聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
教皇シオンの問いかけが、聖域全体に静かなる激震を走らせる。
選ばれるは光の正義か、闇を知る叡智か。
杯座のアッシュが見つめる未来、その手に委ねられた聖域の“行く末”とは――
次回、「光と闇の継承――決断の時、サガかアイオロスか」
迫られる究極の選択、運命は誰の手に!?
魂の叫びが聖域(サンクチュアリ)を揺るがす時、
新たなる神話が紡がれる――!
(アッシュ視点)
俺は今日、聖域の「VIP専用お悩み相談室」――すなわち教皇の間に呼び出されていた。昔なら、玄関マットよりも小さくなって縮こまり、正座しながら「え、俺また何かやらかした!?」とビビってたものだが、いまや14歳。肩書きは「聖域のインフラ王」「教育改革の総師範」「全自動プリンター付き白銀聖闘士」である。
もはや俺が怖いのは、教皇様よりもロドリオ村婦人会と、聖衣のデータ容量オーバーだけだ。
でも、今日のシオン様は何だか柔らかい顔。まさか…俺の誕生日とか覚えてくれてる!?と一瞬浮かれたが、そんなことはなかった。
「アッシュよ。そなたの尽力に、心から感謝する」
突然の大絶賛に、俺の心は熱々のメロンソーダ。
シオン様は続ける。「聖域外縁部のインフラ整備、新たな連絡体制の構築――すべてが地上の平和と、アテナの正義に大きく寄与した。わしは、伝統にこだわりすぎていたのかもしれん。そなたに教えられた思いだ」
えっ、ここで反省文!?
俺、てっきり今日も「却下だ」3連発かと身構えていたのに!
「いえ、教皇様が私の意見に耳を傾け、信じてくださったおかげです」と、口が勝手に謙遜モードに入る。心のなかじゃ、村の温泉に一番風呂でザブン状態。
…いや、感動はここで終わらなかった。
「さて本題だ。全世界の修行地を改革したい。そなたの“死者を出さない育成マニュアル”を、世界の全指導者に伝え、直接指導してきてくれぬか?」
シオン様、ここぞとばかりに現代用語をサラリと使ってくる。「マニュアル」って。ついでに「グローバルスタンダード」「DX推進」くらい言ってもバレませんよ?
けれど、俺は一気にハイテンションMAX。自分の「失敗しない指導理論」が、ついに世界標準に!? もう、プリントアウトして額縁に入れてロドリオ村の図書館に飾ってもいいレベルだろう。
「謹んで、お受けいたします!」
気合が入りすぎて、腰を90度折ってお辞儀。
(※勢い余ってスラックスの後ろポケットがビリッとなったのは内緒だ)
そして、シオン様は懐から分厚い書簡の束を差し出してきた。「各地の修行地責任者への紹介状じゃ。正式な権限を以って、そなたに現場を託す」
(よっしゃ、これが噂の“教皇公認出張パスポート”!)
サガやアイオロスが控えの間から心配そうに覗いている。アイオロスは「兄貴、海外出張…いいなあ。土産よろしく!」。
サガは「またトラブル起こすなよ」と冷静だけど、目はちょっと羨ましそう。ふふん、どうだ俺だって“世界を股にかける聖闘士”だぞ。
世界任務を賜り、頭を下げて退出しかけた、その時だった。
「…ところでアッシュよ」
それは、ごくありふれた世間話のような口調だった。だが、その次の一言が、俺の心臓を鷲掴みにする。
「わしも、もう老いた。そろそろ、この教皇の座を次代に譲ろうと考えている。そなたの目から見て、サガとアイオロス、どちらが、この聖域を導くのに相応しいと思うか?」
唐突に、部屋の空気が凍りつく。
頭の奥底で、警報が鳴り響く。
“この瞬間が、運命の分岐点だ”
そう――転生者の俺は知っている。原作「聖闘士星矢」の歴史において、シオンはアイオロスを後継者に選び、その結果、サガの心に眠る闇が暴走した。悲劇の連鎖、「サガの乱」。聖域は血に染まり、多くの善良な魂が、疑念と絶望の中に消えていく。
いま、この場で、俺の一言が、その歴史を塗り替える。
(ここでアイオロスを選んではいけない)
だが、「サガが良い」と単純に言えば、逆にシオンの疑念を呼び、未来がさらに不確かなものになるかもしれない。
俺は、自分の表情筋を死ぬ気で制御し、冷静さを装う。
「…お答えするのは、あまりに僭越とは存じますが…」
一拍、息を呑む。
「二人は、共に聖域の未来を担うべき傑物です。どちらが欠けても、きっと聖域は危ういものになるでしょう」
俺は、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
まずは、客観的な分析から始めることにした。
「アイオロスは、あらゆる意味で“光”の人です。その正義感と純粋さ、信念の強さは、聖闘士たちの憧れであり、規範そのものです。ただ、その光はときにあまりにも強すぎて――闇や矛盾を許せず、妥協や、現実への適応が難しくなることもあるかと」
シオンが、深く頷くのがわかった。
俺は、続ける。
「一方、サガは、光も闇も、その両面を深く理解しています。彼はただ正しさを貫くのではなく、人の弱さや迷いを受け入れることができる。聖域が大きく変革を迫られる時――痛みを知りつつ、聖域を導くことができるのは、サガのような者なのだと思います」
本当のことを、決して嘘を交えず、しかし全てを語らない。それが、今できる最大の誠実さだった。
(サガの闇人格のことを、ここで打ち明けることはできない。だが、俺には自信があった。自分がいる限り、サガの“闇”が暴走することは決してないと――その自信は、決して妄信ではなかった)
「私は、あくまで一白銀聖闘士にすぎません。教皇様の御慧眼には到底及びませんが――」
俺は、そこで一呼吸置き、意識的に声を低くする。
「もし、聖域が今後、大きな変革の時代を迎えるならば――サガこそ、その全てを受け止める度量があると信じます。アイオロスの正義が必要な時も、サガの柔軟さが求められる時も、それぞれが聖域に不可欠な“柱”なのです」
沈黙が降りる。
シオンは、手のひらで顎をなで、深い思索の海に沈んでいた。
どれほどの時間が流れただろう。
やがて、シオンがゆっくりと頷く。その目には、どこか安堵と、納得の光が宿っていた。
「…なるほど。よく分かった。貴重な意見、感謝する」
その一言は、教皇の座にある者が、全身全霊をもって他者の意見を受け入れたという証だ。
俺は、内心で息をついた。
(これで、最悪の未来を回避できた。少なくとも、原作のような血の粛清は、きっと訪れない…!)
だが、同時に思い知らされる。
自分は、いま確かに歴史を“変えてしまった”のだと。
もしもこれが間違いであったら?
――俺一人の決断が、この世界のすべてを狂わせることになるかもしれない。
しかし、もう後戻りはできない。
俺は、シオンの前で、静かに頭を垂れた。
「重ねて、謹んで御礼申し上げます」
退出し、教皇の間をあとにしながらも、俺の心は冷たい汗にまみれていた。背後に、シオンの静かな声が響いた。
「アッシュよ。そなたの道は、常に“理”と“情”のはざまにある。その苦悩を、わしは理解しているつもりだ。だが、聖域の未来は、そなたのような新しい風がなければ開けぬ。どうか、これからも、そなたの信じる正義を貫いてくれ」
俺は、振り返らずに歩き出す。
その道が、どんな未来へ続いているのか――それは、これからの俺自身が、選び取っていくしかないのだ。
―――この時、俺は「最悪の未来」を変えたつもりでいた。サガの資質、光も闇も抱きしめて歩む男の強さ。それを、確信を持ってシオン様に伝えた。自分がそばにいれば、どんなにサガの心が揺らいでも、絶対に制御できるはずだと。根拠のない自信――だけど、あの時の俺は、本気でそう信じていた。
本当は、気づいていたはずだった。
サガの「闇」は、単なるもう一つの人格ではない。ただの葛藤や、若さゆえの未熟さでもない。あれは、彼が幼い頃からずっと抱えてきた、理屈を超えた深い孤独と絶望、誰にも届かない叫び
――それを、俺は、ほんの表面しか、いや、十分すぎるほど理解していた。
サガの「闇」は確かに俺を信頼していたんだ。
もう少しだけ、踏み込んで話していれば良かったのかもしれない。
――「教皇様、サガの光は強い。しかしそのぶん、影もまた深いのです。どうか、目を離さず、寄り添い続けてやってください」と。
あるいは、「俺自身も、サガの傍から絶対に離れません」と、あの場ではっきり宣言していれば――。
だが、俺は自分の才能と“異物”ぶりに、どこか慢心していたのかもしれない。
自分さえ動けば、全ての難題は最適化できる――どこかで、そう思っていた。
結果、俺の「最適解」は、サガに余計な重圧を与え、いずれ来る歪みの引き金にしかならなかった。
後になって、何度もあの瞬間を思い返す。
もしあのとき、俺がもう一言だけでも、「お前の「影」は、俺が必ず支える」と伝えていたら――。
どれほど後悔しても、過ぎた時は戻らない。
俺の選択が、あの夜の聖域を、血と涙で濡らすことになるとは――
その時の俺には、想像すらできなかったのだ。
……今回は、何も言う気にならない。
続きは、次回を読んでくれ。
アッシュ
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