聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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ケツから始める聖域再建!便器の上でも小宇宙は燃える

(シュラ視点)

 

 

 教皇の間――そこは、これまで数え切れぬ聖闘士たちが憧れ、そして恐れた、聖域最高権力の象徴であった。その玉座に座るのは、もはや伝説と化した教皇シオンの姿――否、その実体は双子座の黄金聖闘士、サガ。

 

 俺はその玉座を正面に見据え、静かに立っている。脇にはアッシュ師範、そしてデスマスク、アフロディーテという、かつては奇矯とさえ思えた面々。今や、この五人こそが、聖域の運命を動かす「影の中枢」となっている。

 

 アイオロスは殉職し、アテナ様は取り戻した。しかし、あまりにも多くのものが、一夜にして消え去った。ということになった。

 …全ては、アッシュ師範の計画通りに。

 

 新体制となった聖域の初めての会議。その場に立ち会う俺は、かつて感じたことのない緊張と責任の重さを、全身で受け止めていた。

 

 サガ――いや、今や教皇猊下が、マスクの奥から静かに言葉を紡ぐ。

「ここに集った者たちよ。今宵より、聖域の未来は、我ら五人の双肩にかかっている」

 

 彼の声は、冷静で、どこか人間離れした威圧感を帯びていた。あの優しかったサガの面影は、ほとんど感じられない。だが、俺にも感じられる――その奥底に、未だに揺れる葛藤と痛みが残っていることを。

 

 アッシュ師範が、教皇に一礼し、前に進み出る。

「ここから先は、感傷ではなく、合理と秩序のみが支配する聖域だ。まずは、内部の安定が最優先となる。これまでの聖闘士たちの動揺を抑え、新しい秩序を速やかに徹底すること。特に、黄金聖闘士たちの掌握と士気向上は急務だ」

 

 師範の声は、いつも通りの静謐さを保ちながらも、今夜はどこか冷たく響く。その冷徹さの裏に、私は、あえて心を凍らせている師の苦悩を感じた。

 

「聖域の対外的な説明責任もある。アイオロスの英雄譚を積極的に流布し、女神は今なお聖域のもとにおわすと内外に知らしめよ」

 

 デスマスクとアフロディーテは、従順に頷く。二人はもはやアッシュ師範の絶対的な腹心だ。

俺は、己がこの巨大な陰謀の中で、唯一、良心を試されているような感覚にとらわれていた。

 

 だが、もう後戻りはできない。この道を選んだ。

 師の密命を受けた覚悟も、全てを引き受けてこの場に立っている。

 

「最後に、君たちに命じる。これからの聖域では、いかなる個人的な感情も、私情も捨てよ。今ここにあるのは、正義と秩序のみだ」

 

 アッシュ師範のその言葉に、私は小さく頷いた。たとえ、どんな疑念や恐れが心の奥底で渦巻こうとも、ここで退くことは許されない。私は、師が私を信じてくれた、その重さに報いるため、剣となる覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

(アッシュ視点)

 

 

 

 教皇の間に、重苦しい空気が漂っていた。

 

 この場にいるのは、現教皇サガ(中身は青ざめている)、我が腹心デスマスク&アフロディーテ、そして本日一番胃が痛そうなシュラ。それぞれが、この新体制の幕開けにどれだけ重大な歴史的決断が下されるのか――まるで処刑宣告を待つ罪人のように息を潜めている。

 

 ……いいぞ。皆の期待が極限まで高まっている。この空気、最高だ。

 

 俺は、ゆっくりと一歩前に出た。間をたっぷり取り、一人ひとりの顔をじっくり見てやる。サガの眉間のシワがMAX、デスマスクは妙にワクワク顔、アフロディーテは「美と策略の天秤」を脳内で傾けてる感じ、シュラは目を泳がせつつも剣呑な気配。

 

「皆、揃っているな。我々が、新たなる聖域として、まず最初に取り組むべき、最重要課題を発表する」

 

 緊張感はMAXを通り越して、まるで宮殿全体が凍り付いたようだ。いいぞ、どんな無茶振りにも動じない面々を、今日こそ驚かせてやる。

 

「―――十二宮全てに、水洗トイレを設置する!」

 

 ……静寂。静寂。静寂。

 

 サガが、教皇マスクの下で「えっ?」と素の顔に戻ったのが分かる。シュラは「世界征服よりも先に…?」と絶句。アフロディーテは一瞬口を開きかけて閉じ、デスマスクは吹き出しそうになってる。デスマスク、お前、絶対笑ってるだろ。

 

「……ごめん、もう一回言ってくれるか?」とサガ。うん、その顔だ、その顔が見たかった。

 

「十二宮全てに水洗トイレを設置する! いいか、革命は、足元からだ!」

 

 俺は、手を高々と掲げる。スライドショー用意済みだ。俺の小宇宙で、空中に巨大な設計図とグラフを映し出す。

 

「見よ! これはトイレ革命による聖域衛生環境指数の推移だ! 上下水道インフラの拡張、感染症リスクの激減、生活満足度の爆上がり! 最強の聖闘士は、最強の腸内環境から生まれる!!」

 

 

ありがとうシュラ、君の「……は?」は、俺の聖闘士人生でも五本の指に入る名リアクションだ。

 

本気だよ、シュラ。これは歴史的瞬間なんだぞ?お前の生涯初「聖剣抜刀の覚悟」が、厠(かわや)革命の号砲で塗りつぶされるとは思うまい。だが、これが現実。これが聖域。これが俺の政治力!

 

案の定、シュラは頭を抱えていた。きっと心の中では「もういっそ便器でアテナを祀るべきか…」くらいの迷走をしてるに違いない。可愛い奴め。

 

デスマスクに至っては、誰よりも食いついた。

「っしゃあ!待ってました、師範!」と来たもんだ。

さすが蟹座。昼夜問わず“死者の国”と“実際に臭いがする”という、二重の地獄を体験した黄金聖闘士は違う。しかも、デスマスク、師範に対して「ついに人類は“穴”の呪いを断ち切った!歴史に名を刻みますぜ!」とまで言ってくれた。

 

――大丈夫か、蟹座の黄金聖衣よ。

 

アフロディーテもノッてきた。「美しき肉体と精神は、清潔な環境にこそ宿るもの」…さすが美のカリスマ。そのうち「トイレも薔薇で飾ろう」とか言い出しかねない。

 

でもって、みんなの歓喜の叫びと呆然自失の間に、サガがいる。

玉座で、教皇マスクの奥から、重い沈黙――いや、あれはたぶん「現実逃避」だ。きっと今、教皇マスクの内側で「本当に俺はこの道を選んで正しかったのか…」とか「これが“地上支配”の始まりか…」とか、人生を見つめ直している顔をしているに違いない。

 

俺はサガに歩み寄り、マスク越しに、最大級の笑顔でウインクしてやる。

「サガ。最強の聖闘士たるもの、最強の便所を持たずして何が聖域だ?“聖域の革命”、まずはケツから始めようぜ!」

 

よし、仕上げだ。

 

「師範!」とデスマスク。「便座の高さは自由調整式で頼みます!」

 

「芳香剤はバラの香りで!」とアフロディーテ。

 

「……全館、男子と女子に分けますか?」とシュラ。

 

「任せとけ、俺は“現代科学の神”だ!」

 

――これが、俺たちの、新しい夜明けだ!

 

 

 

(善サガ視点)

 

 

――ああ、なんて奴だ、アッシュ。

 

この数日、いや、もっと前からかもしれない。俺の心は、ずっと凍りついていた。シオン様を殺め、親友を欺き、アテナを――世界を――裏切った。そのすべての重さが、ずっと俺の心臓を締めつけていた。

 

……その苦しみの中で、俺は、「新たな聖域」の第一歩が何かを、頭のどこかでずっと考えていた。権力の掌握? 反対勢力の粛清? 世界征服の序曲? いや、そんなものではないことくらい、薄々、分かっていた。

 

それでも、「最初の議題は――トイレ」。

その一言を聞いた瞬間、俺の中の何かが、カチリと音を立てて外れた。

 

本気で言っているのか? アッシュ、お前は……。俺たちが命を懸けてきたもの、この世界を裏から覆し、血で染めてまで求めた「新世界」が、トイレ――それも“水洗トイレ革命”から始まるというのか。

 

思考は、一瞬、完全に止まった。

 

だが、次の瞬間、どうしようもなく、おかしかった。

……く、くくく……と最初はこみ上げるのを必死でこらえた。だが、もう抑えられなかった。マスクの内側が、涙で濡れる。

 

「くはは……!あははははははっ!」

 

教皇のマスクを外す。俺はもう、取り繕うのをやめた。玉座の上で、腹を抱え、涙を流し、心の底から笑っていた。

 

――ああ、これだ。これでいいんだ。

俺が求めていたのは、こういう未来だったんじゃないのか。悲劇も、絶望も、欺瞞も、全てを飲み込んで、笑い合える友がいて。くだらないことに、心の底から真剣になれる、そんな世界。

 

俺の罪は、決して消えないだろう。シオン様のことも、アテナのことも、全部、背負って生きていく。でも、その重さに潰されるだけの人生は、まっぴらごめんだ。

 

「――それでこそ、アッシュだ!」

 

そう叫んで笑いながら、俺は久しぶりに、新しい聖域の空気を、肺いっぱいに吸い込んだ気がした。アッシュ、お前が隣にいてくれて、本当に良かった。

 

玉座の上に響く、笑い声。それが、この新しい世界の夜明けなのだ。

そう、俺たちがどんな暗闇を作ろうと、きっとまた笑える日が来る。

……ありがとう、アッシュ。お前がいれば、どんな未来でも、怖くない。

 

 

 

 

(アッシュ視点)

 

 

サガが腹を抱えて爆笑しはじめた時、俺は一瞬ぽかんとした。いや、わかる、わかるぞその気持ち。まさか、ここまで壮大に、壮絶に、血と涙と汗と陰謀が渦巻いた新体制の「最初の議題」がトイレ改革だと、誰が思うか。

 

だが、これが俺だ。ブレない。初心は大事だ。

「初志貫徹だ。俺らしいだろう?」

 

胸を張って言い切った。聖域に来たその日から、俺は誓っていたのだ。

(いつか、ここにウォシュレットを付けてやる……!)

その夢が、今ついに現実となる。感無量である。

 

 

サガが笑い、空気が一気に和らぐと、今まで黙ってた連中も一気に本性を現し始めた。

最初に前のめりになったのは、デスマスクだ。

「師範!トイレもいいけど、俺の宮にも電気を引いてくれよ!最新のテレビゲームがやりてぇんだよ!」

 

おい蟹座、革命のきっかけがファミコンて、お前は小学三年生か。あ、四年生か・・・。

 

と思いきや、アフロディーテも、王子様スマイルで続く。

「私も!美しいファッションショーや、世界の庭園特集をこの宮で眺めたいものです……ついでに、温室の水やりも自動化できませんか?」

 

君たちの願い、リアルすぎるぞ。

 

俺は思わず、拳を握って宣言した。

「よし、任せろ!ウォシュレットもテレビも、温室も、電気ケトルも、全部実現してやる!」

 

デスマスクが目を輝かせて拍手しはじめる。

「やっぱ師範しかいねぇよ!最高だぜ!」

アフロディーテも上品に頷きつつ、なぜか美顔ローラーを持っていた。

 

「では、各宮のリフォーム計画、詳細な希望リストをA4用紙一枚にまとめて提出するように!来週までだぞ!」

 

「師範、それ終わったら“黄金専用風呂”も頼みます!」

 

「温水プールも!」

 

あ、調子乗り始めたなコイツら……!

 

だが、いい。これでいいんだ。

――だって、俺が本当に守りたかったのは、みんなが安心して暮らせる、「日常」そのものなのだから。

 

さあ、ここからが本当の「聖域改革」だ!

俺は今、世界で一番「王佐の才」に酔いしれている。

ありがとうサガ。お前の笑顔と、みんなの欲望が、俺のエネルギーだ!

 

さあ次は……エアコンの設置申請書だな。

 

 

 

(サガ視点)

 

 

俺は、しばらく笑いが止まらなかった。アッシュの無茶苦茶なトイレ改革宣言に、デスマスクとアフロディーテが調子に乗り、まるでガキどものクリスマスプレゼント会議だ。自分が今、どんな権力を手にし、どんな大罪を犯してしまったのか、一瞬だけ全部、どうでもよくなる――そんな、馬鹿みたいに明るい空気だった。

 

でも、その中に一人だけ、まるで違う世界にいるような顔があった。山羊座のシュラだ。

 

皆の熱狂が静まり、自然と彼に視線が集まった。俺はマスクを外したまま、微笑みながら声をかける。

「シュラ。お前はどうなんだ?欲しいもの、何かあるか?」

 

しばらく沈黙が流れた。彼は、戸惑い、少しだけ視線を落として――そして、消え入りそうな声で呟いた。

 

「……携帯が、欲しいです」

 

その答えが、あまりにも真面目で、あまりにも不器用で、俺の胸にじわっと熱いものが広がる。こいつは、なんて真っ直ぐな奴なんだろう。誰よりも聖闘士らしい。正義の男。己の欲望より、組織の連携と義務を優先する。

 

……俺は、たまらなくなって、また声を上げて笑った。でも今度は、バカにする笑いじゃない。弟を見る兄貴の気持ちだ。慈しみの、誇らしい気持ちだ。

 

「よし、買ってやる!最新式の、連絡がどこにいても絶対つながるやつを、俺が責任持って用意しよう」

 

その言葉を口にしながら、俺は本当に心から、こいつが味方でよかったと感じていた。アッシュやデスマスクたちのような悪党気質も必要だが、シュラのような誠実な剣が、今の俺たちには欠かせない。

 

ふと、俺は、これまでの自分――自分の中に渦巻いていた、光と闇、そのどちらでもない自分――が、ほんの少しだけ前を向いた気がした。

 

「いいかシュラ、お前のようなやつがいてくれて、俺は本当に助かる。ありがとうな」

 

その言葉に、シュラは驚いたようにこちらを見た。でも、すぐに真っ直ぐに頭を下げて――その表情は、先ほどよりもずっと明るかった。

 

こういう空気、悪くない。いや、むしろ、俺たちの新しい聖域には、きっとこんな「小さな幸せ」の積み重ねが必要なんだろう。

 

アッシュが作り、俺が率いるこの場所が、いつか本当に「誰もが幸せになれる聖域」になることを、心から願って――俺は、会議の次の議題を口にした。

 

「……さて、次は風呂の改修計画について、議論しようか」




激動の聖域――
血と涙と陰謀が渦巻く新体制発足の朝。
だが、王佐アッシュが掲げたのは、まさかの「厠(かわや)革命」!

「最強の聖闘士(セイント)たるもの、最強の便所なくして何が黄金か!?」

玉座を震わす爆笑の嵐、教皇マスクも涙する!
デスマスクは叫ぶ、「ついに“穴”の呪いを断ち切った!」
アフロディーテは薔薇で芳香を――
シュラは真顔で携帯希望!?
そしてサガ、マジで腹を抱えて笑い転げる。

だが、油断するな!
この笑いの中にこそ、俺たちの未来(ミライ)への決意がある。

次回「ケツから始める聖域再建!便器の上でも小宇宙(コスモ)は燃える」
新たな聖域の夜明けは、ウォシュレットの水音と共に始まる!

聖域はこの後どんな世界線に??

  • 本編でこそ水洗トイレが輝く!
  • 黄金聖闘士達のオリジナル短編が見たい。
  • セインティア翔ってあるんだぜ!
  • 他の作品とコラボしたいよね!
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