。そこは大事なのだな。
この取り乱し方。用意した台詞を読んでいるようには見えない。
……宗教か。それも、私を神に仕立てるつもりの。
それとも私の方がおかしくなったのか。重圧で疲れ果て、神になったつもりでいる。
今、この男の言葉も、自分に都合よく聞き違えているのかもしれない。
だがカルトならば、欲しがる理由には事欠かない。
側近として近づき、判断を狂わせ、最後に何を要求する。
こちらの可能性の方が、よほど現実的ではないか。
お前は選ばれた人間だ。特別な力がある。その証拠を見せてやろう。
なるほど。あの三叉の矛を屋敷へ運び込んだのも、この男だったな。触れた直後の目眩。覚えのない記憶。そして、相談した途端の平伏。
話が出来すぎている。
神の生まれ変わりだと私に信じさせて、寄付の書類に署名させるのか。海を救うためと称して、船舶や港湾施設を差し出させるのか。父上に反対されたら、神の使命を理解しない者だと教えるつもりか。
財産も信用も使える。私自身に命令させれば、責任も私に押しつけられる。
……随分と欲張りなカルトだな。
思い返せば、海の神を名乗るメールには、潜入や同盟の話があった。単なる私の寝ぼけた文章では済まない。送信先に人がいて、指示を待ち、実際に動いている。
これは…組織だ。しかも、私の知らないところで私を担ぎ上げている。
……なるほどな。
バイアンは本気だ。この男自身、深く信じ込まされている可能性がある。
あの論文も、学歴も、採用担当者の照会を通っている。能力は本物だ。
その能力を、こんな勧誘に使わされているのか。
お前に入れ知恵をしたのは誰だ。
「で……海馬のバイアンよ。お前は、私にどうせよと言うのだ?」
「はっ! ポセイドン様におかれましては、直ちに本来の御坐所である『海底神殿』にお越しいただき、軍勢をご統率くださればと……!」
あの記憶の中にあった場所か。珊瑚と柱。海に覆われた都市。なぜ同じものを知っている。
いや、順序を逆に考えろ。あれを私に見せた者がいるなら、同じ名を口にしても不思議はない。
軍勢という言葉は聞き捨てならない。武器を持った集団を、私の名で動かす気か。そんなことを許せば、ソロ家の信用はどうなる。
聞けば聞くほど怪しいものよ。家族や世間の目が届かない場所へ、信者を集めているのではないか。
そこへ、私を連れていくと。だが、知らない間に私の名前で軍勢を集められているのなら、放っておけない…か。
現場を見る必要があるな。相手の拠点へ行くのは危険だが、何も知らずに帰すわけにはいかない。今のところ、私を害する様子はない。私を神として扱うのなら、その立場を使わせてもらおう。
それにしても、海底か。さぞ湿気がひどいのだろうな。不快指数もうなぎ上りであろう。
◇◇
ひどかった。予想が当たって、これほど嬉しくないことも珍しい。
空気が重い。襟元が汗ばむ。指を入れて浮かせたいが、着せられた鎧が邪魔で仕方がない。
鱗衣というそうだ。
金属なら肌から離れていてくれ。なぜこんなに張りつく。歩くたびに内側の布がまとわりつき、立ち止まると背中に汗が溜まる。
見栄えは立派だ。だが機能は疑わしい。
これを着せて大勢の前で神と呼べば断りにくいと?
状況を作ってから、教祖の役目を引き受けさせるつもりか。
私はまだ何も承諾していないぞ。
上を見れば海水がある。建築技術には感心する。どうやって水圧に耐え、空気を供給しているのか、設備の担当者に聞いてみたい。
この建物に、いくら注ぎ込んだ。寄付か。献金か。兵士たちの家族から集めた金か。
しかしこの湿度で来客を迎えるつもりか。私は既に帰りたいぞ。
思考は冷静だ。神になった気もしない。鎧を脱いで乾いた服に着替えたい。この不快感は、妙な暗示よりよほど強いわ。
「クラーケンのアイザックにございます。ポセイドン様のご覚醒、心より寿ぎ申し上げます」
ああ、知っている。
人事部から2か月前、正式採用の報告があったパライストラの卒業生。
父上の警護を担う幹部候補。友人を救って負ったという顔の傷も、報告で聞いている。
……なぜここで膝をついている。
姿勢がいい。挨拶も明瞭。目を見れば、こちらへの敬意に疑うところはない。
だからこそ痛ましい。
もっと別の場所で、その力を役立てられるだろう。正規の職を得たのに、洗脳されているとは…。
待て。二人とも、ソロ家へ応募してきたのだったな。
偶然、同じ信仰を持つ者が採用されたという話ではなさそうだ。
計画的に送り込まれたのか。
採用試験に合格したことも、今は安心材料にならない。優秀な若者を選んで、資産家の家へ潜り込ませる。潜入に必要な教育も施しているのなら、思った以上に組織立っている。
父上の周囲も調べ直した方がよさそうだ。
「へへっ……リュムナデスのカーサでございやす……。あっしもポセイドン様のために、骨の髄まで働かせていただきやすぜ……」
こちらも知っている。
国際指名手配だ。採用面接の途中で発覚して。警備員を呼ばれ、窓から逃走した男だ。
人事の報告書を読んでおいてよかった。話を聞いていたら、うっかり屋敷へ連れ帰るところだ。
骨の髄から働く気があるなら、まず警察へ行って話をしろ。
しかも、指名手配犯を匿っているのか。この神殿は。
世間で追われる者を取り込み、こちらに尽くせば居場所をやると言う。逃げ場所を失った男なら、都合よく使えるだろうな。
ますます健全な信仰団体には見えなくなってきた。
いきなり捕らえさせるより、他の者を離してから対処する方がよいか。
「クリュサオルのクリシュナにございます。この槍に誓い、我がクンダリーニの炎をもって神敵を討滅いたしましょう」
あの男か。
面接で宇宙の真理を語り始めたという、あの。
上半身は裸。槍を持ち、座禅を組んでいる。報告書の表現が大袈裟だったわけではないと、今、よくわかった。
反対する者は神敵。傷つければ功績か。
こんな言い分で暴力を正当化する組織に、私の名前を貸せるものか。
法律が消えるつもりでいるのか。
さらにその後ろに並ぶ大勢の兵士が皆、こちらを見ている。
…その期待に満ちた顔はやめてくれ。私は君たちを率いて世界をどうこうする気などないのだ。
「……バイアンよ。お前は我が最も信頼すべき忠臣だな」
「はっ!! もったいなきお言葉、ありがたき幸せにございます!!」
ここで話が通じそうなのは、お前とアイザックなのだ。
学歴や教養を見て採用した判断は間違っていない。
ただ信じているものに、相当な問題があった。
まともな指示を与えれば、まともな仕事をする。そう信じさせてくれ。
まずは、誰にとっても必要な改善から始めよう。
座面を確かめて玉座に腰を下ろす。背を預けると、また鎧が肌に貼りついた。
もう我慢ならん。
「――全軍に命ずる。海皇として、最初の勅命を下す」
「ははっ……!!」
よろしい。神の言葉なら聞くというのだな。
では、その神から生活環境を改善しろと命じてやる。戦えと言われるつもりで待っていたのなら、期待外れで結構だ。
「直ちに――業務用の大型除湿機を、この神殿に最低二十台搬入せよ」
「………………は?」
「聞こえなかったのか? 除湿機だ。湿度八十パーセントを超えた空間など、神の居住環境として断じて認められん。カビと錆の原因にもなる。この空間にこれ以上いるのは不快で耐えられんのだ。大至急手配せよ」
「は……ははっ!! ただちに最新の除湿機を取り寄せます!!」
よし。通じた。
肩書も、設備の更新には便利らしい。予算会議を開く必要も、誰かの承認を待つ必要もない。
結構。祈ってカビが消えると思い込まれるより、よほどよい。
床へ目を落とす。硬い石畳。その端に、寝具らしい物がまとめて置いてある。
まさか、そこで寝ているのか。
兵士たちの顔を見ると私の視線を受けるたび、背筋が伸びる。誇らしげな者もいれば、何か叱られるのではないかと身構える者もいる。
この男たちの生活を、誰か考えていたのか?
湿った床で眠り、食事も休みも十分ではない。給料を尋ねれば、当然のように無給だという。
そんなことがあるか。
信仰心を理由に人を働かせ、生活を保障しない。離れようにも、外での仕事を知らない。ここを出た後に住む部屋もない。
これでは逃げられないだろう。
苦しさを訴えたら、信仰が足りないと叱られるのか。
地上で働きたいと言えば、裏切りになるのか。
さっきから、誰も待遇に文句を言わない。
私が暑いと不満を漏らしただけで、驚いて顔を上げていた。
暑ければ暑いと言え。腹が減ったら飯を求めろ。眠る場所くらい、まともなものを要求してよいのだ。
それを神への不敬と結びつけるなら、その教義の方がおかしい。
除湿機を入れて終わりにするつもりだったが、気が変わった。
ソロ家には仕事がある。庭園の整備も、港の警備も、倉庫の荷役も、人手が足りないと聞いている。この体格なら、得意な仕事も見つかるはずだ。
君たちは地上へ来なさい。
ここで神はいないと説教したところで、反発されるだろう。
先に住む場所と収入だ。神殿を出たら生きられないという不安をなくす。
信仰について考えるのは、食べて、眠って、自分の暮らしを選べるようになってからでよい。
少なくとも、今夜は乾いた寝具で眠らせよう。
◇◇
乾いた服。地上の空気。日の光。
ありがたい。
作業着を気にしながら、後ろの男たちが身じろぎしている。
鎧を脱ぐだけで随分と印象が変わる。武装集団として見た時より、ずっと年若く感じた。
「ジュリアン様……? この、異様なほど体格の良い若者たちは、一体……?」
「ああ。街を歩いていたところ、職にあぶれて劣悪な地下で困窮していた者たちでな。バイアンとアイザックの推薦だ。彼らを我がソロ家の庭園管理、港湾警備、倉庫の荷運びなどの下働きとして、正規雇用で雇い入れてやってくれ」
「おお! あの優秀なバイアン様とアイザック様のご紹介ですか!それでしたら身元も確かでしょう。人手不足でしたので大いに助かります!」
採用された二人の評価は高い。
本人たちも少し誇らしそうだ。よいことだ。神への忠義を褒めるより、仕事の能力を認められる方が、これからの生活には役立つ。
残りの者には、雇用条件を説明してもらう。最初は直立したまま聞いていたのが、寮の話になると顔を見合わせ始めた。
「し、社会保険完備……!? 有給休暇まで……!?石畳で雑魚寝させられていた俺たちに、温かい社員食堂と個室寮が……!?ポセイドン様……いや、ジュリアン坊ちゃん万歳ーーーッッッ!!」
喜ぶのはよいが、もう少し静かに。父上が驚かれる。
……泣くほどか。
別に屋敷を一軒ずつ与えたわけではない。働く場所と食事と寝床を用意したのだ。
ソロ家の従業員には、同じ条件で勤めている者が大勢いる。
それが、この男たちには夢のような話なのか。
連れてきてよかった。
◇◇
海底にいた末端の兵士は、全員引き取った。今夜、あの石畳で寝る必要はない。
これからは働いて、給料を受け取り、好きな食事や買い物に使えばよい。
休みには出かけることもできる。
世界のすべてが海でできているわけではないと、自分の目で知ってほしい。
ただし、カーサとクリシュナは別だ。
指名手配犯を紹介して、身元は確かですとは言えない。
もう一人も、気に入らない相手を神敵と呼んで槍を向けるようでは、港へ出すわけにいかん。
まずは神殿の床掃除。届いた除湿機のフィルター清掃。その二つを命じて残してきた。
あの二人の処遇は、改めて考えねばならない。
特にカーサの件を、掃除で済ませる気はない。
今日は大勢の生活を変えることを優先した。
二人にも、こちらの指示に従って大人しくしていてもらう。
やるべきことは多い。
父上に説明する事項も増えた。
急に雇用を増やした理由、配置する部署、必要な費用。そこは私が引き受けよう。
そしてセラフィナ。この人物のことを忘れてはいない。
履歴には、二か月分のメールが残っている。危険な相手の身辺へ入り込み、条件を示されないまま交渉を求められていた。現場の判断で動けば責められ、動かなければ進捗を尋ねられる。
さきほど見た待遇と、まるで同じではないか。
同盟交渉という名目で、他国の宮廷にも入り込ませている。
ソロ家に二人、アスガルドにも工作員。
このカルトは、一体いくつの家や組織へ手を伸ばしているのだ。
セラフィナは何を知らされている。交渉に失敗した時、誰が責任を取ると聞かされている。
まさか、神の使命だから命を捧げろ、と言われているのではあるまいな。
働く者の事情を考えず、忠誠心に甘えて使い続ける。
衣食住を整えることも、まともな指示を与えることもせずに。
……私自身で確かめねば。
これ以上、素性の知れない幹部の指示を待たせるわけにはいかない。私が会いに行こう。
コートを羽織る。地中海では少々厚いが、行き先は北欧だ。
海の神は寒いのを好まないという、あの馬鹿げたメールを思い出す。
勝手な話だ。
「さて……準備をせよ、バイアン」
「はっ! ……して、どちらへ赴かれますか?」
「極北――アスガルドへだ」
「ご、御自ら……! 海皇自ら、北欧の地へ進軍あそばされるのですね!!かしこまりました! 直ちにプライベートジェットを手配いたします!!」
進軍ではない。
会いに行くのだ。二か月も私へ助けを求め続けた者に。
恐らくは、幹部の誰かに唆されたのだろう。重要な使命だ、神のためだと言い聞かされて、逃げ出すこともできずにいる。報告の文章から、頭の悪い人物ではないはずだ。
もっと別の仕事を選べる。
お前がいなくなれば神がお怒りになる、などと言う者がいるなら、私のところへ来させろ。そいつらの言う神は私なのだろう。
私が帰ってよいと言っているのだ。反論できるものならしてみるがよい。
女官として宮廷で働けるほどなら、ソロ家にも勤め先はある。交渉事に通じているのなら、事務や渉外に向いているかもしれない。本人の希望を聞いて決めればよい。
海皇ポセイドンだと……? ギリシャ神話フリークの阿呆どもめ。
私の目の黒いうちは、そのような誇大妄想の与太話で美しい海を汚されてたまるか!
◇◇
……そういえば。
あの都市は大きかったな。
広い回廊も、高い柱も、頭上を覆う海も、幻とは思えなかった。
建設費はいくらだ?工事用の資材は、どの港から搬入した。あれほどの施設なら、施工した企業の実績として大々的に発表できるはずだ。
秘密保持契約か。
宗教団体名を出さず、別会社を通して発注したのかもしれない。
あの神殿の規模なら、建設費の出どころも相当に怪しい。
なるほど。発注主に問題があれば、公表を差し控えることもあるだろう。
技術者たちに責任があるとは限らない。
「……しかし、あの巨大な海底都市の免震構造と海水循環システム……。大林組か鹿島建設あたりが極秘裏に受注した、日本の最新土木技術なのだろうか……?」
【アッシュの用語集】
■ジュリアン・ソロ
世界的海運財閥、ソロ家の御曹司。
十六歳にして海皇ポセイドンの記憶と力が目覚め始めた。
本人は、自分が怪しい宗教団体の教祖に祭り上げられそうになっていると考えているらしい。
…………。
どうしてそうなった。
■海底神殿
海皇ポセイドンの本拠地。
海底に築かれた、壮大な神話の宮殿だ。
ただし、湿度が非常に高いらしい。
……海皇軍。
施設管理はどうなっているんだ?
■大型除湿機二十台
今回、ジュリアンが海皇として最初に下した勅命。
湿度八十パーセント超の居住空間を改善するため、業務用除湿機を大量導入するというもの。
…………。
いや、正しい。
俺も聖域に初めて来たときにはあまりの埃っぽさに嫌気がさしたものだ。
■海皇軍の労働環境
今回、末端兵士たちが無給で勤務し、海底神殿の石畳で雑魚寝していたことが判明した。
……何をやっているんだ。
最低限の生活保障くらい整えてやれ。
信仰心は給料の代わりにならんぞ。
■ソロ家への再就職
ジュリアンの判断によって、海底神殿の末端兵士たちがソロ家で正式に雇用されることになった。
社会保険。
有給休暇。
社員食堂。
個室寮。
……普通にいい職場じゃないか。
海界の兵士たちが泣いて喜ぶのも無理はない。
■カーサとクリシュナ
今回、ほかの兵士たちとは別に神殿へ残された二人の海将軍。
カーサは国際指名手配。
クリシュナは、神敵への暴力を当然のように宣言した。
ジュリアンは二人に清掃業務を命じたうえで、今後の処遇を検討するらしい。
……まずは社会常識を教える必要がありそうだな。
■セラフィナ
アスガルドで女官として働く女性。
ジュリアンは、危険な宗教団体に使い走りをさせられている被害者だと考えている。
そのため、現地へ赴いて直接救出するつもりらしい。
……救出?
いや、待て。
そもそも彼女は――。
■日本の建設技術
ジュリアンが海底神殿の建築構造を見て思い至ったもの。
どうやら、秘密裏に発注された現代の巨大土木工事だと推測しているらしい。
…………。
日本のゼネコンの技術力を評価してくれるのはありがたい。