聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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聖域に新たな闇が迫る時――
正義を信じた騎士(ナイト)たちは、何を守り、何を裏切るのか!

師(アッシュ)が託す密命、弟子(シュラ)の心を裂く選択。
正義と忠誠の間で揺れる剣は、果たしてどちらに振り下ろされるのか?
そして闇夜に集う、影の盟約――
腹心たちの静かな誓いが、聖域の未来を大きく揺るがす!

すべては「理想」のために。
すべては「友」のために。
いま、聖剣は運命を断ち切るのか、それとも――

次回、『裂かれし正義!誓いの剣と影の盟約』
正義か、裏切りか。
君は、小宇宙を感じたことがあるか――?


裂かれし正義!誓いの剣と影の盟約

(シュラ視点)

 

 

俺は、ただ、息を呑んでいた。

 

「―――いいか、シュラ。これから話すことこそが、本当の任務だ。お前は、アイオロスを追え。そして、彼に追いつけ。だが、決して、その聖剣を向けるな」。

 

耳を疑った。何を、言っているのだ、師範は。

アイオロスを追うこと、それ自体は、先程シオン様(…いや、今や教皇を継いだ双子座のサガ殿か)が俺に下した命だった。しかし、「剣を向けるな」とは――。

 

「…え?」

 

思わず、声が漏れる。

アッシュ師範は、俺の動揺など意に介さず、さらに言葉を続けた。

 

「お前の任務は、アイオロスと、アテナ様を、”無事に”この聖域から逃がすことだ」。

 

――完全に、思考が停止する。

 

「……」

 

俺は、信じてきた。聖域の正義を。師範の正しさを。

だが今、目の前で告げられた使命は、あまりにも矛盾している。

聖域の命令と、師範の命令。守るべき女神と、討つべき逆賊。その境界が、音もなく溶けていく。

 

アッシュ師範は、なおも静かに語りかける。

 

「アイオロスに伝えろ。『東の国、日本へ向かえ』と。『そこに、城戸光政という男がいる。グラード財団の総帥だ。その男に、アテナ様を託せ』と」。

 

(東の国、日本……グラード財団……?)

何一つ、理解が追い付かない。

だが、師範の声音は、それ以上に重かった。

それは、「一人の男」として、あるいは、「英雄の影」として、友と仲間の未来すら賭ける、決意の響きだった。

 

「アイオロスへの、俺からの伝言だ。『俺は、サガの側に残り、彼の非道を内側から制御する。暴走を食い止め、俺たちの仲間が、これ以上、犠牲にならぬよう、全力を尽くす』と」

「『だから、アテナ様がご成長あそばし、再び聖域に光を取り戻す、その時まで、女神様を頼む』」

「『来るべき日には、改めて、共にサガを討とう』」

 

俺は、必死に師範の言葉の意味を咀嚼しようとする。

だが、混乱と、恐怖と、そしてほんの少しの、僅かな希望が胸を満たす。

 

アッシュ師範は、最後に、極めて重要な合言葉を囁いた。

 

「そして、アイオロスに、こう言わせろ。『聖域は、任された』。それが、お前が、この任務を、正しく彼に伝えたという、俺への合図だ」。

 

「……」

 

その一言を聞いた瞬間、俺は、はっきりと悟った。

これは、正義でも、忠誠でもない。ただ、未来への執念だ。

聖域は、今や闇に堕ちる。だが、師範も、サガ殿も、決して全てを悪に委ねるわけではない。

この密命の真意は――

「絶望の中に、唯一残された灯火」

――そう、感じた。

 

「……師範」

 

俺は、震える声で問いかける。

「本当に、俺に、そのような大役が、務まるのでしょうか……?」

自分の正義が揺らぎ、忠誠が引き裂かれる。

だが、師範は、強い眼差しで俺を見据えた。

 

「お前だけが、できることだ。聖域一、正義に忠実な男である、お前だからこそ――アイオロスも、全てを託すだろう」

 

その言葉に、胸が熱くなる。

(俺は、ずっと剣でしか生きてこなかった)

誰かの命令に従い、誰かのために剣を振るうこと。それだけが、俺の誇りだった。

だが今、その剣を、決して抜いてはならないという使命を、師は俺に託した。

 

これほど難しい任務が、あっただろうか。

 

だが、――俺は、剣を抜かずに戦う。

 

(そうか。これが、俺の“正義”なのかもしれない)

(アテナ様とアイオロスを、命に代えても守る。それが、今の俺にできる唯一の「戦い」だ)

 

「……承知しました。師範」

 

俺は、師の目をまっすぐ見返し、静かに頭を下げた。

「命に代えても、必ずやこの任務を果たしてみせます」

 

 

俺は、ただ、立ち尽くしていた。

 

アッシュ師範の瞳が、氷のように冷たく、俺の魂の芯までを射抜く。あの温かく理知的だった師の面影は、今や跡形もない。そこにいるのは、どこまでも冷徹な策士――いや、聖域の、運命そのものを背負った「王佐」だった。

 

「もし、お前が、少しでもこの計画を漏らすか、あるいは、しくじるようなことがあれば、全てが終わりだ。サガも、アイオロスも、アテナ様も、そして、聖域も。だから、もし、その兆候が見えた時は…」

 

「アテナの名の下に、俺が、お前を殺す!」

 

その宣告は、雷のように、俺の心を貫いた。

恐怖が、骨の髄まで走る。だが――その奥に、師範の本当の願いを、俺は感じ取った。

 

(俺にしか、託せないというのか)

 

この任務が、いかに危険かは分かっている。俺が一度でも迷い、口を滑らせれば、全てが闇に落ちる。もし計画が漏れれば、サガは即座に暴走し、アッシュ師範の命も、アテナ様も、アイオロス様も、全てが消える。

 

その絶望的な「もしも」の未来を、師は俺に託したのだ。

正義と忠誠、その両方を貫き、己の魂ごと欺き通す力が、俺にあると信じてくれたから。

 

震える膝で、俺は、静かに地に伏した。

(これが、俺の正義――

 この命、師範の未来に捧げる)

 

「……御意」

 

この一言に、俺は、己の全てを込めた。

「必ずや、このシュラ、師範のご期待に応えてみせます」

 

それは、死よりも重い誓いだった。

 

そして、ゆっくりと立ち上がった時、もはや恐怖は消えていた。

この命を捨ててでも、やり遂げる覚悟ができていた。

 

アッシュ師範の密命を胸に、俺は夜の闇へと身を投じる。

サガ、デスマスク、アフロディーテ、全てを欺き、アイオロス様とアテナ様を聖域の外へと逃がす。

それが、俺に託された、ただ一つの正義。

 

(師範――必ず、応えてみせる。

 聖域の未来を、この身に背負って――)

 

夜風が、磨羯宮の大理石の床を渡り、俺の頬を冷たく撫でる。

その冷気の中、俺の心は燃えていた。

 

(アッシュ師範。俺は、あなたの弟子で、本当に良かった)

 

そう思いながら、俺は迷いなく闇へと駆け出した。

始まりの鐘が、遠くで、静かに鳴っているように聞こえた――

それは、聖なる逃避行の、始まりの合図だった。

 

 

 

 

(アッシュ視点)

 

 

シュラの足音が遠ざかるのを確かめるや否や、背後の影から、ふわりと薔薇の香りが漂う。振り返れば、蒼白い月光の下に、蟹座のデスマスクと魚座のアフロディーテが、まるで最初からそこにいたかのように、佇んでいる。

 

この二人の前では、俺は何も隠していない。計画の全貌も、シュラに授けた密命も、彼らは全て知っている。いや、そもそも、彼らがいなければ、ここまでの策は実現しなかった。

 

「良いんですか、師範」

アフロディーテが、いつもの優雅な微笑を湛えたまま、囁く。完璧な共犯者としての、静かな確認の一言。彼が問うているのは、シュラに裏切りの余地を与えたまま、聖域の最大の「希望」を外へと逃すこと、それ自体の危険性だ。

 

「…いいさ」

俺は、ため息混じりに答える。「どこかで誰かが、ああでもしないと、きっと未来が繋がらないからな」

 

本当は全部、やりたくなかった。正義を捻じ曲げ、忠義を裏切り、敵味方の仮面を付け替え続けるこの作戦に、心が擦り切れる。だが、目の前の二人――蟹と魚だけは、俺の弱さも迷いも、全部見抜いたうえで付き合ってくれる。

 

デスマスクが、ポケットからスナック菓子を出しながら、飄々と呟く。

「こっちの正義が綺麗事だけで回る世界じゃねえってのは、ガキの頃から分かってたさ。だがまあ…アッシュさんの言うことなら、何だってやるぜ」

その瞳の奥には、師としての俺への、疑いのない信頼だけが揺らいでいる。

 

アフロディーテは、肩をすくめてみせる。

「私たち“悪役”は、どうせ正義のために死ぬ運命らしいですからね。その“未来”が本当に来るまでは、あなたの悪巧みに付き合いますよ。美しく、愉快に、ね」

 

俺は、静かに頷く。

「頼む。二人の力がなければ、この先どれだけ策を弄しても、きっと最後に詰む。特に…サガが完全に闇に堕ちる、それだけは避ける――」

 

アフロディーテが、意味深な微笑を浮かべて言う。

「それで、師範…そろそろ次の手を教えていただけますか?」

 

俺は、懐から新しいデータチップを取り出す。シュラには渡さなかった、本物の“聖域の設計図”だ。

「次は、アイオロスの脱出を最大限にサポートする。そして、サガが改革を完遂するまで、彼の側で制御し続ける。それが俺たち“影の王佐”にしかできない仕事だ」

 

デスマスクが、ポテトチップスを咀嚼しながら、ぶっきらぼうに笑う。

「…悪役の集まりも、悪くねぇな」

 

月明かりの下、俺たち三人は、しばし静かに立ち尽くした。

それぞれに違う正義を持ち、違う罪を背負いながらも、この夜の聖域を支える「裏切り者」の共犯関係――

それこそが、今の聖域が生き残る唯一の方法なのだ、と。

 

俺は小さく、だが確かに笑った。

「正義の味方は任せたぞ、ヒーローたち。こっちはこっちで、最悪の夜明けを迎える準備をしようじゃないか」

 

口にした瞬間、自分の心に、妙な落ち着きが生まれるのを感じた。ここに至るまで、どれだけ迷っても、どれだけ血で手を汚しても――結局、俺が守りたいのは、サガという一人の男であり、アッシュという、一人の異物が夢見た“合理的な未来”だった。

 

「アテナが成長して、サガを討ちに来るというのなら、それも良い。そうなれば、俺が、何とかしてサガの命だけは助ける」

 

今、こうしてこの夜空を見上げることができるのも、すべては友のおかげだ。彼が正しいか間違っているかなんて、正直、どうでもいい。ただ、どんなに最悪な未来が訪れても――俺は、サガを見捨てない。最後まで、徹底的に味方であり続ける。

 

「来ないなら、来ないで、それでいい。俺たちが、サガを教皇として擁し、この地上を支配するだけだ」

 

デスマスクが、隣でククッと笑う。「アイオロスとシュラは、とんだ道化ですな」

彼らしい、皮肉混じりの賛同。その言葉さえも、今の俺には慰めになる。

 

「アイオロスには、少し損な役回りをさせることになるがな。だが、奴なら、いずれ分かってくれるはずだ」

思いがけず、胸の奥に申し訳なさがこみ上げる。だが、世界を変えるには犠牲が必要で、その重荷を背負えるのも、結局“ヒーロー”たる資質を持つ者だけだ。

 

「…俺は間違っていない。きっと、間違ってはいない」

自分に言い聞かせるように、もう一度呟く。

 

もしもアテナが帰還し、サガを討とうとする時が来たなら、その時こそ、俺はすべての知恵と力を使って、親友の命だけは、必ず救ってみせる。

 

そしてもし、その日が永遠に来ないのなら――この世界を、俺とサガで、最後まで支配し続けてやる。

 

どちらの未来も、もう俺の覚悟の内にある。

正義も悪もない。ただ、ここに“俺の理想”があるだけだ。

 

「保険とは、こういう形で、幾重にも打っておくものだ、デスマスク」

 

俺は肩越しに振り向き、デスマスクの金色の瞳を真正面から捉える。闇の中で光るその目には、疑念も、恐れもない。ただ、従順な臣下としての忠誠と、計り知れぬ野心が、独特の混じり気を持って揺らめいていた。

 

デスマスクは、愉快そうに笑う。「さすが師範だ。蟹座の名折れにならぬよう、俺も“保険”の一つくらいにはなってみせますぜ」。アフロディーテも、そっと笑いを重ねる。「信じております、アッシュ様」

 

俺は、そんな二人の腹心を、心の底から信頼していた――とは言えない。だが、彼らが己の利益と命運を、俺の理想の未来と重ねている限り、少なくとも裏切ることはない。人は、信念よりも打算で動く。その真理を、俺は嫌というほど知っていた。

 

この聖域は、常に“王”を戴いてきた。だが、時代は変わった。これからの時代は、“王佐”――裏から王を動かし、盤面を制御する黒幕が世界を支配する。俺は、その最適解だ。

 

夜空に浮かぶ星々の光は、千年単位で地上に届く。つまり、俺が今ここで紡ぐ言葉も、いずれは誰かの未来を照らすかもしれない。

 

「…王佐ってのは、神の一手先を読むだけじゃ足りないんだ」

 

俺は、内心で自嘲する。そう、たった一つの誤算があれば、全ては水泡に帰す。だが、誤算の種はあまりにも多い。人の心、神の気まぐれ、女神の覚醒、運命のイレギュラー。そのすべてを制御し切ることなど、本来は不可能だ。

 

だが、俺はやる。サガという王を、盤上の“玉将”として完璧に動かし、アイオロスという“希望”を対外的なカードとする。シュラは“密使”として、真の女神と繋がり続ける。デスマスクとアフロディーテは、絶対に外せない“腹心”だ。誰が死んでも構わない。だが、誰一人として、無駄死にさせるつもりはない。全員に役割を与え、全員を最大限に利用し、全員が“満足”する結末へ導いてやる――それが王佐の義務だ。

 

「ええと、何て言うんだったかな?そうだ。『神の一手先を読んでこその教皇!』」

静かに呟くと、デスマスクが一瞬きょとんとして、すぐに小さく笑った。「おいおい、それじゃ師範は教皇になっちまいますぜ」

「違うさ。俺は補佐役だ。だが、神と人の二手先までは、読んでやらんとな」

 

この一言に、アフロディーテが興味深げに首を傾げる。「神と人の“二手先”とは…?」

 

俺は、夜空に目を細めながら答える。「未来は、必ずしも一つじゃない。神は、ひとつの未来を指し示す。だが、人は、その未来を変えようともがく。そのせめぎ合いが、歴史だ。俺は、その両方を読む。神の筋書きと、人の自由意志――両方の“先”を見据え、どちらに転んでも勝てるように保険を張る。それが、俺の“王佐”としての覚悟だ」

 

デスマスクが、なぜか嬉しそうに嗤う。「…ああ、面白え。こんな時代が来るとはな」

アフロディーテは、静かに目を伏せる。「師範がいれば、我ら黄金の時代は揺るぎません」

 

二人の言葉に、俺は無意識に頷いた。彼らが信じているのは、“俺”という人間ではない。“俺”の持つ“未来を読む力”と、“最適解を導く知恵”だけだ。それでいい。むしろ、俺は誰かの“信仰”を必要としていない。利用できる知性と忠誠、それだけがあれば十分だ。

 

俺は、深く息を吸い込み、天を仰ぐ。

かつて、この聖域の頂に立った者たちは、皆、“正義”という名の呪縛に苦しみ、倒れていった。シオン様しかり、アイオロスしかり、サガさえも。だが、俺は違う。

 

「神の正義も、人の理想も、どちらも捨ててやる。俺が、友と、この世界を変える」

 

この夜空の下、俺の決意はもはや揺るがない。例え、どんな運命が待っていようと、この聖域を“最適解”の世界に変えるために、俺は、あらゆる手を尽くす。

サガが堕ちようと、アイオロスが絶望しようと、アテナが敵になろうと――俺は、“王佐”として、この舞台を、完璧にコントロールし続けてみせる。

 

その覚悟を胸に、俺は、静かに夜の聖域を見下ろした。十五歳の、ありふれた人間が、神々の遊戯盤を前に、あまりにも大きな賭けに挑もうとしている。

だが、それでも、やる価値はある。俺にとって、友と歩むこの未来こそが、唯一絶対の“正解”なのだから。

 

「…さあ、始めようか。“聖域の新しい夜”を」

 

そう小さく呟き、俺は、デスマスクとアフロディーテを伴い、静かに、しかし確実に、世界を変えるための次の一手へと歩き出した。

 

 




デスマスク「……いやぁ、師範。やっぱアンタの考えてることは、どこまでも底が見えねぇや。こりゃ、怖くて逆らう気にもなりませんぜ。」

アッシュ「はは、褒め言葉として受け取っておくよ。だが、怖がらせるためにやってるわけじゃない。俺だって、仲間の信頼がなければ、この策は成り立たないからな。」

デスマスク「それでも俺は、命が惜しいんでね。正義だの忠義だのより、アッシュさんに逆らったほうがよっぽど怖ぇ……それだけは保証しますぜ。」

アッシュ「……まあ、その忠誠心、しばらくは信用しておこうか。頼りにしてるよ、カニ座の黄金聖闘士。」

デスマスク「へっ、恐れ多いっすよ。ま、どうせ最後は悪役らしく死ぬ運命なんだろうが――せいぜい、アッシュさんの悪巧みに付き合わせてもらいますわ。」

アッシュ「期待してる。……さて、次はどんな手を打つべきか、カニ座の軍師としても、いい案があれば聞かせてくれよ?」

デスマスク「おっと、そいつはご勘弁を……アッシュさんの考えに付いていくだけで、俺の小宇宙がすり減っちまうんでね!」

(冗談めかしつつも、本音の忠誠――そして少しの恐怖。夜の聖域に、影の共犯者たちの低い笑い声が静かに響いていた――)

大きな章ごとに新しい作品として分けて投稿しますか?それとも今まで通り一つの作品として連載し続けますか?

  • 一作品として連載してほしい(今まで通り)
  • 章ごとに作品を分けてほしい・十二宮編など
  • どちらでも良い/お任せします
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