聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

25 / 199
伝統と格式が支配する聖域の政庁――
そこに渦巻くは、見えざる悪意と陰湿な抵抗。
正義の白銀聖闘士・アッシュは、
革命の小宇宙を燃やし、
いま腐敗の闇へ真っ向から立ち向かう!

迫りくる文官たちの陰謀、
笑顔の裏に潜む罠、
揺らぐ聖域の未来を賭けた「情報戦」の幕が、いま上がる!

次回――
「聖域腐敗!?悪意渦巻く政庁にアッシュの正義が舞う」

君は、小宇宙を感じたことはあるか?


聖域腐敗!?悪意渦巻く政庁にアッシュの正義が舞う

(アッシュ視点)

 

 

転機は、唐突に訪れた。

 

 聖域の政務庁舎。ギリシャ様式の巨大な会議室。大理石の長テーブルの向こう、いかにも年季の入った書記官長たちがずらりと並ぶ。真ん中に座すのは、文官たちの“頂点”、文官長――白髪に鷲鼻、目尻には深い皺を刻んだ、知恵と権謀の体現者のような男だ。

 

 その席にはサガとアイオロスも同席していた。サガは双子座の黄金聖闘士、アイオロスは射手座――いずれも若きエリートだが、今日は「ロドリオ村近代化プロジェクト」の進捗報告を兼ねた予算監査ということで招集されていた。

 

 ――僕は、招かれたのではなく「呼びつけられた」側だ。

 

 文官長の鋭い声が、会議室に響いた。

 

 「杯座のアッシュよ。貴殿が申請したロドリオ村の予算案だが、計算に著しい齟齬が見られる。これでは横領の疑いすら持たれかねんぞ」

 

 周囲の文官たちが「うむ」「不届きな」と頷く。

 サガが一瞬険しい目をするが、ここは政の場――下手な感情論は逆効果だ。

 

 これが単なる数字の間違いならまだしも、横領という単語は僕にとって侮辱以上のものだ。

 だが今の僕は、怒りに任せて返すほど幼くはない。

 

 「ご指摘、ありがとうございます。では――この場でご一緒に、検証いたしましょう」

 

 静かに告げると、僕は聖衣の肩のポートに手を当て、小宇宙を流し込む。

 空中に淡い光のディスプレイが浮かび上がり、まるで現代のホログラムスクリーンのように数字とグラフが広がる。

 

 「ご覧いただいているのは、私が申請した本年度のロドリオ村事業予算案です。齟齬がある箇所をご指摘いただけますか?」

 

 文官長は訝しげに眉をひそめ、隣の補佐官に目配せする。

 「ここだ。ここの設備費が――」

 「はい、それは材料費の仕入れ先ごとの変動を加味した上で、為替レートまで反映させた結果です」

 「しかし、ここの労務費が――」

 「労働契約ごとの時間外・深夜手当も明細に含めて算出済みです」

 

 一つ一つ、理詰めで即答していく。

 「それよりも」と僕は口調を変えた。

 

 「本案件の“齟齬”は、すべて小数点以下の丸め誤差か、期中での物価変動に伴う微調整です。システムが自動記録していますから、操作や虚偽記載の余地はありません」

 

 空中スクリーンに、僕が作成したデータベースのバックアップ履歴と電子署名が映し出される。

 

 

 

 文官長の顔に焦りの色が滲む。

 「……しかし、過去の前例を見ても、これほどの予算が動く事業は――」

 「前例については、こちらをどうぞ」

 

 僕はもう一枚、空間にウィンドウを開いた。

 それは聖域全体の、過去数十年分の会計記録、人事データ、物資の受発注履歴――

 「再現」能力は、技だけでなく“情報”にも及ぶ。

 僕はこの数ヶ月、聖衣の量子回線で、膨大な行政情報を解析しつくしていた。

 

 「ご覧いただけますか? こちらは文官室のパピルス年間購入費。過去10年で17%も価格が上昇しています。市場相場と比較すると、明らかに乖離していますね。ご担当者にお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

 ざわつく文官たち。

 「いや、それは……時世柄だろう」

 「もちろん市場価格は変動します。ただ、同じ業者から、同じ品目で、他部門より割高な取引が続いています。調達ルートのご説明、お願いできますか?」

 

 ――文官長の顔が、一瞬で凍りついた。

 

 

 

 僕はさらに畳みかける。

 

 「ついでに。文官各位の超過勤務手当の申請記録も最適化させていただきました。申請の重複、業務フローの無駄、記載ミス――すべて自動で検出し、必要予算を算出済みです。年間でこれだけの経費削減が可能です」

 

 空中に、ビフォー・アフターのグラフが輝く。

 

 「浮いた予算は、雑兵の鎧の修繕費や、基礎インフラの強化に充当してはどうでしょう。現場の士気向上、そして――教皇様の理念にも適うと考えます」

 

 静かな会議室に、どよめきが広がった。

 アイオロスが思わず小さく拍手しそうになるのを、サガが制する。

 

 

 

 文官長は、もはや反論の余地をなくしていた。

 

 「……若造が、何を――」

 「証拠をもとに議論しましょう。全ての情報はこの場で公開可能です。聖域の発展、そして皆様のご尽力が正当に評価される仕組み作りこそ、私の願いです」

 

 この瞬間、会議室の空気は一変した。

 

 「正しいことを正しく行う」

 たったそれだけのことが、これまでどれほど困難だったか――

 僕は聖闘士としてだけでなく、“組織の一員”としても、やっと初めて本当の意味で“認められる”道筋が見えた気がした。

 

 会議が終わったあと、アイオロスがぽつりと呟いた。

 「君の強さは、拳だけじゃない。アッシュ――本当に、聖域を変えられるのは君かもしれないな」

 

 サガも、珍しく無言で肩を叩いてくれた。

 静かな連帯感。孤独ではないと、確信できる瞬間だった。

 

 外に出ると、空は聖域の青。

 “伝統”も“格式”も、守るべき価値はある。

 だが、腐敗や怠慢まで守る理由は、どこにもない。

 

 僕は、杯座の聖衣にそっと手を添えた。

 「――次は、どの“アップデート”をやろうか?」

 

 聖衣が一瞬だけ、誇らしげに輝いた。

 

 

 

 

 

(サガ視点)

 

 

聖域の政庁廊下に、陰鬱な沈黙が満ちている。

 

 それは、杯座のアッシュが情報戦で圧勝してから始まった。

 文官たちの露骨な嫌がらせは、いまや姿を消していた。

 代わりに聖域を支配するのは、「何もしない」という、これ以上なく巧妙で卑劣な抵抗だった。

 

 会議のたび、僕の手元には膨大な未処理の書類。

 教皇様が新たな防衛計画のため、かつての戦闘データを要請すれば、「本日より神話時代の巻物の虫干しを行いますので、書庫は半年間ご利用いただけません」――

 辺境村への支援物資も、なぜか「承認手続き」の山に埋もれ、どこかで消える。

 

 彼らは、誰も表立って逆らわない。

 “従順に”、しかし“完全に”、聖域という組織の心臓部たる潤滑油であることをやめてしまったのだ。

 

 

 

 ――卑怯だ。

 戦士なら、正面から殴り合え。

 命令が気に入らぬなら、剣を抜け。

 それが聖闘士の、いや「男の」矜持ではないのか。

 

 しかし、文官たちは剣も取らず、刃も見せず、ただ組織の“静脈”を締め付けるだけだ。

 誰も咎められず、誰も責任を取らない。

 だが、組織全体が、じわじわと死にかけていく。

 

 苛立ちが、心の底で渦を巻いていた。

 

 ――アッシュがここまでしてくれた。

 アイオロスだって、己の信念と現実の間で苦しんでいる。

 なのに、この連中は――!

 伝統の名の下に、ただ自分たちの安楽な「昨日」を守りたいだけじゃないか!

 

 

 

 昼下がり、ロドリオ村の集会所。

 僕は拳を握りしめていた。

 

 「……どうしたの、サガ?」

 アッシュが、ノートPCから顔を上げる。

 「いつもより小宇宙がギラギラしてる」

 

 「……大丈夫だ。ただ、ちょっと、頭を冷やしに行くだけだ」

 

 足早に村外れの丘へ。

 空を見上げる。

 青く澄み切った夏空――だが、僕の心には真っ黒な炎が渦巻いていた。

 

 

 

 (殺してやりたい)

 

 ――瞬間、自分の心から漏れたその言葉に、体が震えた。

 僕の中にいる「もう一人」が、鋭く微笑む。

 

 (ほら、悪サガ。お前は「秩序」の名の下に、何でも出来る男だろう?

  邪魔な石ころは、全て片付けてしまえばいい――)

 

 違う。

 そんなこと、僕は――

 

 (だが、あいつらは“敵”だぞ?

  聖域を停滞させ、人々の命を危険に晒す連中だ。

  お前は正しい。お前の怒りは、“聖域の未来”のためなんだ)

 

 止めろ……。

 

 (なぜ止める?アイオロスやアッシュなら、やがて許すさ。

  教皇様さえ、最終的にはお前の“結果”だけを求める。

  「悪」は、お前の“覚悟”の証明だ)

 

 「……やめろッ!」

 

 気がつくと、声が漏れていた。

 

 丘の風が、髪を揺らす。

 手のひらには、深く爪が食い込んで血が滲んでいる。

 

 ――違う。

 僕は、絶対にこの手で味方を討ったりしない。

 どんなに腐っていても、どんなに憎んでも……

 僕は、“サガ”でありたい。

 

 

 

 村へ戻ると、アッシュが「飲み物でも」と差し出してきた。

 彼のサングラス越しの視線が、全てを見透かしているようで――

 僕は、ようやくため息をついた。

 

 「なあアッシュ。……僕、どうしたらいいんだろうな」

 

 「何を?」

 

 「……“敵”は、戦えば倒せる。でも、“組織”そのものが敵に回ったら、もう正しさだけじゃ駄目なんだなって」

 

 アッシュは首をかしげる。

 

 「戦士の世界じゃそうかも。でも、僕たちは“文明”の側に立ったんだよ。あの文官たちも、“昨日の正しさ”の亡霊で生きてるだけさ。

  ……サガは、サガのままでいい。僕も、サガの中の“影”も、全部ひっくるめて味方だから」

 

 小さく、笑みがこぼれた。

 

 たぶん、もう少しだけ戦ってみよう。

 この、前例と手続きの怪物どもに、僕たちの「新しい明日」を、正面からぶつけてみよう。

 

 ――たとえ自分が「影」であっても、信じてくれる友がいる。

 それだけで、まだ闘える。

 

 

 




アイオロス「なあ、サガ。やっぱり思うんだ。伝統は、守るべきものだよな?」

サガ「ああ。伝統がなければ、聖域も、俺たちも、形にならなかった。」

アイオロス「でも……アッシュが動き出してから、何かが変わった気がするんだ。
みんな、もう“昨日”のままじゃいられないって、どこかで感じてる。」

サガ「革命とは、過去を否定することじゃない。
必要なのは、“守るべきもの”と“変えるべきもの”を、見極める勇気だ。」

アイオロス「伝統と革命、どちらも簡単じゃないな。」

サガ「だからこそ、俺たちが両方を見つめて歩くしかない。
……アッシュの正義も、聖域の誇りも、決して消さないために。」

アイオロス「そうだな。さあ、明日も胸を張って行こうぜ――“新しい聖域”のために!」

大きな章ごとに新しい作品として分けて投稿しますか?それとも今まで通り一つの作品として連載し続けますか?

  • 一作品として連載してほしい(今まで通り)
  • 章ごとに作品を分けてほしい・十二宮編など
  • どちらでも良い/お任せします
  • その他(ご意見があればコメント欄で!)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。