聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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聖域を駆ける黄金の流星!
その名は射手座・アイオロス!
だが、今――英雄は罪人となり、
哀しみの矢が夜空を切り裂く!

「守れなかった…いや、守り抜いてみせる…!」

誇り高き獅子は涙に濡れ、
女神を背負う戦士たちの運命は交錯する――
語られるは、真実か、それとも新たな“神話”か。

血と涙に染まる聖域で、
少年たちは己の信じる正義を貫く!

「俺は、兄の誇りにかけて…絶対に負けない!」

次回――「英雄は誰がために――涙に染まる聖域」
伝説は、新たな炎を灯す!
君は、涙の真実を見届けることができるか――!?


英雄は誰がために――涙に染まる聖域

(アッシュ視点)

 

シュラからの連絡は、簡潔で、感情の一切を削ぎ落としたものだった。

 

「任務、完了――」

 

その四文字に込められた意味は、俺にしか分からない。あれは、誰にも悟られないよう、徹底的に意識された声だ。魂の叫びも、正義の痛みも、その奥底に封じ込め、ただ、俺との約束だけを果たすために生きる男の声。

 

俺は教皇の間へと戻る。重厚な扉の向こう、玉座の上には、シオンの法衣と仮面をまとったサガが座している。だが、どんな仮面をかぶろうとも――友の小宇宙は、俺には手に取るように分かる。まるで、これから生まれる“世界”そのものの運命が、今、この狭い部屋に凝縮しているかのようだった。

 

「サガ……いや、教皇猊下」

 

俺は、あえて公的な呼称を使う。芝居は、完璧にやらなければならない。誰に見られているか分からないこの教皇の間で、ほんの一瞬の油断も許されない。

 

「シュラより、報告がありました」

 

俺は一呼吸置いて、事前に打ち合わせてあった「筋書き」をなぞる。

「裏切り者アイオロスは、渓谷地帯で追い詰められました。激しい戦いの末、山羊座のシュラが聖剣を振るい、アイオロスに致命傷を与えた、とのことです」

 

サガの仮面の奥の瞳が、わずかに揺れるのが分かった。だが、すぐに平静を装い、低くうなずく。

 

「…それで、アテナは?」

 

最も重要な部分だ。俺は、内心の葛藤を必死で押し殺し、冷たく、淡々と告げる。

 

「アテナ様は、アイオロスと共に、深い谷底へと身を投げた、と。あの高さ――常人ならば、助かるはずがありません。シュラが現場を確認しましたが、遺体は発見できずとも、生存は絶望的です」

 

その瞬間、教皇の間を満たす空気が、まるで氷点下まで冷え込んだかのように感じられた。

 

嘘だ。本当は、アイオロスもアテナも生きている。だが、この聖域においては、今この瞬間をもって、「二人は死んだ」ことになる。

 

それこそが、「王佐」として俺が選んだ最適解。表の物語は、完全に完成した。

 

サガ――いや、教皇シオンは、ゆっくりと立ち上がり、玉座の階段を下りて俺に近づいた。金色の仮面の奥から、抑えきれない激震が伝わってくる。たとえ王になろうとも、親友の死を告げられた時の動揺は、隠しきれるものではない。

 

「…ご苦労だった、アッシュ」

 

その声は、どこか遠い。彼の心は、今なお混乱と後悔の中にあるのだろう。だが、俺は、共犯者として、最後までこの「物語」を演じきる覚悟を決めていた。

 

「これで、聖域の正統は守られました。教皇猊下、貴方の統治を疑う者は、もはやいないでしょう」

 

俺の声は、氷のように冷たい。その奥底で、沸き上がる感情の奔流を、必死に抑え込む。この“嘘”の上に築かれる世界が、いつか、真実の「理想郷」に至ることを信じて。

 

罪を重ね、裏切りを重ね、その果てにしか掴めないものがあるのなら、俺はその全てを引き受ける。サガ、お前もだ。俺たちは、どこまでも「共犯」だ。

 

 

 

 

 

(善サガ視点)

 

 

……マスクの下で、俺の顔は怒りに歪んでいた。いや、正確に言えば――怒り、悲しみ、そして焦燥、すべての感情が混じり合い、収拾がつかない。

 

「そうか……ならば直ちに、聖域全土に布告せねばなるまい! 射手座のアイオロスは、女神アテナを誘拐し、その御身を危険に晒した大逆賊である、とな!」

 

言い放ちながらも、胸の奥底で何かが軋む。このやり方は、俺の正義でも、誇りでもない。ただ、為政者の論理。だが今の俺には、それ以外に道はなかった。

 

……と、その時だ。

アッシュが、一歩前に出て、静かに、だが有無を言わせぬ気配で俺を制した。

 

「お待ちください、猊下。それは、得策ではありません」

 

淡々とした声音。だが、その瞳には、計算された冷徹さが宿っていた。

 

「アイオロスには、獅子座の黄金聖闘士である、弟のアイオリアがおります。兄を、聖域全体から後ろ指をさされる『逆賊』としてしまえば、アイオリアの心に、いずれ、我々への反逆の火種を植え付けることになりかねません」

 

――アイオリア。あの真っ直ぐな少年の顔が脳裏に浮かぶ。確かに、アイオロスを大逆賊と断じれば、弟の心に一生消えない傷を残すだろう。それだけじゃない。聖域そのものへの疑念を、黄金聖闘士の間にまで広げかねない。

 

「……それでは、どうすればよい。真実は、どうあれ、我々はお前の言う何らかの公式見解とやらを示さねばならん」

 

アッシュは一瞬だけ俺を見上げ、――ああ、やはり、こいつは俺より遥かに「政治」に長けている。そう思わせる間合いで、淀みなく続ける。

 

「物語を書き換えましょう。アイオロスを、アテナ様を守って死んだ『英雄』に仕立て上げるのです」

 

一瞬、言葉の意味を測りかねて、俺は黙り込む。だが、アッシュは構わず続けた。

 

「聖域に侵入した謎の敵を前に、アイオロスは、ただ一人、女神を守るために戦い、力及ばず、女神と共に散った――悲劇の英雄として、です。そうすれば、アイオリアは偉大な兄の遺志を継ごうと、我々に対し、より一層の忠誠を誓うでしょう」

 

……なるほど。なんということだ。ここまでの事態を、これほどまでに「利用」しきるのか。だが、否応なく、その道が最善だと理解してしまう自分がいる。

 

英雄アイオロス――聖域の正義のため、女神のために命を捧げた英雄。その名は、逆賊の汚名を着せるよりも、百倍も、千倍も「管理」しやすい。

 

「……分かった。任せよう、アッシュ。全てはお前の脚本通りだ」

 

俺は、マスクの下で、苦い笑みを浮かべる。アッシュよ。お前がいなければ、俺はとっくに破滅していただろう。

 

だが同時に、お前が俺の魂を、この泥沼の底へ引きずり込んでいる――その自覚も、痛いほどある。

 

「――英雄アイオロス。良い響きだ。そうだな、今後の聖域のためにも、それが一番だ」

 

正義も、真実も、全ては支配のための“物語”だ。俺はもう、そう割り切るしかない。友よ――お前の作る舞台で、俺はどこまで王を演じきれるだろうか。

 

 

 

(悪サガ視点)

 

 

……まったく、これほど人間というものは滑稽なのか。

 

アッシュの口から「英雄アイオロス」などという筋書きが語られた瞬間、俺は一瞬だけ、言葉を失った。アイオロスを裏切り者として追い詰め、女神を殺そうとしたその舌の根も乾かぬうちに、今度は彼を「偉大なる英雄」に祭り上げる――その神経は、善の俺なら耐えられなかっただろう。

 

(だが……)

 

仮面の奥で、皮肉な笑いが込み上げてくる。

 

『アッシュの言う通りだ。合理的、極まりない。』

 

死者の名誉? 正義? そんなもの胸先三寸でいくらでも塗り替えられる。大事なのは、今この瞬間、俺たちの支配がいかに安定するか、ただそれだけだ。アイオリアという駒――あの純粋すぎる少年の忠誠心を、より確かなものにするためなら、兄の死も、伝説にしてやる価値がある。

 

俺は、わざと重々しく、アッシュの前に姿勢を正す。

 

「……うむ。アッシュよ、お前の案を採用しよう。射手座のアイオロスは、アテナ様を守り、殉職した、偉大なる英雄として、歴史にその名を刻むこととする」

 

言葉を口にしながら、内心で(善の俺)が呻くのが分かる。だが、もはやそんなものは、仮面の下に押し込めれば済む話だ。

 

俺は、マスク越しにアッシュを見下ろす。

この友は、正義と人間性を踏みにじる術さえ、まるで楽しんでいるかのようだ。

その底知れぬ知略と非情さ――これほど頼れる共犯者も、またといない。

 

(ああ、やっぱりお前でよかったよ、アッシュ。善も悪も、涙も情も、必要なのは“勝ち筋”だけだ。俺たちで作り替えよう、この世界を――)

 

俺は、重々しく聖域全土への布告の草稿を命じる。

 

英雄アイオロス、聖域の正義。誰もが称える美談の裏で、俺たち「本物の悪党」は、満足げにグラスを傾けている――そんな絵を、きっと、神ですら想像できまい。

 

 

(アイオリア視点)

 

 

 兄さん……どうして、どうして君は、俺を置いて逝ってしまったんだ――。

 

 俺はただ、泣き崩れていた。誇り高き獅子座の名も、黄金聖闘士の矜持も、この時ばかりは意味をなさなかった。ただ、兄アイオロスを喪った喪失感が、胸をえぐっていた。

 

 兄さんは、誰よりも正しく、強く、優しかった。俺にとって、すべての誇りだった。

 その兄が、女神を守って、命を賭して戦い、そして、帰らぬ人となった――。

 聖域の全てが嘆き、涙したが、俺の胸の中の痛みは、誰にも分かるはずがない。

 

「アイオリア……」

 

 その時、肩にそっと手が置かれた。顔を上げると、そこにはアッシュ師範がいた。

師範のことは、兄も慕っていたし、俺のこともよく気にかけてくれた。

 

「辛いな、アイオリア。だが、お前の兄は、最後まで、アテナ様をお守りした、最高の聖闘士だった。聖域の、誇りだ」

 

 師範の言葉は、胸に染みた。兄のことを、こんなにも誇りに思ってくれている人がいる――その事実だけが、少しだけ、俺を救ってくれる気がした。

 

 兄さん。俺は、強くなりたい。兄さんが果たせなかったものを、俺が受け継いでみせる。俺は……兄さんのように、正しく、強い聖闘士になる。

 

「お前も、偉大な兄のようになれ。兄に恥じぬ、立派な黄金聖闘士に…」

 

 師範の声は、優しかった。だが、なぜか抗いがたい強さを感じる。不思議だ――この言葉を聞いた瞬間から、俺の心の中に、兄の遺志を継ぐという炎が、宿った気がした。

 

「はい……兄さんのように、必ず、立派な聖闘士になります……!」

 

 涙で滲む視界の中、師範が頷いてくれる。

 

 俺は、兄さんを、絶対に忘れない。その志を継ぎ、兄の誇りを背負って歩いていく。

 今はただ、失った痛みと向き合いながら、己を鍛え、心を磨く。それだけが、俺にできる兄への供養だ。

 

 ……アッシュ師範は、兄さんの死を心から悼み、俺の成長を願ってくれている――そう、信じて疑わなかった。

 

 兄さん。見ていてくれ。俺は、必ず誇りに恥じぬ男になるから。

 

 




シュラ「……これで本当に良かったのか、デスマスク。」

デスマスク「ん?何がだよ、シュラ。お前さん、らしくもねぇ顔してるぜ。」

シュラ「師範の密命で、俺は“正義”の剣を抜かなかった。だが、心のどこかで、まだ迷いが――」

デスマスク「あー、細けぇこと気にすんなよ。アッシュ師範が“これだ”って言うなら、それが正解だ。俺は昔っから、そうしてきた。」

シュラ「……そんなに簡単に信じられるのか?」

デスマスク「おうとも。師範の背中に賭けてきたんだ、ここまでな。あんたが迷ってどうすんだよ。俺たち“悪役”は、最後まで付いていくだけさ。」

シュラ「……はは、そうだな。迷ってる暇なんて、なかったな。」

デスマスク「そうそう。俺はよ、師範が怖いから裏切らないだけだけどな。ま、裏切る気もねぇけどよ。」

シュラ「お前らしいな、デスマスク。」

デスマスク「だろ?じゃ、次の悪巧みにも、しっかり付き合ってやるよ――師範とお前にな!」

シュラ「……頼りにしてる。」

二人の背中を、夜風がそっと押していく――
“信じる力”こそが、今の聖域を支えている。

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