聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
今、聖域に新たな嵐が吹き荒れる!
ギリシャの地を揺るがす「血」と「誇り」をめぐる最終討論。
杯座のアッシュに突きつけられたのは、古より受け継がれる民族の“壁”――
「異邦人よ、聖域を統べる資格はあるのか?」
求められるのは、血か、魂か。それとも、新たな“答え”か。
歴代最強の教皇シオン、黄金聖闘士サガとアイオロス――
彼らの胸に去来するのは、時代を変える勇気か、それとも守るべき伝統か。
全てを賭けた公開討論の幕が、いま開く!
聖域を照らす小宇宙は、果たして“誇り”を超えるのか――!?
次回――「血と魂の聖域――ギリシャの誇りを賭けた最終討論」
君は、小宇宙を感じたことがあるか?
この数日、聖域は静かな激動の時代を迎えていた。
ヘファイストス・ラビュリントスの迷宮を解決したアッシュの登場は、僕たち若い世代の聖闘士――特に僕自身――にとっては、希望であり、新しい時代の幕開けに思えた。
実際、アッシュの改革がロドリオ村で生んだ奇跡は、あの頑迷なシオン様ですら公式に認可せざるを得なかったほどだし、何よりも彼のセブンセンシズの覚醒は、聖域中に衝撃を与えた。今や彼は、伝説級の“資格”すら手にしている。
なのに――いや、だからこそ、文官たちは新たな切り札を繰り出してきたのだろう。
彼らが選んだのは「血」だった。
“ギリシャの地にはギリシャ人を”。
“ヘレネスの魂こそが、聖域を守護する唯一の資格”――。
最初は、ごく控えめな噂話だった。
「まあ、アッシュ様の手腕は素晴らしいが、やはり聖域の根幹を任せるとなれば……」
「ギリシャの神々の土地は、ギリシャ人の手で……」
それは、雑踏の中で、夜の衛兵詰所で、酒場で、絶え間なく囁かれた。
僕は、こういう空気に敏感だ。
なぜなら、僕自身が、「正統なるギリシャ貴族の家系」として、聖域で育てられてきたからだ。
だが、その血に誇りを感じると同時に、冷ややかにも思っている。
人は伝統や家柄の“名の下”にしか、自信や居場所を得られないとき、簡単に排他的になる。
それは「正義」でも「信仰」でもない。
ただの弱さだ、と僕は知っている。
アッシュの改革が加速し、ついにセブンセンシズまで手にした今、文官たちは最後の一線を越えようとしていた。
「あの男はイタリア人だ。いくら聖闘士として力を持とうと、この聖域を統べるのはギリシャ人でなければならない。古来よりそれが神の意志なのだから」と。
僕の耳にも、その囁きは幾度となく届いた。
最初は鼻で笑った。
「時代遅れも甚だしい」と。
だが、気づけばその波紋は広がっていた。
古参の戦士たち――特に先代から“家”ごと聖域に仕えてきた者たち――は、内心のどこかで、この論理に安堵し始めていた。
理由もなく感じていたアッシュへの「違和感」に、ついに名前が与えられたからだ。
それは、“外部”の者、“異物”のせいにすれば自分たちの矛盾や不安から目をそらせる、安易な救いだった。
――僕は心底、苛立った。
彼がどれほどこの聖域を変え、救ってきたかを見てきたのは、僕だ。
その全てを「血」と「国」の一言で否定するなど、聖闘士の矜持を捨てた卑劣以外の何物でもない。
……なのに。
僕自身、心のどこかで動揺している。
なぜなら、聖域に流れる伝統の重さを、僕は誰よりも知っているからだ。
僕たちが守ってきた“絆”の正体が、時に時代の進歩さえ拒む呪縛であることも――。
アッシュは、意に介さぬよう振る舞っていた。
いつものように軽口を叩き、あの底抜けの合理主義とユーモアで村人たちを沸かせ、僕やアイオロスと新しい計画を練っている。
だが、分かる。彼は間違いなく傷ついていた。
「この地に生まれていない」という“原罪”からは、どれほど才能を示そうと、どれほど魂を燃やそうと、決して逃れられないのだと知ってしまったから。
ある夜、僕はロドリオ村の丘で、ひとり空を仰いでいた。
「……サガ、君はどう思う?」
振り返ると、アイオロスが立っていた。
あの誠実な黄金聖闘士もまた、悩んでいたのだろう。
僕は口を開く。
「――許せない。アッシュは友人だ。それだけで十分のはずだ。血や国のために、彼の価値を貶めるなんて、僕には耐えられない。
だが……分かっている。これは、聖域そのものの問題でもある。いっそ、あいつが本当に“異物”として、全てを壊してくれることを願ってしまうくらいだ……」
アイオロスは少し微笑んだ。
「君がそう言うなら、きっとアッシュも救われるよ」
(シオン視点)
聖域の頂き、教皇の間に、またしても重苦しい空気が漂っていた。
「聖域要職に関する民族的純血規定制定の請願」――。
その一枚の書状は、今、私の玉座の前に置かれている。文官長を筆頭とする重鎮たちの連署付きだ。
裏では、村々や衛兵隊、古参の聖闘士の間にも根強い波紋が広がっていると報告を受けていた。請願には表立った差別の言葉は一つもない。ただ、「伝統」と「神話の系譜」を繰り返し唱え、「純粋なるギリシャ人による聖域運営」を求めるだけだ。
私は――怒りよりも、深い絶望に近い感情に襲われていた。
この地に赴任してから、私は数多くの策謀と妬みを見てきた。しかし、今回ばかりは、根の深さが違う。
人々は理屈ではなく、「血」による「正当性」を信じるとき、無意識のうちに敵味方を分け始めるものだ。
特に文官長――彼は誰よりも熱心に「ギリシャの誇り」「ヘレネスの純血」「アテナイの系譜」を語り、民衆を煽動してきた。
玉座からその演説を何度も観察したが、彼の熱弁には「信仰」よりも「執着」が滲んでいるように思えてならなかった。
なぜか――。
私は、ふと彼の経歴を再確認する気になった。
「調べてみよ」
密かに腹心の文官に命じると、数日もせずに驚くべき報告が上がってきた。
――文官長は、純血のギリシャ人ではない。彼はアメリカ合衆国で生まれ育ち、成長した後にギリシャに渡り、帰化しただけの“新参者”だった。
私は頭を抱える。
「聖域の運営をギリシャ人のみに」
――自らその資格すら持たぬ者が、誰よりも熱心に純血を唱える。
これは、滑稽を通り越して、哀れな防衛本能だ。
自らの正統性に不安があるからこそ、他者の排除によって自分の立場を補強しようとする。その心理の醜さを、私は幾度となく見てきた。
だが、歴史がそれを繰り返してきた以上、「醜いから却下」で済ませることもまた、為政者の傲慢だと私は知っている。
アッシュ――。
あの異能の青年は、確かに異物だ。だが、彼ほど聖域に新しい息吹をもたらした者はいない。
サガもアイオロスも、皆あいつに影響され、聖闘士の未来を信じて進化し続けている。
私は彼に、聖域の未来を託したい。だが、もしここで「民族純血」を退ければ、文官長の思惑通り、聖域は二分され、内乱の火種となりかねない。
だが、受け入れれば――。
私は最大の逸材を自らの手で切り捨てることになる。
神よ、なぜ人はここまで愚かに争わねばならぬのか。
(アッシュ視点)
公開討論会。
聖域最大の講堂は、普段は古代ギリシャの伝統芸能「地味な長話」くらいしか催されない場所なのに、今日は満席だ。まるで聖域対抗大運動会、もとい「排斥論決戦ファイナル」。
壇上に並ぶは、教皇シオン、ギリシャの伝統派重鎮たち、そして主役はもちろん――我らが杯座のアッシュ(=僕)と、文官長、通称“ギリシャの鉄仮面”である。
まずは文官長。
開幕早々、熱弁に次ぐ熱弁!
「聖域は、ギリシャの大地と伝統、神聖なる血脈をもってこそ守られる。外から来た者に、アテナの真意は計り知れぬ!」
……えーと、どっかの国の政治家のスピーチを倍速再生で聞かされてる気分。伝統と神話の“圧”で、会場の古参兵士たちが泣きそうになってるのが見える。ご愁傷様。
文官長、さらに続ける。
「杯座のアッシュよ、たとえ実績がいかに優れていようと、魂の根っこは変えられぬ!ギリシャの聖域はギリシャ人にこそ相応しい!」
ドヤ顔でこっちを睨んでくる。……どうも、アッシュです(冷静)。
さあ、僕のターンだ。
「皆さん、本当に感銘を受けました!文官長の祖国愛、郷土愛、ヘレネスのプライド。どこで育まれたのでしょう?」
と、ここで小宇宙の力を“合法的”に行使。
聖衣のポートから、講堂の中央に巨大なスクリーンを投影。
映し出されるは、どこかの芝生と、微妙な色合いのスウェット姿の少年。胸元には、でっかく「Harvard University」のロゴ。
「……こちら、ご本人ですよね?」
文官長の顔色が一瞬でギリシャ青からアメリカンレッドにシフトチェンジ。
会場は騒然。
「……ボストン育ち!?」「ギリシャの土の香りは?」「英語ペラペラじゃねーか!」
あちこちからツッコミが飛ぶ。何なら壇上のサガが咳払いしながら目を逸らしているし、アイオロスは“やれやれ”顔で苦笑い。
僕は続ける。
「文官長は、“自らの生い立ちを隠してまで”、この聖域のために努力されてきた!これぞ本物の“ギリシャ愛国精神”です!アメリカ出身なのにギリシャ愛、これこそ多文化共生の極致!」
ドッと笑いと失笑、そして微妙な「お前、どっちの味方だよ」的な空気。
文官長はついに「私の…アイデンティティが……」と呟いて崩れ落ちた。
教皇シオンがここで割って入る。
「……さて。文官長、貴殿の熱意は理解した。しかし、聖域の魂とは“血”ではなく、“志”と“行動”で証明されるものだ。杯座のアッシュ、その功績は誰の目にも明らか。皆の意見を聞いた上で、私が決する」
会場の緊張が解けていく。
僕は最後に一礼してから、思い切り「いいぞ!ギリシャ万歳!アメリカ万歳!インターナショナルバンザイ!」と心の中で叫んでいた。
いや正直、こんなに“歴史的瞬間”が次々と来るなんて、さすが聖域。ギリシャの空は青く、聖域の空気は澄み、会場の重鎮たちの顔はまるで“伝統”という名の漬物石。
僕?僕は壇上の端で、ただただ苦笑い。どうせ「イタリア人はパスタでも茹でてろ」くらいのノリで排斥されるんだろうな、と若干現実逃避。
そんな僕の予想を、教皇シオンは優雅に、でもズバッと裏切ってくれた。
「文官長よ」
シオン様の一声。
この人、さすが聖域のラスボス…いや、最高権威。声だけで全員の背筋がピン!と伸びる。僕も思わず背中を正した。いや、もう出番終わった気でいたんですが。
「その『ギリシャ人の魂』を重んじるという、そなたの熱意、しかと受け取った。だが、その熱意ゆえに、一つ、わしからも下問したきことがある」
ざわ…ざわ…
会場の空気が一気に張り詰めたのが分かった。僕、なんかまたとんでもない場面に立ち会っちゃってる?
「そなたの提出した請願書によれば、『聖域の要職は、純粋なギリシャ人のみに限定する』とあるな。では、文官長よ、このわしはどうすればよい?ご存知の通り、わしの生まれは、遥か東方の地、チベットなのだが」
――ド ン 引 き。
会場の誰もが思ったに違いない。
『え?教皇って…ギリシャ生まれじゃなかったの???』
僕は「いや、知ってたけど今この場で言う?!」っていう謎の感動すら覚えた。
文官長、まるで冷凍マグロのように硬直。
助けてあげたいけど僕も余裕ないし!
「きょ、教皇様!そ、それは…!教皇様は特別にございます!前聖戦を生き抜いた生ける伝説であられる貴方様が、そのような規則に縛られることなど…!貴方様は、全くの例外でございます!」
この場面、録画して後で飲み会で流したいくらいの名言連発だ。
横目で見れば、サガもアイオロスも「またか……」みたいな顔してるし。
「そうか。わしは『例外』か」
シオン様の静かな一言に、誰も逆らえない。
あー、文官長、ピンチ。こっちまで胃が痛くなるぞ…。
「ならば、もう一度問おう、文官長よ。そなたの言う『聖なる規則』とは、一体何なのだ? チベット生まれの教皇は『例外』。アメリカ生まれの文官長も、おそらく『例外』。しかし、ヘファイストスの迷宮から聖域を救ったイタリア生まれの英雄は、『例外』ではない、と。…どうやらその規則は、伝統や血筋のためではなく、ただ、そなたの都合の良い者と悪い者を選り分けるためだけのものと見えるが、違うか?」
――大惨事。
なんだろう、この「仕留めた…!」感。
会場の全員が「これが…“本物の大人の詰め”か…!」って無言で震えてる。
僕も、「あれ、今日の主役ってもしかしてシオン様?」みたいな妙な達成感。
文官長、顔面蒼白、魂抜けかけてる。
そりゃそうだろう。
なにせ「アメリカ生まれ」のスクープまでバレた上に、教皇からロジカル爆撃を浴びたんだから。
会場は一拍おいて、爆笑と失笑と、「やっぱりね!」の空気。
いやもう、歴史の闇に消えゆく請願書が見える見える。
後ろの席から、「文官長、バーガーキングの株主なんだろ?」とか「ギリシャ語より英語の方が上手いくせに」とか小声でイジリが飛ぶ。
アッシュ、「勝った!」の瞬間である。
シオン様が静かに締める。
「杯座のアッシュ、その才覚と功績、ここに認める。そなたのような者こそ、真に聖域を担う資格がある」
うわあああ、ついに公式認定!
会場から拍手、というか半分ヤケクソの喝采。
サガも珍しくニッコリして親指を立ててくれるし、アイオロスなんて「いやー、やっぱ時代はグローバルだね!」とか言い出すし。
……そして肝心の僕はというと。
会場の片隅で、さりげなく聖衣の肩パーツに「ギリシャ人用・非ギリシャ人用・どっちでもOK」って新機能ボタンが付いてるのを見つけて一人でウケてた。
いや本当、聖域は広くて深い。
出自が何だろうと、魂に国境はないし、トイレにも国境はない。
これが、「杯座のアッシュ」流、バカ正直でバカ明るい答えである。
最後にひとつ――
(あの文官長、多分帰国してピザ屋でもやるんじゃないかな。俺、手紙くらいは出してあげよう)
――こうしてまた一つ、聖域は“グローバル化”の波に飲み込まれていくのであった。
サガ「ついにやったな、アッシュ!まさか教皇様の“チベット生まれ”切り札が飛び出すとは思わなかったぞ!」
アッシュ「いやー、僕もあそこで“国籍論破”されるとは思わなかったよ。でも、これでトイレも国籍も“グローバル対応”ってことで!」
アイオロス「聖域もついにグローバル時代か……まさかギリシャの伝統の壁を、ピザとパスポートで突破する日が来るなんてね。」
サガ「“誇り”は生まれじゃない、“志”だ――そんな当たり前のことを、この聖域で証明できて、俺は嬉しい。」
アッシュ「ありがとう、二人とも。これでロドリオ村にもピザとフムスを輸入できるね!」
アイオロス「いや、せめて聖域の食堂はギリシャ料理も残しておいてくれよ……。」
三人「ハハハハッ!」
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章ごとに作品を分けてほしい・十二宮編など
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