聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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裂かれた聖域――
正義の名のもとに交錯する陰謀と忠誠の刃!

苦悩の山羊座シュラの前に現れたのは、
彼に剣を授けた師範・アッシュ。

揺れる忠義、裂かれる友情。
命じられる討伐、託される真実――

師のため、友のため、聖域のため、
いま剣は誰のために振るわれるのか!?

次回「裂かれた聖域、誓いの剣――師範(アッシュ)と弟子(シュラ)、運命の選択」

君は、小宇宙を感じたことはあるか?


裂かれた聖域、誓いの剣――師範(アッシュ)と弟子(シュラ)、運命の選択

(シュラ視点)

 

磨羯宮の奥、聖剣の間。

己の小宇宙を高めながら、逆賊討伐の命に応える覚悟を固めていた。

 

アイオロスを、討つ。

それは、俺が聖域に身を捧げた、その日から覚悟してきた「正義」の重みだった。教皇シオン様の命令ならば、いかなる親しき仲間であろうと、断じて逆らうことはできぬ――。

 

だが、その時。

何の気配もなく、俺の前に、アッシュ師範が現れた。

 

「待て、シュラ」

 

その静かな一言に、俺の全身が、雷に撃たれたように硬直する。

アッシュ師範――白銀聖闘士の身でありながら、黄金十二星座すべての技を操る天才。俺に剣の理を教え、小宇宙の本質を説いてくれた、俺の人生を変えた恩師だ。

 

「アッシュ師範!なぜ、ここに…!」

 

師範に敬礼しながらも、俺の胸はざわついていた。

任務への焦燥。アイオロスへの複雑な思い。だが、何よりも――アッシュ師範がこの場に現れたという、ただならぬ気配が俺を圧倒していた。

 

「一刻も早く、アイオロスを追わねばなりません。聖域の秩序を守るために!」

 

その言葉は、嘘ではなかった。だが、俺の声には、焦りと迷いが滲んでいた。

アッシュ師範は、俺の叫びを静かに、しかし決して抗えぬ力で制する。

 

「その任務について、お前に、本当の話をしておく必要がある」

 

…本当の話?

俺は、言葉にならぬ疑念を胸に、師範に従い、磨羯宮の最奥――弟子の俺にすら滅多に足を踏み入れさせぬ、教義の禁域へと招かれた。

 

薄暗い石造りの部屋に、アッシュ師範の小宇宙だけが、かすかな光を放っていた。

そこで、彼が俺に語ったのは、あまりにも信じがたい「真実」だった。

 

「どういうことですか、師範!? アイオロスがシオン様を……?」

 

俺の声は、驚愕で掠れていた。

教皇暗殺。そんな大罪、絶対に信じたくなかった。

 

だが、アッシュ師範は静かに首を横に振った。

 

「公式発表は、そうなる予定だ。だが、真実は違う。アイオロスは、アテナ様を救おうとした。シオン様を殺めたのは…サガだ」

 

衝撃に、思わず聖剣を抜きかけていた自分に気づく。

俺は、信じられないものを見るような目で、師範を見つめていた。

 

「ならば、サガこそが、真の逆賊!」

 

「違う」と、アッシュ師範は言い切った。

 

「サガは、新たな時代の支配者となる。老いと感傷で曇ったシオンに代わり、力で、この聖域を、そして地上を、真の平和へと導くのだ。俺は、その手伝いをする」

 

――頭が、真っ白になった。

アッシュ師範が、まさか、大逆の片棒を担ぐなど――。

 

だが、その目は、決して狂気の色ではなかった。

強い意志と、冷徹な覚悟だけが、確かにそこにあった。

 

「安心しろ、シュラ。お前は、一人ではない。このことを知っているのは、俺と、お前と…そして、デスマスクとアフロディーテだけだ。彼らは、既に、我々の側に付いている。ほかの黄金聖闘士には、このことは、絶対に言うなよ」

 

耳を疑った。

仲間だと思っていた黄金聖闘士たち――いや、兄弟も同然のあの蟹座と魚座の二人までが、知らぬ間に「こちら側」にいたというのか。

 

俺は、喉の奥で何かが張り付いたように、息が詰まった。

…正義とは、何だ。

俺が信じてきた「聖域」とは、いったい何だったんだ?

 

動揺する俺に、アッシュ師範は、あくまで静かに続ける。

 

「俺は、お前が“正義”に忠実な男だと知っている。だからこそ、この話をした。だが、今の聖域に必要なのは、感傷や伝統ではなく、冷徹な改革だ。サガにはそれができる。お前は、“剣”として、サガと俺の『正義』を支えろ。それが、山羊座の役目だ」

 

俺は、激しく揺れる心を抑えきれなかった。

(師範が言うなら――それが、絶対の正義なのか?)

 

俺に剣を教えてくれたのは、サガではない。

このアッシュ師範なのだ。

俺の信じてきた「山羊座の矜持」は、まさに、師範から授かったもの。

この人が「これが正義だ」と言い切るのなら――

 

(だが、それでも……)

 

俺は、苦しみのあまり、目を閉じた。

アイオロスは、かつて俺にこう言ったことがある。「正義とは、命令に従うことだけじゃない。自分の心で選び抜いた行いにこそ、真の価値が宿る」と。

 

それでも、俺は。

この師範に、どこまでも従いたい。

なぜなら、俺の「信じる力」は、すべてこの人からもらったものだからだ。

 

「……わかりました。俺は、サガの剣となります。師範がそうおっしゃるなら、俺は……何も問わず、ただ剣を振るいます」

 

俺の声は、いつになく震えていた。

だが、アッシュ師範は、静かに微笑んだ。

 

「お前なら、そう言ってくれると思っていたよ、シュラ。ありがとう。これからも、俺たちの正義を支えてくれ」

 

その言葉は、どこまでも穏やかで、どこまでも信頼に満ちていた。

その微笑みが、今だけは、救いだった。

 

心のどこかで、確実に何かが壊れていく音がした。

俺は、これから聖域の「正義の剣」として、幾多の友を斬ることになるだろう。

 

それでも、俺は。

この人の教えだけを、最後の拠り所に、生きていくしかないのだ。

 

(正義とは、何だ?)

 

 

 

 

 

(アッシュ視点)

 

 

シュラの答え――それは、俺にとって、予想通りであり、予想外でもあった。

 

(やはり…この男の「正義」は、純粋すぎるほど純粋だ)

 

だからこそ、使える。

だが、躊躇いもまた致命的な弱点となる。

 

俺は、本当の任務内容を、静かに囁いた。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

 

一切の温度を剥ぎ取った命令。

彼の瞳が大きく見開かれ、細い声で必死に抗う。

 

「ですが!」

 

「逆らえば、アテナの名の下に、俺がお前を殺す!」

 

その言葉を発した瞬間、俺の胸の奥で、何かが軋んだ。

シュラ――聖域随一の忠義者、その魂を脅し、屈服させることに、一抹の痛みが走る。だが、それを顔には出さない。

目的のためには、情など不要。たとえ、俺自身が誰よりも「情」の人間であると、心のどこかで認めていても。

 

俺の小宇宙は、今やただ冷たい翠玉の光。

この空間全てを、彼の心臓すら締め付けるほどに満たし、威圧する。

 

――忠誠か、反逆か。

 

俺の脅しは、単なる言葉ではなかった。本気で「やる」と、彼に伝わってしまうほどの、徹底した殺意だった。

シュラは、その重みに耐えきれず、ついに、崩れるように膝をついた。

 

「……あなたの、言うことならば…必ず、何か、意味があるのでしょう」

 

 

だが、彼の正義は今、俺への「盲信」へとすり替わった。それこそが、最も都合のいい「剣」。

 

シュラは、無言で立ち上がり、まるで魂を抜かれた人形のように、夜の闇へと消えていく。

 

俺は、その背中を、ひどく冷たい気持ちで見送った。

 

――俺は、今、最も忠実な聖域の剣を、最も非情な「駒」に変えた。

 

これが、王佐の道だ。

 

それが「正しい」とは思わない。

それでも、友の罪を、未来への道を、そしてこの聖域を守るためには、俺の心など、何百回でも切り捨てる。

 

――ごめんな、シュラ。

 

だが、お前の正義は、今日から、俺の手で使い潰させてもらう。

 

静かな石造りの廊下に、俺の足音だけが響いていた。

目的のために、また一つ、大切なものを切り捨てた。その痛みすら、今は感じる余裕はない。

 

夜風が、やけに冷たい。

 

それでも進む。それが、俺の選んだ道だ。

 

 

 




アッシュ「……やれやれ。あとがきなんて書く暇があれば、もっと策でも練りたいところだな」

シュラ「師範。あとがきは“作者の誠意”ですよ。読者を侮ってはいけません」

アッシュ「お前は昔から真面目だな。まあ、今日は色々あった。迷いも、後悔も、誤魔化しても消えやしない。お前を“剣”にしてしまったのも、俺の業だな」

シュラ「構いません。俺は師範の“剣”です。正義が、誰かを傷つけるものなら、その痛みも背負う覚悟で振るいます」

アッシュ「……やっぱり、立派になったな、シュラ。けどよ、本当は――お前の信じた道を、最後まで貫いてくれ。それだけは、俺の“わがまま”だ」

シュラ「師範……それは、禁じ手ですよ。そんな“情け”を見せられたら、俺はもう、何も言えません」

アッシュ「はは、じゃあ今日のあとがきはこれで終い。俺たちはもう少し、迷い続けてやろうぜ――お前の“正義”とやらを見届ける、その時までな」

シュラ「……了解しました、師範」

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