聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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聖域を揺るがす陰謀の嵐――。
教皇の影、疑惑の矛先、砕け散る友情。
女神アテナをその腕に託し、アイオロスは孤独な逃走の旅へ!
対峙するは、正義と信念、そして堕ちゆくもう一つの星――サガ!

分断される聖域、揺れる黄金聖闘士たちの運命。
すべての正義が試される、血塗られた夜明けの幕が開く――!


次回、聖域分断!託された女神と堕ちゆく星
希望と絶望、その全てを賭けて、運命の闘いが始まる!

君は、小宇宙を感じたことがあるか?


聖域分断!託された女神と堕ちゆく星

(アッシュ視点)

 

 

ロドリオ村の夕暮れ。新しい舗装道路の先に、俺の足音だけが響いていた。

心臓は静かに鼓動し、全身の神経が張り詰めている――だが、この緊張は、計画の一部でしかない。

俺の帰還は、スターヒルでも、教皇の間でもなく、ここロドリオ村から始めなければならなかった。

「急げ」と鼓舞するような焦りも、巧妙に調整された演技だ。

 

(これが最後の“舞台”になるかもしれない――ならば、完璧に演じ切ってみせる。)

 

その思考が終わるより先に、アイオロスの声が飛んできた。

 

「アッシュ!随分と早いお帰りだな」

 

穏やかな笑顔。俺の最初の“駒”にして、絶対の善性と信頼を持つ黄金の英雄。

その笑顔は、俺の作り出した「緊急事態」に直面した瞬間、見事に凍りついた。

 

「どうした、アッシュ?顔色が悪い。何かあったのか?」

 

肩に手が触れる。

一瞬だけ、昔の友情が心に影を差したが――すぐに理性がその感傷を飲み込む。

今、俺は友人でありながら、サガと同じ“怪物”だ。

この役割を、絶対に裏切ってはならない。

 

「アイオロス…!大変なことになった…サガが、サガが謀反を企んでいるかもしれない!」

 

心臓を一拍置いて、台詞を吐き出す。

嘘だ――だが、この嘘は、絶対に真実となる。

なぜなら、俺がこの物語の“演出家”だからだ。

 

「なんだと?」

 

即座に困惑する彼の目。

だが、俺の表情と小宇宙の焦り――全てが本物にしか見えないはずだ。

 

「さっき、任務地からサガに電話を入れたんだ。だが、彼の様子がおかしかった。『なぜ、俺が教皇ではないのだ』と…『シオン様は間違っている』と、そう言っていた。そして、『俺は、直接、シオン様に真意を問い詰めに行く』と…!」

 

彼はなおも疑念の色を浮かべる。

 

「おいおい、アッシュ。随分と手の込んだ冗談だな。サガが、そんなことを言うはずがないだろう」

 

「冗談で、こんなテレポートまでして帰ってくるものか!俺は、確かに聞いたんだ!電話の向こうの彼の小宇宙は、冷たくて、暗い、得体の知れないものに感じられた!頼む、信じてくれ!」

 

この台詞を吐く時、内心の罪悪感が指先に疼いた。だが、今は振り払うしかない。

俺はこの聖域の未来のために「悪」として振る舞わなければならない。

友を救うために、他の友を罠にかける。この二重三重の矛盾に身を焼きながら。

 

――アイオロスは、ついに、心を動かされた。

 

「わかった…信じよう。それで、どうするんだ?」

 

この瞬間、俺は“彼の物語”を完全に奪った。

善性ゆえに、俺を信じるしかない英雄。

これが、運命を変える分岐点。

 

「報告によれば、シオン様はスターヒルに向かったとのことだ。だから、俺はスターヒルに行って、真偽を確かめる。もし本当にサガがいるのなら、俺がなんとか説得してみせる」

 

「アイオロス。お前の使命は、ただ一つだ。もし、サガの謀反が真実なら、彼の次なる標的は、間違いなく、幼き女神アテナだ。お前は、アテナ様のもとへ向かい、その御身をお守りしてくれ!」

 

今こそ、「正義」の名を借りて、最も正しい男に“最も致命的な選択”をさせる。

俺が、救世主であり黒幕である証だ。

 

アイオロスは、迷いなく、頷いた。

 

「了解した。アテナは、俺が必ずお守りする!アッシュ、お前も気をつけてくれ!」

 

彼は、黄金の閃光となって、神殿へと消えていく。

あの背中には、いささかの疑念も、疑いもない。ただ、信じた友の言葉に従う――その誇りしかなかった。

 

(ごめんな、アイオロス)

 

心の奥底でだけ、呟く。

だが、俺の顔からは、焦りも迷いも、すでに消えていた。

 

ここから先は、予定調和。

アイオロスが女神を救い、英雄として殉じる“舞台”を、俺は自ら演出した。

 

全ての感情を凍らせて、完璧な笑みを浮かべる。

ロドリオ村の夕陽に染まる俺の影は、聖域史上、最も残酷な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

(アイオロス視点)

 

 

女神アテナを守る――それは、聖闘士として、いや、一人の人間として、最も崇高にして絶対の使命。

アッシュの鬼気迫る訴えを信じた時から、私の中には、いかなる迷いも残されていなかった。

スターヒルで何が起きているかなど、今の私には関係ない。

守るべきものは、ただ一つ。

 

私は、己の小宇宙を限界まで燃焼させ、十二宮を一気に駆け上がる。

この身が焼け尽きようとも、女神の命だけは、決して渡さぬ。

 

神殿奥の聖域。

普段は近づくことさえ許されぬ、女神アテナが安置されている部屋。

そこから漏れる、異様な小宇宙の気配――

私は、ほとんど扉を打ち破るようにして中へ飛び込んだ。

 

…目に飛び込んできた光景を、私は生涯忘れないだろう。

 

黄金の法衣。

教皇の証。

その人物が、赤子の眠る揺りかごへと、黄金の短剣を振りかざしていた。

あまりにも異様で、あまりにも非現実的な、狂気の情景だった。

 

「教皇様、何をなさっているのですか!」

 

声を上げた瞬間、私はすでに動いていた。

稲妻よりも速く、女神のもとへ駆け寄り、赤子をその腕に抱きかかえる。

ほんの一瞬の差。だが、その刹那が、世界の未来を左右する。

胸の奥で鼓動が轟く。女神の温もりが、確かにこの腕の中にあった。

 

教皇は――否、その男は、忌々しげに舌打ちをし、私の方へと振り向いた。

彼の拳から放たれる破壊の小宇宙。

私はとっさに身をかわし、その拳を紙一重で躱す。

 

だが、私の脳裏を貫いたのは、肉体の危険よりも、もっと深い衝撃だった。

この小宇宙は、決してシオン様のものではない。

私は、何度もこの力を感じてきた。何度も、この闘志を隣で見てきた――

 

…サガ。

あの、誰よりも聡明で、誰よりも優しかった、私の親友の――

 

アッシュの、あの尋常ではない焦りと訴え。

彼がここまで真剣な嘘をつくとは思えなかった。

全てが、今、恐ろしいまでに繋がった。

 

「やはり、お前だったのか…! サガ!!」

 

私の叫びが、神殿の奥にこだまする。

 

教皇の仮面は、微かに揺れる。

だが、仮面の下のサガの表情は見えない。

それでも、私は分かる。

あの気配。

あの闘志。

あの、計り知れないまでの苦悩――

 

「アイオロス、退け。これは、『正義』だ」

 

その声は、まるで教皇本人のように響く。

だが、私は騙されない。

 

私は、アテナを守るために、身構える。

赤子を守るためには、もはや私自身が盾になるしかない。

だが、私の心の奥には、どうしようもない葛藤が渦巻いていた。

 

(なぜだ、サガ…)

 

なぜ、こんなことになってしまったのか。

教皇の座を巡る確執、闇に蝕まれた友の魂――

私が、何かできたのではないか。

あの夜、もっと強く彼に寄り添い、苦悩を聞いてやれたなら、

違う未来があったのではないか――

 

サガの拳が、再び閃光となって襲いかかる。

私は、女神を抱きしめたまま、寸前で躱す。

 

「アイオロス、退くのだ! 女神とて、完全なる“正義”とは限らない。俺が導く聖域こそが、真の秩序だ!」

 

その言葉の裏に、サガの狂おしいまでの渇望が見える。

彼の正義は、もはや歪み、独善の闇に堕ちている。

だが、その根底にあるのは、誰よりも聖域を、そして地上を想う“熱”だと、私は知っている。

 

「サガ…君の気持ちは、痛いほど分かる」

 

私は、拳を構えながらも、なお諦めきれずに叫ぶ。

 

「だが、どんな理由があろうと、女神に刃を向けた時点で、君は全てを失うぞ!

やめてくれ、サガ!このままでは、もう後戻りできない!」

 

サガは、静かに、しかし、決然と首を振った。

 

私は、覚悟を決める。

これが、私の運命だ。

たとえ友であろうと、女神を守るために――

 

女神アテナの命。

それは、この世界の平和そのもの。

その小さな命を、私は、決して渡しはしない。

 

神殿の闇の中で、二つの小宇宙が激突する。

正義と正義。

絶望と希望。

友情と、そして裏切り。

全てが、ここで交錯する。

 

私の心には、たった一つの想いだけが残った。

――女神アテナを、絶対に、守り抜く。

 

 

 

 

(サガ視点)

 

 

アイオロスが女神を抱えて神殿を駆け下りていく姿――その残像が、なおも瞼の裏に焼き付いて離れなかった。

 

(アッシュめ…!まさかアイオロスをここまで通すとは!計画は、既に大きく狂い始めている。いや、これはもはや“計画”と呼べる代物ですらない…。)

 

私は、教皇の法衣のまま、怒りを抑えきれず、拳を震わせていた。

もしあの瞬間、ほんの一歩でも攻撃が早ければ、アテナもアイオロスも消し去れたはず――。

だが、アイオロスは、戦うことを選ばなかった。あの愚直な男は、私を討とうとはせず、ただ女神を守るためだけに、私の攻撃をすべて躱し、神殿の外へと消えていった。

 

(これが…ヤツの覚悟か…。くそっ、なんと厄介な――)

 

その時、扉が開かれる気配。

振り返ると、アッシュと衛兵が駆け込んできた。

その顔には、作り物めいた驚きと、ほんの一瞬の警戒。だが、私は彼の“演技”を理解している。

 

「教皇様!一体、何が?!」

 

私は即座に状況を作り上げ、彼に伝える。

 

「アイオロスが…女神を連れ去った!女神アテナを連れて逃走したのだ!追わねばならん!」

 

今や、追撃以外に手立てはない。このままでは、教皇としての私の権威も守れない。

だが、アッシュは冷静に私の肩を掴み、耳元で静かに諭すように言った。

 

「お待ちください、教皇様。頂点に立つ者が自ら追撃に出れば、聖域全体に混乱を招きます。」

 

彼の声には、強い信念と計算された冷酷さが滲んでいた。

この男は、私が失いかけている理性を、なおも保ち続けている。

いや――もはや私以上に、“教皇の補佐”として完璧に立ち回っているのかもしれない。

 

「この任務に、最も相応しい男がいます」

 

アッシュの視線の先は、遥か山羊座の宮へと伸びていた。

私は、その意図を悟る。

 

「山羊座の…シュラ…」

 

山羊座・シュラ――剣の化身、忠義の闘士。

彼ならば、命令ひとつで、たとえ射手座のアイオロスであろうと、必ず討ち果たすだろう。

私情を挟まず、聖域と教皇の命令こそが全て――それがシュラの信念だ。

 

(完璧だ。アイオロスを裏切り者に仕立て上げ、アテナの命を狙った真相を闇に葬る。

そして、私の“教皇”としての立場は、揺るぎないものとなる…。)

 

アッシュは、私の内心の揺らぎを見抜いているのか、静かにうなずいた。

 ――サガ、全てはここからだ。混乱を最小限に抑え、聖域の“正義”を守り抜くために、俺たちは、どんな役でも演じねばならない――

 

小宇宙を通したその声は、かつての無邪気な友人のものではなかった。

だが、私はその冷静な眼差しに、わずかに救われる思いがした。

 

(俺だけではない。アッシュがいる。

この男なら、きっと俺の苦悩も、過ちも、共に背負い、導いてくれるはずだ)

 

私は教皇の法衣を正し、玉座の上に立ち上がった。

 

「よかろう。アッシュ、すぐにシュラを呼び出せ。

アイオロスは女神を連れ、聖域を裏切った。聖域の秩序を守るため、山羊座の黄金聖闘士シュラに追撃・討伐を命じると、全宮に通達せよ」

 

命令を下しながら、私の心には、ほの暗い絶望と、ひとつの安堵が入り混じっていた。

私は、取り返しのつかない罪を犯した。

それでも――まだ、全てを失ったわけではない。

私には、アッシュがいる。この唯一無二の共犯者がいる限り、私は――

どんな闇でも、生き抜いてみせる。

 

 

 

 




夜明け前の聖域――
 幼き女神をその腕に抱きしめ、アイオロスは、ひとり十二宮の石段を下っていく。

 足取りは重く、だが一歩一歩に迷いはなかった。
 守るべきものが、今、胸の中に在る。
 かつて誓った正義の名において、兄として、聖闘士として、己の全てを賭けて歩み続けるしかない。

 背後で響く、聖域の鐘の音――
 それは追っ手の合図か、別れの合図か。
 ひとたび仰げば、かつて共に戦った仲間たちの星座が、静かに彼の背を見送っている。

 誰もが正義を信じ、誰もが運命に抗おうとした夜。
 それでも、アイオロスは前を向く。
 たとえ全てを失っても、希望だけは、決して渡さない。

 ――そして今、彼はただ、黙々と歩を進める。
 女神とともに、絶望と希望のはざまを超えて。

大きな章ごとに新しい作品として分けて投稿しますか?それとも今まで通り一つの作品として連載し続けますか?

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  • 章ごとに作品を分けてほしい・十二宮編など
  • どちらでも良い/お任せします
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