聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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――聖域を覆う深き闇。その中で、ただ一人、黄金の矢は走る!

裏切りと悲劇が渦巻く夜、射手座アイオロスは、幼き女神アテナをその腕に抱き、絶望の聖域を駆け抜ける!
迫り来る教皇サガの魔手、そして運命の鉄鎖。すべてを断ち切る黄金の翼は、果たして光を掴むことができるのか!?

未来を賭けた命の逃避行――
「守れ、希望の女神!飛べ、黄金の翼よ!運命を変える矢となれ!」

次回――
「黄金の翼よ、女神を抱いて翔べ!」

涙と誇りを胸に、伝説はここから始まる!


黄金の翼よ、女神を抱いて翔べ!

時は遡りアイオロスの脱出の話

 

(アイオロス視点)

 

 

(なぜだ、サガ…!なぜ、こんなことに…!)

 

 そんな問いを抱く暇など、もはやない。俺は本能のままに動いた。サガの凶刃がアテナを貫く、その一瞬前に、全身の筋肉を弾丸のように収縮させ、アテナの揺りかごを抱え上げた。サガの叫びが背中を刺す。

 

「邪魔をするな、アイオロス!」

 

 その声を聞きながら、俺は迷いなく神殿の外へと飛び出した。聖域の空は、深夜の闇の中で重く沈んでいる。だが、腕の中のアテナ様は、驚くほど静かだった。まるで、すべてを悟ったように、小さな手が俺の指に絡みつく。そのぬくもりが、俺の心を引き裂く。

 

(大丈夫だ…俺が、必ず、お守りします)

 

 聖闘士として、いや、一人の人間として、俺にできることは、ただ一つ。アテナ様を、この聖域の混乱から逃し、その御身を守り抜くことだ。

 

 俺は、一気に人馬宮まで駆け降りる。サガの追撃が来る前に、やるべきことがあった。聖闘士の未来に、希望を残すこと。それが、俺の責任だ。

 

 人馬宮の石壁に、小宇宙を集中させて指先を走らせる。

「この場を訪れし少年たちよ、君たちにアテナを託す」

 

 その一文に、すべてを込めた。万が一、俺がここで倒れても、未来の誰かが、このメッセージを見つけてくれるだろう。いつか再び、アテナ様を守る騎士が現れる。その希望だけを信じて、俺は再び走り出す。

 

 懐から、アッシュに与えられた通信機を取り出した。あの男なら、俺の意図を必ず汲んでくれるはずだ。サガとて、簡単に欺ける相手ではない。だが、アッシュは違う。あいつの頭脳なら、きっと――いや、あいつしか、もう頼れる者はいない。

 

 手早く、短いメールを打ち込む。

『サガが謀反。俺はアテナ様と逃げる。アッシュ、後は頼む』

 

 送信を終えた直後、俺は神経を研ぎ澄ませた。教皇の間から、再び殺気が迫る。奴が追ってきた――いや、来るな、来るな…!

 

 俺はアテナ様を左腕に抱え直し、右手で人馬宮の奥の扉を開ける。師匠の言葉が、今も耳に残っている。

 

『戦場で大切なのは、前に進む覚悟と、引き際の見極めだ。どちらか一つでも欠けた時、人は必ず破滅する』

 

 アテナ様の息遣いが、俺の耳元にくすぐったいほど近い。サガの小宇宙が、遥か後方で爆発する。追撃の気配――だが、今は俺の方が一歩、いや、半歩だけ速い。

 

 十二宮を下る階段は、闇と霧に包まれ、恐ろしく長く感じる。だが、迷いはなかった。俺は自分を信じ、アッシュを信じ、なにより、アテナ様の奇跡を信じていた。

 

(頼む、アッシュ。後は――お前だけが頼りだ)

 

 人馬宮を抜け、天蠍宮を越え、幾重にも張られた警戒網をかいくぐりながら、俺は何度も何度も自問した。本当にこれで良いのか、と。兄として、弟アイオリアを置き去りにすることが、どれほど心苦しいか――その痛みが胸を締め付ける。

 

 でも、俺にはもう迷っている時間はない。アテナ様の小さな命。その命だけは、どんなことがあっても、守り抜かなくてはならない。

 

 巨蟹宮の入り口をくぐった瞬間、俺の全身に、かつてないほどの緊張が走った。

その中央で、デスマスクが、まるでこの時を待っていたかのように、腕を組み、にやにやと笑っている。

 

「デスマスク……!」

 

 俺は、思わずアテナ様をかばうように抱きしめた。こいつは、元から聖域の中でも最も癖が強い聖闘士。だが、いざという時は、必ず正義を貫く男だと信じていた。だからこそ、今――サガの謀反に気づいた今、この男ならきっと、味方してくれると、ほんの僅かに期待していた。

 

「道を開けてくれ!サガが、教皇を……!」

 

 俺の必死の叫びに、しかし、デスマスクは肩をすくめて、まるで俺の動揺を楽しむように笑ってみせる。

「おいおい、焦るなよ、アイオロス。こっちは今、芝居の一番良いところなんだぜ?」

 

 その余裕の態度が、逆に俺の心を不安で締め付ける。まさか、デスマスクまでサガの側についたのか?それとも、ただの傍観者なのか?いや、そもそも、俺の味方など、もうどこにもいないのか――。

 

 俺は無意識に、小宇宙を高め、戦闘態勢に入ろうとした。その瞬間、デスマスクは、まるで手品師のように、ひらひらと手を振った。

 

「待てって、英雄様よ。俺はあんたとやり合うつもりはねえ」

 

 その軽い口調に、逆に不安が募る。だが、次の瞬間、デスマスクは、俺の人生の中で最も衝撃的な一言を口にした。

 

「『もしもの時は、アイオロスは通すように』ってよ。アッシュ師範から、そう言われてるんでな」

 

 アッシュ、だと――?

 

 一瞬、状況が呑み込めなかった。アッシュが?なぜ、今この場面を想定して、俺に味方するような指示を?いや、アッシュなら、あり得る。あいつの洞察力と準備の徹底ぶりは、俺が一番よく知っている。

 

「……アッシュが、本当にそう言ったのか?」

 

 俺の問いに、デスマスクは、肩をすくめる。

「信じるか信じねえかは、あんた次第だがな。ま、俺も頭じゃ色々考えたがよ――あんたがそこまで覚悟決めてる顔、ウソじゃねえだろ」

 

 彼は、無言で脇に退いた。俺の進むべき道が、今、ここに開かれた。

 

 疑念と恐怖に満たされていた俺の胸に、熱いものがこみ上げてくる。アッシュ――お前は、やっぱり、俺の信じた通りの男だった。俺の味方でいてくれる、数少ない、本物の友だった。

 

「ありがとう、デスマスク。お前も、気をつけてくれ」

 

 そう言い残し、俺はアテナ様を抱え、再び駆け出した。今なら、まだ間に合う――聖域の外へ、未来の女神を連れて、必ず辿り着いてみせる。

 

 

 

 

 巨蟹宮を越えた時、俺の胸に去来していたのは、怒りでも悲しみでもなかった。デスマスクの言葉――「アッシュ師範から通せと言われている」――が、燃える松明のように心に灯りをくれたのだ。たとえ全ての黄金聖闘士が敵に回ろうとも、アッシュだけは、最後まで自分を信じていてくれる。それが分かっただけで、心のどこかが、確かに強くなった。

 

 アテナ様を胸に抱きしめ、次なる宮を駆け抜ける。己の足音と心臓の鼓動だけが、夜の聖域に響いていた。

 

 だが、いよいよ最後の関門、聖域から外へ出る吊り橋。その前で、俺は歩みを止めた。

 

 そこにいたのは、シュラ。鋭利な聖剣の使い手であり、サガに劣らぬ忠誠心を持つ、最も会いたくなかった黄金聖闘士だ。彼ほどの男が、教皇の命を受けたなら、友誼も情も、すべて断ち切って俺の前に立ちはだかるだろう――そう覚悟していた。

 

「戦闘か……?」。俺は低く身構える。アテナ様を絶対に傷つけさせるものかと、全身の小宇宙に力を込める。

 

 だが、シュラは構えるどころか、微動だにしなかった。彼の顔には、これまでに見たことのないほど深い苦渋の色が浮かんでいた。

 

「アイオロス……」

 

 その声音は、まるで旧友に語りかけるような、切実な響きを持っていた。

 

「アッシュ師範より、伝言を預かっている」

 

 その一言が、俺の心に鋭く突き刺さった。アッシュ。やはり、あの男はすべてを見通しているのか。いや、あいつがそう言うなら、きっと間違いはない。俺は息を呑み、次の言葉を待った。

 

 そして、シュラの口から語られたのは、俺が想像していた以上に、壮大で、苛酷で、そして、恐ろしい「真実」だった。

 

 サガによるクーデターの真相。聖域の父・シオン様は既に……そして、サガが教皇の座を奪い、暴走しようとしていること。アッシュはその渦中に自ら身を投じ、敢えて「共犯者」となり、聖域の内部から暴走を抑え、理想の未来を目指そうとしていること。

 

 そして、俺とアテナ様には、「日本へ逃げ、城戸光政に女神を託せ」という伝言があったこと。

 

「アイオロスへの、師範からの伝言だ」

 ―――『来るべき日まで、聖域は、任された』

 

 それは、命令でも祈りでもない。ただ一人の友から、一人の友への、静かで力強い「約束」だった。

 

 俺は、その場で膝をつき、アッシュ師範の覚悟の重さを受け止めた。彼は、自ら全ての咎を背負う道を選んだのだ。俺には、逃げることしかできない。しかし、それもまた、未来への最も重要な任務なのだと。

 

 シュラは、その鋭い剣を、一度も俺に向けなかった。むしろ、友に託された役割を、確かに俺にバトンとして手渡すかのようだった。

 

「……お前も、気をつけてくれ」

 

 俺は、そう呟いて、シュラの前を通り過ぎた。彼は、俺の背に「アテナ様を、頼む」と、ただ一言だけ、送り出してくれた。

 

 夜のギリシャの空は、星が降るほどに美しかった。だが、その光は、今はやけに遠い。俺の腕の中にいる、まだ幼いアテナ様。その温もりが、何よりも、この混沌の中での救いだった。

 

 俺は、聖域の端へと向かう山道を、全速力で駆けた。途中で、城戸光政に連絡をとることなど、考える間もなかった。ただ、アッシュの言葉と、彼に託された未来の重さだけが、心を突き動かしていた。

 

 振り返れば、シュラも後を追ってくれていた。その瞳は、かつて俺が知っていた正義の聖剣そのものだった。俺たちはサガに、そして聖域のすべてに、命懸けの裏切りを演じている。だが、これは、ただの「反逆」ではない。友の信念と、未来への希望を繋ぐ、唯一の道だった。

 

 やがて、遥か彼方に、海が見えてきた。その先に、日本への逃避行が始まる。アッシュ、お前はきっと、この世界のすべてを計算して、俺たちの逃走劇すら「筋書き」のうちに入れているのだろう。だが、だからこそ、俺は迷わない。

 

 アテナ様の温もりと、友の約束。その二つだけを、しっかりと胸に刻んで、俺は、夜明け前のギリシャを、駆け続ける。

 

 これは、命懸けの逃避行だ。だが、決して絶望ではない。アッシュ――俺は、お前の信じた未来を、きっとこの腕で守り抜いてみせる。

 

 聖域は、任された。必ず、また、この地に希望の光をもたらす日が来ると、俺は信じている。




アイオロス「……ふぅ。どうにかここまで逃げ切れたな、アテナ様。いや、俺一人じゃ、たぶん無理だった。ありがとう、シュラ。」

シュラ「礼には及ばないさ。俺は、お前とアテナ様を託された。それだけだ。」

アイオロス「それだけ、ね……。だが、あの時、お前が剣を抜かなかったから、俺は前に進めた。あんなに迷いながらも、最後は“任された”って、笑ってくれたじゃないか。」

シュラ「……あれは、師範の言葉を伝えただけだよ。俺は、正義ってものが、まだよく分かってない。ただ……お前の覚悟には、嘘がなかった。それだけは、信じられた。」

アイオロス「フッ……本当に、不器用な奴だな。お前が“正義”で迷うなら、俺は“希望”を信じてみるさ。」

シュラ「希望か……。アイオロス、いつかまた聖域で会う日が来たら――その時は、遠慮なく、俺の拳を受けてくれよ?」

アイオロス「ああ、その時は手加減なしで頼む。……だが、できればアテナ様のために、二人で拳を振るえたら、それが一番だ。」

シュラ「……ああ。きっと、また、そんな日が来るさ。」

聖域はこの後どんな世界線に??

  • 本編でこそ水洗トイレが輝く!
  • 黄金聖闘士達のオリジナル短編が見たい。
  • セインティア翔ってあるんだぜ!
  • 他の作品とコラボしたいよね!
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