聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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聖域を統べる二百年の教皇シオン、その威厳と伝統の前に、杯座アッシュの現代改革は悉く退けられる。
だが、もはや後戻りはできない。
アッシュの掲げる“快適な未来”は、星の運命すらも塗り替えられるのか――。

黄金聖闘士サガとアイオロスも固唾を呑んで見守る中、迎えるは聖域史上最も奇妙で壮絶な「最適化vs.伝統」の頂上決戦!

眠らぬ夜のサンクチュアリで、歴史は今、新たな夜明けを待つ――!

次回――「不便の聖域(サンクチュアリ)vs.現代の叡智――最終決戦前夜」

君は、小宇宙(コスモ)を感じたことがあるか!?


不便の聖域(サンクチュアリ)vs.現代の叡智――最終決戦前夜

(アッシュ視点)

 

 

もう、ここまで来たら最終ボスは怪物でも迷宮でもなく、教皇シオン――その人だった。

 

彼は何を言っても「聖域は不便なままでOK!」の一点張り。

僕?僕は文明の利器とプレゼン資料を武器に、日参し続けている。

 

「教皇様!電気があれば防衛システムも最新鋭に、聖闘士の怪我も減ります!ピザパーティーがあれば士気もアップ!新しいベッドで腰痛も解消です!」

 

「アッシュよ。闘士は土の上で眠るものだ。背骨は大地の曲線に合わせてこそ強くなる」

 

――なぜそこで人生訓になる!?

ベッドは腰に悪いって…現代医学が泣くぞ…!

 

「ならせめて、風呂は温かく…」

 

「冷水は心を引き締めるのだ。禊こそが魂を磨く」

 

いや、禊(みそぎ)って僕、イタリア人だぞ!?

水浴びで小宇宙が増すなら、日本の公衆浴場は聖闘士の巣窟になってるって!

 

「インターネット環境だけでも!」

 

「ネットは人の魂を堕落させるぞ。現代の怪物は光ファイバーから忍び寄る」

 

(それは違う…けど何も言えない…!)

 

結局、シオン様が唯一認めてくれたのは「上下水道の完備」だけ。

「疫病が減ったのは評価するが、それも衛生面での最小限の譲歩じゃ」

 

ありがとうございます!…けど本音は、快適さへの一歩がこれしか進まないとは…。

 

いや待てよ?

確かにペストもチフスも消えた。村の子供たちも元気、婦人会のお尻も(衛生的に)天国…だけど!

 

「結局この聖域、寒い、暗い、飯はまずい、パンは石、風呂は氷、床は土、空気は埃、夜は怖い、Wi-Fiは無い。あれ?なにこれ?僕なに?前世は修行僧だったの?」

 

唯一の救いは、僕の提案で「穴トイレ」だけは消えたこと。でも――

 

「……今度はパンが固すぎて歯が折れそうだ」

 

「それも鍛錬のうちだ。歯は魂の砥石」

 

違うよシオン様!

そのうち村の歯医者も僕の発案で生まれるんじゃないか…?

 

しかも、疫病が消えたことにより文官たちは「アッシュ様のおかげです!」とすり寄ってくる始末。

一方で「聖闘士の士気が下がった」とか意味不明なアンケート結果を持ち出してくる奴もいる。

 

――お前ら…下がったのは士気じゃなくて、単に夜が寒いだけじゃんか!

 

もうここまで来ると、「不便さこそ正義!」教は一種の宗教だった。

シオン様は老害の中の老害――いや、もはや不便の権化。僕のプレゼン資料を一瞥もせずに即却下、が日常茶飯事。

 

しかも、誰が流したのか「アッシュ=聖域の水道屋説」まで流布される始末。

 

「アッシュ兄ちゃん!新しい水道管、最高だよ!」

「アッシュさん、今度は床暖房を…」

「アッシュ様、ぜひパンも柔らかく…」

 

やめてくれ。

パンだけは、僕じゃどうにもならないんだ。

 

サガとアイオロスは「アッシュの根性、応援してる!」と励ましてくれるけど、

(お前らは黄金聖衣でぬくぬくしてるからなぁ…)

 

と、愚痴もこぼしたくなる。

 

「…今日も却下されたな」

「うん。明日はきっと通る気がするんだ。次は“聖域に猫カフェ設置案”でいこうかと思う」

 

「それは絶対却下だと思うぞ」

 

分かってる。でも、諦めたら負けなんだ――たぶん。

 

でも唯一の救いは、

村の誰もが「アッシュのおかげで、聖域はちょっとだけ住みやすくなった」と本気で笑ってくれること。

 

…それだけでも、この不便バトル、負けじゃない気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自室に戻った僕は、椅子に沈み込むように腰かけた。

ロドリオ村は、今日も静かな夜に包まれていた。窓の外には、ギリシャの星空が広がっている。

それなのに僕の心は、まるで暗い海に沈み込んだかのようだった。

 

聖域での改革は――

もはやこれ以上、一歩も進まない。

どれだけ努力しても、どれだけ論理を積み上げても、二百年の絶対者シオンの価値観は、ほんの少しも揺るがなかった。

 

「君のやってきたことは、全て聖闘士としての“堕落”に過ぎないのだ」

 

その言葉は、何度となく僕の耳を刺した。

ああ、僕の「現代人の合理性」なんて、この世界ではただの異端でしかなかったのだ。

 

だが、諦めて帰る? 従って沈黙する?

それだけは、できなかった。

この聖域に生まれ、聖闘士となり、ここまで生きてきた「意味」すら、消えてしまいそうな気がしたからだ。

 

そのとき、頭の片隅に――「原作」の記憶が蘇った。

いずれ、サガが教皇を殺す。

それは、星矢たちが戦いの旅路を歩み始める“必然”だ。

僕の努力も、シオンの頑固さも、結局はその「大きな流れ」に吸い込まれて消える。

この世界の“定め”は変わらないのか?

 

――いや、違う。

 

僕は思う。「たとえ結末が変わらないとしても、プロセスなら…最適化できるのでは?」

なぜなら、それこそが僕――アッシュの生き方、そのものだったからだ。

 

意志は冷たく、頭は冴えわたっていた。

パソコンを起動し、最高レベルの暗号化を施した新規ファイルを作る。

【プロジェクト・アリエス(牡羊座計画):次期指導者への円滑な権限委譲に関する考察】

 

「これは革命じゃない。これは、必然を、よりマシな未来に作り変えるための“介入”だ」

 

 

 

 

まず、最重要なのは「現教皇・シオンの暗殺」だ。

だが、ここで必要なのは「犯行そのもの」ではない。

問題は、その後――すなわち“聖域の秩序の維持”と“改革の実現”である。

 

僕は思考の回路を切り替える。

これは単なる「暗殺」計画ではない。「権力の委譲」――すなわち、最適な“政権交代”を実現するための、極めて冷静な“手続き”だ。

 

【Ⅰ:現状分析】

・シオンは、聖域の小宇宙的・権威的“絶対者”である。

・現状、文官と保守派が統治の大半を掌握。

・アッシュ自身は「改革」の顔であり、急進派を代表する。

・サガは最有力後継候補だが、善悪二重人格による「暴発」リスクを抱える。

 

【Ⅱ:リスクシナリオの抽出】

・単純な暗殺→混乱→内戦or聖域崩壊

・教皇継承の正当性欠如→反発勢力の蜂起

・アッシュ(自分)の排除・粛清

 

【Ⅲ:最適化手順の設計】

 

◆Step1:標的行動パターンの解析

シオンの一日は、ほぼ一定だ。

「夜明け前の瞑想」「午前の文書確認」「昼の祭祀」「午後の教義講話」「夜の静養」。

最も無防備になるのは、深夜0時~2時の「瞑想タイム」。このときだけは、彼の小宇宙も極端に拡散し、意識がほぼ内側に向く。

警護は形式的で、しかも交代の隙間時間が生じる。

 

◆Step2:侵入ルートの選定

・教皇の間に直結する「古水路」ルート(サガたちの内乱時にも使われた)

・衛兵の配置、巡回パターンのリアルタイム解析

・聖域の結界周期(新月の夜が最もエネルギー低下)

 

◆Step3:実行方法の最適化

・直接の小宇宙干渉(いわゆる「殺気」)は感知されやすい。

・最も現実的なのは、“偶発的事故”または“他勢力の謀略”に偽装した消去。

・例:聖域外の暗殺者(仮想敵)の侵入→アリバイ工作→証拠の消去。

 

◆Step4:事後処理計画

・サガが混乱を最小限に収め、「正当な後継者」として即位できるシナリオを構築。

・教皇殺害の「敵」を特定し、聖域の団結を図る演説草稿

・アッシュ自身は「事件解決の協力者」として目立たぬよう振る舞う

 

僕の頭の中では、既にすべての手順が“スクリプト”のように並び始めていた。

 

(教皇の間の結界は一晩ごとに力を落とす。

その隙間に、微弱な小宇宙を波形ノイズとして紛れ込ませ――

物理的な干渉は最小限。毒物や特殊な“波動干渉”の再現が有効だろうか)

 

(すべての足跡、痕跡は消去。衛兵の証言、監視者の視線。

可能な限りデジタルと小宇宙の両面で“クリーン”な事件を構築)

 

「…いや、待てよ」

 

ここで、僕の手が止まった。

 

僕は何をしている?

これは「革命」ではない。

これは――ただの「暗殺」計画だ。

 

けれど、なぜか心の底で、どこかワクワクしている自分もいた。

「現実の最適化」を極めるなら、“この手”しかないのだと。

 

そして…

ファイルの最後に、僕は自分自身への覚え書きを書いた。

 

『本当にこれが、最善の選択肢なのか?』

 

『サガの“闇”に賭けるより、僕自身がこの手で歴史を塗り替えるほうが、聖域にとっても、友人たちにとっても、平和かつ効率的な未来になるのではないか?』

 

最後に、僕はウインドウを閉じた。

「プロジェクト・アリエス」は、まだ“計画”のままだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は、いつか来るかもしれない「その日」のために、親友であるサガに渡すための、究極の「贈り物」を用意し始めた。

 

この時のアッシュに、本気でシオンを殺害する意思はまだなかった。それは、あくまで起こりうる未来への「備え」であり、行き場のないフラストレーションを解消するための知的ゲームに過ぎなかった。

 

―――このときは、まだ。

 

彼は完成した設計図を保存し、静かに端末を閉じた。そのファイルが、親友を、そして聖域全体を、原作すら超えるほどの深い闇に引きずり込む可能性を秘めていることなど、まだ知る由もなかった。




ガチャッ――

「おーいアッシュ、まだ起きてるのか? 明日の会議、ちょっと相談が――」

やばい、サガが来た!
僕はあわてて「プロジェクト・アリエス」のファイルを最奥の暗号化フォルダにぶち込み、パソコン画面を即座にスクリーンセーバーへ。

「ど、どうしたサガ!? 夜分にわざわざ……はは、全然怪しいことなんてしてないよ?」

「……? また変な実験してないだろうな?」

「だ、だいじょうぶ!明日のプレゼン、ちゃんと準備してたんだ。ほら、“聖域に猫カフェ導入案”の――」

「……ま、いい。さっさと寝ろよ、無理すんなよ?」

「ああ、ありがとう……(あ、あぶなかった……!)」

冷や汗をぬぐいながら、僕は改めてファイルにロックをかけた。
サガにバレたら――いや、親友のための“準備”だし……でもやっぱり、今はまだ、秘密にしておこう。

夜のロドリオ村は静かで、やけに星が綺麗だった。

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