聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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聖域(サンクチュアリ)の頂に立ち、ついに“地上支配”の野望を手中にしたサガ。しかし、彼を待ち受けていたのは、神すらも震撼する“紙の山”――!
年金制度に予算折衝、黄金聖衣の修繕計画から牛乳代の精算まで、無限に積み上がる書類の山脈(ペーパー・マウンテン)!
神話の時代より続く聖域最大の難関、“ペーパーワーク地獄”に、銀河を砕く力も無力となるのか!?

次回――
「銀河より重き書類の壁!教皇サガ、最強の敵はペーパーワーク」

果たして、サガは書類地獄を乗り越え、真の支配者(ルーラー)となれるのか!?
聖域の夜明けは、まず伝票の山を制することから――!


銀河より重き書類の壁!教皇サガ、最強の敵はペーパーワーク

(サガ視点)

 

 

教皇の間――聖域の頂。その玉座に俺は座っていた。いまだ新しいはずの法衣は重さこそあれど、もはや異物感は消えつつある。黄金のマスクの奥、俺の双眸は薄暗い宮殿の天井をぼんやりと見つめていた。

 

悪サガ『フン、ようやくこの忌々しい仮面と衣装にも慣れてきたわ。さて、アッシュはまだか。さっさと、地上を我らの意のままにするための、最初の勅令でも出すとしよう』

 

 その言葉に苦笑いしたくなる。玉座の上から見る世界は、確かに全てが掌の内にあるように見える。誰も逆らえない。誰も逆らうことを許されない。ここに至るまで、どれほどの罪を重ねてきたのか――そう思うと、時に身体が冷えきるような感覚に襲われる。

 

善サガ『俺は、地上を支配すると誓った。シオン様にも、アテナにもできなかった、人間の手による、完璧な平和を実現するのだ。だが…その、第一歩とは、一体何をすればいいのだろうか…』

 

 理想の重さを、今さらながらに噛みしめる。シオン様の死、アイオロスという希望の星を闇に沈めた罪――すべてを背負って、この玉座に座ることに意味があると、思い込まなければ、俺はもう正気でいられないのかもしれない。

 

 仮面越しの視界は、どこまでも遠い。外から見れば、教皇サガは、もはや完全なる支配者。アッシュと共に、この聖域と地上の新秩序を築き上げる…はずだった。

 

悪サガ『いいか、善良ぶったところで、誰も幸せになどしない。我らがもたらす平和は、力による秩序。逆らうものは、徹底的に排除すればいいだけだ』

 

善サガ『……だが、それでは何も変わらない。俺は、恐怖で人を縛るためにここへ来たのではない。人々が、心から笑い合える世界。争いのない地上。それを夢見てきたのに――』

 

 堂の隅、静かに立つ衛兵たちの気配すら遠く感じる。かつては同志だった部下たち――シュラ、デスマスク、アフロディーテ――彼らの忠誠や欲望、恐怖や期待が、今や自分の双肩に圧し掛かっている。

 

 俺は、どうすればいい?「支配」の第一歩とは何だ?人心の掌握か、法制度の刷新か、世界への宣戦布告か。アッシュなら、最善の手を用意してくれるだろう。だが、俺は、この玉座に座る「王」となったのだ。いつまでも彼の助言を待つだけでは、何も始まらない。

 

悪サガ『いっそ全てを焼き払え。逆らうものは即刻粛清し、世界中に「サガの時代」の到来を知らしめてやればいい』

 

善サガ『…違う、それでは、ただの暴君だ。俺は、俺は……』

 

 思考が、宙をさまよう。手の中の力は、もはや誰もが認める最強の黄金聖闘士のそれ。だが、その力をどう使えば「正しい」のかその答えが見えない。たとえアッシュが盤面を整えてくれても、その中心にいるのは他ならぬ「俺」だ。誰も、その責任を代わってはくれない。

 

 ふと、扉の向こうに気配を感じる。アッシュだろうか。彼なら、きっと、次の一手を提示してくれるはずだ。だが、それを「受け入れる」のは、自分自身。善も悪も、すべてを統べる「サガ」という名の、哀しい存在だけ。

 

善サガ『……なぜ、俺はここまでして、玉座に固執したのだろう。シオン様やアテナを否定し、アッシュの信頼すら踏みにじって――』

 

悪サガ『今さら迷うな。勝者は勝者の論理を貫けばいい。敗者の血と涙で、新たな地上の秩序を築け。それが、教皇サガの定めた道だ』

 

 ……否応なく時は流れ、世界は動いていく。アッシュの足音が、廊下に響く。新たな改革の火蓋が、切られる時が来た。

 

 だが、俺は知っている。どんなに力を手にしても、どんなに周到な策を用意しても、満たされることのない空虚が、この胸の奥底で、永遠に渦巻いていることを。

 

 

(アッシュ視点)

 

 

ギィイイィィッ……。

厳粛な沈黙を破って、重厚な扉が開いた。

 

「失礼しまーす、教皇猊下ァァ!」

 

俺、アッシュ。入場はバッチリ、今日も全力投球である。しかも、俺一人ではない。後ろには、いつも聖域の端っこでイジメられてるような雑兵たちが、手押し車を押して、ズラリと並んでいる。

 

その上には、パピルスの巻物、羊皮紙のバインダー、現代文明の敗残兵(手書きファイル)が、これでもかと積み上げられていた。

 

雑兵A「せ、師範!重すぎます、これ!」

雑兵B「こんなに書類あるのかよ……俺たち、一生かかっても終わらねえ……」

 

俺は、スマートにクリップボード片手に進み出る。

「ご苦労。そこに置いて。全部。――教皇猊下の前で」

 

ドンッ!ドンッ!バサッ!

 

山が……いや、これ、もはや「山脈」である。玉座の前は一瞬でエベレスト級の「書類の壁」と化した。

 

 

仮面の下で、サガが目を見開くのが分かる。

 

「……アッシュ。これは一体……?」

 

「教皇猊下、こちらが現在聖域を運営している、全ての行政書類です」

 

そう、ここからが本番だ。

 

「まずはこの山、世界各地の修行地への食料や資材の兵站リスト、聖闘士及び雑兵の人事ファイル、アテナの聖地周辺の土地管理台帳、過去五十年分の儀式の予算報告書、等々、全部。把握してください」

 

サガ「いや、あの……俺、力で支配する予定だったのだが?」

 

「え?地上を支配するには、まず“書類を支配”してからです。新しい時代を担う者は、まず行政の本質を知るところから!」

 

サガ「……」

 

「無駄な書類もたっぷり混ざってますので、気が向いたら“断捨離”しても構いません。あ、でもシュラの勤務表だけは必ず残してください。あれがないと彼がいなくなりますので」

 

雑兵たちはそそくさと退場していく。

残されたのは、俺、サガ、そして――

 

書類の山。

 

サガは、恐る恐る手を伸ばし、目の前の「予算折衝記録」を一枚ペラリとめくった。

 

サガ「……この“聖闘士年金制度運営委員会”って、何だ?」

 

「俺が提案して成立させた聖域で五年以上勤めたら支給される手当の積立金運用報告書です。ちなみに今月の赤字は、アルデバランが牛乳代で使い込んだ分ですね」

 

サガ「牛乳……」

 

「はい、あと、修繕費は、カミュが訓練で宝瓶宮に穴を開けたせいで赤字です」

 

サガ「……」

 

「はい、次!」

 

どんどんファイルを手渡す。

 

「この“聖衣メンテナンス予算”、今年は誰が一番請求多かった?」

「デスマスクです。“魂の浄化には聖衣クリーニングが不可欠”と申請されてます」

「ははは……」

 

仮面の下から、薄く笑い声が漏れた。いや、笑い事じゃないぞ。

 

 

「さぁ!教皇猊下、ここからが本番です。まずは、年金制度の流れを覚えつつ、聖衣修繕費の見積もり精度を上げていきましょう!」

 

サガ「……アッシュ、お前は、本気なのか?」

 

「当たり前じゃないですか。理想国家建設の初歩ですよ。行政改革は、まず足元から!さあ、最初のテストです。黄金聖闘士一人あたりの年間修繕予算の平均額は?」

 

サガ「……い、いや、分からん……」

 

「即答できなければ、もう一度このファイルを頭から読み返してください」

 

サガ「お前は鬼か……!」

 

「ありがとうございます。“地上で一番非情な補佐役”を目指してます」

 

さらに地獄は続く。

 

「じゃあ、次は現場研修行きましょう!現物を見て、理解を深めるのが一番です」

 

サガ「……どこへ?」

 

「まずは食料管理倉庫です!在庫と帳簿の突合せ、お願いします!」

 

倉庫番の雑兵「教皇猊下、自分が隠してた非常食は……(小声)」

 

「はいはい、“隠し菓子”も業務管理上で申告するルールです」

 

サガ「……」

 

「次は修繕工房!」「聖衣のひび割れ修理、実際に立ち会ってみましょう!」

 

工房の職人「猊下、磨き粉の配分は毎月減らされていますが……」

 

「現場の声を無視せず、予算に反映させてくださいね!」

 

サガ「アッシュ……俺は一体、何をしているのだ……」

 

「支配者の現実にようこそ!」

 

 

「教皇様、聖闘士の傷病手当ての件ですが」

「教皇様、聖域周辺の土地境界線で隣村と揉めてます」

「教皇様、伝票のハンコが逆さです」

 

サガ「アッシュ……!」

 

「教皇様、年間勤務評価表の署名欄が空白です!」

 

サガ「……」

 

「全部、きっちり自筆でお願いします!」

 

サガ「もう勘弁してくれ……」

 

「まだまだ先は長いですよ!夜間当直表のチェックも、月例の書類締切も、全部やってください!」

 

(――もちろん、俺だって分かってる。これが本当に「王者の仕事」か?と聞かれたら、違う。だが、この現実から逃げては、ただの“力の暴君”に成り下がるだけだ)

 

(……理想を掲げるなら、まずはこの“山”を制覇すること。それができて初めて、“王の仕事”が始まる)

 

俺は、サガの肩をポン、と叩いた。

 

「安心してください。全部、俺がついてます。デジタル化も、この地獄の手続きも、ちゃんとマニュアル化してあります。いつか“神の一手”を打つ前に、“現実の百手”を先に覚えましょう」

 

サガ「……アッシュ……お前は、本当に、恐ろしい男だ」

 

「褒め言葉です」

 

 

「ほら、教皇猊下、次の研修は“雑兵のシフト管理”です」

 

サガ「俺は、地上の支配者なのだぞ……!」

 

「その通り。だからこそ、現場の苦労を知ってください!」

 

サガ「―――!」

 

教皇の間は今日も、パピルスの山が増えていく。

 

外の空では、黄金の太陽が昇る。

 

――新しい聖域は、まず、“書類地獄”から始まるのだった。

 

 

 

(サガ視点)

 

 

俺は、力は銀河を砕き、精神は宇宙の真理すら穿つ。

神にさえ挑める、最強の黄金聖闘士――

……だったはず、だった。

 

その“はず”だった俺の足元に、今。

エベレスト級、いや、銀河級の“紙の山”が築かれている。

 

「……」

 

書類のタイトルに目をやる。

 

『年金制度運用報告書』『聖衣修繕予算配分計画』『黄金聖闘士出張旅費精算書』『カミュ冷却費緊急予算申請』『シュラ欠勤理由説明書(本年度2回目)』……。

 

(なんだこれは……!?)

 

いや、待て。俺は、ギャラクシアンエクスプロージョンを放てる男だ。

なのに―――なぜ、今、“備品管理リスト”を前に手が震えている?

 

神も魔王も越える、「紙の悪夢」

書類を一枚めくれば、そこには見たこともない“数字”の群れ。

旅費精算? 承認印? ――「○月×日 アルデバラン、牛乳代過剰申請、理由『骨太くなりたい』」……。

 

(何を言ってるんだ、この牛は!?)

 

さらに二枚めくる。

 

「黄金聖闘士の有給申請理由:『ダイヤモンドダストで冷やしすぎて風邪をひいた』」

 

(カミュ――…!)

 

三枚目には、なぜか“温泉旅行計画書”が混ざっている。

(誰だ、こんな物まで――あ、これはデスマスクか)

 

ペーパーワーク――最強の敵

俺の小宇宙が、書類の前で縮こまっていく。

 

今まさに、俺は“地上支配”の夢の前に世界最強の“事務処理”という敵と相対しているのだ。

 

紙の束をつまみ上げるだけで、手が震える。

「………」

 

(なぜだ、なぜこんなことに……)

 

いや、これは“任務”だ。俺は新しい教皇。

教皇たる者全てを知り、全てを管理し、全てを決裁しなければならない。

そう、地上を統べる王は、まず紙の山を統べる王なのだ――!

 

プライドが…砕ける音がした

「よし……まずは、年金制度から……。ん?“転職・再雇用制度”……?」

 

(なぜ、蟹座だけ“退職届・再雇用届”のループがある?)

 

手が止まる。

視界の隅で、アッシュが「頑張って!」と親指を立てている。

 

(お前は本当に、恐ろしい男だ……)

 

内心でそう呟きながらも、俺は書類に手を伸ばす。

 

一枚、二枚、三枚……

ページをめくるたびに、俺の心の中の“銀河”が一つずつ消えていく。

 

真っ白になる

……気づけば、俺の意識はどこか遥か彼方へ飛んでいた。

 

ペンを持ったまま、完全にフリーズしている俺。

紙の海を漂う小舟。

力も知恵も、神すらも、この書類の山の前では…無力だ。

 

(地上支配……? 銀河征服……?)

 

(それより、まず“経費精算”……)

 

そんな現実が魂を削る。

 

 

教皇の間に響くのはパピルスが重なり合う音だけだ。

 

黄金のマスクの下で、俺の頭は完全に真っ白だ。

(これは、ギャラクシアンエクスプロージョンでも、アナザーディメンションでもどうにもならない……)

 

思わず空を見上げる。

だが、そこに広がるのは無限の宇宙ではなく――

 

「“業務未処理書類、あと324件”」

 

という絶望しかなかった。

 

……おのれ、アッシュ……!

この俺に紙の地獄を味わわせるとは――

 




玉座の上で、書類の山に埋もれながら、サガは遠い目をしていた。

「……俺はまだ十四歳のはずだ……なのに、この目の奥の重さは何だ……?」

“ギャラクシアンエクスプロージョン”すら通じないペーパーワークの嵐。
黄金聖闘士に疲れ目は不要だと信じていたが、今、サガの視界は滲んでいた。
(アッシュめ……次は“ブルーベリーの差し入れ”でも要求してやるか……)

一方、日本――。
その夜、東京の片隅で。
城戸邸の和室に正座し、人生初の畳とちゃぶ台、そして味噌汁に直面しているアイオロスがいた。

「……なんだ、この椅子のない食卓は!? しかも、味噌汁が……甘いだと!?」

聖域では見たこともない風呂桶。西洋式トイレにウォシュレット。
そして“コンビニ”なる不思議な建物――。
夜空の下、アイオロスは天を仰ぐ。

「アッシュ……お前も聖域で苦労してるかもしれないが、こっちも毎日カルチャーショックだらけだ……。だが――俺は、アテナ様と共に、なんとかやっていくよ!」

こうして、「地上支配」は遠い銀河の夢となり、
今日もサガは目薬片手に、アイオロスは箸と格闘しているのであった――。

次回も聖域の未来に、あなたの小宇宙(コスモ)を!

聖域はこの後どんな世界線に??

  • 本編でこそ水洗トイレが輝く!
  • 黄金聖闘士達のオリジナル短編が見たい。
  • セインティア翔ってあるんだぜ!
  • 他の作品とコラボしたいよね!
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